近代地理学の誕生(1) 2017前水2 ★「近代地理学」の誕生 「地理学,基礎地理学」 予定表 ・Alexander von Humboldt (1769-1859) 1843年の肖像 ・数度にわたる中南米 数度にわたる中南米の 中南米の自然探査と膨大な著作 自然探査と膨大な著作 を通して時代の寵児 を通して時代の寵児に。 時代の寵児に。 ・幼少期から身に着けた広範な自然事象の観測 幼少期から身に着けた広範な自然事象の観測 技術や調査法を駆使して,調査地の 技術や調査法を駆使して,調査地の自然の姿 を駆使して,調査地の自然の姿を, 自然の姿を, それまで例のなかった科学的な観察眼 それまで例のなかった科学的な観察眼で描写。 科学的な観察眼で描写。 「地理学」の原点 ・「地理学」とは,地表の諸現象にみられる 「空間的まとまり」を発見し説明する学。 ・「まとまり」として認識された地表の部分 空間を「地域」と呼ぶ。 = 「地理学」とは,この「地域」を発見し, 説明する学 ・ 「空間的まとまり」を発見したいという欲 求は,物事の過去からの由来=「歴史」に 対する関心と同様,人間に本来的に備わっ た知的欲求。 Geography, 「地理」の由来 ・「geography」という語は,紀元前のギリ シャの時代から存在。 geo -- 地球,土地 graphy -- 画法,記述 ・未知の土地の自然事象や文物への関心 と,その記述・表現法の工夫 ・大航海時代の17世紀以降,列強諸国は 王立・国立の「地理学協会」を設立。 … 植民地経営を下支えする世界各地の 有用・珍奇情報を収集 ⇒ 「博物学」 Kosmos (全5巻) (全 巻) ・長年にわたる世界の自然観察の成果を 集大成した「自然誌 集大成した「自然誌」。 自然誌」。 ⇒ヨーロッパの知識人たちを感嘆させる。 ・彼が追求した「学 彼が追求した「学」の理念は「 」の理念は「コスモスの理念 は「コスモスの理念」と呼ばれる。 コスモスの理念」と呼ばれる。 ・つまり … 「地表上の多様な事象は,個々ばらばらに存在す るのではなく,相互に関連 るのではなく,相互に関連しあいながら, 関連しあいながら,1 しあいながら,1つの「 つの「調和像」 調和像」とし て存在する」 て存在する」 ・観察事実を「調和像 観察事実を「調和像」として 調和像」として表現 」として表現するため,個々の事象を「 表現するため,個々の事象を「標本 するため,個々の事象を「標本」とし 標本」とし て分離せず,その場にあるままの姿 て分離せず,その場にあるままの姿で理解する,という方法を追求。 その場にあるままの姿で理解する,という方法を追求。 ⇒「-logy」よりも「-graphy」の学 ・それを実現するため,各種の景観図 それを実現するため,各種の景観図や 景観図や分布図を考案。 分布図を考案。 ・それは,人間は,身の回りの空間を秩序立 て,意味づけることを通して初めて「生きら れる」ものであるから。 ・一方,漢語の「地理」は,古来から地勢 や「風水」を意味する語として存在。 ・混沌と危険に満ちた周囲の環境は,自分 にとって秩序あるものと認識することで, 「安住」できるものにすることができる。 ・これらの語が,「近代地理学」の誕生後 も転用されることに。 ・これが,「 これが,「空間的まとまり が,「空間的まとまり」をとらえ,表現 空間的まとまり」をとらえ,表現する「方法」に。 」をとらえ,表現する「方法」に。 … 「相観学」( ) 相観学」(Physiographie) 」( ・Humboldtは, Humboldtは, 当時のヨーロッパの時代思潮であった「ロマン主義 当時のヨーロッパの時代思潮であった「ロマン主義」 ロマン主義」 の科学的実践者として 科学的実践者として,時代の寵児に。 として,時代の寵児に。ゲーテ,シラーらとも親交。 ,時代の寵児に。ゲーテ,シラーらとも親交。 その死去にあたって,プロシアの国葬 国葬で送られる。 ・その死去にあたって,プロシアの 国葬 で送られる。 ★「ロマン」に は,良・悪の両 面が。。 近代地理学の誕生(2) 近代地理学の誕生 チンボラッソ↓ チンボラッソ ・Humboldtの著作は知識人たちに自然の の著作は知識人たちに自然の 新しい見方を喚起。 ・Karl Ritter(1779-1859)は,そのままでは は,そのままでは 壮大すぎるHumboldt の方法( 壮大すぎる の方法(コスモス理念 +相観学)を, 相観学)を,通常科学 )を,通常科学として継承・実践 通常科学として継承・実践 できる学問を創始。 ← コトパクシ ・そのタイトル 」 そのタイトルは タイトルは 「Die Erdkunde」 =Earth Science, ,地学,地球科学 ・副タイトルにその「方法」: 「allgemeine vergleichende geographie」= 」=一般比較地理学 」=一般比較地理学 Alexander von Humboldt 「アンデスの自然像 アンデスの自然像」 アンデスの自然像 <左表 左表> 左表 <右表 右表> 右表 1:高度,2:光屈折度,3:海上から山が 視覚に入る角度,4:各大陸のいろいろな 場所の高度,5:大気現象,6:耕作景観, 7:測定重力,8:大気の明澄度,9:湿度, 10:気圧,11:高度 1:高度,2:気温,3:大気成分,4:各緯度 による万年雪の下限高度,5:家畜・動物, 6:水の沸点,7:地形,8:大気の光線透 過度,9:高度 ・つまり, つまり,地表全体の「 地表全体の「調和像 全体の「調和像」にすぐに迫るの 調和像」にすぐに迫るのではなく 」にすぐに迫るのではなく,まず ではなく,まず地表 ,まず地表の 地表の部分空間 の調査から始めて の調査から始めて,「 から始めて,「比較 ,「比較」によって順次, 比較」によって順次,より一般的 」によって順次,より一般的な「 より一般的な「調和像 な「調和像」 調和像」に至るという, 実証科学の「 実証科学の「帰納法 の「帰納法」をあてはめた 帰納法」をあてはめた。 」をあてはめた。 ・またこの際,当面の研究対象となる「部分空間 またこの際,当面の研究対象となる「部分空間」の 部分空間」の設定の仕方については, 」の設定の仕方については, 何らかの「 何らかの「まとまり かの「まとまり」ある まとまり」ある現象 」ある現象に 現象に基づく範域 基づく範域= 範域=「地域」であるべきと規定。 地域」であるべきと規定。 ⇒Ritterは, は,「 は,「地表の科学 地表の科学」としての の科学」としての Humboldtの「コスモス学」あるいは の「コスモス学」あるいは 「地表」の科学 地表」の科学を,「 」の科学を,「地域 を,「地域」 地域」の科学に読 の科学に読 み替えることで,近代的な み替えることで,近代的な実証科学 ,近代的な実証科学と 実証科学と しての形式を確保。 ・ これが明治の日本に導入された際,伝統的 に用いられてきた漢語「地理」の存在や,学校 教科との関係から, 「地学」ではなく「地理学」 の語で定着。 ※日本最古の地理学会「東京地学協 東京地学協会」 ⇒ 東京地学協 その英語名にはGeographyが使われている。 機関誌「地学雑誌」の英名も「Journal of Geography」。2014年は123巻を数える。 アンデスの自然像(全体) ◇地理学史 文献① ○フンボルト論 ○近代地理学の歴史 ・野間三郎,1962『地理学のあゆみ』古今書院 ・野間三郎,1963『近代地理学の潮流』大明堂 ・野間三郎,1967「近代地理学の発達」,木内・西川 編『朝倉地理学講座1地理学総論』朝倉書店 ・野間・松田・海野・高橋,1970『新訂地理学の歴史 と方法』大明堂 ・水津一朗,1974『近代地理学の開拓者たち』地人 書房 ・西川治編,1996『地理学総論』朝倉書店 ・岩田慶治,1976『コスモスの思想』NHKブックス ・西川治,1988『地球時代の地理思想:フンボルト精神の展 開』古今書院 ・ガスカール著,沖田訳,1989『探検博物学者フンボルト』白 水社 ・田村百代,1993「A.von Humboldtコスモス(第1巻)における 「自然画」の思想」,地理学評論, 66A, 253〜268 ・田村百代,1995「アレクサンダー・フォン・フンボルト「自然 画」における科学と芸術」 地域研究 (立正大), 35(2), 1〜17 ・田村百代,1998「Humboldt自然地理学の本質とその思想 的背景」,地理学評論, 71A, 730〜752 ・西川治,1985『人文地理学入門:思想史的考察』 東京大学出版会 ・手塚章訳編,1991『地理学の古典』古今書院 ○植生地理学,気候区分,環境論 ・「地理学に貢献した人々」シリ-ズ.地理,8-4〜9-9 (1963〜64) ・林一六,1990『植生地理学』大明堂 ・シュミットヒューゼン,宮脇訳,1968『植生地理学』朝倉書店 ・矢沢大二,1989『気候地域論考』古今書院 ・安田喜憲,1990『気候と文明の盛衰』朝倉書店 ・鈴木秀夫・山本武夫,1978『気候と文明・気候と歴史』朝倉 ・横山秀司,1993『景観生態学』古今書院 ◇地理学史 文献② ○地域論,フランス地誌学派 ○景観論とその展開 ・ハーツホーン著,野村正七訳,1957『地理学方法 論』朝倉書店 ・浜谷正人,1972「O.シュリューター覚え書き」金沢 大学法文学部論集(史学編), 20 ・ブラーシュ著,飯塚浩二訳,1940『人文地理学原理 (上,下)』岩波文庫 ・手塚章,1987「ドイツ地理学におけるラントシャフト 論の展開」,人文地理学研究(筑波大学),11 ・木内信蔵,1968『地域概論』東大出版会 ・水津一朗,1976『ヨーロッパ村落研究』地人書房 ・野沢秀樹,1988『ヴィダル=ド=ラ=ブラーシュ研究』 地人書房 ・水津一朗1958「地域論の機能主義的展開」,地理 学評論, 31 ・野沢秀樹,1982「デュルケム派社会(形態)学と人 文地理学」史淵 (九州大), 117 ・水津一朗,1980『新訂社会地理学の基本問題(増 補版)』大明堂 ・松田信,1959「フランス学派の地域観」,人文地理, 10 ・田代百代,1985「地理学における「景観」と「相観」」, 『地域の探求』古今書院 ・松田信,1961「生活様式論再考」,人文地理, 13 ・藤岡・服部編,1978『歴史地理学の群像』大明堂 ○ラッツェル論,地政学 ・春日茂夫,1986『経済地理学の生成』地人書房 ・野間三郎,1975「中心と周辺 ─ Ratzelにおける空 間分化の研究とその発展」地学雑誌, 84 ・岡田俊裕,1987「敗戦前の日本における「景観」概 念と「景観」学論」, 人文地理, 39 ・シュタインメッツラー著,山野・松本訳,1983『ラッ ツェルの人類地理学』地人書房 ・山野正彦,1972「F.Ratzalの再評価に関する一つ の試み」,人文地理, 24(1972) ・河野収,1981『地政学入門』原書房
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