第1節 1節 企業犯罪とコンプライアンス 第 企業犯罪とコンプライアンス のため、比較的軽微な犯罪行為が長期にわたって繰り返されたりするこ ともしばしばである。 (2)企業犯罪に対する現行法の規定 ① 法人処罰規定・両罰規定 学習のポイント 企業犯罪そのものを一般的に取り扱った法律はなく、企業犯罪の禁圧 はもっぱら個別法令における法人処罰規定・両罰規定が適用されること ◆企業犯罪の罪質的特徴を把握したうえで、現行法上の企業犯 罪に対する罰則規定を把握する。 になる。たとえば、風説の流布、偽計取引における法人処罰(証券取引 法207条)、業務停止命令違反の罪(会社法973条)および虚偽届出等の ◆企業犯罪の罪質的特徴である隠蔽に伴う暗数化の内容を理解 罪(同法974条)の両罰規定(同法975条)などが法人処罰・両罰規定の し、内部告発を促進することが企業犯罪の認知向上に貢献す 例であり、たとえば、いわゆるライブドア事件において犯罪行為に荷担 ること、さらにこうした背景から公益通報者保護法が制定さ した役員以外に法人としてのライブドア自体の責任も追及されたのであ れた意義を理解する。 る。ただし、企業は自然人ではなく法人であるため、企業犯罪に対する ◆企業犯罪の典型的な具体例を通じて、法律上企業がいかなる 制裁には自由刑を科すことができない。そのため、罰金刑の財産刑が刑 刑罰に問疑され、それが企業にとってどのようなインパクト 罰として科され、犯罪に対する感銘力は罰金の多寡となる。したがって、 を与えるものかを理解する。 罰金の額が少額の場合は、犯罪行為を起こしてでも企業利益を優先させ てしまうこともあり得、犯罪抑止効果は必ずしも高くない。そこで、こ れらに加えて各業法上の免許取消等を組み合わせて企業犯罪を禁圧して 1 いくことになる。 企業犯罪 ② 組織犯罪処罰法・組織的犯罪処罰法 (1)意義 組織犯罪については、組織的な犯罪の処罰および犯罪収益の規制等に 企業犯罪とは、企業が自己の営業に関連して、自己の利益追求などの 関する法律(組織犯罪処罰法・組織的犯罪処罰法(平成11年8月18日法 ために違法、有責な行為を行うことをいう。犯罪学上の組織犯罪の1つ 律第136号)、以下、「組織犯罪処罰法」という)があり、会社などの組織 とされ、個人の犯罪と異なり組織ぐるみで行われるため、被害者の数、 に適用されることが想定されている。しかしながら、組織犯罪処罰法は、 被害者への損害額がいずれも大きい点で社会に与える影響が大きいこと 暴力団による薬物・銃器犯罪や、地下鉄サリン事件など、組織的犯罪の に特徴がある。また、企業犯罪に関与した企業自体にとっても特定の取 規模拡大・国際化に対処するために制定された法律であり、会社・政治 引における信用失墜のみにとどまらず、企業の存続にかかわることもあ 団体・宗教団体などに擬装した団体による組織的な犯罪に対する刑罰の いんぺい るため、犯罪に関与した企業が組織的に隠蔽することがあり、内部告発 加重、マネーロンダリング(資金洗浄)、犯罪収益の没収などの規定が盛 によらない限り発覚する機会が少なく暗数化されやすい傾向にある。そ り込まれているが、企業が自己の営業に関連した犯罪行為の禁圧を主目
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