メンバー各位 ヘーグ・ヴィスビー・ルール (Hague Visby Rules)

1977 年 8 月
The Britannia Steam Ship
Insurance Association Limited
メンバー各位
ヘーグ・ヴィスビー・ルール (Hague Visby Rules)
(1968 年度ブリュッセル議定書により改正された 1924 年ヘーグ・ルール)
(Hague Rules of 1924 as amended by Brussels Protocol of 1968)
1968 年 2 月 23 日にブリュッセルで調印された 1924 年ヘーグ・ルール改正のための議定書が次の諸国の批
准・加盟により 1977 年 6 月 23 日に発効した。デンマーク、エクアドル、フランス、レバノン、ノルウェー、シンガ
ポール、スウェーデン、スイス、シリア、英国の諸国がそれらであるが、締約国の数は近いうちに増える見込
みである。
英国では、条約議定書によって改正されたヘーグ・ルールは 1971 年海上物品運送法として実施されており、
同法により 1924 年英国海上物品運送法は廃止された。議定書の内容は 1976 年 12 月のサーキュラーで要
約したが、ご想起いただきたいことは、以下に述べるような場合、ヘーグ・ヴィスビー・ルールを摂取した至上
約款の有無にかかわらず、異なる二国間の物品運送に関する船荷証券にはすべて同議定書が適用されると
いうことである。すなわち
1
船荷証券が締約国で発行される場合、または
2
運送が締約国の港より開始する場合、または
3
船舶、運送人、荷送人、受荷主その他関係当事者の国籍の如何を問わず、船荷証券に含まれるか船荷
証券により証拠立てられる契約が、ヘーグ・ヴィスビー・ルールまたは同ルールを取り入れた国内法に準
拠すべきことを定めている場合。
さらに議定書は、締約国がその立法措置によりヘーグ・ヴィスビー・ルールを他の航海(例えば締約国向けの
輸送貨物)に適用することを認めており、デンマーク、ノルウェー、スウェ―デンの各国内法では、自国向け貨
物についてもヘーグ・ヴィスビー・ルールを適用するものと我々は理解している。
1971 年法はまた、当該運送のための船荷証券または非流通性貨物受領書にヘーグ・ヴィスビー・ルールを
適用することが明示されている場合には「甲板積み貨物」や生きた動物にヘーグ・ヴィスビー・ルールを適用
することを定めているが、議定書は生きた動物や「甲板積み貨物」に関しては(それらを適用外とするヘーグ・
ルールの)立場を変えていない。従って運送契約が 1971 年法に準拠する場合、生きた動物と「甲板積み貨
物」に関する潜在的責任を回避するためヘーグ・ヴィズビー・ルールを摂取した適切な至上約款を起草してお
く必要がある。
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締約国の中には、そこで発行され、またはそこより運送を開始する貨物に対して発行される船荷証券に(何ら
かの形でヘーグ・ヴィスビー・ルールを適用する)至上約款の挿入を条件とする国内法を制定したところがあ
るかも知れない。英国法にはそのような条件は付されていない。ヘーグ・ヴィスビー・ルールの発効により現行
の至上約款は無効となったと考えられる。たとえば現在通用している船荷証券に見られる現行の至上約款の
うちには、その船荷証券にはヘーグ・ルールを適用すると定めたものがあり、(ヘーグ・ヴィスビー・ルールで
はなく)ヘーグ・ルールが強制的に適用されるのはそのような場合のみである。(しかし)積み地の所属する国
家が、英国が(1971 年法で)そうしたように、ヘーグ・ルールを生かした制定法を無効にすれば、そのような至
上約款はその効力を失う(すなわちヘーグ・ルールはもはや適用されない)ことになる。
上述の理由で、ヘーグ・ヴィスビー・ルールが適用され得る船荷証券または非流通性貨物受領書を発行する
メンバー各位は弁護士に相談され、船荷証券の諸条項を変更する必要があるかどうかを確かめられる必要
がある。さしあたり、船荷証券の一部には下記の条項の挿入が適当であろう。
「本船荷証券中の他のいかなる文言にもかかわらず、本船荷証券の効果は、ヘーグ・ルールまたは 1968 年 2
月 23 日ブリュッセルで調印の議定書で改正されたヘーグ・ルール(ヘーグ・ヴィスビー・ルール)を本船荷証券
に強制的に適用せしめるすべての国内法に従うものとする。本船荷証券中の文言でそのような国内法に矛盾
する部分があれば、その部分に限り無効とする。本契約のもと運送される物品が生きた動物であるか本契約
上甲板積みとされ、実際に甲板積みで運送される貨物の場合には、本契約にはヘーグ・ルールまたはヘー
グ・ヴィスビー・ルールのいずれも適用されぬものとする。」
理事会は、ヘーグ・ヴィスビー・ルールに従う運送契約は当クラブ、クラス 3 のルール第 20 条(19)(i)に違反し
ない旨確認している。
1976 年 12 月
1924 年ヘーグ・ルールの改正のため 1968 年 2 月 28 日にブリュッセルで調印された議定書がまもなく発効す
る。同議定書は、その定めるところによれば、それぞれ 100 万総トン以上の船腹を有する国家の少なくとも 5
ヵ国を含む 10 ヵ国が批准または加盟して 3 ヵ月後に発効する。今のところノルウェー、スウェーデン、デンマー
ク、英国が同議定書を批准し、シンガポール、シリア、レバノンがこれに加盟しており、ベルギー、フィンランド、
フランス、オランダ、イタリアも批准することを決めている。このままゆけば議定書は 1977 年中には発効する
ものと思われる。
さしあたり、各位のご参考までに下記の通り議定書の条項を要約し注解を加える。
1
議定書第 1 条第 1 項は、ヘーグ・ルール第 3 条第 4 項に次の文言を加えることを定めている。すなわち
「しかしながら船荷証券が善意の第三者に譲渡された場合、反証は認められない。」
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この規定は、船荷証券の譲渡を受ける第三者が善意に基づいて行動する限り、同船荷証券に記載する(物
品の識別に必要な)主要記号、包数、個数、数量、重量、物品の外観上の状態を、そのような第三者への貨
物に関する確定的な陳述とする効果をもつ。英国法の観点からしてこの改正の特に重要なことは、船主に対
し船長または代理人が署名し善意の第三者に譲渡された船荷証券に基づく不足損害クレームが提起された
場合、船主はそれに対し船荷証券に記載された包数・数量・重量は不正確であり実際には(そのように)船積
みされなかったことを証明して対抗することはもはやできないということである。
2
議定書第 1 条第 2 項は 1 年の除斥期間に関するヘーグ・ルール第 3 条第 6 項 4 を削除し、以下の条項
に代えることを定めている。
「第 6 項の 2 に従い、運送人および船舶は、如何なる場合であっても、物品の引き渡しの時または引き渡され
るべきであった時から 1 年以内に提訴されぬ限り、同物品に関する一切の責任を免れる。ただしこの期間は
訴訟原因の発生後当事者の合意により延長することができる。」
この改正の効果で、一年の時効(除斥期間)は単に「滅失・損傷」のみならず「物品に関する」すべてのクレー
ムに対して適用されることになる。意図するところは、厳密には「滅失や損傷」にはあたらないクレームにも一
年の時効を適用することにあるため、誤渡しのクレームもこれに含まれることになるが、その目的の達成にこ
の改正が有効となるであろう範囲については議論の余地がある。
3
議定書第 1 条第 3 項は同第 3 条に第 6 項の 2 を挿入することを定めているが、この条項は下記の如く
損害賠償償還請求権(例えば接続・通し運送などの場合の)を扱っている。
「第三者に対する補償請求の訴訟は、訴訟が係属する裁判所の属する国の法令により許容されている期間
内に提起されたときは、前項に定める一年の期間の経過後においても提起することができる。ただし、その許
容される期間は、その補償請求の訴訟を提起する者が損害賠償額を支払った日またはその者に対する訴訟
につき訴状の送達を受けた日から起算して 3 ヵ月未満であってはならない。」
この改正で、次のようなクレームの場合、第 3 条第 6 項第 4 号に定める一年の時効(除斥期間)のゆえをもっ
て運送人は責任を解除されない、という効果を生じた。すなわち運送人(A)の管理下にある間に発生した貨
物の滅失・損傷に対してクレームを支払わなければならなかった他の運送人(B)が、(A)に対して有する償還
請求権のゆえに提起するクレームの場合、この改正で、クレームを支払わなければならなかった(B)のため、
(A)に対して償還請求権を行使するための期間がクレームの支払い日または裁判上の請求を受けた日から
少なくとも 3 ヵ月間延長されることになった。
4
議定書第 2 条は責任制限に関するヘーグ・ルール第 4 条第 5 項を削除し、代わりに 8 号にもおよぶ下
位項目からなる第 5 項を新たに定めた。
(a)号は次のように規定している。すなわち「物品の種類と価額が船積み前に荷送人から申告され、かつ船荷
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証券に記載された場合を除き、他のいかなる場合にも運送人および船舶は、当該物品の、または当該物品に
関する滅失・損傷に対し、1 包もしくは 1 単位につき 10,000 フラン、または滅失・損傷のあった物品の総重量
1 キログラムにつき 30 フランのいずれか高いものの相当額を超えて責任を負うことはない。」
ここにいうフランはゴールド・ポアンカレ・フランである。10,000 フランの英ポンド換算価額は現在 428.40 ポン
ドであり、30 フランは約 1 ポンドである。(なお今後英国政府から随時枢密院令により英貨換算額が発表され
ることが予想される。)
(b)号は次のように規定する。すなわち「賠償されるべき総額は、当該物品が契約に従って船舶から荷揚げさ
れた、または荷揚げされるべきであった場所および時におけるその価額に基づいて算定するものとする。
物品の価額は商品取引所の相場に従って決定するものとするが、そのような相場がない場合には、その時の
市場価額に従って決定するものとし、さらにそれらのいずれもない場合には、同種・同品質の物品の通常の
価額に基づいて決定するものとする。」
この規定により、商品取引所相場価額と物品の「通常の価額」と言われるものとの概念が初めて導入された。
(c)号はコンテナが使用される場合に関して次のように規定している。すなわち「コンテナ、パレットまたはこれ
らに類似の運送用具が数個の物品をまとめて運送するために使用される場合には、そのような運送用具に
詰め込まれたものとして船荷証券にその数量が記載されている包または単位の数を、これらの包または単位
に関するかぎり本項(第 5 項)を適用するための包または単位の数とみなす。その記載がない場合には、その
ような運送用具を包または単位とみなすものとする。」
この規定の効果は、コンテナに積み込まれた包または単位がその数量とともに船荷証券に記載されていれば、
その包または単位を運送人の責任制限の基準とすることである。その記載がない場合には、コンテナ自体が
運送人の責任制限の基準となり、コンテナ自体の重量は 333 キログラムを超えることはほぼ確実であろうか
ら、重量基準が採用されるであろう(すなわち 10,000 フラン=333 キログラム×30 フランとなることからキログ
ラム当たり 30 フランの責任限度額がまず間違いなく適用される)。
(d)号は、運送人の責任制限額算定のための貨幣単位とする金フランについて規定し、また同時に各国通貨
への換算日についても訴訟の係属する裁判所の属する国の法令に依拠する旨規定している。
(e)号は、損害が、それを生じさせる意図をもって為した、または無謀に、かつ損害が生じるであろうことを知り
ながら為した、運送人の作為または不作為により生じたものであることが立証された場合には、いかなる場合
にも運送人および船舶は責任制限の利益を受けることができない旨規定している。
(f)、(g)、(h)の各号は、実質的には現在のルール(ヘーグ・ルール)第 4 条 2、3、4 の各項と同じである。
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5
議定書第 3 条はまったく新たな条項、すなわち第 4 条の 2 を導入している。
新たな第 4 条の 2 第 1 項は次のように規定している。すなわち「この条約に定める抗弁および責任の限度は、
訴訟が契約に基づくと不法行為に基づくとを問わず、運送契約の対象たる物品の滅失・損傷についての運送
人に対する一切の訴訟に適用する。」
本条項の意図は、この条約が適用される船荷証券の関係当事者間においては、運送人は、契約に基づくと
不法行為に基づくとを問わず、本条約で定める抗弁と責任限度をすべて享受できることを確認するにあるに
すぎない。
新たな 4 条の 2 では第 2 項で次のように定める。すなわち「(第 1 項にいう)そのような訴訟が運送人の使用
人または代理人(いずれも独立の契約者でないものに限る)に対して提起された場合には、そのような使用人
または代理人は、運送人がこの条約に基づいて援用しうる抗弁と責任限度を援用する権利を有する。」
本条項の効果は、運送人の使用人および代理人(ただしいずれも独立の契約者である者を除く)に対しても、
運送人が船荷証券上有すると同じ抗弁と責任限度についての権利を享受せしめる点にある。したがって、ス
テベの場合には、彼等が運送人の直接の被雇用者として運送人の使用人とされるか、あるいは法律上運送
人の代理人と見なされる程に運送人と非常に密接な関係にあるとされぬ限り、運送人の享受する保護は得ら
れない。したがって、この新条項は概して損害が船長もしくは船員によって生じた場合にのみ適用されること
になる。 このような事情により、ステベのような独立の契約者を保護するためには、「ヒマヤラ」条項を船荷証
券に挿入することが引き続き必要となるであろう。
6
議定書第 4 条は、ヘーグ・ルール第 9 条を次の条項で置換することを規定している。すなわち
「この条約は、原子力損害に対する責任についての国際条約または国内法の規定に影響を及ぼすものでは
ない。」
7
ヘーグ・ルール改正のための最終項目は議定書第 5 条にあり、新第 10 条による置換を規定している。
ヘーグ・ルール第 10 条のもと条約は締約国で発行された船荷証券にのみ適用される。しかし新たな第
10 条では条約の適用範囲がかなり拡張されている。すなわち、異なる二国間の物品運送につき、以下
の場合、すべての船荷証券に対しこの条約が適用される。すなわち(a)船荷証券が締約国で発行される
場合(現行どおり)、(b)運送が締約国の港より開始するものである場合、(c)船荷証券に含まれる、また
は船荷証券により証拠立てられる契約が、この条約の規定、または条約に効力を与えているすべての
国内法に準拠すべきことを定めている場合。またこの条項は、船舶、運送人、荷送人、荷受人その他の
利害関係者の国籍の如何にかかわらず、条約の規定が上記の 3 つの場合すべてに適用される旨規定
している。この条約はさらに、締約国は前記の 3 つの場合に含まれない船荷証券についても本条約の定
めを適用することを妨げない旨規定している。従ってこの新たな条項のもとでは、特にそうすることを強
制するわけではないが、締約国であれば、いかなる国であっても輸出、輸入の別を問わず、実際上すべ
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ての船荷証券に対し本条約を適用できることになる。
今のところ現行の運送契約の書式を改める必要はない。
以上
本サーキュラーは国際グループを構成する諸クラブより発行される。
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