New Approaches to English Language Education for Students of Science and Engineering in Japan 公開研究会『理工系英語教育を考える』論文集 ICT 機器を活用した英語スピーキング活動 -国際学会でのプレゼンテーションを目指して- 坪田 康 壇辻正剛 京都大学学術情報メディアセンター〒606-8501 京都府京都市左京区吉田二本松町 E-mail: {tsubota, www-call}@media.kyoto-u.ac.jp 概要 国際化が進む現在,英語スピーキング能力がますます重要となってきている.政府もさまざまな対応策を 取っているが,広範な成果があがっているとはいえないのが現状である.本稿では,日本人が英語を話せない原因 を分析し,その対応策について論ずる.近年の ICT 技術の発展はめざましく,学びの方法もさまざまに検討され ている.京都大学の一般教養の授業で実施した英語スピーキング学習の試みを3つ例に挙げ,その効果について述 べ,ICT を活用した理想的な英語プレゼンテーション授業について検討する. Speaking activity with the use of ICT -A presentation practice for an international conference- Yasushi Tsubota, Masatake Dantsuji ACCMS, Kyoto University Yoshidanihonmatsucho, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8501 Japan E-mail: {tsubota, www-call}@media.kyoto-u.ac.jp Abstract The importance of English speaking ability is getting stronger and stronger, as globalization is going on. Japanese government does various countermeasures for this, but has not achieved fruitful results yet. In this paper, we analyze the reasons why Japanese students are not good at speaking English and consider the way to remedy it. The recent ICT (Information Communication Technology) advancement is so rapid and new ways of learning languages using ICT are also widely argued. In this paper, we will report a new approach to English speaking practice in a class held at Kyoto University and examined its efficacy. We also discuss an ideal class for speaking based upon the approach. 1. は じ め に あり,変化はない.このような現状を踏まえ,政府は 英語で充分にコミュニケーションをとることので 英語学習者の「コミュニケーション能力」の開発に力 きる学生や教員はまだ多くなく,みな苦労していると を入れ様々な施策を実施してきた.しかし,目に見え いうのが現状であろう.日本人は英語そのものが苦手 る成果はあまり多く見られていない. という訳ではなく,文法能力はあり,短い文章を解析 その原因に対する分析も数多くなされている.例え 的に読むことには慣れているし,情報を読み取るよう ば ,壇 辻( 2003)は ,日 本 語 と 英 語 が 言 語 的 に 離 れ て な読解は得意である.しかし,実際に誰かとコミュニ いることを指摘し,その差異は系統論的なものと類型 ケーションをしたり,何かを説明したりするのは得意 論 的 な も の に 分 け ら れ る と 指 摘 し て い る .Higa( 1977) でなく,英語スピーキング能力が低いと言われて久し よれば,英語はインド・ヨーロッパ語族であるのに対 い ( Georgiou,2009). 実 際 , TOEFL な ど の 国 際 的 な して,日本語は系統不明である.また,英語の語順は 試験の結果もこの事実を裏付けている.政府もこのよ SVO で あ る の に 対 し て , 日 本 語 は SOV で あ る . 類 型 う な 現 状 を 認 識 し て お り , 2000 年 に 開 催 さ れ た「 21 論的には,母音の数や子音の種類が異なることも挙げ 世紀日本の構想」懇談会では,小渕恵三内閣総理大臣 ている.音節や韻律構造の差異が学習過程で障害とな は , 日 本 は TOEFL で 受 験 国 189 カ 国 中 180 位 で あ る こ と も 指 摘 さ れ て い る . Koike and Tanaka (1995) る と 指 摘 し , 2007 年 に は , TOEFL の イ ン タ ー ネ ッ は,日本は四方を海に囲まれており,日本語以外の言 ト ベ ー ス の 試 験 (iBT)で も 点 数 が 低 い と 指 摘 し た .こ れ 語を喋る人々と直接コンタクトをとる機会がほとんど にはスピーキング試験も含まれている.リーディング ないことを指摘している.しかしながら,言語的差異 と リ ス ニ ン グ の 個 々 の ス コ ア は , 30 点 中 16 点 で あ り , があると考えられる中国,韓国,台湾などのアジア諸 ス ピ ー キ ン グ は 15 点 ,ラ イ テ ィ ン グ は 22 点 で あ り , 国 と 比 べ て も , 日 本 の TOEFL の 英 語 ス コ ア は 極 端 に 総 合 65 点 で あ っ た . 2008 年 も 成 績 は 総 合 で 66 点 で 低い.このことに対する要因分析もさまざまになされ 坪田 康, 壇辻正剛, "ICT 機器を活用した英語スピーキング活動:国際学会での英語プレゼンテーションを目指して, " 公開研究会『理工系英語教育を考える』論文集, pp.47-55, 日本英語教育学会編集委員会編集,早稲田大学情報教育研究所発行, 2012 年 3 月 26 日. This proceedings compilation published by the Institute for Digital Enhancement of Cognitive Development, Waseda University. Copyright © 2010-12 by Yasushi Tsubota, Masatake Dantsuji. All rights reserved. ている.英語が話せればよい職につけるといった話か 表1:英語プレゼンテーションに必要な能力 発表準備(発表原稿作成) ・ 内 容 の 構 成 ,適 切 な 語 彙 ・ 表 現 の 学 習 ・プレゼンテーション用資料の作成法 発表 ・人前で話す能力 ・ある程度まとまったことを論理的に喋る力 ・ 場 慣 れ ( も の お じ せ ず に 喋 る ,人 前 で 喋 る ) ・英語発音(ある程度通じればよい?) QA,デ ィ ス カ ッ シ ョ ン ・ 聞 き 取 り 能 力 ( 音 声 聞 き 取 り ,内 容 把 握 ) ・話す力 ・ Quick Response ・適切な応答ができる会話力 ら,失敗を恐れずに喋る経験を積んでいるからといっ たメンタリティの話にいたるまで様々である.また, 小学校への英語教育の遅れにその要因を見出している ケースもある.実際,中国,韓国,台湾などでは小学 校から英語教育が実施されており,日本でもやや遅れ て 2011 年 か ら 本 格 的 に 導 入 さ れ る こ と に な っ て い る . 近年では,国際的な会社でも英語公用語化の議論が進 められていて,幾つかの会社では実際に導入されてい る . Clark は 日 本 人 の 社 会 的 , 文 化 的 背 景 に つ い て も述べている.内気であるとか,誤りを極度に恐れる た め , 学 習 が 進 ま な い と 述 べ て い る . Clement, Gardner, and Smythe(1977) は , 学 習 者 の self-confidence と 動 機 づ け に つ い て 指 摘 し ,こ れ が 第 英語で主張したり,コミュニケーションしたりする能 二言語習得に影響を与える重要な要因としている. 力などの実践的な英語力が必要である.これらは,一 (Clement, Gardner, &Smythe, 1980)非 常 に お ど お ど 朝一夕には身につかないが,授業意外では扱いづらい した学習者は自分自身と自分の能力に批判的であるた ものであるため,重点的に取り扱うべきであろう.続 め 上 達 し な い( PeterE. NEFF, 2010)と も 指 摘 し て い いて,具体的に英語で話すことができるということは る. どういうことかについて次に吟味したい.3つの主要 な基準を取り上げる. 2. 効 果 的 な 英 語 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 授 業 英 ケ ン ブ リ ッ ジ 大 学 の 英 語 検 定 の 評 価 基 準:”produce 1章では,アジア各国の現状も踏まえ,日本の英語 の状況について見てきた.本章では,プレゼンテーシ extended discourse that is coherent and always easy to ョンを中心に,英語スピーキングの対策について述べ follow“ る.まずは,どのような知識や能力が必要なのかを試 ACTFL Proficiency Guidelines: “ provide lengthy and みにまとめてみた.表1に示す.授業で英語のプレゼ coherent narrations” , “ use extended discourse without ンテーション授業をする場合,全てを扱おうとすると unnaturally lengthy hesitation to make their point” 絶対的に時間が不足するため,優先度を決める必要が CEFR (Common European Framework of Reference ある.授業内でしかできないことや自習できるように for Languages): Can create coherent and cohesive text 訓練することなども検討する必要があろう.その観点 making full and appropriate use of a variety of から考えれば,英語発表に適した内容の構成,資料作 organizational patterns and a wide range of cohesive devices. 成などについては,専門性も関連してくるため控え目 にしておき,話す練習に焦点を当てるべきと考える. いずれもある程度の量の発話を論理的に話すこと 一 方 で , QA, デ ィ ス カ ッ シ ョ ン は , Communicative といって差し支えなさそうである.続いて、英作文が Skills, Discourse management な ど ,英 語 で 主 張 し た り , ある程度できる大学生や大学院生がスピーキングでき コミュニケーションしたりする能力などの実践的な英 ないかについて分析する.会話やスピーキングはその 語力が必要である.これらは,一朝一夕には身につか 場に相手がいるので,文を頭で考える以外に,相手の ないが,授業意外では扱いづらいものであるため,重 話を聞いたり,相手のしぐさをみたり,相手の話に応 点的に取り扱うべきであろう. じて考えたりなど多くのことを同時にしなければなら 授業で英語のプレゼンテーション授業をする場合, ない.英語スピーキングの上級者であれば,英語での 全てを扱おうとすると絶対的に時間が不足するため, 発話も自動化が出来ているので,注意を払わなくても 優先度を決める必要がある.授業内でしかできないこ 発話できるが,初学者は即座に言葉が出てこずコミュ とや自習できるように訓練することなども検討する必 ニケーションに支障をきたしてしまう.また, 要があろう.その観点から考えれば,英語発表に適し SHYNESS や SELF-CONFIDENCE の 欠 如 の た め に う た内容の構成,資料作成などについては,専門性も関 まく話せないという指摘もある. 連してくるため控え目にしておき,話す練習に焦点を これらを克服するには, 学生が話しやすい環境を 当 て る べ き と 考 え る .一 方 で ,QA, デ ィ ス カ ッ シ ョ ン 作り成功経験を積み重ねること,相手がいる状態で話 は , Communicative Skills, Discourse management な ど , 48 トも出現し始めている. す練習をさせた後自己内省させること,無意識の内に 本 学 の CALL 教 室 に も コ ン ピ ュ ー タ に CCD カ メ ラ 発話できるような自動化ができるまで繰り返していく 付属しており, 学生自身で動画撮影ができる環境とな ことが重要であろう. まとめると,1.人に向かって話す練習をさせる っ て い る . ま た , GOM プ レ イ ヤ ー と い う 無 料 の ソ フ ( Audience),2 .ビ デ オ 録 画 な ど に よ っ て 客 観 的 に 自 ト ウ ェ ア を 利 用 す れ ば , Windows 付 属 の エ デ ィ タ で 簡 分 の 発 話 を 振 り 返 ら せ る ( Reflection), 3 . 自 信 を 持 単 に 映 像 に 字 幕 を 付 与 し て 再 生 で き る .そ こ で ,自 己 の っ て 話 せ る よ う に 工 夫 し (Scaffolding),あ る 程 度 で き る 発音や発話内容を振り返らせるため,自分の映像に字 ようになったら,自分だけでも話せるように工夫をす 幕をつけさせた.また,字幕をつけるためには, 自分 る (Fading), 4 . 興 味 の あ る 話 題 に つ い て 話 せ る よ う の発話をカメラで撮影し, タイムコードをつける必要 に ( Motivation) 工 夫 し , 話 す こ と に つ い て 自 信 を も がある. タイムコードをつける際には自分の自己紹介 たせることが重要であろう.授業の限られた時間内で を何度も見る必要が出てくるため, ビデオで客観的に すべてを達成することは難しいが,このような場を授 文章や発音を見ることになる. 他の学習者の目に触れ る可能性があると知らされているので, 文章を見直す, 業で作ることが重要と考える. 以上,英語でスピーキングの授業のために必要な要 発音に注意深くなるなどと予想される. 教材をうまく 素について考察してきた.以下では,上記の内容につ 設 計 し , 教 員 , TA が う ま く サ ポ ー ト す れ ば , 積 極 的 に いて個々に検討した 3 つの事例について検討し,総括 授業に参加し, さらに, 語彙や表現, 正確な発音の定 した後,理想的な英語プレゼンテーション講義につい 着が期待できる. て検討する. 3. 授 業 実 践 3.1.3. 授 業 の 構 成 3.1. 字 幕 付 き 自 己 紹 介 ビ デ オ の 作 成 英語プレゼンテーション:授業の前半にギリシャ人留 3.1.1. 英 語 ス ピ ー キ ン グ の 導 入 学生から彼の専門である英語教育のプレゼンテーショ ン及び質疑応答を行なった.受講生には,将来専門の 英語スピーキングの授業で最初の回に,いきなり英 語で話せと言っても,しどろもどろになるであろうこ 内容を伝えるやりとりをする可能性が高いことを伝え, とは想像に難くない.最初の授業では英語を話しやす 動機づけを高めるように工夫した. くする場作りや支援が必要である.また,英語でのス モデルスピーチ:イギリス人2名,ギリシャ人1名の ピーチやコミュニケーションを実際に見聞きし,慣れ TA に 英 語 で 自 己 紹 介 を し て も ら っ た .ギ リ シ ャ 人 TA る こ と も 重 要 で あ る . 本 授 業 で は , TA ( Teaching には自分の専門分野を交えた自己紹介をした. Assistant) が 3 名 つ い て お り , 一 人 は 英 語 教 育 が 専 門 自己紹介動画の撮影:図1に示すようなテンプレート のギリシャ人,残りの二人は英語を母語とするイギリ を 配 布 し ,学 生 に 自 己 紹 介 原 稿 を 作 成 さ せ た . 加 え て , ス 人 2 名 で あ る . 最 初 に ギ リ シ ャ 人 TA に 英 語 で プ レ 自己紹介をする際によく尋ねられそうな項目に関する ゼンテーションをしてもらい,質疑応答をイギリス人 話題として下記のように設定し,少なくとも一つにつ TA と し て も ら っ た .そ の 後 ,ギ リ シ ャ 人 TA に 英 語 で いて答えるように指示した. 専門の内容を含めた自己紹介などをしてもらった.こ れによりプレゼンテーションやスピーチの雰囲気を分 1 .何 か ひ と つ 日 本 の こ と を 紹 介 し て く だ さ い . かってもらうのと同時に英語を話す・聴くことに慣れ 2 .自 分 の 名 前 の 漢 字 の 説 明 を し て み て く だ さ い . るように配慮した. 3 .出 身 地 が ど ん な と こ ろ か を 説 明 し て く だ さ い . 4 .自 分 の 専 門 分 野 と 選 ん だ 理 由 に つ い て 説 明 し て み 3.1.2. 先 行 研 究 てください. 授業の内容について述べる前に,字幕付きビデオの 作成の教育効果について概観する.情報技術の発展・ 普及に伴い,手軽に数多くのマルチメディア素材が利 用 可 能 と な っ て い る . DVD や Blu-ray デ ィ ス ク の 商 用 コンテンツの多くのものが, 多言語の音声・字幕が利 用可能である. 以前であれば高価なハードウェアやソ フトウェアを使う, 専門的なトレーニングを受けるな どしないとできなかった動画作成も, 手軽に簡単にで き る よ う に な っ て き て お り , Youtube や ニ コ ニ コ 動 画 図1テンプレート な ど ユ ー ザ ー 参 加 型 の 動 画 サ イ ト や EnglishCentral (Alan 2009)や Yappr な ど 動 画 を 使 っ た 外 国 語 学 習 サ イ 49 ラスでもやってほしいという意見も見られた. 3.1.5. 発 展 の 可 能 性 このアクティビティの発展の可能性として,動画交 換と自動字幕付与技術について検討する. 動画交換:作成した映像は, たとえば他国の大学との 交 流 に 活 用 可 能 で あ る . 近 年 で は ICT 技 術 の 発 展 に よ り, 遠隔講義や学生同士の国際交流などリアルタイム での交流も活発に行われている. 初級者がこのような 交流に参加することも可能と思われるが, 何のサポー トもない状況では授業についていけない学生が多数出 てくると予測される. 学生同士の会話であってもなか なか発話ができないであろうし, 中上級者が相手の場 合は, 相手方が一方的に喋る結果になるのは想像にか 図2自己紹介の映像例 たくない. 特に発音の不明瞭な初級者の場合, 相手に 言いたいことが伝わらず何度も聞き直しをされる可能 二 人 に 一 つ iPod nano を 貸 し 出 し て お 互 い の 発 話 を 性が高い. そのような経験を繰り返すと, 話すこと自 収録させた.喋っている間は原稿をできるだけ見ない 体が怖くなり, その後の学習に深刻な影響を与えかね ように指示した.収録が終わった段階で,パソコンに ない. 初級者にとって母語話者とのよい交流の一つの 映 像 を 取 り 込 ま せ ,字 幕 作 成 を 行 な わ せ た .原 稿 作 成 , 手段として, 字幕付きの動画を交換することも考えら 収 録 ,字 幕 作 成 で そ れ ぞ れ 15 分 ,15 分 ,10 分 ほ ど か れ る . リ ア ル タ イ ム の 交 流 で は な く , 各 自 が 教 員 や TA け た . 図 2 に 自 己 紹 介 の 映 像 例 を 示 す . TA3 名 が 自 のサポートのもと, いろいろ調べて作った文章を練習 己紹介動画を評価して,次の週に発音や内容,アイコ した上で発音した映像を送ることになるため, 相手に ンタクトなどに関してコメントした. とって受け入れやすいものになると予想される. 字幕 3.1.4. 学 生 か ら の フ ィ ー ド バ ッ ク がついているため, 発音が不明瞭であったとしても相 授業後,学生にアンケートを実施した. 肯定的な意 手に理解してもらいやすいと予想できる. 双方が字幕 見が多く,好評であった. 機器操作が難しかったか 付きのものを送り合えば, 聞いた時は発音が分からな ( 1:易 ,5:難 ),授 業 は 役 に 立 っ た か( 1:役 に 立 くても比較的容易に理解することができる. また, 母 つ ,5:役 に 立 た な い ),授 業 は 面 白 か っ た か( 1:面 語話者からのフィードバックが期待できるので, 単純 白い,5:面白くない)の結果を表2に示す. に嬉しくなり, その後の学習を続けたくなる. お互い に興味を持って, その後の学習にもよい影響を与える 表2:学生からの評価 1 2 3 4 5 8 4 14 7 1 機器操作 0 0 3 13 18 面白い 0 0 4 16 14 役立つ ものと考えられる. 平均 2.7 4.4 4.3 自動字幕付与の検討:近年の音声認識技術の発展・普 及により, さまざまなところで音声認識が実用的に利 用され始めている. 現在の日本語の音声認識の技術で は, 通常の会議や講義での発話スタイルのまま音声認 自己紹介ビデオをとその字幕作成は外国語学習の 識 ソ フ ト ウ ェ ア を 利 用 し た 場 合 , そ の 認 識 精 度 は 60 役に立つと思いますか, という問いに対しては, ~ 70% 台 , ま た 未 経 験 者 が 明 瞭 に 発 話 す る よ う に 意 識 “ iPod で 自 分 の 映 像 を 撮 る の は 恥 ず か し か っ た が , し た 場 合 は 80 % 台 , あ る 程 度 経 験 を 積 ん で 初 め て こういう経験が大事だと思った”, “自分で後から見 95 % 前 後 の 認 識 率 を 実 現 で き る よ う に な る ( 三 好 直 し て も っ と は っ き り 話 し た 方 が 良 い と 思 っ た ”, “ 今 2008). 中 野 他 (2008)は , 話 者 の 音 声 を 訓 練 さ れ た 復 唱 回 ,英 語 で 自 己 紹 介 ビ デ オ を 撮 っ て み て , ビ デ オ を 使 者が復唱し, 若干の同時修正を加えることで比較的短 って自己紹介を外国語でやるのは,特定の緊張感の中 時間で, 精度の高い字幕を呈示することができるシス で 外 国 語 を 使 う の で つ ま っ た り ,思 い 出 せ な か っ た り , テムを紹介している. このようなシステムを用いて, スムーズにはいかなかった.そういう緊張感の中での 比較的短時間で字幕が自動付与されれば, 語学力がそ 練習にはいいと思った”, “人前で直接自己紹介する れほど高くなくても, 講義の受講や学生間の交流など ことも良い経験になるけど,記録として残るというこ の際に相手の言うことを理解しやすくなると期待でき とで雰囲気が違うから役に立った”という意見が見ら る . 一 方 ,学 習 者 の 音 声 と い う の は , 誤 り を 含 み , 発 音 れ た . ま た ,高 校 で も や り た か っ た ,ふ だ ん の 英 語 ク 50 も不明瞭なことが多いため字幕を付与することはたや 行研究に触れ,その効果について検討する.シャドー すいことではない. それでも,学習者の音声に対して イングやパラレル・リーディングなどの活動のメカニ も字幕を付与することができれば, 不明瞭な発話であ ズ ム の 検 証 は 完 全 に は な さ れ て い な い が ,中 学・高 校・ ったとしても聞き手は理解しやすくなる. 我々もスク 大学を問わず広く導入され,その効果や評価法につい リプトがある映像に対して,音声認識技術を用いて自 て 検 討 さ れ つ つ あ る (門 田 2007, 門 田 ・ 玉 井 2007,玉 動で字幕を付与することを検討しており,実際に日中 井 1998,柳 原 2009). 一 方 で , 音 読 の 弊 害 と し て a)空 英 の 音 声・映 像 に 対 し て 付 与 し た( 坪 田 他 2010). 字 読 み (parrot reading), b)速 読 の 妨 げ , が 挙 げ ら れ る . 幕付与映像が出来れば,字幕と音声の食い違いにも気 宮 迫 (2003)は ,そ れ に 対 す る 反 論 と し て , a)は 音 読 が づきやすくなり,より精度の高い映像を作成しようと 過重な認知負荷であるため,内容理解を伴わない音読 いうモチベーションにもつながる.今後の活動で利用 となることを指摘したものであると指摘し,内容理解 出来るように検討したい. の後に行えば,認知負荷は減り,問題は解決するとし 3.2. 英 語 プレゼンテーション て い る .ま た , b)に つ い て は ,黙 読 の 速 度 が 音 読 の 速 3.2.1. プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン の 導 入 度に制限されるという話であると指摘し,音読と黙読 の速度に差のない高校生には問題にならず,むしろ高 英語プレゼンテーション形式に慣れさせるため, パワーポイントを使ったスピーキング活動を行なった. 校生の黙読速度が挙がったと例を挙げて報告している. 利用可能なパワーポイント資料は種々に考えられたが, 今回の授業実践では,リスニング課題を通じて内容理 スピーキングのための教材ということで,モデル音声 解をさせた後の練習となるため,空読みの可能性は非 があるものを検討した.学習者の専門はさまざまであ 常に低いと考える.また,速読の妨げは読解の観点か ることから,特定の分野に偏ることもできなかった. らの指摘であり,今回はプレゼンテーション支援を目 ま た , 一 般 に ス ピ ー キ ン グ で は ,リ ー デ ィ ン グ で 使 う 的 と し て い る た め , こ こ で は 考 慮 し な い . 染 谷 (1998) 教材よりも少しレベルを落としたものが適切という判 の 例 で は ,プ ロ ソ デ ィ ― セ ン ス の 強 化 訓 練 の 一 手 法 と 断から,1. みなが興味を持てるもの,2. 高校生レ して,シャドーイング指導を用い,4 ヶ月間のアクシ ベルの素材,という意味で,城南菱創高校と京都大学 ョンリサーチを行っており,シャドーイングをドロッ 学術情報メディアセンター・語学教育システム研究分 プアウトする学習者が多くはないがいることを認めて 野 が 共 同 開 発 し て い る 「 GLOCAL STUDIES」 を 利 用 いると報告している.実際にシャドーイングをとりい した.これは,日本の伝統・文化を外国人に英語で説 れている教師からも,学習者がドロップアウトしたと 明する「発信型」英語力の養成を目指し,高校生の実 いう話はしばしば耳にすると報告している.ここでは 践的コミュニケーション能力を高めるため開発したも 学習者にとって適切な認知負荷の教材を呈示すること の で あ る (木 村 2007). 今 回 は 京 都 の 紹 介 を 利 用 し た . が重要であると示唆されている.また,実践への導入 授 業 の 構 成 と し て , ま ず 内 容 理 解 の た め に ,段 階 別 リ に は 注 意 を 要 す る と い う 指 摘 も あ る . 門 田 (2009)は , スニングをさせ,続いてスピーキング練習,ペアでお はじめて接するもので,楽に意味処理ができるものを 互 い に 発 表( 録 画 ),プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン の 順 で 実 施 し 素材に,音声知覚が必須になるようなシャドーイング た . 録 画 は , iPod nano の ビ デ オ 録 画 機 能 を 利 用 し た . を実施する必要があると指摘し,素材の難度や,導入 録画中は,イギリス人留学生2名,ギリシャ人留学生 のタイミング,方法などについて留意する必要がある の TA, 大 学 担 当 教 員 , 高 校 英 語 教 員 が 参 加 し ,適 宜 音 と し て い る . 門 田 (2007)は , 実 際 に 理 解 で き る 教 材 よ 声などをチェックしたり,内容に関する質問に答えた りも簡単な教材を利用してのシャドーイング・プラク りした.授業の最後には,うまくできている学生に皆 テ ィ ス が 有 効 で は な い か と 提 案 し て い る . 安 木 (2009) の前で発表させた.スピーキング練習では,聞こえて は,オーバーラッピング,バズリーディング,クロー くる発話文を,できるだけ正確にそのまま口頭再生す ズ 音 読 ,リ ピ ー テ ィ ン グ , read and lookup な ど さ ま る 言 語 行 為 で あ る シ ャ ド ー イ ン グ (Shadowing)及 び 文 ざまな種類の音読方法を挙げ,学習順序の検討結果に 字を見ながら口頭再生するパラレル・リーディング ついて報告している.本授業では,高校生向けの教材 (ParallelReading , オ ー ラ ル ・ リ ー デ ィ ン を利用し,同一教材でさまざまな難易度のバリエーシ グ ,OralReading と も 呼 ば れ る ,以 下 ,パ ラ レ ル・リ ー ョンを作成し,組み合わせて学習させることにした. デ ィ ン グ )を 導 入 し ,プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 学 習 支 援 を 試 これにより,門田の言う初めて接するもので,楽に意 みた. 味処理できる教材となっていると考えている.また, 安木ほどバリエーションはないけれども,学習者が適 切な教材を選択できるように授業を設計した. 3.2.2. 先 行 研 究 ま ず ,シ ャ ド ー イ ン グ や パ ラ レ ル・リ ー デ ィ ン グ の 先 51 3.2.3. 授 業 の 構 成 練習が主であり,自分のペースで喋るのは難しい.自 段階別リスニング:リスニングの目的に応じて,マル 分のペースでの学習を可能にするため,文字だけを見 チメディア教材の字幕の内容を変えたものを作成した. て練習することも可能とした. 各 自 に 1 ~ 2 段 落( 6 - 8 枚 の ス ラ イ ド ,1 分 程 度 ) 内容は同じだが,字幕が異なる教材を計4回リスニン グさせた. 実施手順としては,字幕なしリスニング, を 指 定 し ,15 分 程 度 後 に プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン の 様 子 を 字 幕 あ り リ ス ニ ン グ 1 ,字 幕 あ り リ ス ニ ン グ 2 で あ る . 録画すると伝えた. スピーキングでは,各自の理解力 それぞれの詳細を表 3 に示す. や適切なペースが異なるため,個別に学習させること にした. 表 4 のように字幕の呈示内容,モデル音声の 1.全文を見ながらモデル音声に合わせて練習 呈 示 の 仕 方 が 異 な る 9 つ の 教 材 を 作 成 し ,文 字 だ け の 原稿を見ながらプレゼンテーションをするのを想定し 原 稿 を 合 わ せ , 10 種 類 の 教 材 の 中 か ら , 好 き な も の たものである.全文呈示されるため,記憶するための を使って各自のペースで練習するように指示した. 負荷は低い.1から3.の中でもっとも易しい. “字幕あり”から“字幕なし”になるにつれて,記憶 表3:段階別リスニングの概要 字幕なし 字幕あり1 字幕あり2 スライド間 なし ス ラ イ ド 間 なし ポーズ に 6-7 秒 の ポーズ 字幕 なし キ ー ワ ー ド 全文呈示 がブランク 実施回数 1 2 1 目的 全体把握 キ ー ワ ー ド 内容の確認 の聞き取り CLOZE CLOZE 課題 内容把握 TEST TEST 問題 の確認 の 負 荷 が 高 く な り ,内 容 重 視 の 練 習 に な る . “ 音 声 な し”から“自動再生あり”になるにつれて,モデル音 声に合わせる程度が高くなり,母語話者のペースにあ わせたり,発音や韻律を模倣したりする練習となる程 度が高くなる. ペアで発表,プレゼンテーション:練習が終わった学 生から,パソコンでスライドを操作しながら発表する よ う に 指 示 し た . 発 表 の 様 子 を iPod nano を 使 っ て お 互いに録画させた. 緊張して英語プレゼンテーション を す る 発 表 者 や ,慣 れ な い て つ き で iPod nano を 使 っ ている学生もいたが,全体として楽しんで取り組んで いる様子であった. ペアで発表が終わった後に, 代表 自 動 再生 あり 自 動 再生 なし 音 声 なし 表 4 : PPT 教 材 の 種 類 字幕なし 冒頭のみ 字幕あり 字幕あり シ ャ ド ー イ ン メモあり パラレル・ グ シ ャ ド ー イ リーディング ング フ レ ー ズ 単 位 メモあり フレーズ単位 シ ャ ド ー イ ン シ ャ ド ー イ パラレル・ グ ング リーディング 原稿なし メモあり 原稿あり 発表練習 発表練習 発表練習 者に皆の前でプレゼンテーションをしてもらい,見て いる学生にはコメントを書くように指示した. 授業後のフィードバック:提出した映像をイギリス人 留学生にチェックしてもらい,発表の翌週に発音やア イコンタクトなどについてフィードバックをした. 3.2.4. 学 生 か ら の フ ィ ー ド バ ッ ク 授業後,学生にアンケートを実施した. 肯定的な意 見が多く, 好評であった. 機器操作が難しかったか ( 1:易 ,5:難 ),授 業 は 役 に 立 っ た か( 1:役 に 立 つ ,5:役 に 立 た な い ),授 業 は 面 白 か っ た か( 1:面 2.キーワードを見ながらモデル音声に合わせて練習 白 い ,5: 面 白 く な い )の 結 果 を 表 5 に 示 す . ま た , メモを見ながらプレゼンテーションをする場合を想定 “プレゼンテーションをするために必要な英語スキル したものである.また,1.から3.の中間の難しさ で高校までに習ってきた英語では足りないと思うもの で あ る . 安 木 (2009)の ク ロ ー ズ 音 読 に 相 当 す る . 厳 密 は何ですか?それを埋めるためにはどうしたらよいと で は な い が ,字 幕 あ り リ ス ニ ン グ 1( キ ー ワ ー ド の み ) 思いますか?”という質問には,人前で話す恥ずかし で空欄にしたところのみが表示されているものに相当 さ に 慣 れ る ,分 か り や す く 話 す 方 法 に つ い て 勉 強 す る , す る . 主 に は , 前 置 詞 , BE 動 詞 な ど が 空 欄 に な っ て ネイティブのペースに慣れるなどを挙げている学生が 多かった. 特徴的な回答を以下に示す. いる. ( 学 生 A) 教 科 書 の 音 読 だ け で は ス ピ ー キ ン グ の 力 は 3 . 字幕なしでモデル音声にあわせて練習 養われないと思う. 相手に伝わる英語を用いる訓練. 原稿やメモなしでプレゼンテーションする場合を想定 ( 学 生 B) 経 験 だ と 思 い ま す . ど ん ど ん 録 画 し た り す したものである.1から3の中で一番難しい.完全に べきだと思います. 覚えていないと練習は難しい. 4.文字だけ見て練習 ( 学 生 C) ス ピ ー キ ン グ の 力 が 足 り な い と 思 い ま す . 1.から3.はモデル音声にあわせたシャドーイング 補うためには今日の授業のようなものが必要だと思い 52 ます. い.そこで,話す時間を確保しつつ,学生へのフィー ( 学 生 D) や は り ス ピ ー キ ン グ だ と 思 う . 高 校 で は 主 ドバックも実現するために,学生をグループに分け, に受験のための英語だったのでスピーキングはあまり その中で発表をし,授業時間内には学生同士でコメン 練習しなかった. もっと英語を口で発音する機会を作 ト を さ せ て , 即 時 的 な フ ィ ー ド バ ッ ク (Immediate るべきだと思う. feedback)と し た . ま た ,そ の 様 子 を 各 自 で 録 画 し て 提 出 さ せ , 授 業 時 間 外 に TA に 評 価 し て も ら っ て , 後 日 表5:学生からの評価 1 2 3 4 5 8 11 13 3 1 機器操作 1 1 5 18 11 面白い 0 1 3 23 9 役立つ フィードバックすることとした. 平均 2.3 4.0 4.1 また,トピックを指定することで学生が話をしやすい よ う に 工 夫 し た .3 .2 で 利 用 し た 教 材 の ト ピ ッ ク で あ る京都の紹介という話題を選択し,その教材のスクリ プ ト や 表 現 集 を 配 布 し , TA で あ る 英 語 話 者 の モ デ ル スピーチを実際に見せたり等により,スピーチ作成を 3.2.5. 発 展 の 可 能 性 やりやすくした. 今回の発表では日本の伝統文化に関する内容でパ 3.3.2. 授 業 の 構 成 ワーポイントを使った発表練習を行なった.人前でパ モ デ ル ス ピ ー チ:イ ギ リ ス 人 留 学 生 2 名 に 1 分 程 度 の ワーポイントを使って話す経験を積むことができたと 京 都 に 関 す る ス ピ ー チ を し て も ら っ た . な お 、事 前 に 考えている.しかし,充分な時間がとれたとは言いが 出来る限り後述する表現集の言葉を利用してもらうよ たく,内容を固定したままであってもまだまだ練習が うに依頼した. 必要である.学生同士でコメントを書かせたが,意味 スピーチ作成:イギリス人留学生のスクリプトを公開 のあるコメントができなかった学生もいた.フィード し ,使 え そ う な 表 現 は 利 用 す る よ う に 推 奨 し た .ま た , バックに関する指針を与えればよくなると思われる. よく使う表現集を作成し, 配布した. 表現集の一部 こ れ に は 先 述 の CEFR や ACTFL, 英 ケ ン ブ リ ッ ジ 英 を下記に示す. 検の基準などを示してコメントさせるのがよいのでは と考えている. 表現集の例: 学生同士が評価する場合に正しい評価ができるの is the ○ th: Kyoto is the country's seventh largest か と い う 疑 問 も あ る . Kim 2001 で は , 教 員 が 評 価 し city, with a population of about 1.4 million people. た場合と比べて,自己評価した場合と,ピア評価した is one of the most : Kyoto is one of the most 場合とを比べ,学生が”訓練された場合は”教員の評 attractive cities in Japan. 価に近づくことを示している. attracts a number of tourists : Kyoto attracts a 今 回 は Oral presentation の 演 習 と な っ た が ,Poster number of tourists presentation の 演 習 と い う こ と に す れ ば ,同 じ 内 容 を シャドーイング,パラレル・リーディング用の教材と 少数のオーディエンスに何度も繰り返し発表をするこ し て プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン の 回 に 利 用 し て い た Glocal とになる.同じ内容ではあるけれども,オーディエン Studies(杉 本 他 2009)の 京 都 の ス ク リ プ ト も 配 布 し た . スが変わるので,弛むことなく練習を続けることがで 15 分 程 度 で 原 稿 を 作 成 さ せ た . きると期待できる.特に初学者には非常に有効な方法 であると考えている. 収 録 : グ ル ー プ ( 5- 6 名 ) で 集 ま っ て も ら い , そ れ 3.3. 自 発 的 な発 話 への展 開 ぞ れ iPod nano で 収 録 さ せ た .お 互 い に コ メ ン ト や 質 3.3.1. 英 語 ス ピ ー チ 問をするように指示した.これにより,集中して相手 前節までの活動では,学生は穴埋めをしたりする程 の ス ピ ー チ を 聞 く と い う 効 果 を 狙 っ た .ま た , TA3 名 度で,基本的にこちらが内容を考え,パワーポイント が巡回し,適宜質問するように指示した. を提供してきた.学生も英語で話すことに慣れたとは 思われるが,自分で考えたり,スライドを作ったりし 3.3.3. 学 生 か ら の フ ィ ー ド バ ッ ク ている訳ではないので,自分ひとりでやるとなったと 授業後,学生にアンケートを実施した. 肯定的な意 きにできるとは限らない.また,プレゼンテーション 見が多く,好評であった. 機器操作が難しかったか の回の感想では,内容が決まっているので自分で考え ( 1:易 ,5:難 ),授 業 は 役 に 立 っ た か( 1:役 に 立 て喋ってみたいという意見も多く見られた. つ ,5:役 に 立 た な い ),授 業 は 面 白 か っ た か( 1:面 しかし,内容を固定せずに各自に好きに話をさせた場 白い,5: 面白くない)の結果を表 6 に示す. 合,個別に指導するのは人的・時間的制約からも難し 53 英語でスピーチをする上で,今日のやり方は効果的で と し た 評 価( Authenticity)も 確 保 し た .こ こ ま で で , したか,効果的でなかったですか,という質問には, ある程度の人数の前である程度の内容について意味の “効果的であった.話の流れを組み立て,英語で文章 ある発話を行い,質疑応答をする多少の経験を積むこ を 考 え た か ら .”,“ い ろ い ろ な 人 の ス ピ ー チ を 聞 き ,自 とができたと思われる.もちろん,充分なスピーキン 分 に も あ て は ま る 改 善 す べ き 点 が 見 つ か り よ か っ た .”, グができている訳では決してない.同様のプラクティ “ビデオを撮ることでいい緊張感があって効果的だと スがまだまだ必要であり,また,ここでは取り上げな 思 い ま す .” かった技能についても訓練をする必要がある. 例えば, 表6:学生からの評価 1 2 3 3 5 8 7 7 9 0 機器操作 0 2 4 15 10 面白い 0 1 3 14 13 役立つ 質問にその場で答えるといった訓練や,リスニングの 平均 2.5 4.1 4.3 訓練も必要であろう.特に数字や数式,記号などの表 現は訓練しなければ,たやすくその場で言えるもので はない.これにはドリル式の訓練が有効であろう. また,特定の分野の英語を学ぶ際には,その分野でよ く使われる語彙や文法などを集中的に学ぶ方が効率的 スピーチをする上での課題についての回答では,“発 である.たとえば,リスニングの訓練では,理工系の 音 と あ が り 症 で す .慣 れ る し か な い と 思 い ま す .”,“ 発 内容に的を絞ったリスニング訓練なども有効であろう. 音,アクセント,強弱に気をつけながらすらすらと話 特に良質のプレゼンテーション映像などを見てリスニ せるようになりたいです.ネイティブが話す英語をも ング訓練をすれば,プレゼンテーションの勉強にもな っ と 聞 い て 真 似 す る 練 習 が 理 想 的 だ と 思 い ま す .”,”臨 り,一石二鳥である. 機応変な対応ができない.まだ英語の実力がついてい さらには,学生に専門用語の定義を英語で調べさせ ないと思われる.文章をはやく正確に構築できるよう て,お互いにクイズ形式で紹介するということも考え に,英語でスピーキングをするという練習がよいとお られる.これにより,言葉に詰まったときに言い換え も う .“ な ど の 意 見 が 出 て い た . ができる能力が涵養される.また,ある事象を平易に 3.3.4. 発 展 の 可 能 性 説明する語彙や表現も身につくと期待される. 今回は自分で話を組み立て人前で話す練習をさせ 上記のようなことを踏まえて,学習順序にも配慮し た .4 ,5 名 の オ ー デ ィ エ ン ス に 対 し て 話 を す る こ と で , て ,シ ラ バ ス を 設 計 す る 必 要 が あ る .2010 年 2 月 よ り 適度な緊張感を保ちつつ,英語で話す練習ができたの 実際に英語プレゼンテーションを教える予定である. で は な い か と 考 え て い る . ま た , 英 語 話 者 で あ る TA 今 回 の 事 例 は 90 分 1 コ マ の 授 業 で 3 コ マ 分 の 少 々 短 が適宜質問に来るということで,英語で意味のある会 めのものであったが,次回は比較的長期的な実践によ 話をする機会を与えられたのではと考えている.この る効果を検討する予定である.この論考が理工系の英 活動をさらに発展させるには,クラスの前で発表する 語教育に少しでも役立てられれば幸いである. 機会を与える発表の機会を作るのも一つの手と考えら れる.また,発話時間を長くしたり,トピックも自分 こ の 研 究 成 果 の 一 部 は 科 研 費 基 盤 研 究 (B)20320078 で選んだりなど,自由度を上げるのもひとつの方法で の助成によるものである. あろう.ある程度慣れた段階であれば,ある話題を設 定 し ,自 由 な 議 論 を さ せ て み る の も 一 つ の 手 と 考 え る . 文 4. 終 わ り に 献 [1] 木 村 博 保・壇 辻 正 剛 監 修 , ”GLOCL STUDIES” , 京 都 府 立 城 南 菱 創 高 等 学 校 発 行 , 2007 [2] 日 向 清 人 , 狩 野 み き ,“ 知 ら れ ざ る 英 会 話 の ス キ ル 2 0 ”, デ ィ ー エ イ チ シ ー , 2010. [3] 杉 本 喜 孝 , 木 村 博 保 , 坪 田 康 , 平 岡 斉 士 , 壇 辻 正 剛“ , GLOCAL STUDIES を 利 用 し た プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 演 習 ― 大 学 で の 実 践 を 中 心 に ― ” ,第 2 6 回 日 本 教 育 工 学 会 全 国 大 会 予 稿 集 ,2010 [4] 杉 本 喜 孝 , 木 村 博 保 , 坪 田 康 , 平 岡 斉 士 , 壇 辻 正 剛, “ 高校生向けマルチメディア英語C A L L 教材の開発とその利用 ― 高大連携の一環と して― ” , 第25 回日本教育工学会全国大会予 稿 集 , 2 009 . [5] 坪 田 康 ,壇 辻 正 剛“ ICT 支 援 に よ る プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 学 習 の 試 み ” , Technical report of IEICE. Thought and language 109(297), 19-24, 2009. こ こ ま で ,3 つ の 事 例 を 通 じ て ,ICT を 活 用 し た ス ピーキング活動について見てきた.話しやすいトピッ ク を 選 択 し た り ( Motivation), 英 語 を 話 し や す い よ うにテンプレートを用意したりするなど,さまざまな 支 援 を 行 い な が ら ( Scaffolding), 自 分 の 発 話 を 振 り 返 る こ と が で き る よ う に 録 画 を し( Reflection),学 生 同 士 で コ メ ン ト し あ う こ と で 自 律 性 を 高 め つ つ( Peer Review, Immediate feedback), 話 す 内 容 や 人 前 で 話 す緊張度も徐々に高めて,最後には支援のレベルを下 げ て 自 分 一 人 で も 英 語 で 話 が で き る よ う に ( Fading) 配慮した.また,授業時間外に,撮ったビデオを英語 母語話者が評価し,フィードバックすることできちん 54 Skills taught?” [21]Dantsuji, M. (2003). Maruchimedia CALL wo riyoushita gaikoku kyouiku no kaizen [Reform in Foreign Language Education Using Multimedia CALL.]. Proceedings of the 2003 Autumn Meeting of the Acoustical Society of Japan. (261-264). Nihon Onkyou Gakkai. [22]Clement, R., Gardner, R. C., & Smythe, P. C. (1977). Motivational variables in second language acquisition: A study of francophones learning English. Canadian Journal of Behavioural Science, 9, 123-133. [23]Higa, M. (1977). What are the Japanese saying about their language? Proceedings of the Symposium on Japanese Sociolinguistics. University of Hawaii: The Summer Institute of the Linguistic Society of America, July 28-29, 1-12. [24]Koike, I. and Tanaka, H. (1995). English in foreign language policy in Japan: Toward the twenty-first century. World Englishes, 14(1), 13-25. [25]藤 田 玲 子 ,山 形 亜 子 ,竹 中 肇 子 , “ 学 生 の 意 識 変 化 に 見る英語プレゼンテーション授業の有用性” [26]八 田 洋 子 , “ 日 本 に お け る 英 語 教 育 と 英 語 公 用 語 化 問 題 ” ,「 文 学 部 紀 要 」文 教 大 学 文 学 部 第 16-2 号 [6] Georgiou Georgios, 坪 田 康 , 平 岡 斉 士 , 壇 辻 正 剛 , "I C T を 活 用 し た 字 幕 付 き 自 己 紹 介 ビ デ オ 作 成 の 試 み ". 日 本 教 育 工 学 会 第 25 回 全 国 大 会 講 演 論 文 集 , p.255-256, 2009 . [7] 坪 田 康 ,壇 辻 正 剛 , "中 国 語 授 業 に お け る 字 幕 付 き 自 己 紹 介 動 画 作 成 の 試 み ". 日 本 教 育 工 学 会 研 究 会 ( FD の 組 織 化 ・ 大 学 の 組 織 改 革 / 一 般 ). JSET09-5 pp.161-168, 2009-12. [8] 国 吉 ニ ル ソ ン , 林 洋 子 , 野 口 ジ ュ デ ィ ー , 東 條 加 寿 子 ,”日 本 語 と 英 語 に よ る 工 学 系 口 頭 発 表 コ ー パスの構築と解析 ― オンライン検索サイトの 開 発 に 向 け て ― ” , 信 学 技 報 2007- 30,2007 [9] The roles of anxiety and motivation in language learner task performance, Peter E. NEFF , Doshisha Studies in Language and Culture, 10(1), 23-42, 2007. [10]Nagasaki, M. (2007). Communication through a Poster Presentation Task, In K. Bradford-Watts (Ed.), JALT2006 Conference Proceedings. Tokyo: JALT. [11]Oral presentations for English proficiency purposes Richard Miles, Reflections on English Language Teaching, Vol. 8, No. 2, 103-110 [12]FAN Lianghuo, YEO Shu Mei, “INTEGRATING ORAL PRESENTATION INTO MATHEMATICS TEACHING AND LEARNING: AN EXPLORATORY STUDY WITH SINGAPORE SECONDARY STUDENTS”, “The Montana Mathematics Enthusiast, Monograph 3, pp.81-98 [13]Ena Bhattacharyya, Rajeswary Appacutty Sargunan, “ The Technical Oral Presentation Skills and Attributes in Engineering Education: Stakeholder Perceptions and Un ive rsi ty Pre par atio n in a Malay sian Co ntex t” , AA AE2 009, 2009 . [14]By Leo Yu, “Teaching Oral Presentation Skills by an Online Multi Media Assisted Language Learning Package: A Case Study”, Sixth LACCEI International Latin American and Caribbean Conference for Engineering and Technology, 2008. [15]Juan C. Morales, Ferdinand Rosa, “Video Recording Feedback to Improve Oral Presentation Skills of Engineering Students: A Pilot Study” [16]NUR AFIQAH BINTI AB RAHMAN, “AN INVESTIGATION OF ENGINEERING STUDENTS’ ORAL PRESENTATION DELIVERY SKILLS: A CASE STUDY” [17]Shu-Hui Yu, Kate Cadman ,“EFL learners’ connection with audience in oral presentations: The significance of frame and person markers” [18]Jo Lewkowicz, Linda Cooley,“Oral Needs and Difficulties of Graduate Students in Hong Kong” [19]Kim Sydow Campbell David L. Mothersbaugh Charlotte Brammer Timothy Taylor “Peer versus Self Assessment of Oral Business Presentation Performance”Business Communication Quarterly Volume 64, Number 3, 23-42, 2001. [20]Jasmina Sazdovska,“How are Presentation 55
© Copyright 2024 Paperzz