救急医療終末期において、再び「蘇生」への医療を 考える

一般演題 口演(143)
救急医療終末期において、再び「蘇生」への医療を
考える−主治医にしかできない臓器・組織提供の選
択肢提示−
1
市立札幌病院 救命救急センター、2 日本臓器移植ネ
ットワーク 東日本支部
鹿野 恒 1、山崎 圭 1、佐藤 朝之 1、遠藤 晃生 1、
佐野 克敏 1、上垣 慎二 1、岡田 昌生 1、佐藤 真澄 1、
牧瀬 博 1、大宮 かおり 2、菊地 雅美 2、
芦刈 淳太郎 2
救急集中治療領域における終末期医療のなかで、ど
んなに懸命に治療しても救命不能な患者は必ず存在
する。それは救急医療の限界であり、救急医にとっ
て敗北の瞬間でもある。しかし、そのような患者と
その家族を前にして、私たち救急医は何もできない
のであろうか? そして患者の意思や家族の希望を
見過ごしてはいないであろうか?
【対象・方法】2004 年 1 月より 2006 年 3 月までに、
14 例の脳死が疑われる患者に対して臨床的脳死診
断を行ない、全例に対して終末期の選択肢提示によ
る意思表示カードの確認および患者家族の臓器提供
の意思確認を行なった。
【結果】14 例の家族のうち 13 例の家族において臓
器提供への関心が認められ、10 例の家族が移植コー
ディネーターと面談を行なった。その全て家族が心
停止後の臓器・組織提供を承諾され、腎臓 19 件、膵
臓 1 件、心臓弁・大血管 5 件、角膜 12 件、皮膚 4
件の臓器・組織提供を受けた。これらの症例の中で、
意思表示カード所持は 4 例であったが、死亡前確認
は 1 例であり、鼓膜損傷のため脳死下臓器提供には
至らなかった。
【考察】日常の診療の繁忙さと臓器提供の意思確認
の精神的負担、臓器提供時の労力を考慮すると積極
的に選択肢提示を行なうのが躊躇われるのも事実で
ある。しかしながら、脳死となった患者の約 7 割の
家族より臓器・組織提供を受け、10 例中 6 例では家
族の意思のみで臓器提供が行なわれており、患者家
族の臓器提供への関心は決して希薄ではなかった。
さらに、将来的には臓器移植法改正により家族の承
諾のみで脳死下臓器提供の可能性もある。
【結語】救急医療終末期の臓器・組織提供の選択肢
提示は、救命不能な患者家族に対して、救急医が最
期にできる医療の一つではないかと思われた。