スピクリスポール酸界面活性剤及びその誘導体 と洗剤との硬水、海水下での洗浄効果の比較 東京理科大学Ⅰ部化学研究部 1. 背景 2. 実験 一般の洗剤の問題点 実験操作 ① S酸からO酸を合成 生分解性が低いため、使用後は 渡辺延幸 土居諒平 ③ 汚染布を入れて洗浄、すすぎを 行った。 下水処理を施す必要がある。 金属イオンと不溶性の金属塩を形成 NaOH するため、硬水や海水中では使用 60 ℃ できない。 S酸 O酸 ※汚染布:湿式人工汚染布(木綿布)、タンパク質汚れ ② 界面活性剤、洗剤の溶液に対して スピクリスポール酸(S酸)および 純水、硬水あるいは海水を加えた。 その誘導体のオープンリング酸(O酸) ※硬水用洗剤:酵素を用いた洗剤で界面活性剤は 0.5 %のみ。アルカリ剤、水軟化剤、 分散剤、再汚染防止剤、漂白剤を含む。 海水用洗剤:陽イオン界面活性剤と 両イオン界面活性剤を含む。 ※硬水:CaCl2、MgCl2を含む 生物由来であるため、生分解性が 海水:NaCl、MgSO4、CaCl2、MgCl2、KClを含む 高い。 構造中に親水基が複数存在するため、 評価方法 低温の水にもよく溶解する。 洗浄前の布の重さと洗浄後の布の重さの差を用いて、 硬水や海水中で金属塩を形成しない。 洗浄除去率を計算した。 洗浄前の布の重さ − 洗浄後の布の重さ 洗浄除去率(%) = × 100 洗浄前の布の重さ 3. 結果 ※いずれも3回の測定の平均値 8.00 7.00 6.00 5.00 4.00 3.00 2.00 1.00 0.00 ③ 硬水中での洗浄効果の比較 8.00 7.00 7.00 6.00 6.00 5.00 4.00 3.00 O酸(純水) 2.00 1.00 硬水ではO酸、海水ではS酸の方が 0.00 0.00 洗浄効果が高い。 ② 純水中での洗浄効果の比較 5.00 10.00 15.00 重量濃度(g/L) 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 濃度(mol/L) 0.10 S酸の方が洗浄効果が高い。 濃度が高くなるにつれて、洗浄除去率 増加。0.10 mol/ Lでは洗浄除去率減少。 3.00 O酸 1.00 20.00 25.00 O酸は濃度が高くなるにつれて、 純水中よりも洗浄除去率が高い。 O酸 4.00 硬水用洗剤 濃度によっては、硬水中の方が S酸 5.00 2.00 洗浄除去率が増加。 8.00 7.00 6.00 5.00 4.00 3.00 2.00 1.00 0.00 洗浄除去率(%) S酸 硬水 S酸 海水 O酸 硬水 O酸 海水 洗浄除去率(%) ④ 海水中での洗浄効果の比較 8.00 洗浄除去率(%) 洗浄除去率(%) ① S酸とO酸の洗浄効果の比較 硬水用洗剤の方がO酸より 洗浄除去率が高い。 硬水用洗剤は濃度による 洗浄除去率の変化が小さい。 S酸(純水) 海水用洗剤 S酸 0.00 0.00 5.00 10.00 15.00 重量濃度(g/L) 20.00 25.00 S酸は濃度が高くなるにつれて、 洗浄除去率が増加。 純水中の方が硬水中より 洗浄除去率が高い。 海水用洗剤の方がS酸より 洗浄除去率が高い。 海水用洗剤は濃度による 洗浄除去率の変化が小さい。 4. 考察 ① S酸とO酸の洗浄効果 ② 硬水および海水中での洗浄効果 純水中ではS酸の方がO酸よりも 硬水および海水中で洗浄力が 洗浄効果が高い O酸はミセル形成した際の カルボキシイオン同士の反発が ③ 既製品との比較 助剤による洗浄カの増強 あまり低下しない 一般の洗剤には、汚れの再付着 S酸、O酸は複数の親水基を などを防ぐために助剤が含まれて 持つため高いキレート能を有する。 いる。 硬水、海水中でも不溶性の金属塩 界面活性剤単体であるS酸やO酸に を形成しない。 比べ、洗浄効果が高い。 大きい。 汚れを中心としたミセルが形成 されづらくなり、洗浄効果が減少。 反発 反発 M2+ M2+ 洗剤の濃度過剰 既製品の洗剤は濃度が 過剰になった。 S酸はラクトン環のぶん親油基が長く、 ミセル中に多くの汚れを取り込めた。 洗浄に寄与しない洗剤の量が 硬水中と純水中での洗浄力の逆転 0.10 mol/Lでは洗浄除去率減少 増加しただけであるため、 硬水中では、O酸は金属イオンに S酸、O酸ともに濃度が 洗浄効果がほぼ一定になった。 よって電荷的に中和される。 高くなりすぎた。 ミセル形成した際の負電荷の反発が 過剰となった界面活性剤が 小さくなり、洗浄効果が増加。 バルクとして布に付着した。 5. 展望 6. 総括 助剤の配合 ①硬水に対する洗浄効果 ②海水に対する洗浄効果 助剤は界面活性剤との相乗効果で あまり減少しない。 洗浄効果を増強する。 ①分散剤 O酸は硬水中において洗浄効果が 親水基が多く水に溶けやすいため、 S酸は海水中において洗浄効果が あまり減少しない。 S酸は生分解性がある。 低温の水でも使用できる。 (カルボキシメチルセルロースなど) 遠洋漁業などで海水を汲んで ・汚れの再付着を防止する ・生分解性がある 水道水が硬水、あるいは低温の地域 洗濯ができる。 など幅広い地域で使用できる。 その上、洗浄後の排水を捨てても 環境にほとんど負担を与えない。 カルボキシメチルセルロース ②アルカリ剤 (炭酸ナトリウムなど) ・汚れを落としやすいアルカリ性を 保つ O酸には生分解性がある。 ③S酸とO酸の洗浄効果 下水道設備が整っていない地域でも、 金属イオンを含む水に対して、 排水が環境に与える負担を小さく S酸とO酸を用いると洗浄を行う できる。 ことができる。 ・汚れをけん化、中和して洗浄力を 金属封鎖剤が不要のため、 高める 環境への負担を軽減できる。 生分解性の評価 S酸とO酸の生分解性を既製品の洗剤 と比較。 参考文献 メチレンブルーを用いた、簡易な 酵素分解実験による生分解性測定。 1. Y.Ishigami et al, Biodetergent.Ⅰ. 1990,p.1040-1044 2. K.Tokuzo et al, Biodetergent.Ⅱ. 1993,p.493-500
© Copyright 2024 Paperzz