初等幾何の遊び方・其の壱 問題. 図において,4OBC と 4ODA は正三角形で,AD//BC である. A D 今,線分 OA,OB,CD 上に それぞれ点 S,P,Q を, BP CQ OS = = OA BO CD となるようにとるとき,4PQS は 正三角形となることを証明せよ. S O Q P B C 解答例. OS BP CQ = = OA BO CD から OS : OA = BP : BO = CQ : CD が導かれ,これにより (1) OS : AS = BP : OP = CQ : DQ となる.OS= a,AS= b とおくと,(1) から BP= ka,OP= kb と表わさ ( ) √ a+b 3 れる.ここで与図を,点 O を原点,点 A を − , (a + b) とし 2 2 ( ) √ 3 k て平面上に配置すると,点 B は − (a + b), − k(a + b) で与えられ, 2 2 ) ( ) ( √ √ a+b 3 3 k (a + b), − k(a + b) ,そして点 D は , (a + b) 点Cは 2 2 2 2 と表わされる.さらに点 S,P,Q は線分 OS,BO,CD をそれぞれ a : b に内分する点であるゆえ ( ( ) ( ) √ ) √ √ a 3 kb 3 a + kb 3 (2) S − , a , P − ,− kb , Q , (a − kb) 2 2 2 2 2 2 が従う.(2) と三平方の定理から SP = PQ = QS = √ a2 + kab + k 2 b2 となり,4PQS が正三角形であることが判る. 1 学問的背景 通常ならば前述の如く問題を出して解答を書けば終わりなのであるが, ここではこの問題の背景にあるものを考えてみたい. 本問は題意の比率 a : b がどのような値であっても 4PQS は正三角形に なるという,非常に美しい現象が起こっている.ではこのようなことが 何故起こるのであろうか?そのことを説明するために,以下の補題を用 意する. C 補題 1. ∠A= 90◦ である直角三角形 ABC に おいて,辺 AC の中点 D をとれば, D AD=CD=BD が成り立つ. A B C Proof. 題意の直角三角形 ABC は線分 AC を直径とする円に内接する. これにより,線分 AB,BC,AC は この円の半径となるゆえ,主張が従う. D A 2 B 補題 2. 4ABC において,頂点 B,C から 辺 CA,AB にそれぞれ垂線を下し, その足を E,F とする. このとき,4ABC と 4AEF とは 相似である.次に辺 BC の中点を D とすると,4DEF は DE=DF である 二等辺三角形になり,さらに 4DEF が正三角形になるためには, B ∠BAC=60◦ であることが必要十分である. A E F D C Proof. 記述を簡単にするために,θ=∠BAC とおいておく.このとき, (3) AB = AE , cos θ AC = AF cos θ となる.4ABC と 4AEF において, AB : AC = AE : AF ((3) による) ∠BAC = ∠EAF (共通の角) となることから,二辺の比とその間の角がそれぞれ等しいゆえ 4ABC と 4AEF は相似になる. また,4DEF において,DE=DF となることは補題 1 からの帰結であ る.さらに 4DEF が正三角形となるためには,∠EDF=60◦ であることが 必要十分条件であることは,二等辺三角形の底角が等しいことと三角形 の内角の大きさの和が 180◦ であることから判る. 補題 1 により BD=DF,CD=DE であることから, ∠CDF (= ∠DBF + ∠BFD) = 2∠DBF ∠BDE (= ∠DCE + ∠CED) = 2∠DCE を得る.このことと ∠CDF + ∠BDE = 180◦ + ∠EDF であることを合わせると θ = 180◦ − (∠DBF + DCE) = 90◦ − 3 ∠EDF 2 が従い,θ = 60◦ であることと ∠EDF=60◦ であることとが必要十分条件 であることが導かれる. 以上で準備が終わったので,本問の背景にあるものを説明しよう.注 目して欲しいのは補題 2 であり,本問と補題 2 との関連を述べる. 解答例の (1) 式の後で与えた如く,OS= a,AS= b として BP= ka, OP= kb と表わしておく.a ≥ b と a ≤ b の二つの場合が考えられるが, いずれも同じ考察なので,ここでは a ≥ b の場合を取り扱うことにする. 点 S における直線 OA の垂線と,直線 OD および点 P における直線 OD の垂線との A 交点をそれぞれ E,F とし,直線 FP と 直線 OA との交点を G とする. S また,直線 EG と直線 CD との F 交点を Q0 とする. このとき,点 Q0 は点 Q と一致し, さらに点 Q は線分 EG の中点になる. P 実際,メネラウスの定理により CG OE DQ0 × × =1 OG DE CQ0 である.これにより B 0 k(a − b) 2a DQ × × = 1. 2kb a − b CQ0 よって CQ0 : DQ0 = a : b E D となり,点 Q0 が点 Q に一致することが示された. 次に再びメネラウスの定理から DE OC GQ × × =1 OD CG EQ となる.このことから a − b k(a + b) GQ × × =1 a + b k(a − b) EQ を得る.ゆえに点 Q が線分 EG の中点になることが従う. 4 Q0 O G C 以上の議論から,前図における 4EFG は補題 2 の状況になる.あとは ∠EFG= 60◦ となれば,4PQS が正三角形になることが導けるが,これは ∠OSF = ∠OPF = 90◦ となることから四角形 OSFP が円に内接するので, ∠EFG = ∠SFP = 180◦ − ∠POS = 60◦ ゆえ,主張を得る. このように,本問の背景には補題 2 にて紹介した,三角形における二 つの垂線のもつ芸術的な性質が隠れているのである. 2 おまけ 前節で述べた通り,本問には三角形における二つの垂線のもつ性質が 潜んでいるのであるが,ここではさらに本問の特殊な状況の背景にある 幾何学的性質を考えることにする. 九点円. 4ABC の頂点 A,B,C から対辺に下した垂線の足をそれぞれ D,E, F とし,辺 BC,辺 CA,辺 AB の中点をそれぞれ L,M,N とする.ま た,4ABC の垂心を H とし,線分 AH,線分 BH,線分 CH の中点をそ れぞれ U,V,W とする. このとき,九つの点 D,E,F,L,M,N,U,V,W は同一円周上に ある.この円のことを九点円という. 上述の九点が同一円周上にあることを示す前に,補題をいくつか準備 する. 補題 3. 4ABC の垂心を H とし,頂点 A から辺 BC に下した垂線の足を D とす る.直線 AD と 4ABC の外接円との A 以外の交点を S とすると,点 D は線分 HS の中点になる. 5 Proof. ∠HEC+∠CDH= 180◦ となることから, A 四つの点 D,C,E,H は同一円周上に ある.これにより ∠DCE=∠BHD · · · · · · (i) F を得る. H また,円周角の性質から, ∠DCE=∠BSH · · · · · · (ii) が従う.(i) と (ii) により B D ∠BSH=∠BHD となり,4BSH が二等辺三角形である ことが示されるゆえ,主張が導かれる. S E C 補題 4. 4ABC の垂心を H とし,頂点 A を通る外接円の直径を AA0 とする.こ のとき,A0 H は辺 BC の中点 L を通り,さらに点 L は線分 A0 H の中点に なる. Proof. 直径 AA0 による円周角ゆえ, ∠ABA0 =∠ACA0 = 90◦ · · · · · · (i) である.一方,垂線の定義により AB⊥CH, AC⊥BH であるから,これと (i) によって CH//A0 B, BH//A0 C が従う. 以上により,四角形 BA0 CH は B 平行四辺形となるので,その対角線 である BC と A0 H は互いに他を二等分 することから,題意が従う. A H C A0 九点円に関する準備ができたので,以下の定理を証明しよう.これは 6 オイラー,フォイエルバッハ,ポンスレー,ブリアンションらによる結 果といわれている. 定理 1 (九点円の定理). 4ABC の頂点 A,B,C から対辺に下した A 垂線の足をそれぞれ D,E,F とし,辺 BC, 辺 CA,辺 AB の中点をそれぞれ L,M, E N とする.また,4ABC の垂心を H U F M とし,線分 AH,線分 BH,線分 CH N H の中点をそれぞれ U,V,W とする. W このとき,九つの点 D,E,F,L, V M,N,U,V,W は同一円周上に B D L ある. C Proof. 4ABC の外接円上に点 P をとる.点 P が A 外接円上を動くとき,点 P と垂心 H の P 中点 Q の軌跡をみる. Q 外接円の中心を O とし,点 O と H 垂心 H の中点を K とする. 4OPH にて中点連結定理を使うと K OP=2KQ, KQ//OP O が従う.これにより点 P が外接円 B C を動くときの点 Q の軌跡は,点 K を中心,外接円の半径の半分の長さを 半径とする円周となる. 点 P が頂点 A,B,C にあるときの点 Q がそれぞれ点 U,V,W に なることは,三点 U,V,W の定義から判る. また,点 P が線分 AH,線分 BH,線分 CH の延長線上にある場合の 点 Q がそれぞれ D,E,F となることは補題 3 の主張である. さらに頂点 A,B,C を通る外接円の直径をそれぞれ AA0 ,BB0 ,CC0 としておくと,点 P が点 A0 ,B0 ,C0 にあるときの点 Q がそれぞれ点 L, M,N になることは補題 4 によって示されている. 以上の議論から九点円の定理が従う. 7 ここで本問と九点円の定理との関連を述べよう.本問の特殊な場合が 九点円に関係しているのである. D(A) 実際,本問において,a = b のとき,即ち, A (F) 点 S,P,Q がそれぞれ線分 OA,OB,CD の S 中点になるときを考える.九点円の定理と 比較するために右図を用いる. (B) O 九点円の定理の状況を括弧内に (H) Q(M) 書す.点 S,P はそれぞれ辺 OA,OB の中点となるので, P (i) ∠OSD=∠OPC=90◦ ゆえ点 O は (D) 4D(B)C の垂心になる. (ii) 補題 3 により点 A,B は共に B C(C) 外接円上にある. 一方,任意の九点円において,補題 3 から D(A) AD=OD,BC=OC が従う.さらに円周角の 性質から (E) A ∠ODA=∠OCB S(F) が成り立つ. O 本問は 4AOD,4OBC が正三角形 (H) の場合を考えさせている.ここで, この二つの三角形が正三角形になる (B) P(D) ための必要十分条件を考えると, AD//BC がそれになることが錯角の 性質をみれば容易に判る.本問の冒頭の B 問題設定で AD//BC を用いた所以であろうか. C (C) このように,本問で a = b とした状況が AD//BC 型の九点円の場合に 該当するのである. 8
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