学校教育の現場に リーダーシップを

Column
学校教育の現場に
リーダーシップを
Teach For Japan 創設者/ 代表理事 / CEO(最高経営責任者)松田悠介
私が教育事業に携わるようになった原点は、中学生の時、いじめを
課題解決集団としての自負を持って、全力をあげてフォローしています。
克服するきっかけを与えてくれた恩師との出会いです。自分も子ども一
リーダーシップは、頭だけでは理解できません。私自身、大学院でリー
人ひとりと向き合えるような先生になりたい。そんな熱い思いを抱いて、
ダーシップ論を勉強しましたが、そのときはよくわかりませんでした。
大学卒業後、中学校の体育教師になりました。ところが学校現場に入っ
自分が経営をやるようになって初めて、こういうことなのかと腹に落ち
て目にしたのは、学級崩壊であったり、その責任を子どもたちになすり
たわけです。要するにリーダーシップとは、その人のライフストーリー
つけている先生の存在であったり、自分の思いとはあまりにもかけ離れ
であり、どのような価値観や優先順位を持って行動するかということ。
た現状でした。また、自分自身も未熟だったため、そんな現状に対して
それは現場に出て、修羅場体験を乗り越えるということをしない限り、
何もできず、教師として現場に立つ自信が持てなくなったのです。どう
身につかないものだと思います。そこが、テクニカルに習得できるマネ
すれば学校現場に子どもと向き合える大人を増やしていくことができる
ジメントとの違いではないでしょうか。
か。その仕組みづくりに取り組みたいと考え、一度学校現場から離れる
ことにしました。
当初考えていたことは、自分が理想とする学校をつくることです。学
大量生産型社会であった高度成長時代の日本で求められていた教育
は、マニュアル型の教育でした。時代が変わり、脱工業化した成熟社
会で求められるのは、課題解決型の教育です。日本の教育のメソドロ
校を経営するには、リーダーシップやマネジメントを学ぶ必要があると
ジーは、未だに旧態依然とした高度成長時代のモデルをひきずっていて、
思ったので、留学を決意しました。逆に言うと、今の学校運営や教員
その歪みはどんどん大きくなっています。国づくりの根幹は教育です。
養成のあり方に、リーダーシップやマネジメントの視点がないことが、
その教育の根幹は人であり、現場にいる教師です。中学校の教師であ
学級崩壊や学力低下など様々な問題を引き起こしている原因であると考
れば、毎年100人の子どもたちを見ることになり、40年間それを続け
えたのです。
れば4000人にインパクトを与えられる。貧困や教育格差の問題が広が
教師というのは、実に多くのことを要求されます。課題山積の現場に
る中、リーダーシップを発揮し、課題解決ができる教師を一人でも多く
入って、子どもたち一人ひとりの現状を理解し、状況を把握した上でビ
育成することは喫緊の課題であり、多くの方に当事者として日本の教育
ジョンを描いて、現状とのギャップを埋めていく。もちろん、教師一人
について考えていただきたいと思っています。
でできることは限られているので、業務の優先順位を決めるなど、タイ
ムマネジメントやリソースマネジメントをしなければいけない。さらに、
同僚教師、親、地域の方々を巻き込みながら、課題解決をしていく必
要がある。これらは、まさしくリーダーシップそのものです。
現在、私たちは、リーダーシップを備えた教師を育成することを目指
し、教師の紹介事業に取り組んでいます。厳しい選考試験と合宿形式
による事前研修を経た優秀な若者を、課題を抱える学校現場に2年間
配置するプログラムです。今、1期生が1年目を終えたところですが、
生徒からの暴力でアザだらけになった先生もいます。でも生徒を責める
わけにはいかない。生徒の中には暴力で育ってきているがために、それ
がコミュニケーション手段となってしまっていることもあるのです。教育
に対する思いが強い分、先生たちの苦しみも大きいのですが、私たちも
プロフィール / Yusuke Matsuda
2006年に日本大学卒業後、体育科教師として中学
校に勤務。体育を英語で教える Sports English
のカリキュラムを立案。
その後、千葉県市川市教育
委員会 教育政策課分析官を経て、
ハーバード教育
大学院修士課程(教育リーダーシップ専攻)へ進学
し、修士号を取得。卒業後、外資系コンサルティング
ファームPricewaterhouseCoopers Japan にて
人材戦略に従事し、2010年7月に退職。Teach
For Japan の創設代表者として現在に至る。
日経
ビジネス
「今年の主役100人」
(2014年)に選出。
世界経済会議 Global Shapers Community メン
バー。 経済産業省「キャリア教育の内容の充実と
普及に関する調査委員会」委員。共愛学園前橋国
際大学「グローバル人材育成推進事業」外部評価委員。京都大学特任准教授。著書に
「グーグル、
ディズニーよりも働きたい
「教室」
(ダイヤモンド社)」。
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