河川敷草地等を利用した牧草栽培で飼料自給率の向上を目指す

河川敷草地等を利用した牧草栽培で飼料自給率の向上を目指す
農家氏名:河北町谷地
1.農家の概要
飼養頭数:経産牛35頭、初妊牛3頭、育成牛4頭(計42頭)
草地面積:7.3ha(最上川河川敷)、1.25ha(転作田)
稲わら収集面積:約3ha(H22 実績)
収量:牧草968ロール、稲わらサイレージ87ロール
(H22 実績、いずれも直径 100cm ロールベール)
槙
一彦氏(酪農)
計8.55ha
2.取組みに至った経緯
槙牧場は当初河北町谷地の南部にあったが、宅地造成に伴い平成元年 11 月に、河北町田井の畜
産団地西側に移転した。当時の粗飼料生産基盤は最上川河川敷草地の1ha ほどで、購入飼料依存
型の経営を行っていた。わずかな飼料基盤だったが牧草や稲わらはコンパクトベーラーによる乾
草体系で収穫しており、収穫や収納作業が大変な重労働となっていた。
また、飼料用とうもろこしは1ha ほど作付けしサイレージ調製して給与していたが、タワーサ
イロからの取り出し作業と給与が重労働で、さらに二次発酵による変敗で廃棄量が多く苦労して
いた。そこで平成 16 年にロールベーラーとラッピングマシンの導入をきっかけに、飼料用とうも
ろこしの栽培を中止し、飼料生産は牧草と稲わら
を中心に栽培・収穫することにした。
槙牧場ではラップサイレージ体系の導入によっ
て、より省力的・効率的な牧草の収穫が可能とな
った。以前は町内の数戸の酪農家が最上川河川敷
草地を利用していたが、廃業等により利用されな
くなった草地や耕作放棄された畑作地を借り受け
て草地造成することにより、平成 18 年には作付面
積を約 7.3ha まで増加し、現在では転作田と合わ
せて牧草約 8.6ha まで牧草生産基盤を拡大するこ
とができた。
最上川河川敷草地
3.取り組みの概要
槙牧場の乳牛飼養の考え方は、
「牛はいい草でないと食べないし、病気になる。牛が良くなって
乳量が出るのは当たり前。お金をかけて、牛が食べない草を作ってもしょうがない」というもの
で、良質牧草生産のために早刈りを心掛けている。天候に恵まれ良い条件でサイレージを調製す
ることができたとしても、刈取が遅くなれば牛の嗜好性が落ちるため、刈取の最終日を想定しそ
こから遡って可能な限り早く、牧草の収穫を開始している。収穫した牧草はその日のうちに牛舎
に運搬、ラッピングしている。また牛の好みを考え給与する粗飼料にバラエティを持たせるため、
稲わらもサイレージ調製している。
槙牧場では自家産の粗飼料は、収穫時期ごとの牧草の「固さ」・「柔らかさ」・「水分」・「牛の嗜
好性」に留意し、ルーメンバランスと栄養価を考えて利用している。嗜好性のいい三番草は多め
に、見た目はいいが嗜好性の落ちる二番草は少なめに給与できるように、1日に一番草1ロール・
三番草1ロール・二番草 0.5 ロール・稲わらサイレージ 0.5 ロールを使用しており、この4種類
の自給粗飼料を組み合わせて給与することによって嗜好性が良いものとなっている。
「自分で草を
作るから良くも悪くも自分の身に降りかかる。自給飼料の一番難しいところは、自分で収穫した
ものは自分で処理しなければならないこと」と槙さんは考えている。
また、草地の維持にも注意を払っている。2年に一度は薬剤散布でギシギシの防除を行い、3
~4年くらい採草利用し雑草が目立ってきたら草
地更新を行っている。その際は堆肥も積極的に活
用し、有機資源の循環にも取り組んでいる。草種
はチモシーやオーチャードグラスなどのイネ科牧
草で、刈り遅れることのないように晩生の品種を
選定している。
このように経費削減を目標に、徐々に購入飼料
依存から自給粗飼料生産に取り組んだ結果、若干
のルーサン乾草とビートパルプ、ヘイキューブは
購入しているものの、主体となる粗飼料はほぼ自
給することができている。
牧草ロールの運搬
4.取組み効果と農家の反応
粗飼料自給の取組みは購入飼料費の削減に役立っている。さらに粗飼料生産のコストを減らす
ために堆肥と尿液肥を活用し、化成肥料の購入量も最低限に抑えている。
秋に堆肥を散布することにより、雪解けとともに肥料成分が効い
て、牧草の伸びが良くなる。さらに堆肥を施肥することにより草の
食味がよくなるのか、自給粗飼料は牛の嗜好性が良いものとなって
いる。
槙牧場においては、自給粗飼料の他にポストハーベストフリーで
なおかつ非遺伝子組み換えのとうもろこしや大豆などの濃厚飼料を
給与している。この安全・安心な飼料給与の取組みが生協に認めら
れ、平成 14 年より生産者の顔が見える牛乳として奥羽乳業に出荷し
ており、同じ取組みを行っている2戸の牛乳と合わせて、山形県酪
農家限定の「せいきょう牛乳なかよし」として販売されている。
この牛乳は、新鮮なうちに75℃15秒殺菌された牛乳本来の風
味を残したこだわりのもので、消費者の方々に喜ばれている。また
定期的に視察を受け入れ、消費者との交流を大切にしている。
槙さん家族の写真入り
生協牛乳のパッケージ
5.課題や今後の展開方向
槙牧場では平成 20 年に息子さんが就農し、親子で作業分担しながら自給飼料生産を行っている
が、自給粗飼料生産における収穫したロールベールの保管場所が一番の課題となっている。
現在は牛舎の周囲など敷地内にロールを積み上げているが、これ以上置くスペースがない状態
となっている。また、牧草は7月末までは二番草・三番草より栄養価の高い一番草を給与してい
るが、それ以降は質の落ちる二番草や三番草と合わせて利用することで乳量が伸びないことも課
題になっている。
河川敷を利用し草地面積をあと2~3ha 増やすことができれば一番草の周年給与が可能とな
るので、ロールの保管場所があれば草地面積を拡大し、粗飼料の完全自給と余分があれば販売も
行いたいと考えている。