四変手術頭数が減っている!?

四変部会から
四変手術頭数が減っている !?
釧路地区 NOSAI での四変の手術頭数は、16 年度の 2,190 頭をピークに 17 年度は 1,824 頭、18 年
度は 1,721 頭と減ってきています。確かに牛の頭数も減っていますが、
(18 年度の加入頭数は、前年
度の 96.4%)手術頭数はもっと減っています。(18 年度の手術頭数は、前年度の 94.3%)これはとな
りの根室地区 NOSAI でも同様です。根室地区での手術頭数は、16 年の 4,294 頭をピークに 18 年度
は 3,278 頭に減っています。これはどういうわけでしょうか。まずピンとくるのは生産調整です。手っ
取り早い生産調整法は配合飼料を減らすことです。エサを減らして乳量を減らしたのです。では配合
飼料と四変の関係はどうなっているのでしょうか。ここにはひとことでは語れない複雑な関係があり
ます。
ルーメンアシドーシス
配合飼料を増やすとどんなことが起きるか考えてみます。盗食は配合飼料の食べすぎの極端な状態
です。このとき配合飼料の中のでんぷんが乳酸に変わります。本来ならエネルギーとなって利用され
るはずの VFA に変わります。この乳酸が、ルーメンアシドーシスの原因となります。大量の乳酸は
中毒症状を起こし、ときには牛は死亡します。同時に大量のヒスタミンが生成されます。ヒスタミン
は負荷のかかりやすい所に作用して、炎症を起こします。体重の負荷のかかる蹄や関節に腫れや痛み
を、泌乳の負荷のかかる乳腺では体細胞の増加を起こします。泌乳ピークが過ぎた後で「たくさんの
牛乳になってね。」と願いながらも配合をやりすぎると、チクチクと牛をいためていくことになります。
ケートシスと脂肪肝
四変のほとんどは分娩後1週間から1ヶ月の間に発生します。分娩により大量の牛乳を生産するこ
とになり、エネルギーが足りなくなります。そこで皮下脂肪、体内脂肪を使うことになります。この
とき脂肪からケトン体が生成されます。ケトン体は人間では二日酔いの原因物質です。牛も具合悪い
状態になります。これがケトーシスです。同時に、脂肪は肝臓でグリコーゲンというエネルギーの素
に変換されます。このときに一時に大量の脂肪がやってくると処理しきれず脂肪肝となり、肝機能が
低下してさらに具合悪い状態になります。牛は見る見る痩せていきます。しかし、ここで配合飼料を
急激に増量するとルーメンアシド−シスを起こします。
たんぱく質とアンモニア
配合飼料にはたんぱく質というもうひとつの大切な成分が含まれています。牛乳の素材です。たん
ぱく質の分解も複雑です。主としてたんぱく質は微生物に分解され、とりこまれ、菌体蛋白という状
態になってから吸収されます。したがって、菌体蛋白合成菌のすみやすい状況が大切になってきます。
また菌体蛋白の合成にはエネルギーをたくさん必要とします。つまり、ルーメンにおいてはたんぱく
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年間四変手術頭数
釧路地区
根室地区
8年度 9年度 10年度 11年度 12年度 13年度 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度
1,406
1,351
1,580
1,575
1,628
1,590
1,953
2,017
2,190
1,824
1,721
2,004
2,182
2,343
2,342
2,667
2,897
3,712
3,973
4,294
3,852
3,278
質とエネルギー(でんぷん)のバランスが大切になってきます。たんぱく質が過剰(=エネルギーが
不足)のときは微生物に利用されないたんぱく質がアンモニアとなって余ります。大量のアンモニ
アは肝臓で分解、無毒化され尿となって排出されますが、肝臓には大きな負担がかかります。(MUN
があがります。)せっかく食べたたんぱく質が無駄になっているということです。牛も元気がなくな
ります。繁殖に影響します。
低カルと四胃
分娩により泌乳が始まると、牛乳のなかにカルシウムがもっていかれて低カルの状態になります。
分娩直後の乳熱(=低カルによる産後起立不能症)だけでなく泌乳ピークまで低カルぎみの状態は続
きます。カルシウムは筋肉の収縮には必要不可欠な成分です。寝たり起きたりするときに働く骨格筋
だけでなく、胃を収縮させる平滑筋も働きが悪くなります。これが四変の原因の一つといわれていま
す。分娩直前までカルシウムはやるなということになっています。しかし、分娩により大量の泌乳が
始まることの準備として、少しずつ配合飼料に慣らしていくことも大切です。このとき、配合だけで
なく乾草やロールパックにカルシウムがたくさん含まれてしまっていることも事実です。乳熱が多発
してなければ心配ないでしょう。
粗飼料
牛は草食動物ですから基本は草です。自分の生きていくだけの栄養なら草だけでいいのでしょうが、
産乳を考えると配合飼料が必要となってきます。しかし配合飼料の有効な利用のためには粗飼料の質
が重要になります。一年のうちでバンカーが底を見せ始める四月、五月は良い草が不足しがちです。
四変の手術が多いのもこの時期です。
話をはじめにもどします。配合飼料を減らすと四変が減る理由:配合飼料を減らすと乳量が減るか
ら低カル、ケトーシスにならない。牛に無理がかからない。ルーメンアシドーシスにならない。足が
痛くならない。体細胞が減る。アンモニアによる障害がない。繁殖が良くなる。かわりに粗飼料を沢
山食べる。ルーメンが安定した状態になる。四変が減る。
以上、理屈にあてはめると良いことばかりです。でも大事なことを忘れてた。乳量が減るから収入
も減ります。生産調整のつらいところです。(注 乳量の多い時期に急に配合をやめると病気になり
ます。)
四変の第四胃では何が起きているか
四変部会では四変のさまざまな原因を考えてきました。そのなかで力を入れたのにいまひとつまと
まらなかったものにメタン菌があります。(続く)
おまけ
分娩はそれだけで大きなストレスです。加えて配合飼料を多給されてルーメンは不安定になります。
安定したルーメンでは少しくらいのサルモネラ菌は増えません。分娩直後は体力的にも、ルーメンの
不安定さからも、サルモネラ菌に対して無防備です。分娩直後にビタミン剤などを飲ませるときに、
生菌製剤も飲ませて予防しましょう。
(標茶支所東部家畜診療課 杉井孝二朗)
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