ナラティブ分析のためのカテゴリー指標確立への試み 自伝的記憶における意味づけ方略による震災ナラティブのカテゴリー化 ○細川 彩 1・邑本 俊亮 2 (1 国立長寿医療研究センター・2 東北大学災害科学国際研究所) キーワード:ナラティブ、カテゴリー、分類による評価 Approach toward establishment of framework for qualitative evaluation of narrative: Categorizing components in narrative by victims of disaster from the perspectives of the Meaning Making Model in autobiographical memory Aya Hosokawa1 and Toshiaki Muramoto2, (1National Center for Geriatrics and Gerontology, 2IRIDeS at Tohoku University) Key Words: narrative, category, categorizing 目 的 人生において自らが経験した出来事を回想するライフレビ ューや回想法には役割や意義があることが示唆されている。 自伝的記憶に基づくナラティブには意味付け方略がみられ (Mackay & Bluck, 2010)、特に高齢者にとっては「語る」と いう行為自体が人生における自我統合としての役割があるこ とが報告されている(Tuohy, 2012)。 しかしながら、回想法の心理療法としての効果に期待が寄 せられている一方で、回想によるナラティブを自伝的記憶と して捉えた上での質的評価を行った研究は多くない。 そこで、本研究では、回想法やライフレビューで得られる ナラティブを分析するための広範的な枠組み構築を目指すこ ととし、まず特定のテーマに関するナラティブの分析をする ことから始めた。東日本大震災被災者によるナラティブを分 析するためのカテゴリー化を行うと共に、震災のナラティブ においてどのカテゴリーが出現しやすいのか、出現頻度にお けるカテゴリー間の関連性について分析し、各カテゴリーに おける語り手の年齢による出現頻度の違いについて検討し た。 方 法 <対象者> 調査に先立ち、本研究の主旨と調査実施の手続きを対象者 に説明し、調査に参加する際の対象者の人権の保護や倫理遵 守を確約した。そのうち、35-92 歳(平均年齢 61 歳± 13.92)の男性 7 名、女性 13 名、合計 20 名が本研究への参 加を同意した。 <手続き> 1. 個人情報収集:年齢、性別、教育歴などの個人情報につ いて口頭で質問した。 2. 震災体験の語り:2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大 震災による被災体験について、口頭で自由に語るよう教 示した。それぞれの語りはヴォイスレコーダーで記録さ れ、分析に際して、音声データはテキスト化された。 語りの評価 Park & Falkman (1997)による意味付け方略によるカテゴ リー(①肯定的な気付き、②責任の所在、③信仰・霊的解 釈、④人間的成長、⑤下向きの比較)に加え、多くの語りの 中で頻繁に生起する表現に着目し、感情の 6 カテゴリー(⑥ 当時のポジティブな感情、⑦現在のポジティブな感情、⑧当 時のニュートラルな感情、⑨現在のニュートラルな感情、⑩ 当時のネガティブな感情、⑪現在のネガティブな感情)と他 の 4 カテゴリー(⑫教訓、⑬後悔、⑭当時の感謝、⑮現在の 感謝) 、合計 15 カテゴリーを設定した。個々の語りは複数 (2 名)により評価され、各カテゴリーに該当する箇所がカ ウントされた(評定者間信頼性κ= 0.459~1, p <0.01) 。 結 果 対象者 20 名のナラティブの平均文字数は 4097.8 文字であ った。個々の語りにおける各カテゴリー該当数は評定者間の 平均をとり、1,000 文字あたりの出現頻度に変換した。その うち、発言量の少ない 2 名による 2 つの語り(400 文字以 下)は分析から除外され、18 の語りを分析の対象とした。 各カテゴリーの平均出現頻度 各カテゴリーの平均出現数はそれぞれ、① 0.27 (SD = 0.27)、② 0.12 (SD = 0.23)、③ 0.07 (SD = 0.10)、④ 0.03 (SD = 0.06)、⑤ 0.09 (SD = 0.16)、⑥ 0.10 (SD = 0.22)、⑦ 0.07 (SD = 0.23)、⑧ 0.21 (SD = 0.29)、⑨ 0.04 (SD = 0.11)、⑩ 0.51 (SD = 0.70)、⑪ 0.22 (SD = 0.41)、⑫ 0.45 (SD = 0.50)、⑬ 0.13 (SD = 0.19)、⑭ 0.05 (SD = 0.09)、⑮ 0.09 (SD = 0.18)であった。 カテゴリー間の相関分析 各カテゴリー間の相関分析を行った結果、1. 「肯定的な気 付き」と「現在のポジティブな感情」(r= 0.668, p < 0.01)、2. 「肯定的な気付き」と「当時のネガティブな感 情」(r= 0.658, p < 0.01、3. 「下向き比較」と「当時のニ ュートラルな感情」(r= 0.812, p < 0.01)、4. 「下向き比 較」と「現在のニュートラルな感情」(r= 0.504, p < 0.05)、5. 「当時のポジティブな感情」と「現在の感謝」(r= 0.593, p = .01)、6. 「現在のポジティブな感情」と「過去 のネガティブな感情」(r= 0.838, p < 0.01)、7. 「人間的 成長」と「現在の感謝」(r= 0.681, p < 0.01)、8. 「当時の 感謝」と「現在の感謝」(r= 0.579, p < 0.05)の間でそれぞ れ有意な相関関係がみられた。 年齢順序による各カテゴリーの順位相関 年齢を順位尺度とし各カテゴリーの順位相関係数を求めた 結果、 「現在のポジティブな感情」との間においてのみ有意 な相関関係がみられた(r= .507, p < .05)。 考 察 カテゴリー間の相関係数より、1.当時のネガティブな感 情を言及している対象者には現在のポジティブな感情と肯定 的な気付きも表現されていること、2.当時と現在における ニュートラルな感情を言及している対象者には下向きの比較 がみられたこと、3.当時のポジティブな感情があると現在 の感謝の気持ちも表現されていること、4.人間的成長を感 じた対象者には現在の感謝の気持ちがみられること、7.当 時の感謝の気持ちがある対象者は現在の感謝の気持ちもある と考えられた。また、責任の所在や下向きの比較は 50-60 代の中間層に多く見られる傾向にあることが考察された。 「現在のポジティブな感情」において得られた有意な順位 相関係数については、高齢者 2 名のみによる出現のため、厳 密に解釈すれば相関があると結論付けることは難しい。しか しながら、この結果を展望的に捉え、年齢をコントロールし 対象者を増やすことを今後の研究での課題としたい。
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