現代の数学への入口 としての 線形代数とその応用 渕野 昌 神戸大学大学院 システム情報学研究科 年度前期 神戸大学での「線形代数 」の講義の補講 年 月 日 於 神戸大学 鶴甲第 キャンパス !"# $ % &'( 復習 ベクトル空間 線形代数 補講 として で 次元 列 ベクトルの全体をあらわし, 以下の和とスカラー倍の演算と合せて,これを 次元ベクトル空間と 呼ぶ. の要素 スカラー培 ¾ Ê すべての ) * «½ « と« ½ ½ ½ !!! である. に対して,和 " と ¬¾Ê «¬ , ただし, ¾ Ê はすべての成分が « ) ¬ * « « ) * « * + * ( «¬ * ½ ½ を考えると,次の基本性質が成立 に対し ) + ) ) * ) ) + ) * ) * + ) ) ¬ + «+ となるベクトルである. 演習. を満たすような は存在するなら一意であることを示せ. すべての « ¾ Ê に対し « となることを上の ∼ から導け. は と同一視できる. 復習 線型写像 写像 すべての すべての 線形代数 補講 が 線型写像 であるとは, ¾Ê ¾Ê に対し, « ¾ Ê に対し, « « 定理.任意の線型写像 に対し, 行列 で,す べての に対し となるものが一意に存在する. 行列 に対し # とする.上の定理は となるような行列 が一意に存在を主張している. 補題. $ 線型写像 から行列 の対応 は, で, 行列 から線型写像 の対応 の逆対応になっている. 行列 と 行列 に対し, Æ である. Ê である.ただし は 次対角行列. 正則 !! 逆行列を持つ 行列 に対し, である. 線形代数 補講 アファイン写像 補題.すべての線型写像 演習. 写像 に対し, が アファイン写像 である,とは,線型写像 次元ベクトル が存在して,すべての し, " となること. である に対 前のページでの結果から 補題. がアファイン写像である ある 行列 と 次元ベクトル が存在して, に対し, " となる. 補題. をアファイン写像とするとき, Æ もアファイン写像で, " " とするとき, Æ " ただし Æ である. 線形代数 補講 線形代数から見た微分法 関数 が で全微分可能とは,線形代数の言葉を 用いて表現すると関数 が点 の近傍でアファイン関数 # " で近似できることである.ただし, は各 を 列とする行列,つまり, に対し, を成分とする行列で は の返す値の 成分を返す関数, である. この見方をすると,合成関数の微分法は, をそれぞれ全微分可能な関数とすると き, Æ も全微分可能で,その でのアファイン近似は, の でのアファイン近似と の でのアファイン近似の合成 関数になる こととして理解できることになる. 一般 線形空間 線形代数 補講 か とするとき,ある種の %空間& に足し算と の要素 倍の演算が定義されていて, の要素 が指定されており すべての ¾ と « ¬ ¾ に対し を ) * , ) + ) ) * ) ) + ) * ) * + «¬ * « ) ¬ * « « ) * « * + * ( «¬ ¬ + ) «+ ) が成り立つとき, は 上の 線型空間 であるという.これはベクト ル空間の概念の一般化になっている. 上の線型空間 には, でと全く同様にして,線型独立の概念や 基底,および次元の概念が導入できる. 特に の次元が有限で, !!! が の基底のときには, の要素 " " !!! と «¼ « を対応させることに より, と は同一視できる. つまり少なくとも有限次元の空間 に対しては線型空間の概念はベクトル空間の概念の本質的な一般化に はなっていない 線形空間としての関数空間 ½ 線形代数 補講 は無限回微分可能 とすると, ½ は 関数の足し算,定数倍により 上の線形空間になる,関数 !!! は線形独立になるので, ½ の次元は無限である 基底は連続 体サイズになる !!! は基底ではないが, ½ の %稠密な& '$ ( 部分空間の基底にはなっている.このことを使うとテイラー展開の理 論を線形代数の言葉で整理して表現することができるようになる. 実際には,たとえばここでの「稠密」性をうまく表現するために,関 数の間の距離の概念を導入する必要がある,など,もう少し補足修正 が必要である. 微分作用素 ½ ½ # ¼ は上の意味での線型空間 ½ 上 の線型写像である.これを使うと 常 微分方程式の理論は,この無限 次元線型空間での連立方程式の理論として見ることができるように なる. ½ や類似の無限次元の線型空間の解析学は,関数解析とよばれる. $ 世紀の前半に発達した数学の研究分野である. 線形代数 補講 ガロアの理論 や のように四則演算がうまく定義されていて,引き算,割り算 もうまく定義できる代数構造は体 英語 ) ドイツ語 * + と よばれる.体 の部分体 を考えると 例えば の部分体の の部分体 など の加法と乗法により, は 上の線型空間と見 ることができる. 高次 方程式の解の全体の構造の理論である ガロアの理論 では,こ の線型空間としての部分体 上の に方程式の解を付加してそこ から生成される 体,という見方が中心的な役割をはたす. 線形代数からの視点を強調したガロア理論の入門書には,少し古 いが, , - がある. . /01/22 3 4 5 3 4 6! 線形代数 補講 ハメル基底 は 上の線型空間と見られるから,その基底がとれる これには 選択公理とよばれる数学原理が用いられる そのような基底 一意に 存在するわけではない は ハメル基底 と呼ばれ集合論的に大変面白 い性質を持つものになることが知られている. ハメル基底と集合論については, 「数学」7!28 3!0 $ に書い た 「公理系集合論 9 これから学ぶ人のために 9」 という記事 や,昔務めていた大学の紀要に書いた「加法的関数の連続性につい て」 中部大学工学部紀要, 7!: $$ にハメル基底に関連する話がある.両方とも の文章である. ; のため 終
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