地熱発電の普及のために若手地下資源技術者養成を 梶原 竜哉(応用理学部門) 再生可能エネルギーの一つである地熱発電は、長期的な発電コストは石炭火力並に安い ものの、初期投資コストが高いことや開発まで 10 年以上かかることから、日本では 1999 年以降は、大規模な開発は行われてこなかった。しかし、東日本大震災に伴う福島第一原 子力発電所事故以来、地熱発電に対して、①国産である、②米国・インドネシアに次ぐ世 界第3位の 2,200 万 kw(ただし、開発不可能な地域も含む。既設は 54 万 kw)の資源量が見 込まれる、③24 時間安定したベース電源になる、④やや高めに設定された買取価格により 事業性リスクが軽減される、といった理由から注目が集まっている。 岩手県では日本で最初に開発された松川地熱発電所(八幡平市、出力 23,500kw)が 1966 年から、葛根田地熱発電所1号機(雫石町、出力 50,000kw)が 1978 年から、同 2 号機(出 力 30,000kw)が 1996 年から運転されている。東日本大震災時には、直後に発電停止とな ったものの、早い設備で2日後に、遅くとも4日後には発電を再開して、震災後の電力供 給の面でも重要な役割を果たした。 さて、地熱発電は、マグマで熱せられた地下数百m~数㎞の地下に賦存する高温・高圧 の地熱貯留層から生産する高温の蒸気で、火力発電同様にタービンを回転させることで発 電を行うシステムである。通常の蒸気発電には利用しない熱水で、水よりも低温で沸騰す る媒体(例えば、ペンタン、代替フロンやアンモニア水)を気化させて発電を行うバイナ リー発電により、余熱の有効活用を図るシステムも開発されている。 蒸気や熱水は、地熱貯留層に掘削された井戸(生産井)を通じて、発電設備まで運ばれ、 不要な熱水は別の井戸(還元井)を通じて地下に戻される。生産井・還元井の位置選定が 重要であり、我々技術者は、地質・地化学調査・物理探査・坑井調査等、複数分野の調査 を行って、有望地域を絞り込んでそれらの位置を決定する。また、開発中も継続して調査 を行い、地熱資源の持続性の評価や近隣温泉への影響の有無などの評価などを行う。地熱 開発に携わる技術者には、相応な教育訓練を受け、豊富な知識を持った人材が必要である。 ここ十数年にわたり、地熱に対する支援・関心が少なくなったことで、地熱部門を縮小 した企業や、地熱を含む地下資源開発の教育・研究を行わなくなった大学・研究機関も多 い。現時点で、地熱の研究を行っている大学や研究機関であっても、研究者の定年後の補 充ができず、高齢化の一途である。国の政策により、地熱促進へ転じても技術者不足は否 めない。このままでは、貴重な国産資源である地熱資源を適切に利用するために必要な技 術・人材が途絶え、不足してしまう恐れがある。子々孫々の時代における安価な地熱発電 普及のために、地下資源・地熱資源に携わる若手技術者の養成が必要ではないだろうか?
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