臨床論文を読むため統合学習-婦人科がん関連論文-(高野 忠夫) 「文献の読み方∼Prosの立場から∼」 第12回CSPOR・CRCセミナ―(2006/3/11∼12) Randomized Phase III Trial of Whole-Abdominal Irradiation Versus Doxorubicin and Cisplatin Chemotherapy in Advanced Endometrial Carcinoma: A Gynecologic Oncology Group Study 進行子宮体癌における 全骨盤照射v.s.ドキソルビシン+シスプラチン療法の 第III相試験 GOG研究 東北大学婦人科 高野忠夫 • Marcus E. Randall, Virginia L. Filiaci, Hyman Muss, Nick M. Spirtos, Robert S. Mannel, Jeffrey Fowler, J. Tate Thigpen, and Jo Ann Benda J Clin Oncol 24, 36-44, 2006. “pros and cons” 標準治療はどのようにして 作られていくのでしょうか? ラテン語の“pro”=“for”:「賛成の」、“con”=“against”:「反対の」から派生した表現 Purpose To compare whole-abdominal irradiation (WAI) and doxorubicin-cisplatin (AP) chemotherapy in women with stage III or IV endometrial carcinoma having a maximum of 2 cm of postoperative residual disease. 手術後の残存腫瘍の最大径が2cmのIII期・IV期子宮体癌における全骨盤照射 (WAI)とドキソルビシン+シスプラチン(AP)療法を比較すること Conclusion Chemotherapy with AP significantly improved progression-free and overall survival compared with WAI. AP療法はWAIと比較してprogression-free・overall survival を有意に改善した。 検出力の高いランダム化比較試験において、標 準治療に対して勝利した(あるいは効果は同等 であるがその他の有利な点を持った)試験治療 が新しい標準治療となる。 私は、この対照群の標準治療はWAIではなく、AP療法であることに 賛成します。 臨床試験の論文構成 1. 2. 3. 4. 5. 6. 目的 背景 患者選択基準 治療計画(デザイン) 効果判定の方法と判定規準 エンドポイントと統計学的考察 読み手の論理の展開方法 • • • • • 仮説はどのようにして作られたか? 仮説の対象は適切であるか? 仮説の証明方法は正しいか? 結果の解析は妥当か? 結果から導き出された結論は妥当か? 使用目的を研究者の自己学習用に限り,その他への転用を禁じる 1 臨床論文を読むため統合学習-婦人科がん関連論文-(高野 忠夫) 仮説はどのようにして作られたか? 仮説の対象は適切であるか? •目的 •背景、対象・標準治療 •背景、対象・試験治療 背景、対象・標準治療 対象集団が適切に選択されているか? 対象に対する標準治療は適切か? 適格症例 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 臨床進行期(FIGO)III期・IV期 腹式子宮全摘術、両側附属器切除術、surgical staging、腫瘍切除術、 2cmを超える残存腫瘍のないこと、リンパ節生検はオプション。 傍大動脈リンパ節陽性の場合、前斜角筋リンパ節生検で陰性+胸部CT で転移所見なし。 WBC≧3,000/μl、granulocyte≧1,500/μl, platelets≧100,000/μl、 creatinine≦2mg%, bilirubin≦1.5X施設基準値, AST≦3X施設基準値、 心拍出量(EF)正常、GOG PS: 0-3 再発、肝実質・肺転移、他の血行性転移、鼠径リンパ節転移のないこと、 放射線治療、化学療法の既往がないこと。 手術後8週間以内に実施すること。 施設の倫理委員会の承認を得ること。 すべての患者から書面で、インフォームド・コンセントを得ること。 第12回CSPOR・CRCセミナ―(2006/3/11∼12) 目的 To compare whole-abdominal irradiation (WAI) and doxorubicin-cisplatin (AP) chemotherapy in women with stage III or IV endometrial carcinoma having a maximum of 2 cm of postoperative residual disease. 手術後の残存腫瘍の最大径が2cmのIII・IV期子宮 体癌患者における全腹照射(WAI)とドキソルビシン +シスプラチン(AP)療法を比較すること 対象集団が適切に選択されているか? 手術臨床進行期は予後と密接に関係している。 しかしIII・IV期子宮体癌患者はヘテロな集団であ り、その予後は様々である。 従来、腹腔内再発に関しては放射線療法、腹腔 外病変に対しては化学療法が選択されてきた。 Abdominal radiotherapy for cancer of the uterine cervix and endometrium. Potish RA, Int J Radiat Oncol Biol Phys. Jun;16(6):1453-8,1989 49例の子宮癌の腹膜転移患者の初回治療として、術後open-field whole abdominal radiotherapy を行った。 The 5-year relapse-free rate was 63% in women with stage III/IV endometrial carcinoma. 使用目的を研究者の自己学習用に限り,その他への転用を禁じる 2 臨床論文を読むため統合学習-婦人科がん関連論文-(高野 忠夫) Adjuvant whole abdomino-pelvic irradiation (WAPI) for high risk endometrial carcinoma Gibbons S, et.al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. Sep;21(4):1019-25, 1991 手術進行期III・IV期の子宮体癌56例に、術後WAPIを行った。 The 7-year actuarial survival was 57.8% for Stage III, and 25.0% for Stage IV. 第12回CSPOR・CRCセミナ―(2006/3/11∼12) Treatment of high-risk uterine cancer with whole abdomino-pelvic radiation therapy Ron S. et.al.Int J Radiat Oncol Biol Phys48: 767-778, 2000 WAPI is a safe, effective treatment for patients with optimally debulked advanced-stage uterine endometrial carcinoma. DFS of 79% OS of 89% III・IV期の子宮体癌22例 対象に対する標準治療は適切か? 米国において、残存腫瘍径≦2cmのIII・IV 期子宮体癌患者に対する標準治療は全腹 (骨盤)照射である。 背景、対象・試験治療 • 試験治療は適切に選択されているか? 本試験のcontrol arm 全腹照射: 30Gy/20日 骨盤腔(±PALN): 15Gy/8回 Phase II trial of adriamycin in the treatment of advanced or recurrent endometrial carcinoma: a GOG study. Thigpen JT, et.al. Cancer Treat Rep. Jan;63(1):21-7, 1979 手術療法・放射線療法で治療できない進行・再発子宮体癌患者43 人に対してアドリアマイシンを投与した。43人中CR11例を含む16 人(37.2%)に、測定病変の50%以上の縮小を認めた。 毒性は他のアドリアマイシンの第2相試験と同様であった。 Adriamycin is an active agent in the treatment of advanced or recurrent endometrial carcinoma. Phase II trial of cisplatin as first-line chemotherapy in patients with advanced or recurrent endometrial carcinoma: a GOG Study. Thigpen JT, et.al. Gynecol Oncol. 33(1):68-70,1989 手術療法・放射線療法・ホルモン療法でコントロールできない進行・再発子宮体 癌患者49人に対してシスプラチン50mg/m2を3週毎に投与した。 2例のCR (4%)、8例のPR (16%)、最低2ヶ月のSD (45%) の効果があった。 Cisplatin has definite activity when given at the dose and schedule tested to patients with endometrial carcinoma who have not received prior chemotherapy. CR PR SD PD 2/49 (4%) 8/49 (8%) 22/49 (45%) 17/49 (35%) 使用目的を研究者の自己学習用に限り,その他への転用を禁じる 3 臨床論文を読むため統合学習-婦人科がん関連論文-(高野 忠夫) Phase III Trial of Doxorubicin With or Without Cisplatin in Advanced Endometrial Carcinoma: A GOG Study Thigpen, J. T. et al. J Clin Oncol; 22:3902-3908 2004 Response (N = 281) Doxorubicin (n = 150) 試験治療は適切に選択されて いるか? Doxorubicin + Cisplatin (n = 131) No. of Patients % No. of Patients % 12 8 25 19 Partial response 26 17 30 23 No response 112 75 76 58 Complete response HR: 0.736 (95% CI, 0.577 to 0.939; P = .014) ドキソルビシン+シスプラチン (AP)療法 60mg/m2 50mg/m2 本試験の対象患者(残存腫瘍径≦2cm のIII・IV期子宮体癌患者)に対する試験 治療(study arm)はドキソルビシン+シス プラチン(AP)療法である。 OS PFS ドキソルビシン シスプラチン 第12回CSPOR・CRCセミナ―(2006/3/11∼12) 仮説の証明方法は正しいか? 3週毎に8コース施行 ただし、ドキソルビシンの積算最大投与量は420mg/m2なので8コース目はシ スプラチンのみの投与とする。 • 試験デザインは適切か? 1. コース開始基準:granulocyte≧1,500/μl、血小板≧100,000/μl 2. 開始基準に達しないときはドキソルビシンを60mg/m2から15mg/m2まで 15mg/m2づつ減量。 3. 骨髄抑制によりプロトコール治療継続できない期間が6週間を超えるときは治 療を中断。 4. G-CSF製剤については規定しない。 5. 心拍出量が基準値よりも20%以上減少、うっ血性心不全、その他生命を脅か す心傷害が見られたらドキソルビシンを中止するが、シスプラチンは投与継続 する。血清クレアチニンが2.0mg以上のときはシスプラチンを投与しない。 6. 聴力低下などの神経毒性による治療中止は、患者と担当医の判断による。 試験デザインは適切か? Primary endpoint:主要評価項目 Progression free survival (PFS):無増悪生存期間 Secondary endpoint:副次的評価項目 Overall survival (OS):全生存期間 予定登録者数 240例 80%の検出力でHazard ratioが33%減少することを期待 (両側検定、有意水準=0.05) 。 Follow-up期間は240例中192のイベント(再発、進行、死亡)が観察 されるまで。 422例が登録され396例が解析対象。 246のイベント(うち222の死亡) 生存例のfollow-up期間の中央値:74ヶ月 PFS、OSはIntent-to-treatの原則で解析 結果の解析は妥当か? 使用目的を研究者の自己学習用に限り,その他への転用を禁じる 4 臨床論文を読むため統合学習-婦人科がん関連論文-(高野 忠夫) 患者背景1 第12回CSPOR・CRCセミナ―(2006/3/11∼12) 患者背景2 治療中止の理由 毒性の出現割合 死亡の要因 治療結果 HR:0.71(95%CI,0.55 to 0.91; p=0.007) PFS HR:0.68(95%CI,0.52 to 0.89; p=0.004) OS 使用目的を研究者の自己学習用に限り,その他への転用を禁じる 5 臨床論文を読むため統合学習-婦人科がん関連論文-(高野 忠夫) 第12回CSPOR・CRCセミナ―(2006/3/11∼12) 進行期別のPFS、OS 多変量解析の結果 PFS OS 結果から導き出された結論は妥当か? PFS OS Conclusion Chemotherapy with AP significantly improved progression-free and overall survival compared with WAI. Nevertheless, further advances in efficacy and reduction in toxicity are clearly needed. さらなる効果の増強と、毒性の減少が必要ではあるもの の、AP療法はWAIと比較してPFSとOS を有意に改善し た。 使用目的を研究者の自己学習用に限り,その他への転用を禁じる 6
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