デジタル絵本が母子の共同注意および音声に及ぼす影響

デジタル絵本が母子の共同注意および音声に及ぼす影響
○佐藤鮎美 1・堀川悦夫 2
(1 京都橘大学健康科学部・2 佐賀大学医学部)
キーワード:デジタル絵本,共同注意,音声
The Effect of E-book on Mother-Infant Joint Attention and Utterances
Ayumi SATO1 and Etsuo HORIKAWA2
(1Faculty
of Health Science, Kyoto Tachibana Univ., 2 Faculty of Medicine, Saga Univ.)
Key Words: E-book, Joint attention, Utterances
目 的
iPad のようなタブレット型端末の普及により絵本のデジタ
ル化が進んでいる。従来の紙媒体の絵本は子どもの共同注意
が生じやすい場であり(Sato & Uchiyama, 2012; 菅井ほか,
2010)
,子どもの社会認知発達に効果が期待できる場面であ
る。しかしながら,デジタル絵本においても同様の効果が期
待できるか否かは未だ実証的に検討されていない。そこで,
本研究では紙絵本およびデジタル絵本を使用した際の共同注
意の様相を比較検討する。さらに,デジタル絵本に音声がつ
いた場合,母親の音声の頻度に違いが見られる可能性も考え
られる。よって,両場面における母親の音声も検討対象とす
る。
の差を被験者内計画(1×3)の分散分析により検定した。その
結果,応答的共同注意割合は紙絵本場面に比べ音有デジタル
絵本場面で有意に低い傾向があった(p = .082)
。また,母親
の子どもへ向けられた注視時間も,紙絵本場面に比べ音有デ
ジタル場面でより短かった(p < .05)
。
さらに,母親の音声の頻度を比較検討したところ,紙絵本
場面および音無デジタル絵本場面に比べ,音有デジタル絵本
場面では,絵本に書かれた文字を読む音声,絵本に書かれた
文字を読む以外の音声ともに減少することが示された。
90
80
0.16
70
0.14
注
視
時
間
(
秒
)
0.12
0.1
方
法
参加者
本研究は生後 12 か月の乳児およびその母親 10 組を対象に
実施された。
手続き
大学内に設置されたプレイルームにおいて,参加した全て
の母子の「紙絵本場面」
,
「音有デジタル絵本場面」
「音無デ
ジタル絵本場面」における相互作用を観察した。各場面は 3
分間であり,それぞれ少なくとも 2 分間のインターバルを空
けて実施された。また,場面の実施順序は母子間でカウンタ
ーバランスされた。すべての場面において,
「まり(クレヨ
ンハウス)
」という絵本が用いられ,どの媒体も同じ内容で
あった。
コーディング
教示をした後,実験者が母子から見えない位置に移動して
から 3 分間の母子相互作用の様子を分析の対象とした。各場
面(3 分間)の母子相互作用を下記の共同注意に関する指標
(Martins, 2003; Osorio et al., 2011 を参考に改変)および注視
対象に関する指標によりコード化した。(1)共同注意に関し
ては:(a)母親からの働きかけ;①絵本で子どもに接触,②絵
本を動かす,③絵本を見せる,④絵本を差し出す,⑤指さ
し,⑥行動モデルの提示,⑦言語指示,⑧ページめくり,
(b)乳児の反応;①並列注意(交互注視なしの共同注意)
,②
応答的共同注意(交互注視ありの共同注意)
,③無視,の行
動をコード化した。(2) 母親の音声に関しては:(a)絵本に書
かれた文字を読んだ音声,(b)絵本に書かれた文字を読む以
外の音声が発された時間を測定した。
分析方法
母親からの働きかけの指標(1-a)に該当する行動すべて
の合計を求めた。乳児の反応(1-b)の各項目は,母親の働
きかけの総数に対する割合に変換された。
結 果
乳児の反応の割合および母親の発話時間(秒)の各場面間
0.08
0.06
0.04
50
40
30
20
0.02
10
0
-0.02
60
紙絵本
音有絵本
音無絵本
0
紙絵本
音有絵本
音無絵本
-0.04
Figure 1 子どもの意図に一致した働きか
け回数割合の場面別平均
Figure 2 子どもの行動に随伴した母親の
働きかけ回数割合の場面別平均
表 1 各場面における母親の音声の頻度
文字を読む
読む以外
注.単位は秒。
紙絵本
音有絵本
音無絵本
36.0
41.5
1.5
14.5
24
40.0
対象データは全体の 30%
考 察
分散分析の結果から,音有のデジタル絵本場面では,母子
ともに相互作用している相手への注意が低下している可能性
が示唆された。また,音有デジタル絵本場面では母親の音声
も減少することから,子どもが対象に注意を払う手がかりそ
のものも減少している可能性が示唆された。
引用文献
Osorio, A., Martins, C., Meins, E., Martins, E. C., & Soares, I.
(2011). Individual and relational contributions to parallel and
joint attention in infancy. Infant Behavior and Development,
34(4), 515-524.
Sato, A. & Uchiyama, I. (2012). Shared book reading between
mother and infant facilitates the frequency of joint attention.
The 34th Annual Meeting of the Cognitive Science Society
菅井洋子・秋田喜代美・横山真貴子・野澤祥子 (2010). 乳児
期の絵本場面における母子の共同注意の指さしをめぐる
発達的変化:積木場面との比較による縦断研究 発達心
理学研究, 21, 46-57.