2005年5月号 - みのる法律事務所

【 1】
ま
と
は
ず
みのる法律事務所
弁護士 千田 實
れ
的
的外
外
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みのる法律事務所便り
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第 1 8 1 号
平成17年5月
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が上がらなければ、農協は、農家から貸金の回収が困難となりますので、自ずと営農
指導に力が入るはずです。ところが、農協は保証人からの回収を考えていますので、
営農指導に力が入らないわけです。このようなことは、他の金融機関にも共通してい
る面があると思います。
保証制度がなければ、貸主は、借主の事業収益からの回収を見込めない場合には運
情
転資金の融資はできませんので、その結果、より慎重な貸付をすることになります。
借主の事業に対する厳しい査定をすることになります。保証人から回収すればよいと
『保証制度と商工ローン』
の考えになりますと、事業に対する査定も甘くなります。
運転資金は、本来事業収益から回収すべきという考え方からすれば、保証制度はな
なさけ
あだ
あだ
なさけ
い方がよいと思います。
保証 という制度は、必要な制度なのでしょうか 。『 情 が仇、仇は 情 』と題して、
『大衆法律学
保証の巻』を発行しようとして原稿を書いているうちに、そのような
疑問が湧いてきました。
しかし、わが民法も保証制度を認めていますので、保証という制度そのものを否定
することは、現在の法律の下においては無意味です。現行法を解釈する上において、
保証という制度は 、「借主が支払わない場合に、代わりに保証人から取る」という
保証という制度をできるだけ狭めて考えるべきだと思います。
制度です。ですから、「人的担保」と呼ばれています。「人的担保」という呼び方は、
そんなに悪い響きではありませんが、言葉を変えて言えば、「人質を取る」というこ
とです。戦国時代に、敵将の妻子を人質に取り、「もし裏切ったら、妻子を殺す」と
保証契約は、他の契約に比べて特殊な性質を持っています。そのため、問題点が多
くあります。
言うのと似通った点があります。借主と深い情で結ばれている人を保証人にして、
日本弁護士連合会は、2004年6月25日、法制審議会保証制度部会において、
「もし借主が支払わない場合には、代わって保証人から取り立てる」というもので
「保証制度の見直しに関する要綱中間試案に対する意見書」を発表しております。さ
す。
すがに日弁連だけあって、保証契約の性質と問題点を的確に把握しております。同意
見書の総論の「保証契約の性質と問題点」と題する部分を紹介したいと思います。
人質を取るような制度は、よい制度だとは思われません。そのため、商工ローン業
者から保証人が過酷な請求を受け、保証人自身がパニック状態に陥り、それを気にし
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た借主が、自殺をして、生命保険金を得て支払いをするケースがあることは前号で述
べた通りです。
保証制度は、人的担保として、わが国においては広く普及している。しかし、その
その意味で、保証制度はないほうがよいのではないか、と考えるのみならず、農協
実態に着目すると、保証人と被保証人との親族関係その他の情実的関係を動機として
と農家の取引に関する裁判を担当して痛感していることがあります。それは、農協が
結ばれる場合が多く( 保証の情義性)、保証人が現実に履行を余儀なくされるような
農家に金を貸す際、農家自身からの回収より、保証人からの回収を考えているのでは
事態に立ち至るか否かは必ずしも確定的ではない( 保証の未必性)。このために保証
ないか、と思える事例にたびたび出会ったことです。
人は自己が何らの負担も負わないで済むものと軽信し軽率に保証を引き受けることが
本来、営農資金の貸付は、営農の収入から返済するべきものと思います。営農収益
田舎弁護士・千田實著
『大衆法律学―民法総則の巻』
『大型負債の責任者は誰か―弁護士の農協裁判レポート』
少なくない( 保証の軽率性)。また保証契約は、原則として無償契約、片務契約であ
『あなたならどう裁く―農協裁判編』 『ドキュメント 医療過誤事件―弁護士の医療裁判レポート』 『田舎弁護士―地方都市に生きるリーガルマインド』
発行所 有限会社 本の森 〒 980-0811 仙台市青葉区一番町 1-6-19-602 TEL:022-712-4888 FAX:022-712-4889
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【 2】
る( 保証の無償性)。保証人は保証を引き受けるについて、対価たる報酬を何人から
れているわけです。それだけでも、ビジネスと保証を絡ませるのは、おかしな結果が
も取得せず、他人すなわち被保証人のために債務を負担する(保証の利他性)という
生まれる可能性を含んでいるわけです。
特殊性を有するものである。このような保証契約の問題点が指摘されていたにもかか
わらず、民法の保証についての改正はなされてこなかった。
このような保証契約の特質に鑑みれば、これを契約自由の原則のもとに置き、何ら
制約を課さないとするならば、極めて過酷な負担を保証人に強いる結果となる。
近年、商工ローン業者による保証被害が大きな社会問題になったことは、記憶に新
しいところである。日栄、商工ファンド(現在、それぞれ社名をロプロ、SFCGと
「保証の未必性 」というのは 、「未必」とは「必ずしも○○○でない」という意味
ですから、保証人は必ずしも責任を問われるものではないという意味です。借主が支
払えば、保証人は責任を問われることはありません。
それだけに、保証人になる人は、保証人になっても責任を取らなくてもいいものと
軽信し、軽率に保証を引き受けることが少なくないのです。そのことを、右意見書は
「保証の軽率性」と言っています。
改名)といった商工ローン業者は、貸付にあたり必ず根保証契約による保証人を取る
「保証の無償性」というのは、保証人になっても、保証人は何も得るものがないと
という 、「保証人狙い」の貸付を行った。その際、商工ローン業者は、根保証につい
いうことです。借主から、お礼の言葉を述べられたり、お酒をもらうなどということ
て正確な説明をすることなく 、「枠を取るだけです」などと虚偽の説明をして根保証
はあるかも知れませんが、それは保証人が負担する債務と対価関係に立つものではあ
契約を締結させることも見られた。
りません。保証は、保証人となる人のためには何らの利益もなく、保証人となっても
これらの商工ローン業者は、主たる債務者が破綻すると、根保証人に予期しなかっ
らう人、つまり借主が融資を受けられるようにしてやる、ということになります。そ
た多額の保証債務の履行請求をして、根保証人まで破綻に追い込んでいった。さら
の意味では、借主のための行為です。また、融資をする者、つまり貸主は、借主から
に、保証人を文字通り「人質」に取られたことにより、主たる債務者は、自己破産を
貸金を回収できない場合には保証人から回収できますので、貸主のための制度でもあ
選択することも出来ず、経営が破綻した後も支払を続けざるを得ず、自殺・夜逃げ・
ります。保証は、借主や貸主のためにはなりますが、保証人自身のためには何の利益
犯罪にまで追いつめられた事例も報告されている。
もないのです。保証は、自分のためには何の利益もなく、人にのみ利益がある制度で
当連合会は、1997年、2000年、2002年と3回に渡り、全国の地方裁判
す。そのことを、右意見書は「保証の利他性」と表現しています。
所において破産記録全国調査を実施したが、破産者が多重債務を負担するに至った理
由のうち 、「保証債務・第三者の債務の肩代わり」の占める割合は、それぞれ26・
前記意見書は 、「商工ローン業者による保証被害が社会問題になった」と述べてい
45% 、26・59%、24・81%となっており、極めて高い数値を示している
ます。商工ローン業者の過酷な取立に遭い、自殺・夜逃げ・犯罪にまで追い込まれた
(複数選択回答 )。このような被害実態からも、早急に保証人を保護する法規制が必
事例があることは、私も身近に知っています。
要である。
東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会は、「クレジット・サラ金処
理の手引」を発行しています。その中で、商工ローンに関する記述に多くのページを
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割いています。
商工ローンを知るために、大変参考となる内容です。右手引の中より、「 商工ロー
右意見書は、弁護士が作成したものですから、少しわかりにくい表現もありますの
で噛み砕いてみます。
ン融資の手法」の部分を転載します。これをお読みいただければ、商工ローンに対す
る認識が正確となり、的確な対策が立てられるものと確信します。
「 保証の情義性 」というのは 、「情義」とは「人情と義理」のことですから、保証
は、ビジネス(取引・商売・事業)とは関係のない人情とか義理によってなされてい
るという意味です。ビジネスなら損得計算が働くわけですが、保証は、損得計算を離
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【 3】
(1)主債務者・保証人
主債務者は中小の商店・自営業者・製造業であり、その中でも、当面、倒産
の恐れはないが、資金繰りに苦労するレベルの企業が狙われます。
一方、根保証人の殆どが個人であり、特に、上場企業社員・公務員・不動産
所有者が保証人として要求されるのが普通です。
されるのを嫌い、借主の入金予定日直前の(資金が枯渇する)期日に手形の満
期を設定し、一部返済の申出を受けたときは 、「全額一括返済でない限り駄
目」とこれを拒絶します。
高利の商工ローンを利用することで、中小企業の経営が悪化しても、商工ロ
ーン業者は、それを承知で、強引な追加貸付によって、更に貸付高を増額して
いきます。
(2)勧誘方法
元々、資金繰りに銀行・公的融資を利用できないレベルにあった主債務者の
商工ローン業者は、社内のマニュアルに沿って、中小企業経営者に電話勧誘
経営は、商工ローン業者に対する金利負担の増大に圧迫されて、最後には倒産
と訪問を繰り返し、時間をかけて徐々に融資申込に追い込みます(「多額の金
に追い込まれます(商工ローン業者を利用しながら、10年も存続できる企業
額を貸し付けます」「手形を割引きます」と、いきなり申し入れることはあり
は皆無と言っても過言ではありません)。
ません)。
最初は「急な事業資金を準備します」「日本一、低金利のノンバンク」「テレ
(5)膨大な契約書類・手形
ビでお馴染み」から始まり 、「50万円だけでも現在の取引銀行以外の資金調
商工ローン業者は、後日の法的紛争を当然の前提として、貸付・根保証取引
達手段をお持ちになったら 」「今なら融資枠が確保できる」などと勧誘して、
を行っています。業者の担当者は、貸付・根保証に際して 、(弁護士が驚くほ
とかく資金繰りに苦労しがちな経営者の心を掴もうとします。
どの)大量の書類を主債務者・根保証人から徴収します。
一旦これに応じた主債務者は、(根保証に連動する )「貸付枠」「手形枠」を
設定させられ、その範囲内で継続的な融資を受けることになります。
書類の中には、約束手形・(不動産の表示が白地の)根抵当権設定契約書・
仮登記必要書類・公正証書用委任状が当然のように含まれています。
その他、後日、最も問題にされやすい根保証人の保証意思の立証のために、
(3)高金利
セールストークでは「年24%」「一番安いノンバンク」が謳われますが、
商工ローン業者の貸付金利は実際には、概ね年利40%前後の高金利です。
根保証の法的意味を説明する漫画や関係者一同(商工ローン業者の担当者・主
債務者・根保証人)が談笑する様子を撮影したインスタント写真も利用され、
法律文書としては、不気味なほどに高度な技術的完成度を有しています。
貸付・借換に際して、見掛け上の約定金利に上乗せされるのが、保証料・調
査料等の「みなし利息」(利息制限法3条)です。
(6)根保証契約
なお、日栄は、100%子会社である「日本信用保証」を形式的に主債務者
しかし、何と言っても、商工ローン業者の貸付の最大の特色は、根保証契約
の受託保証人とし、同社名義で保証料を徴求することで、利息制限法の潜脱を
にあります。商工ローン業者は、主債務者からは高金利を回収し続け、元本は
図るのが常套手段です。
最初から根保証人から回収することを狙いにしています(主債務者の倒産は、
元々織込済みといえます)。
(4)過剰融資
貸付の大半は、手形貸付の方法であり、貸金額は最初はせいぜい50万~3
00万円程度なのが通常です。
商工ローン業者は、利息収入を維持するために、一旦貸し付けた資金が返還
商工ローン業者は、借換・増額融資、或いは手形ジャンプなど、主債務者が
心理的に追い込まれるタイミングを見過ごさずに、主債務者に知人・親戚を根
保証人とするよう要求します。
追加融資については、根保証人一人について300万~500万円程度が目
【 4】
安のようであり、根保証人の数が増えるにつれて、貸金額はどんどん増額され
根保証についての正確な認識がない根保証人は、まず、請求金額自体に驚か
ます。
されます。次に、商工ローン業者の多くは、自宅・職場に電話・訪問で、暴言
特に、商工ローン問題が報道される以前 、「根保証」は、一般市民には聞き
・威迫で短期間で債権を回収しようとします(弁護士の受任通知が無視される
慣れない用語であり、商工ローン業者の詐欺的な説明・契約手法によって、主
こともしばしばです)。
債務者の知人は、「根保証」とは何かすら理解せずに契約書に署名・押印をす
違法取立と並行して、商工ローン業者は、手形訴訟や給料・保険金差押を含
る場合が殆どと思われます。
め可能な限りの法的手続を、受任弁護士との交渉すら省略して、早い機会に行
ってきます。
(7)手形貸付
商工ローン業者が徴収した手形によって、主債務者は、借入後、不渡事故の
(9)
その他、商工ローン業者の営業実態については、行徳峰史著「商工ローン
恐怖に常に怯え、手形をジャンプする交換条件として、利息の支払や追加の根
借りてはいけない 」(WAVE出版)や商工ローン弁護団を通じて詳細な資料
保証人を連れてくることを強制されます(手形ジャンプの条件を伝えることを
が配付されています。
殊更にギリギリまで引き延ばし、主債務者の抵抗心を奪うのも商工ローン業者
の常套手段です)。
(10)
なお、平成12年6月施行の改正出資法によって上限金利が引き下げられ
商工ローン業者の徴収した手形については、①一覧払手形・白地手形が含ま
(年29.2% )、改正貸金業法によって根保証人への事前の説明書面の交付
れること、②主債務者のみならず、商人でもない根保証人も振出人とされるこ
・追加融資時の書面の交付・取立行為の規制の強化・罰則の強化が実現しまし
と、③支払場所に自社本店を指定した(銀行取引を予定しない)手形が見受け
た。
られることが特徴的です。
こうした手形は、将来、手形訴訟手続を利用することによって、簡易・迅速
に既判力・執行力を獲得することを目的としたものです。
しかし、この程度の改正では、商工ローン問題の抜本的な解決のためにはい
かにも手ぬるいというのが、商工ローン業者を一度でも相手にしたことのある
弁護士であれば、誰でももつ感想といえます。
また、原因関係の貸付高を手形額面上、わざと細分化し、何枚かの手形を振
り出させることで、金利計算を分かりにくくするなどの方法も多用されます。
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更に、主債務者が弁護士に債務整理を委任した後ですらも、商工ローン業者
は、振出を受けた手形を人質に(手形交換に回すことを匂わせて)弁護士との
間で和解を有利に進めようと図ります。
保証という制度には、他の契約にはないような、不合理な性質が多くみられます。
ですからこの制度は、できるだけ利用しない方がよい制度だと思います。銀行や公的
機関から融資を受ける時に、保証制度を利用することはやむを得ないとしても、保証
(8)強硬な取立
主債務者に追加融資を受けるだけの余裕がないと判断すれば、商工ローン業
者は、根保証人に十分な収入・信用があることを見極めた上で、自社の受取手
形を不渡処分を承知で交換に回します。
主債務者が不渡事故を起こした瞬間に、商工ローン業者は根保証人に対する
過酷な取立を開始します。
人を付けて商工ローン業者から融資を受けることは、絶対に避けなければならないこ
とです。
繰り返して申し上げますが、銀行や公的機関から運転資金の融資をストップされた
ら、それ以上の事業経営継続は断念しなければなりません。それでも事業継続を断念
できずに、商工ローンに手を出すような方が身の回りにおりましたら、やめるように
アドバイスしてやって下さい。