利用成果報告書 提出日: 平成 21年 4月 2 1日 利用課題名 赤外自由電子レーザー利用による安定同位体分離技術の検討 利用施設名 赤外自由電子レーザー研究センター 利用期間 平成 20年 4月 1日 ∼ 平成 21年 3月 31日 利用機関名 大陽日酸株式会社 赤外多光子分解を用いた同位体の分離・ 濃縮法は、選択性が極めて高い点 が注目を集めている。東京理科大学野田キャンパスに建設された自由電子レ ーザーは、波長で言うと5~14μm の赤外領域、波数で言うと710~2000 cm-1 利用の目的・ 内容 のエネルギー領域の光パルスを高出力で発振する。本課題の目的はこのレー ザーを用い、広い赤外領域で、高い同位体選択性を示す赤外多光子分解反 応を見出し、同位体の分離・濃縮法の実用化に役立てるこである。第一段階と しては炭素-13、窒素-15、酸素-18 などの同位体の分離・ 濃縮に着目する。 化合物β-プロピオラクトンは 1800 cm-1 付近の波数領域に C=O の二重結 合の伸縮振動に対応する赤外吸収バンド、また 1000 cm-1 付近に C-O の一重 結合の伸縮振動に対応する赤外吸収バンドを示す。平成 19 年度は、この化合 物に 1800 cm-1 付近の自由電子レーザーの光パルスを照射すると赤外多光子 分解を容易に起し、生成物の一つ、二酸化炭素中に炭素-13 が高濃縮される ことを見出した。平成 20 年度は、さらに 1000 cm-1 付近の光パルスを用いて炭 素-13 の分離・濃縮の研究を継続した。上記の赤外吸収バンドに基づく赤外多 成果の概要 光子分解の生成物は、光パルスの波長に関係なく、エチレンと二酸化炭素で ある。また 1000 cm-1 付近の波数の光パルスに対しても二酸化炭素中に炭素 -13 が濃縮される。例えば 1030 cm-1 の波数では一酸化炭素中の炭素-13 の濃 度は 25%にも達した。ただし炭素-13 の濃度は、二酸化炭素中の全炭素原子 に対する炭素-13 原子の割合で、もし赤外多光子分解に同位体選択性がなけ れば、炭素-13 の濃度はその天然の存在度 1.1 %と一致する。 平成 20 年度はβ-プロピオラクトンに加え、エステル化合物ならびにイソニトリ ル化合物の赤外多光子分解と同位体の分離・濃縮に関しても予備実験を進め た。 自由電子レーザーは建設に莫大な費用が掛かるレーザーで、これを用いた 同位体分離は、直ちに実用的な分離・濃縮法とはなり得ない。しかしどの様な 化合物に、どの波長の赤外光パルスを照射すると、どの程度の分離・ 濃縮が達 社会・経済への波 成出来るかという実験結果は重要である。われわれはこの知識に基づき、その 及効果の見通し 波長で発振する経済的なレーザーの開発を経て、具体的な分離・濃縮法が実 用化することを期待している。 同位体は自然科学の様々な分野で利用され、その有用性は広く認められて いる。例えば本課題で着目している炭素-13 は、医学の分野でピロリ菌の検査 薬として広く使用されている。今後、炭素以外の元素の同位体の分離・濃縮法 も開発されることが望まれる。
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