建物内に喫煙室をつくる方法について 株式会社 日建設計 設備設計部 主管 吉田 直裕 喫煙室への建物設計上の対応 1980年代までに建設された建物には喫煙対策を施した事例は少なく、そのような建物で分煙対策を施 す場合煙の排出装置の設置が難しく、喫煙コーナーを設け空気清浄機を設置することによる対応が多くなっ ている。 1990年代に入ると受動喫煙問題が社会的に認知され、建築主より分煙対策を設計条件として与えられ るようになり、分煙空間としてのリフレッシュコーナーを設置するなどの対応例が増えてきた。 受動喫煙問題に対する最近の設計時の対応は、大きく以下の3つのケースに分けられる。 ・分煙による受動喫煙対策として、当初より喫煙室を計画する自社使用ビルに多いケース ・将来喫煙室が設置できるように、換気対策等が施されたテナントビルに多いケース ・ビル内の喫煙を前提としないケース 喫煙室に対する設計の考え方も、非喫煙ゾーンへの煙草の煙の流出を防ぎ非喫煙者に対する受動喫煙の防 止という本来の目的に加え、平成15年の新しい「職場における喫煙対策のためのガイドライン」以降、喫 煙室内部の空気環境も考慮した設計がなされるようになってきている。 喫煙室の設置場所の選定 建物内に喫煙室を設置する上での最優先事項は、煙草の煙を屋外に排出するための排出装置が設置でき、 屋外までのルートが取れるかにかかっている。さらに、屋外に排出した空気の量だけ屋外から空気を導入す る必要が生じる。 ・建物の換気を行うための排気装置を喫煙室の排出装置に利用することが可能な場所 →冷暖房を行う建物には必ず部屋の換気を行うための排気装置があるが、換気システム上または排気を流 すためのダクトが通せないことにより、利用することができないことが多い。しかし、新しく排出装置を設 置する必要がなく、また建物からの排気量が増加しないため空気導入量を増やすことも生じないため設置コ スト、運転費が最も安く済む。 ・外壁または窓等に排気装置(有圧換気扇等)が設置できる場所 →非常に簡便に排気装置を設置することができるが、外観上またコンクリート壁に開口をあけることによ る構造上の問題が起きることがある。また、新たに空気を導入する装置が必要となることもある。 ・建物の排気用外壁ガラリへダクトが接続できる場所 →通常外壁ガラリは共用エリアの外壁に面して設置されていることが多く、そこまでのダクトルートが取 れないことが多い。また、天井を落としてダクトを設置する必要があるなど工事費が非常に高くなる。最近 のビルには、 事務室に面した外壁部に喫煙室の排気を出すための予備ガラリを設置している事例が多数ある。 喫煙室の構造 平成15年の新しい「職場における喫煙対策のためのガイドライン」による ・たばこの煙が拡散する前に吸引して屋外に排出する方式を推奨 ・浮遊粉じんの濃度を 0.15mg/m3 以下とする ・非喫煙場所と喫煙室等との境界において喫煙室等へ向かう気流の風速を 0.2m/s 以上とするなどの要件を 満足する喫煙室を作るには、多量の排気風量が必要となってくるため多々工夫が必要となってくる。 ・浮遊粉じんの濃度を 0.15mg/m3 以下とするための排気量は、煙が完全拡散することを前提すれば多量の風 量となるが、例えば家庭のレンジフードのように煙が拡散する前に排出できれば少ない風量で済む。また、 喫煙室内の喫煙エリアを限定することで煙の拡散を小さくできる。 ・煙を拡散させるものとして、気流(空気の流れ)が大きな要因となる。排気口(吸込口)は速い気流を発 生させにくいが、給気口(吹出口)は空気を拡散・到達させるために取り付けられているため速い気流を発 生させる。従って、喫煙室には空調のための給気口やエアコンを設置しない方がよい。また、喫煙室の壁や ドアに設ける給気用の開口面積が小さいと、速い気流を生じ煙が拡散する原因となることもありえる。気流 は給気口から排気口へ向かって一定方向に流れるようにする。 ・また、喫煙室の人の出入に伴うドアの開閉により気流が乱れ、常時喫煙室等へ向かう気流の風 速を 0.2 m/s 以上としても煙が流出することが生じる。気流的にはドアがない方が望ましく、ドアを設置するにして も、開き戸よりは引き戸の方が遮煙上有効である。 喫煙室の設置と法規上の整合 喫煙室を設置することにより今までなかった空間が生じ、そのため法規上必要な防災設備の増設が必要と なる場合がある。 ・排煙設備 天井面から 50cm 以上の垂れ壁が生じると単独の排煙区画と見なされるため、排煙口を喫煙室に設置しな ければならない。 ・スプリンクラー 天井面から定められた長さ以上の垂れ壁が生じると、火災時スプリンクラーからの水が有効に散水されな くなるため、喫煙室内にスプリンクラーヘッドが必要になる。 ・火災感知器 天井面から定められた長さ以上の垂れ壁が生じると、火災による煙や温度上昇を感知することが遅くなる ため、喫煙室内に火災感知器が必要になる。
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