サイバー犯罪の現状と対策

インターネット社会のセキュリティ
サイバー犯罪の現状と対策
小出
抄
録
全国の警察におけるサイバー 犯罪の検挙件数は年々
2
晋也
サイバー犯罪の現状
増加している。特に,インターネットオークション利用
(1)平成 18 年中のサイバー犯罪の検挙状況
詐欺事犯や,出会い系サイト関係事犯が依然として多発
平成 18 年中の全国のサイバー犯罪の検挙件数は 4,425
する傾向にあるほか,オンラインゲームにおける不正ア
件で,前年と比較して 1,264 件(40.0%)増加している。
クセス行為で未成年者が検挙される事例も後を絶たない。
本稿では,近年のサイバー犯罪の特徴と被害防止方策に
検挙状況の主な特徴としては,
①
ネットワーク利用の詐欺の検挙件数が 1,597 件で,
ついて紹介する。
全体の 36.1%を占めている。その 83.1%がインターネ
<キーワード>
ットオークションに係る詐欺事犯である。
サイバー犯罪,インターネット,インターネットオー
クション,携帯電話,出会い系サイト
②
児童の性的被害に係る犯罪(児童買春・児童ポルノ
法違反,青少年保護育成条例違反及び児童福祉法違反)
の検挙件数は 978 件で,前年(666 件)の約 1.5 倍に
1 サイバー犯罪とは
警察では,インターネットや携帯電話等のいわゆる情
増加している。
③
インターネットを利用した共犯者の募集や他人名義
口座の調達,フィッシングによるID・パスワードの
報技術を利用した犯罪を総称して「サイバー犯罪」と呼
入手等,サイバー空間の特性を悪用した犯行の組織化,
んでいる。
高度化の傾向がうかがわれる。
サイバー犯罪の例としては,インターネットオークシ
等が挙げられる。
ョンサイトを利用した詐欺行為,映画やアニメの違法複
ドの偽造品バッグや財布等の販売行為(商標法違反),
(2)平成 18 年中の出会い系サイトに関係し
た事件の検挙状況
出会い系サイトで知り合った18歳未満の児童に金銭を供
平成 18 年中の全国における出会い系サイトに関係し
与する約束をして性交させる行為(児童買春・児童ポル
た事件の検挙件数は 1,915 件で,前年と比較して 334 件
ノ法違反),掲示板サイトにおける特定個人を誹謗中傷
(21.1%)増加している。
製DVDの販売行為(著作権法違反),海外有名ブラン
する書き込み行為(名誉毀損),アダルト画像のホーム
ページへの掲載やアダルトDVDの販売(わいせつ物頒
検挙状況の主な特徴としては,
①
被害者 1,387 人の内,18 歳未満の児童が 1,153 人
布等)等が挙げられる。
(83.1%)であり,この内女子児童が 1,149 人(99.7%)
またこのほかに,大手金融機関等の著名なサイトのホ
ームページに酷似した偽のホームページに,住所,氏名
を占める。
②
児童の性的被害に係る事犯(児童買春・児童ポルノ
等の個人情報,クレジットカード番号等の金融情報やI
法違反,青少年保護育成条例違反及び児童福祉法違反)
D・パスワード等の認証情報を不当に入力させることに
は 1,516 件(前年比+278 件)で,検挙全体の 79.2%を
よってこれらの情報を不正に獲得するフィッシングや,
占める。
オンラインゲームサイトにおいて他人のアカウントを無
③
出会い系サイトへのアクセス手段として携帯電話を
断で使用してサイト内に不正にログインした上で,他人
使用した被害児童は,1,153 人の内 1,114 人で全体の
がゲーム内で所持している通貨や武器等のアイテムを窃
96.6%を占める。
取する不正アクセス行為等といった,従来にない新たな
等が挙げられる。
手口の犯罪やトラブルも発生している。
KOIDE Shinya:滋賀県警察本部生活安全部生活環境課(滋賀県大津市京町 4 丁目 1 番 2 号)
- 22 学習情報研究 2008.1
主なサイバー犯罪の特徴と被害防止方策
(1)インターネットオークション利用詐欺
面を隠しカメラで撮影して児童ポルノを製造,販売し
た(児童買春・児童ポルノ法違反)。
▼
3
被疑者6名は,出会い系サイトに援助交際を求める書
インターネットオークションを利用した詐欺行為は,
き込みを行い,これに応じた男性を呼び出して集団で
サイバー犯罪の中では比較的古典的な手口の犯罪である
暴行を加え,現金8万3千円入りの財布を強取した(強
にもかかわらず,近年においても検挙件数および相談受
盗)。
理件数ともに増加傾向にある。
これらの悪質な犯行のほかにも,出会い系サイトで知
インターネットオークションを利用した詐欺行為の最
り合った異性と当初は良好な関係を築いていたものの後
も典型的な手口は,いわゆる架空出品行為である。落札
に関係が悪化し,逆上した相手から執拗な嫌がらせやス
者が落札後に出品者が指定した金融機関口座に代金を振
トーカー行為を受ける事例や,悪質な出会い系サイト業
り込んだにもかかわらず,約束の期日になっても商品が
者が「サイト登録料完全無料」等と称して会員を募って
届かず,出品者に問い合わせようとしても相手の住所や
おきながら実際には高額料金を不当に請求する事例等,
電話番号はでたらめで全く連絡が取れずに途方に暮れて
出会い系サイトに関係する犯罪やトラブルは後を絶たな
しまう。
い。
このような事態を防ぐためには,
①
また,出会い系サイトに関係する犯罪では,前記2(2)
少しでも不審さが感じられる出品には安易に手を出
に記載のとおり,被害者が携帯電話で出会い系サイトを
さない。特に高額商品,人気商品や入手困難な商品等
利用していた事犯が全体の約 97%を占めており,かつ被
の出品には注意する。
害者の約 83%が 18 歳未満の児童で占められていること
②
取引相手の住所,氏名,連絡先(自宅の電話番号)
等は必ず確認する。
③
エスクローサービス等の安全性の高い支払方法を利
用する。
等に留意する必要がある。
また,こうした典型的な手口のほかにも以下のような
から,自分専用の携帯電話を所有する中高生が,充分な
知識を持たずに安易に出会い系サイトを利用した結果,
この種犯罪の被害に遭っている実態がうかがえる。
したがって,被害防止のためには,特に中・高校生に
は危険な出会い系サイトを一切利用させないことが何よ
りも重要である(18 歳未満の児童は出会い系サイト規制
違法行為も見受けられる。
法で出会い系サイトの利用が禁止されている)。そのた
①
次点狙いの詐欺行為
めには,中・高校生自身が出会い系サイトの持つ危険性
落札できなかった入札者に対して,出品者を装った
を充分に認識することや,必要な知識を得るための機会
者が「落札者が都合で購入をキャンセルしたので代わ
を学校や家庭の中で設けること,そして保護者が学校任
りに購入しないか。」等と虚偽内容の勧誘メールを送
せ,子ども任せで放任してしまうのではなく,子どもの
信し,これに応じた者から代金を騙し取る行為。甘い
携帯電話やパソコンの利用に対して常日頃から関心を持
勧誘に安易に応じないようにすべきである。
つこと等が求められる。
②
他人の ID を無断使用した架空出品行為
自己の身元を隠すために,何らかの方法で他人の
ID・パスワードを入手してこの ID で架空出品し,落札
者から代金を騙し取る行為。他人が想像しやすいパス
4
警察からの情報提供
警察では,以下のサイトを通じてサイバー犯罪に関す
ワードを避けるとともに,ウイルス・スパイウェアの
るさまざまな情報を発信している。
感染やフィッシングに注意し,自己の ID が悪用されな
①
インターネット 安全・安心相談
いようにすべきである。
http://www.cybersafety.go.jp/
警察に寄せられているサイバー 犯罪に関するさまざ
(2)出会い系サイトに関係する犯罪
出会い系サイトの利用が発端となって発生する犯罪に
▼
はさまざまな態様のものがある。例えば,
被疑者は,出会い系サイトを通じて知り合った女子児
童をドライブに誘い,自己の車両内においてわいせつ
▼
な行為をした(強制わいせつ)。
被疑者は,出会い系サイトを通じて知り合った女子児
童に現金を供与する約束をして性交した上,性交の場
まな相談の事例やその対処方法等が豊富に掲載されて
いる。
②
@police
http://www.cyberpolice.go.jp/
OS やアプリケーションソフトウェアの脆弱性等の情
報セキュリティに関する最新の情報や,情報セキュリテ
ィに関する子ども向けの学習用コンテンツ が用意され
ている。
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