Magma 2013年12月12日 イヴ・ブロン(Yves Bron) 東京にシャルル・デュトワを訪ねる スイス人指揮者シャルル・デュトワは目下東京で、NHK交響楽団と3つのプログラムを演奏して います。彼は1998年から2003年まで、このオーケストラの音楽監督を務めました。彼が演奏して きたプログラムについて、また定期的に訪れ、そのさまざまな面を評価している日本という国と の関係を語ります。 東京から、ジョナス・プルヴェ(Jonas Pulver)のレポートです。 イ ヴ : みなさま、こんにちは。Magmaの時間です。 ジョナス・プルヴェが日本からお届けします。 今日は我々にもお馴染みの指揮者、シャルル・デュトワ氏へのインタビューですね。 デュトワ氏はここしばらく日本に滞在して演奏中とのことですが ・・・・・・。 ジョナス : ええ、そうです。よく日本で仕事をなさいますね。ご存知のように、彼はNHK交響楽団 で音楽監督もしていましたし、1年のうち3週間は必ず日本に来るそうです。 日本でのシャルル・デュトワの存在は、もはや「アイコン」です。先週、私もコンサートに 行ったのですが、熱心なファンが終演後にサインを求めてきたりしていました。 ここで、NHK交響楽団のヴィオラ奏者である、佐々木亮さんに、デュトワが果たした役 割について伺ってみました。 佐々木 : デュトワが、このオーケストラにもたらした一番大きなものは「カラー」だと思います。 彼が就任する前のN響は、ドイツ系のレパートリーを多く演奏しており、指揮者もほとん どドイツ人でした。奏法もいわゆる「重い」感じだったのです。 そこへデュトワはフランスのレパートリーを数多く取り入れ、軽やかな演奏を試みました。 テンポについてもそうですし、また私たちの想像力をかき立てて、弦楽器の間のとり方 にも気を配り、様々なカラー(色合い)を生み出す方法を教えてくれました。 どうすれば演奏者がリラックスできるのか、そのコツを心得ていましたね。 リハーサルの前に、楽譜中の難しい箇所に四苦八苦しているこちらの様子などを見ると、 彼は絶妙なタイミングと言葉で気分をほぐしてくれるのです。 そこで難しいものも簡単にいってしまう・・・、そんな素晴らしい秘訣を、彼は持っていると 思います。 イ ヴ : N響ヴィオラ奏者、佐々木亮さんのお話でした。さて、ジョナス・プルヴェに続きを聞いて みましょう。 ジョナス、デュトワ氏は通算25年NHK交響楽団で仕事をし、目下3つの異なるプログラ ムを演奏していますが、ジョナス、君が聴いたのは? ジョナス : 先週のプーランク《グロリア》、ベルリオーズ《テ・デウム》です。どちらもフランスの音楽で すね。デュトワが好んで演奏する曲目で、N響もこの提案に賛成したそうです。 言うまでもなく、素晴らしいコンサートでした。オーケストラはアジアのみならず世界でも 最高レベルです。合唱団も正確で非の打ち所がありません。 全体の音はとても澄んでいました。音が、目に見えるかのようで・・・じつに優れた演奏で した。 イ ヴ : 東京で、ジョナスはシャルル・デュトワ氏に実際に会ってお話を伺いました。 それを聞いてみることにしましょう。 ジョナス : デュトワさん、今回、東京では何回コンサートを行いますか? デュトワ : コンサートは6回、3つのプログラム構成です。それぞれを2回ずつ演奏します。N響とは 東京のあと他の都市でも演奏しますが、それはもう少し軽めのプログラムです。 日本には実に長い間、毎年必ずNHK交響楽団と演奏するために来日しています。 (N響は)いわばBBC交響楽団のような存在ですが、東京一というより日本一、いやおそ らくアジア一番のオーケストラでしょう。 かつて日本とドイツは同盟関係にありましたし、国交が密だったので、オーケストラも、ま ずドイツ系のレパートリーに親しんでいたのです。 日本は、憲法もビスマルク体制の1870年当時のドイツに倣っていた時代もありました。そ れだけドイツに親しんでいたのですから、音楽もドイツ音楽の傾向を強くしたのは無理 からぬことで、初期はとりわけドイツ人指揮者の影響が大きかったのです。 ジョナス : そんなドイツ色の濃い環境の中、デュトワさんが最初にこのオーケストラと仕事をしたとき の様子は、どんな感じだったのでしょうか? デュトワ : 19世紀ドイツ音楽だけを演奏してきたオーケストラだったわけで、そういうオーケストラは 当時多かったのですが、ベートーヴェンの演奏などはすでに上手でしたね。ウォルフガ ング・サヴァリッシュなどが来ていましたから。 他にもドイツ系の指揮者は大勢招かれていました。音楽監督や首席指揮者の立場とし てです。現在でも、ブロムシュテット氏などドイツ系音楽を得意とする指揮者がいらっし ゃいます。 私が招かれたその理由というのは、まさに「それまでと違ったカラー」が望まれていたか らだと思います。興味深いことです。世界にはもっといろいろな音楽があり、ドイツの影 響一点張りというのもどんなものだろうか? という空気だったのでしょう。 就任した最初の数年は、かなり色々な曲にトライしましたね。より現代に近い作曲家のも の、ペンデレツキ、グバイドゥーリナ、マクミラン、そして中国のタ ン・ドゥン・・・演奏会ご とに、その曲目が日本初演、という勢いでした。 さらに、シマノフスキ《オペラ「ロジェ王」》ですとか、(オネゲル)《火刑台上のジャンヌ・ダ ルク》、これはハーフステージでしたが。ダルラピッコラ《囚われ人》も。ベルリオーズも、 特にまだ知られていない作品を積極的に採り上げました。 今回演奏した《テ・デウム》もそうです。 N響が、この作品を演奏するのは初めてです。 1926年に創設されたオーケストラで、長い歴史があるのですが、まだ演奏したことがない 重要な曲もあります。 ジョナス : オーケストラというものは、フランス曲、ドイツ曲、ロシア曲など・・・それぞれの音楽的伝 統があると思うのですが、彼らの中には「日本的」と称される個性がありますか? あるとしたらどのようなものですか? デュトワ : いまや世界中で日本人の演奏家が活躍していることはご存知でしょう。ヴァイオリニスト、 他の演奏家、ソリストも指揮者もいます。偉大な演奏家も西洋文化圏で活躍中ですよ。 彼らは西洋音楽の教育を受けて育ちますから、(音楽的には)日本的な要素を学んで はいません。しかし演奏の方法に、どうしてもにじみ出てくる「日本らしさ」というものが認 められるでしょう。 日本人は周囲の人たち全員、また、相手のひとりひとりに対して尊敬の念を忘れません。 礼儀正しい行いを常に保つ・・・ですから、最初は遠慮がちなのです。 こちらから刺激を与えて、彼らの想像を喚起することです。40年も一緒に仕事をしますと わかってきますが、視覚的な要素をヒントとして与えると、彼らはとてもよく理解してくれま す。色についてとか、自然の美しさとかを話題にするといいのです。 日本人は、視覚の感性に優れています。日本はとても美意識の発達した国なのです。 ですから、そのように「目で見るとどうなると思う?」という観点でアドバイスすると、彼らは それを音楽的な方向に転換して表現できるのです。これは、非常に興味深いことだと思 います。 《ファウストの劫罰》のジャン・ピエール・フルランの歌声をお聴きいただいています。(シャルル・デ ュトワ指揮、NHK交響楽団|2006年4月、NHKホール) 東京でのインタビューは、ジョナス・プルヴェでした。 Magma 毎日放送の一時間番組です。取り扱う音楽はチャンネル上のすべて! イヴ・ブロンがナビゲーター として、ゲストとの生中継をお届けします。お招きするのはクラシック、ジャズ、コンテンポラリー、そ してワールドミュージックの各分野での貴重なスペシャリストの方々です。 放送の内容は、演奏の生中継、最新の情報から専門家の意見まで。みなさんの好奇心を満足させ る内容満載です!
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