サイバー犯罪の現状と 捜査の問題点 平成19年12月17日 警察庁 情報技術犯罪対策課課長補佐 1 渡邊 晃 IT社会の広がり ■ サイバー空間における脅威の増大 可能性の拡大・利便性の向上 快適な 社会生活の実現 (受動的) 行動の制約 からの解放 (能動的) ITの発達 ITインフラの整備・充実 ネット利用の 浸透・普及 悪意を持った者 への ツールの提供 脆弱性の増大 広範な悪影響 脅威の増大 ■ 治安に関する世論調査結果(平成18年12月) あなたが、自分や身近な人が犯罪に遭うかもしれないと不安に なる場所はどこですか? 60.2 路上 53.9 44.7 45.0 繁華街 40.1 インターネット空間 19.1 今 回 調 査(N=1,795人) 37.4 33.9 公園 0 10 20 30 40 平成16年7月調査(N=2,097人) (複数回答) 50 60 70 (%) 内閣府政府広報室 治安に関する世論調査より ■ 我が国のIT進展状況 総務省 平成18年通信利用動向調査より 2 サイバー犯罪とは ■サイバー犯罪とは サイバー犯罪 = 「情報技術を悪用した犯罪」 不正アクセス禁止法違反 ・他人の識別符号パスワードの入力 ・他人の識別符号パスワードの入力 ・セキュリティ・ホール攻撃 等 ・セキュリティ・ホール攻撃 等 コンピュータ・電磁的記録対象犯罪 ・電子計算機使用詐欺 ・電子計算機使用詐欺 ・電子計算機損壊等業務妨害 ・電子計算機損壊等業務妨害 等 等 ネットワーク利用犯罪 ・インターネット上での詐欺、児童買春・児童ポルノ法違反、 ・インターネット上での詐欺、児童買春・児童ポルノ法違反、 著作権法・商標法違反 等 著作権法・商標法違反 等 ■ サイバー犯罪の傾向 組織化 (いわゆる闇サイトによる共犯募集等) 経済的利益の追求 現実社会における事象(脅威)の サイバー空間での再現 ■ サイバー犯罪の検挙状況 (件) 検挙件数の推移 5,000 4 ,4 2 5 不正アクセス禁止法違反 4,000 703 コンピュータ・電磁的記録対象犯罪 ネットワーク利用犯罪 3 ,1 6 1 129 3,000 2,000 1 ,3 3 9 1 ,6 0 6 1 ,8 4 9 2 ,0 8 1 3,593 1,000 0 H13 H14 H15 H16 H17 H18 ■ 主要なサイバー犯罪の推移 (件) 5 ,0 0 0 4 ,0 0 0 その他 不正アク セ ス禁止法違反 児童買春・ 児童ポ ル ノ法違反 オーク ショ ン 詐欺 1 ,6 8 1 3 ,0 0 0 1 ,1 7 6 2 ,0 0 0 1 ,0 4 5 1 ,0 0 0 0 1 ,0 2 7 67 245 H13 1 ,0 9 3 1 ,2 2 5 105 408 145 371 288 142 455 259 H14 H15 H16 703 277 456 714 1 ,2 5 2 1 ,3 2 7 H17 H18 ※ オークション詐欺は平成15年から集計。 ■ 治安情勢全体の中でのサイバー犯罪① ● 犯罪全体に占める割合はまだ小さい(定量的には少ない) 平成18年中の検挙件数 4,425件 サイ バ ー犯罪 覚せい剤取締法(17,107件) 銃刀法(5,935件) 特別法犯 93,641件 他 詐欺(30,127件) 軽犯罪法(15,617件) 刑法犯 占有離脱 物横領 窃盗(416,281件) 640,657件 その他 (89,012件) 万 0 10 20 30 40 50 60 70 ※ 特別法犯は交通法令違反を含まない。 ■ 治安情勢全体の中でのサイバー犯罪② ● 様々な種類のサイバー犯罪が発生(定性的には多様化) 児童福祉法違反 名誉毀損 売春防止法違反 出会い系サイト規制法 賭博等 脅迫 銃刀法違反 強要 ストーカー規制法違反 組織的犯罪処罰法 薬物事犯 薬事法違反 携帯電話不正利用防止法 恐喝 威力業務妨害 改正本人確認法 不正競争防止法 風適法違反 電気通信事業法違反等 侮辱 信用毀損 迷惑防止等条例 毒劇物取締法違反 盗品譲り受け等 その他12.2% 種の保存法違反 迷惑メール防止法違反 自殺幇助 強制わいせつ(教唆) 銀行法違反 出資法違反 軽犯罪法違反 公記号偽造 不正アクセス禁止法違反15.9% 著作権法違反3.1% コンピュータ・電磁的記 録対象犯罪2.9% わいせつ物頒布等4.3% 青少年保護育成条例違反4.4% 商標法違反4.9% 児童買春・児童ポルノ法違反 (児童ポルノ)5.7% 児童買春・児童ポルノ法違反(児 童買春)10.5% 職業安定法違反 横領 電気用品安全法違反 鳥獣保護法違反 動物の保護及び管理に 関する条約違反 牛肉トレーサビリティ法違反 弁護士法違反 ネットワーク利 用犯罪 詐欺36.1% 電子計算機使用詐欺 私電磁的記録不正作出 支払用カード電磁的記録不正作出 電子計算機損壊等業務妨害 偽計業務妨害 公電磁的記録不正作出 平成18年中の検挙件数 4,425件の内訳 ■ 治安情勢全体の中でのサイバー犯罪 ● 犯罪の手段としてのサイバー空間の利用は常態化 ・ 犯罪者同士が電子メールで連絡(犯行の打ち合わ せ、実行中の連絡、利益の処分等に利用。) ・ 電子掲示板を利用して共犯者を募集(面識のない 者同士が犯罪者集団を構成。) ・ 犯行に必要な手段を入手(架空口座、他人の識別 符号、銃器、薬物等) ・ 犯行に必要な知識を入手(爆弾の製造方法、文書 の偽造方法等) 3 捜査において直面する壁 ■ インターネットにおける発信者の追跡 掲示板サイト △△掲示板○○スレ ・・・・ 9 ネオウーロン茶 200X/11/XX 12:03 明日、XXXを殺しに行きます。 接続 記録 ①証拠保全、 ログ差押え 管理者A 込 板書 示 掲 管理者B 踏み台サーバ ISPが誰にどのIPアドレス ISPが誰にどのIPアドレス を割り当てたのかは、 を割り当てたのかは、 通信記録(ログ)に記録さ 通信記録(ログ)に記録さ れる(保存期間は概ね3箇 れる(保存期間は概ね3箇 月程度) 月程度) ②ログ差押え 接続 記録 捜査機関 ④特定 IPアドレス AAA.BB.56.78 IPアドレス等を順にたどって IPアドレス等を順にたどって 発信者の特定を図る(迅速な 発信者の特定を図る(迅速な 捜査の必要性) 捜査の必要性) ③発信者情報の差押え 管理者C 契約 記録 接続 記録 発信者Z プロバイダ (ISP) ISP) XX.YYY.123.4を割当 インタ ーネッ ト接 続 IPアドレス XX.YYY.123.4 ■ 捜査に立ちはだかる壁 • 国境や県境を容易に超えるなど広域に及ぶ犯罪に 対して適切な捜査態勢を迅速に組むことができな いために捜査が後手に回る懸念がある • ネット上の追跡において、経由したサーバに通信 記録が残っていないために捜査が途絶する例が散 見される • ネット上の追跡の結果、犯行に使用された端末が 特定できても、その使用者が特定できないために 捜査が途絶する例が散見される ■ 量的限界 • そもそも広大なサイバー空間には膨大な数の不法 行為が存在するものと推定され※、その全てを捜 査することには自ずと限界があり、抑止等の観点 からのアプローチが不可欠。 ※ 毎月ホットラインセンターへの通報件数約4,000件超 ウィニーの推計利用者数約180万人 ■ サイト管理者等の責任追及の限界 • 掲示板での誹謗中傷等によって、名誉を毀損さ れたり、プライバシーを侵害されたりした者に とっては、被疑者を検挙するよりも、当該情報 の迅速な削除が重要である。 • 他方、被害者は、プロバイダ責任制限法に基づ いて情報の削除や発信者情報の開示を要求する ことはできるが、掲示板の管理者やプロバイダ 等の中には非協力的な者もあるところ、これら が要求に応じないときは別途、民事訴訟による 解決を求めなければならない。 4 サイバー犯罪への対応 制圧と抑止 ■ サイバー犯罪摘発のための取組み ● 捜査力の向上 ・ 技術的知識を有した職員の採用 ・ デジタルフォレンジックの活用等 ● 海外捜査機関との連携 ・ ICPO、G8等を通じた成功事例等の情報交換 ・ 国際捜査共助の積極的な推進 ● 警察署レベルでの対応能力の向上 ・ 基本的な捜査技術に関する教育訓練の実施 ・ 捜査・対策のための体制拡充 ■ サイバー犯罪等への法制面での対応 1985 1990 1995 2000 2005 刑法改正(コンピュータ犯罪関係) (S62) G8 ローマ/リヨン・グループ High-Tech Crime SG (1997~) 不正アクセス行為の禁止等に関する法律(H11) 欧州評議会 サイバー犯罪条約署名(2001) 条約刑法改正国会審議 (2003~) ■ サイバー犯罪抑止のための取組み ● 違法情報、有害情報の早期発見と削除 ● プレゼンスの強化 ● 犯罪を犯しにくい環境の構築 ■ 違法情報、有害情報の早期発見と削除① ~ インターネット・ホットラインセンターの活動(その1) ~ 業務の流れ ■ 違法情報、有害情報の発見と削除② ~ インターネット・ホットラインセンターの活動(その2) ~ 業務の対象 違法情報 ①わいせつ物公然陳列、②児童ポルノ公然陳列、③売春防止法違反の広告、④出会い系サイト 規制法違反の不正誘引、⑤規制薬物の濫用を、公然、あおり、又は唆す行為、⑥規制薬物の広 告、⑦口座売買等の勧誘・誘引及び⑧携帯電話の匿名貸与業・無断譲渡業等の勧誘・誘引 有害情報 ①情報自体から、違法行為を直接的かつ明示的に請負・仲介・誘引等する情報、②上記①~⑧に 係る違法情報に該当することが明らかであると判断することは困難であるが、その疑いが相当程 度認められる情報及び③人を自殺に勧誘・誘引する情報 運営状況(H18.6~H19.5) 区分 通報分析件数 通報処理件数 違法情報 9,439件(14.5%) 警察に通報6,583件 プロバイダ等に削除依頼:4,299件 → 3,620件(84.2%)が削除済み 有害情報 2,562件( 3.9%) プロバイダ等に削除依頼:1,297件 → 対象外 53,349件(81.6%) 関係機関等に情報提供 フィルタリング事業者に情報提供 962件(74.2%)が削除済み ■ プレゼンスの強化 ・ 買い受け捜査の推進と検挙時の的確 な広報 ・ 悪質なサイト管理者への幇助罪等の 適用 (正犯としての検挙も視野に。不法な収益のはく奪にも努める。) ・ 民事手段との効果的な連携 ・ ライトユーザを中心とした利用者に対 する効果的な警告を実施 ■ 犯罪を犯しにくい環境の構築① 匿名性の排除 ・ ネットカフェにおける本人確認の強化 ・ プリペイド式データ通信カード販売時の本人確 認導入(平成19年7月2日~)等 取引の安全確保 ・ ネットオークション事業者等に対するエスクロー システム導入 ・ 金融機関に対する第3のパスワード導入等の働 きかけ ■ 犯罪を犯しにくい環境の構築② ログの保存 ・ 刑事訴訟法の改正動向(ログの保全要請) ・ ログの一律保存を義務付けようとするEUの動き 意識の向上 ・ サイバーセキュリティ・カレッジを始めとした広報啓 発活動の推進 ・ フィルタリングの導入促進 (小中高校生で3人に1人利用) 5 まとめ ■ まとめ 現実社会がネット社会に投影されることによりサイ バー犯罪は多様化 摘発のための捜査能力の向上、仕組みの整備、国 際連携の強化はもちろん必須 他方、摘発のみをもって全ての事象に対応するの は不可能であり、抑止の観点からの取組みが非常に 重要(警察本来の目的は犯罪抑止)
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