工場ルポ № 205 マグネシウム合金部品の塗装 大幡塗装工業㈱ 〒174-0063 東京都板橋区前野町 4-2-7 TEL(03)3967-3235 (1)会社の沿革 大幡塗装工業株式会社は塗装一筋に 40 数年の歴史を積み重ねてきている。最近はマグネシウム合 金の部品塗装で独自の技術を展開し,その塗装現場は活況を呈していた。 昭和 28 年 10 月 現会長の大幡幸雄氏が釣(つ)り具のリール塗装を目的に個人で塗装会社(東 京都練馬区)を設立。 昭和 37 年 4 月 現所在地に移転。有限会社大幡塗装工業所を設立。 平成 8 年 6 月 大幡塗装工業株式会社に改組。大幡誠也氏が代表取締役社長に就任し,大幡幸 雄氏が代表取締役会長となる。 創業者の大幡幸雄代表取締役会長は,もともとは建築が専門であったが,塗装に携わるきっかけ を次のように顧みる。 「親戚が釣り具のリール製造会社を経営していた折りに,塗装がうまくいかなくて困っていた。 それで,私に独立して塗装の仕事をやってみないかと勧められ,この道に入ったわけです。初めは 日本ペイントの技術部に実習生として毎日通い,塗装の基礎技術を教えてもらいました。リールの 塗装は防錆が肝心で,塗料と金属素材の密着性や表面処理の研究を随分したものです。 最盛期には 2 万セット(月)くらいこなしましたね。それが円高の影響でリールの生産が海外に 移転してしまい,それから,いろいろな産業分野の塗装を手広くやるようになったんです。短い納 期で付加価値の高い塗装をする。その技術の蓄積が当社を支えていると思います」 (2)塗装設備の概要 ① 塗装設備の概要 ① 自動静電塗装ライン 従来より稼動していた自動静電塗装ラインの塗装装置を入れ替え,9 月より更新する。 塗装装置:SUNAC1200 Ⅱ自動静電塗装システム(旭サナック㈱・1 レシプロ 1 ガン(下塗り ブース)+1 レシプロ 2 ガン(上塗りブース),ガンはツインヘッドエア静電ガン・EAB70T を 装着)。 コンベヤー全長:80m(同速度:1.0∼1.2m/min)塗料供給ポンプ:アクリル塗料用+ウレタ ン塗料用+洗浄シンナー用の計 3 台。 なお,塗装素材別ではアルミニウム合金 55%,マグネシウム合金 35%,鉄・ステンレス 5%, プラスチック成型品 5%である。 ② スピンドルコンベヤー塗装ライン ③ 塗装ロボット 1 台 ④ 手吹き塗装(フラット塗装用ブース+模様塗装用ブース+粉体塗装用ブース):パテ研ぎを 要する部品,ハンマートーンやレザートーン仕上げ,シリコン塗装,ゴム塗装など。 また,臭(にお)いや鉛等の問題を解消するため,オンラインによる 24 時間監視制御の廃水処理 設備(凝集沈殿方式)を設置して公害防止対策を先取り,昭和 49 年に「公害防止優良工場」の表彰 を板橋区から授与されている。 ② 塗装工程例 自動静電塗装ラインにおけるマグネシウム合金の塗装例を示す。 ≪前処理工程≫ ディッピング槽(6 槽)によりクロム酸処理を施す。 アルカリ脱脂→水洗→エッチング→水洗→エッチング→水洗→化成皮膜→水洗→水洗→乾燥 ≪塗装工程例≫ 除塵(じん)→ハンガー掛け→エアブロー→下塗り(2 液型エポキシプライマー)→焼き付け乾燥(130℃ ×30min)→上塗り(アクリル樹脂塗料等)→焼き付け乾燥(150℃×30min)→検査 塗装は 2 コートあるいは 3 コート仕上げ。この設備更新の狙(ねら)いは,塗料の塗り込み性が格段 に優れたツインヘッドガンの採用により,無補正でメタリック模様を仕上げる点にある。 (3)マグネシウム合金の塗装 マグネシウム合金は実用合金として最も軽く,航 空機や自動車部品に用いられているが,最近ではビ デオカメラ,ヘッドホーン,システム手帳,補聴器 部品などへの需要が増えてきている。しかし,この マグネシウム合金は鋳造性が難しく,型取りの際の バリやシワが生じやすいこと。また塗装前処理の時 に,素材自体が侵食されやすいという加工の難しさ が指摘されている。 大幡誠也代表取締役社長は「塗装の素材としてマ グネシウム合金が最近増えてきていますが,マグネ シウムは消防法の第二類に分類されていて,禁水性 のため取り扱いには注意が必要です。 また前処理の問題については,ダウの 1・7・19・ 20・21・23 相当の処理精度を維持できていますから, 侵食の度合いは±3∼5 μに押さえてあります。ですから,タップ穴が緩むようなことはないです。 普通のところですと−15∼20 μも侵食されて加工がうまく行かないという例が結構あるんですよ」 と,ノウハウの一端を語る。 同社の実用に即した地道な探求心が顧客の信頼を獲得しているのである。 「お得意さんとよく話すのですが,製品開発の企画の段階から塗装も参加させていただければ, ローコストで高付加価値の塗装仕上げができると提案しています。それで成果の上がった製品づく りが間もなく実用化されます。塗膜づくりの提案ができるようにならないとダメでしょうね」と付 け加えられた大幡誠也代表取締役社長。塗膜の価値を提案できる企業になる。そこには企業規模を 越えて,各企業の活路を見いだす一つの指針が示唆されている。
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