社会階層と健康格差

目 次
はじめに
・・・・・・・・・・・・・・
1.こどもの健康
2.雇 用
・・・・・・・・・・
2
・・・・・・・・・・・・・・
4
3. 職 業 ス ト レ ス
4.生活習慣
・・・・・・・・・・・
6
・・・・・・・・・・・・
8
5.疾病予防サービス
6.医 療
1
・・・・・・・ 10
・・・・・・・・・・・・・ 12
7.ソーシャル・キャピタル
8.女性の健康
・・・・・ 14
・・・・・・・・・・・ 16
平成21年度~平成25年度科学研究費補助金・新学術領域研究(研究領域提案型)
「現代社会の階層化の機構理解と格差の制御:社会科学と健康科学の融合」
政策提言書
研究代表者:川上 憲人
政策提言ワーキンググループ:橋本 英樹、福田 吉治、阿部 彩、新名 正弥,
神林 博史、小林 廉毅(座長)
著 者:
1.こどもの健康:藤原 武男(国立成育医療センター)
2.雇 用:神林 博史(東北学院大学)
3.職業ストレス:堤 明純(北里大学)
4.生活習慣:福田 吉治(山口大学)
5.疾病予防サービス:福田 吉治(山口大学)
6.医 療:小林 廉毅(東京大学)
7.ソーシャル・キャピタル:原田 謙(実践女子大学)・杉澤 秀博(桜美林大学)
8.女性の健康:神林 博史(東北学院大学)
・本庄 かおり(大阪大学)
はじめに
このたび、科学研究費補助金・新学術領域研究「現代社会の階層化の機構理解
と格差の制御:社会科学と健康科学の融合」
(研究代表者 川上憲人)の成果の
一環として、政策提言書「社会階層と健康—健康格差のエビデンスからの政策
提言」を編集、発行することになりました。
提言」を発行することになりました。
本研究は、平成 21 年度から平成 26 年度(終了領域研究助成期間を含む)ま
での 6 年間にわたり実施されました。そして、当初の目的に沿って、社会階層
と健康の実態解明とメカニズムの理解、その制御方策について多くの新しい科
学的知見を得ることができました。また、研究を通じて学際的交流を深化させ、
新しい融合領域の形成にも一定の成果を上げました。
本研究では、その研究の内容や広がりから、研究と社会との架け橋を常に意識
し、研究成果を確実に社会に還元することを研究者一同、考えてまいりました。
そして、研究代表者の川上憲人教授の強力なイニシアティブのもと、本政策提
言書を編集するためのワーキンググループが組織され、熱心な議論を経て、こ
のたび本政策提言書発行の運びとなりました。
社会階層と健康に関わる研究はまだ発展途上ではあり、科学的エビデンスとし
社会階層と健康に関わる研究はまだ発展途上であり、科学的エビデンスとして
て引き続き検証が必要な事柄も少なくありませんが、喫緊の社会課題について
引き続き検証が必要な事柄も少なくありませんが、
喫緊の社会課題については、
は、このような政策提言の形で、社会や行政担当者などへ情報発信することが
このような政策提言の形で、社会や行政担当者などへ情報発信することが重要
重要と考えております。本政策提言書につきましては、
「社会階層と健康に関す
と考えております。本政策提言書につきましては、
「社会階層と健康に関する学
1
1
バージョンを掲載する予定です
る学際ネットワーク」
ホームページ
にもにも
PDFPDF
バージョンを掲載する予定ですので、
際ネットワーク」
ホームページ
ので、ご活用いただければと存じます。
ご活用いただければと存じます。
平成 27 年 3 月
「社会階層と健康」政策提言ワーキンググループ
座長
1
http://mental.m.u-tokyo.ac.jp/sdh/top.html
1
小林 廉毅
1.こどもの健康
キーメッセージ
・ 多くの市町村で子ども医療費の補助があるにも関わらず、貧困層の場合、子どもが入院
する割合が高い。そして、その傾向は少なくとも 6 歳まで続いている。
・ 社会格差は、胎児に影響を与え、子どもが小さく生まれることに関係している。その傾
向は、父親の学歴が低い場合にみられる。
・ 成人病胎児起源説に代表されるように、子どもの健康は大人になってからの健康に影響
する。故に、将来の疾病負担を減らすためにも子どもの健康を守る必要がある。
子どもの健康は、子ども自身を守るだけでな
く、その後の成人期の社会経済的状況、また
健康状態にも影響する、重要な課題である。
Kawakami らは、小児期において精神疾患
に罹患した場合に、成人になってからの年収
が 低 い こ と を World Mental Health
Survey により明らかにしている 1)。
低い場合に有害物質への曝露(タバコ等)が
増え、また社会的環境(積極的な関わり等)
が減ることにより、子どもの社会性の発達が
阻害されている可能性がある。
さらに、県レベルの社会格差が胎児の発育に
も影響することが明らかにされた 4)。すなわ
ち、県レベルの所得格差が進んでいる場合、
胎児の発育が悪く、Small for Gestational
Age (SGA、妊娠週数における出生体重が標
準の 10%以下である状態)で生まれるリスク
が約 20%高まることがわかった。しかも、
その影響をより強く受けているのは、父親が
短大以下の学歴である場合で、母親の学歴は
関連がなかった。ここから推察されるのは、
社会格差による相対的貧困のストレスをより
感じるのは低学歴の父親であり、そのストレ
スが家庭内に持ち込まれ、母親を通じて胎児
に影響している可能性があるということであ
る。子どもの健康という場合、母親にのみ注
目が行きがちであるが、父親も含めた視点が
必要であろう。また、成人病胎児起源説(い
わゆるバーカー仮説)の知見からも、胎児期
の発育不全はその後の成人病を引き起こす可
能性があり、その対策が必要である。
しかし、子どもの健康は親の社会経済的地位
や社会格差の状況によって異なっている。例
えば、阿部は厚生労働省「21 世紀出生児縦
断調査」を用いて、等価世帯所得の 50%以
下の貧困群において、1-6 歳までに何からの
疾患で入院する割合が非貧困群に比べて
1-3%程度高いことを明らかにしている 2)。
未就学児は医療費助成がなされている自治体
が多いにも関わらず、ここのような格差が生
じていることは、未就学児をもつ貧困世帯へ
の対策が不十分であることを示唆する。
また、Fujiwara は母親の教育歴が低い群に、
1 歳半の時点における自閉症スペクトラム障
害の疑いがより高い割合で蓄積していること
を報告している 3)。親の自閉傾向が遺伝して
いる可能性は否定できないが、母親の学歴が
参考文献
1) Kawakami N, et al. Early-life mental disorders and adult household income in the World Mental Health
Surveys. Biol Psychiatry. 2012; 72: 228-37.
2) 阿部彩.子どもの健康格差の要因—過去の健康悪化の回復力に違いはあるか—.医療と社会
2013; 22:255-69.
3) Fujiwara T. Socioeconomic status and the risk of suspected autism spectrum disorders among
18-month-old toddlers in Japan: A population-based study. J Autism Dev Disord. 2014; 44: 1323-31.
4) Fujiwara T, Ito J, Kawachi I. Income inequality, parental socioeconomic status and birth outcomes in
Japan. Am J Epidemiol. 2013; 177: 1042-52.
2
図1 貧困・非貧困層ごとの各年齢における 1 年間の入院率
生後 6 か月時の貧困基準を固定して、それを各年の所得と比較して貧困を定義している。6 歳まで入院率は減
少しているものの、貧困層が 1-3%高い、健康格差の状態が続いている。
(文献2より)
図2 父親の教育歴ごとの県レベルのジニ係数が出生体重のZスコアに与える影響
県レベルの所得格差が大きい場合、
胎児の成長に影響するが、それは父
親の教育歴が低い場合にのみみられ
る。
(文献4より)
政策提言
①
医療費助成だけでなく、貧困世帯の子どもの疾病罹患を防ぐ政策が必要である。
②
貧困世帯における養育環境の保全が必要である。
③
社会格差の胎児への影響を緩和するために、母親はもちろん父親も含めた包括的なサポート
が必要である。
3
2.雇 用
キーメッセージ
・ 非正規雇用と失業は、健康に様々な側面から悪影響をもたらす。
・ その一方で、比較的健康度が高いとされてきた正規雇用の管理職や専門職の健康状態も
悪化しつつあることが指摘されている。
・ 失業者や非正規雇用労働者の拡大を抑制すると共に、正規雇用労働者への過度な仕事の
集中を押さえ、より多くの人がバランスのとれた働き方ができる社会の実現を目指す必
要がある。
非正規雇用労働者は正規雇用労働者に比べて、
賃金が低く、雇用の不安定性が高く、社会保
障制度の保護が貧弱であるなど様々な面で不
利な立場にある。そして、その数は依然とし
て増加を続けている。正規雇用労働者と比較
した場合、非正規雇用は精神的な健康状態が
悪く、喫煙率が高く、健康診断の受診率が低
いなど、現在の健康だけでなく将来への健康
への影響が懸念される様々な問題を抱えてい
る(非正規雇用と健康の関係は労働時間とも
関係があり、以上の傾向は週労働時間が 40
時間以上の非正規雇用労働者に顕著である)
1)
。さらに、非正規雇用に長く留まることで、
悪影響が蓄積される恐れがある。
一方で、これまでの研究では健康度が高いと
されてきた男性の管理職および専門職の死亡
率が 1990 年代後半から相対的に増加して
いることが確認されている 3)。また、自殺に
よる死亡率は職種を問わず 2000 年頃から
増加していたが、専門職・管理職で増加が大
4)
。この原因として、経済状況の悪
きかった[4]
化に関連する専門・管理職の仕事量の増加や、
ストレスなどの影響が考えられる。
以上のように、雇用と健康の関係から見たと
き、現在の日本社会では多くの人々が何らか
の点で健康への悪影響を受けていると考えら
れる。格差が拡大し、低賃金と不安定な雇用
に苦しむ人々が増加する一方で、比較的安全
な地位にいる人々は、それに見合うだけの(あ
るいはそれ以上の)厳しい成果と労働を求め
られる。失業者や非正規雇用労働者の拡大の
抑制と、正規雇用労働者への過度な仕事と責
任の集中を防ぎ、多くの人がバランスのとれ
た働き方ができるようになることが、働く人
の健康を向上させる上で重要である。
失業は、経済的な損失だけでなく社会的役割
や社会関係の喪失をもたらすため、健康に悪
影響をもたらし、自殺率を高めることが知ら
れている。最近の日本の研究においても、低
所得者や失業者において、精神的健康状態が
悪く、うつ病で治療をしている者が多いこと
2)
、無職者の自殺率は有職者よりも高いこと
(特に男性の場合)3)が確認されている。
参考文献
1) Tsurugano S, Inoue M, Yano E. Precarious employment and health: analysis of the Comprehensive
National Survey in Japan. Industrial Health 2012: 50: 223-35.
参考文献
2)
Y, Hiyoshi
Influences
of income employment
and employment
on psychological
and depression
1) Fukuda
Tsurugano
S, InoueA.M,
Yano E. Precarious
and health:
analysis ofdistress
the Comprehensive
treatment
in
Japanese
adults.
Environ
Health
Prev
Med
2012;
17:
10-7.
National Survey in Japan. Industrial Health 2012: 50: 223-35.
3)
I, etofal.income
Social and
in suicide
in Japan
from 1975
2) Suzuki
FukudaE,Y,Kimura
HiyoshiS,A.Kawachi
Influences
and geographical
employment inequalities
on psychological
distress
and depression
through
2005:
a
census-based
longitudinal
analysis.
Plos
One
2013;
8(5)
DOI:
treatment in Japanese adults. Environ Health Prev Med 2012; 17: 10-7.
3) 10.1371/journal.pone.0063443
Suzuki E, Kimura S, Kawachi I, et al. Social and geographical inequalities in suicide in Japan from 1975
4) Wada
K, 2005:
KondoaN,
Gilmour S, etlongitudinal
al. Trends inanalysis.
cause specific
mortality
across
through
census-based
Plos One
2013; 8(5)
DOI:occupations in Japanese
men
of
working
age
during
period
of
economic
stagnation,
1980-2005:
retrospective
cohort study. BMJ
10.1371/journal.pone.0063443
2012;
344:
e1191
4) Wada K, Kondo N, Gilmour S, et al. Trends in cause specific mortality across occupations in Japanese
4
図 1 非正規雇用の健康状態および健康関連行動
非正規雇用(男性)
1.5
非正規雇用(女性)
男女それぞれの正規雇用を 1 としたと
オ 1
ッ
ズ
比 0.5
期健康診断の受診が少なく、特に週労働
時間が 40 時間以上のもので精神的健康
が悪く、喫煙が多い。(文献1より)
がん検診の受診
定期健康診断の受診
喫煙
週労働時間40時間未満
精神的健康(悪い)
がん検診の受診
定期健康診断の受診
喫煙
精神的健康(悪い)
0
きのオッズ比。正規雇用に比較して、定
週労働時間40時間以上
図 2 専門職と管理職の自殺率の変化:1975-2005
2.5
生産工程作業職の自殺率を 1 と
したときのオッズ比(男性のみ)
。
専門職も管理職も、生産工程作業
専門職
2
管理職
食に比べて、1995 年までは自
殺率が低いか同程度も、2000
年と 2005 年は約 2 倍となって
いる。(文献 3 より)
オ 1.5
ッ
ズ
比 1
0.5
0
1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年
政策提言
①
非正規雇用労働者の雇用環境を改善し、より安心して働ける環境を整える。特に、非正規
雇用に長く滞留することを防止する対策が必要である。具体的には、待遇の改善(同一労
働同一賃金の実現)、非正規雇用動労者への社会保障制度の適用の厳密化と拡充、非正規雇
用から正規雇用への移行を促進する制度的サポート、など。
②
失業者への経済的・精神的サポートの充実と、セーフティネットの充実をはかる。
③
正規雇用労働者の長時間労働と過負荷を抑制し、仕事と生活のバランスの調和をはかる。
具体的には、残業時間の短縮、ワークシェアリング、など。
5
3.職業ストレス
キーメッセージ
・ 職業に関連する健康格差の少なくとも一部は、職業性ストレスにより説明できる。
・ 日本人における職業に関連する健康格差のパタン、および、職業性ストレスが介在する
メカニズムは、必ずしも欧米に見られるパタンと一致しておらず、性差が見られること
が観察されている。
・ 就業環境が大きく変化している現代、代表的な集団において、職業階層と職業性ストレ
スによる労働者の健康影響に関してモニターしていく必要がある。
日本人を対象とした前向き研究でも、職業性
ストレスが将来の循環器疾患や精神障害を予
測することが示されている 1)。
一方で、ストレスが要因として伺われる管理
職における自殺の増加 3)や、ホワイトカラー
男性で、対人葛藤がより強く抑うつ症状と関
連している 4)という所見が観察されている。
少数の例外を除いて、好ましくない就業環境
(職業性ストレス;不安定な雇用状況、低い
裁量権、不公正なシステム、低い報酬)は、
職業階層の低い集団に多く認められる。
職業階層、職業性ストレス、および健康指標
(疾患)との関連には男女差があることが観
察されている 1)。また、仕事のストレスの種
類とインパクトの大きさは事業場規模によっ
て異なる。
職業階層下位の男性で、職業性ストレスへの
曝露が脳血管障害発症のリスクを高めること
1)
、女性の非正規労働者において組織的な手
続きの不公正が心理的苦悩の予測因子となる
こと 2)が示されている。
職場環境改善による職業性ストレス対策によ
り、メンタルヘルス不調や循環器疾患危険因
子が改善することが示されている 5)。
図1 職業性ストレスと脳血管障害発症の関係:職業階層による層別解析(男性)
職業階層の低い男性において、職業性ストレスが脳血管障害発症のリスクとなっていた。ただし、職業階層上位のグ
ループにおけるリスク増加は観察されなかった。(文献 3 より)
6
政策提言
①
労働者の健康の社会格差に対応する際、職業性ストレスを考慮に入れる必要がある。
②
雇用の不安定な仕事の増加、女性の労働市場への参加など、わが国の労働環境は急速に変化し
ている。職業階層と職業性ストレスおよび健康の関係を正確に把握するために、経時的に日本
人労働者のデータを蓄積していくことが必要である(モニタリングの必要性)。
③
産業保健サービスが行き届かない中小規模事業場向けのストレス対策を進める必要がある。
④
好ましくない就業環境(不安定な雇用状況、低い裁量権、不公正なシステム、低い報酬)に陥
らないような政策を取り入れていくことが望まれる。
図2 職業階層と重症精神障害相当の心理的ストレスとの関連
多重ロジスティック回帰分析(男性 6,048 名)によって、職業性ストレスを調整すると、職業階層下位に見られた過剰なリ
スクが消失する(矢印)
。職業階層によるメンタルヘルス不調の格差を、職業性ストレスが説明する可能性がある。
出典:Inoue A, Kawakami N, Tsutsumi A. Association of occupational class with serious mental illness of
Japanese employees: explanation from job stressors (J-HOPE). Symposium 2 Work, social class and health:
what are the Japanese characteristics? The International Conference on Social Stratification and Health 2013:
Interdisciplinary Research and Action for Equity, 31 August 2013, The University of Tokyo
参考文献
1) Tsutsumi A, Kayaba K, Ishikawa S. Impact of occupational stress on stroke across occupational classes
and genders. Soc Sci Med. 2011; 72: 1652-8.
2) Inoue A, Kawakami N, Tsuno K, et al. Organizational justice and psychological distress among permanent
and non-permanent employees in Japan: a prospective cohort study. Int J Behav Med. 2013; 20: 265-76.
3) Wada K, Kondo N, Gilmour S, Ichida Y, et al. Trends in cause specific mortality across occupations in
Japanese men of working age during period of economic stagnation, 1980-2005: retrospective cohort
study. BMJ. 2012; 344: e1191.
4) Inoue A, Kawakami N. Interpersonal conflict and depression among Japanese workers with high or low
.
socioeconomic status: findings from the Japan Work Stress and Health Cohort Study. Soc Sci Med. 2010;
71: 173-80.
5) Tsutsumi A, Nagami M, Yoshikawa T, et al. Participatory intervention for workplace improvements on
mental health and job performance among blue-collar workers: a cluster randomized controlled trial. J
Occup Environ Med. 2009; 51: 554-63.
7
4.生活習慣
キーメッセージ
・ 学歴、所得、職業等に伴う生活習慣の違い、すなわち、社会経済的に低い立場にある者
が、喫煙、飲酒、不適切な栄養摂取などの不健康な生活習慣を持ちやすいことが明らか
にされている。
・ これらの社会的格差は、がん、脳血管疾患、心臓病等の罹患や死亡の格差につながって
いることが予想される。
・ 全ての人に対して、さまざまなライフステージで、健康な生活習慣を確立させ、行動変
容を促す健康教育と保健指導を行うとともに、それを可能にする制度と健康を支援する
環境をつくる必要がある。
がん、心臓病、脳血管疾患などの生活習慣病
が、日本人の死亡や障害の原因の多くを占め
る。その原因となっている喫煙、飲酒、不適
切な食生活、身体活動の不足などの生活習慣
について、日本人を対象とした多くの研究で、
所得、教育年数、職業等の社会経済的要因と
の関連が明らかにされている 1)。
生活習慣を起因とする肥満、糖尿病、高血圧、
脂質異常症、メタボリック症候群等について
も、世帯の経済水準や学歴の低い者でその割
合が高く、女性においてその傾向は顕著であ
る 5)。この社会的格差は、循環器疾患やがん
等による死亡や障害の格差をもたらしている
ことが予想される。
死亡に最も大きく寄与する生活習慣である喫
煙については、所得が低いほど、教育年数の
低いほど、そして、勤務する事業所の規模が
小さいほど、喫煙率が高いことが多くの研究
で示されている。これらの関係性は国の調査
や個別な集団を対象にした調査にも共通する。
生活習慣には、健康に関する知識、自己効力
感、ライフスキルなどの個人特性に加えて、
家族や同僚・仲間の生活習慣、所属する集団・
コミュニティの文化的特徴(風土や規範)、個
人を取り巻く環境や専門家による支援などが
影響を与えている。たばこなどのある種の健
康リスク要因についての規制等は有効である
が、その影響は社会経済的属性によって異な
る。生活習慣は、個々に独立して存在するわ
けではなく、複数の不健康な生活習慣や健康
リスク行動が集積しやすい集団が認められる。
世帯の所得・家計支出や学歴が高いほど、野
菜、果物、食物繊維、各種ビタミンなどの摂
取量が多く、逆に、食塩の摂取量が少なく、
健康的な食事と推奨された栄養所要量を摂取
している 2—4)。
参考文献
1) Kagamimori S, Gaina A, Nasermoaddeli A. Socioeconomic status and health in the Japanese population.
Soc Sci Med. 2009; 68: 2152-60.
2) 厚生労働省.平成 22 年国民健康・栄養調査.
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h22-houkoku.html
3) Fukuda Y, Hiyoshi A. High quality nutrient intake is associated with higher household expenditures by
Japanese adults. Biosci Trends 2012; 6: 176-82.
4) Miyaki K, Song Y, Taneichi S, et al. Socioeconomic status is significantly associated with dietary salt
intakes and blood pressure in Japanese workers (J-HOPE Study). Int J Environ Res Public Health 2013;
10: 980-93.
5) Fukuda Y, Hiyoshi A. Associations of household expenditure and marital status with cardiovascular risk
factors in Japanese adults: analysis of nationally representative surveys. J Epidemiol 2013; 23: 21-7.
8
図1 世帯所得、学歴、事業所規模と喫煙率の関係
60%
学歴や世帯所得が低いほど、事業所の規模が大きいほ
ど喫煙をする人の割合は低い。
50%
喫煙者の割合

学歴:低=高卒以下、中=専門学校・短大卒、高

世帯所得(年収)
:低=500 万円未満、中=500
=大学卒以上
40%
30%
低・小
中
20%
高・大
~1000 万円未満、高=1000 万円以上

事業所規模:小=100 人未満、中=100~500
人未満、大=500 人以上・官公庁
(データソース:J-SHINE、25~59 歳)
10%
0%
男性
女性
学歴
男性
女性
世帯所得
男性
女性
事業所規模
政策提言
①
国や地方自治体の健康づくり施策に「格差」の視点を取り入れる。社会経済的要因による
生活習慣の格差の縮小を目標として掲げ、モニタリングを行う。
②
社会経済的な立場に関係なく全ての人に、かつ、社会経済的な属性を考慮し、健康的な生
活習慣を獲得・維持し、不健康な生活習慣を変容できるよう、生涯を通じ、ライフステー
ジに応じた健康教育、情報提供、保健指導を行う。
③
個人への働きかけに加えて、ポピュレーションアプローチ、ソーシャルマーケティング、
行動科学、行動経済学等の考え方を取り入れ、個人を取り巻く環境、集団、社会制度に対
して働きかける。例えば、職場等のコミュニティにおける健康を重視する風土・文化・規
範の醸成、健康的な行動を選択させ、健康リスク行動を回避させる規制や制度などがある。
④
不健康な生活習慣を持ちやすい集団を同定し、重点的な働きかけを行う。
敷地内禁煙の某大学の昼休み、並んで喫煙を
する工事作業員。日本人の全体の喫煙率は低
下しているが、喫煙する集団と喫煙しない集
団とが分れる傾向がある。喫煙などの健康関
連行動には、所得、学歴、職業などの社会経
済的要因が関連している。
9
5.疾病予防サービス
キーメッセージ
・ 健康診断、保健指導、予防接種など、さまざまな予防サービスにおいて、所得、職業、
学歴、医療保険種等によって、その利用に違いが認められる。
・ これらの違いは、利用者の知識や態度だけでなく、予防サービスの提供体制や利用に関
する環境が影響している。
・ 普及啓発とともに、経済的や時間的な障害をなくし、エビデンスの確かな予防サービス
を提供する制度の構築が必要とされる。
特定健診・保健指導、がん検診、歯科検診な
どにおいて、所得や学歴等の個人の社会経済
的特徴による利用の違いが示されている。所
得や学歴が低いほど、予防サービスの利用の
割合が低く、その格差は無視できないほど大
きい。
利用環境の違いに依存しており、その違いは
疾病の罹患率や死亡率に影響することが予想
される。例えば、胃がんについて、学歴や職
業階層が低い者は高い者に比較して予後が悪
く、がん検診の未受診による早期発見の遅れ
が要因のひとつとされる 5)。
予防接種など、小児等を対象にした予防サー
ビスにおいても、世帯の所得や親の学歴によ
るサービス利用の格差が認められる 1)。また、
地域の所得格差やソーシャル・キャピタルも
小児の予防接種と関係していることが示され
ている 2)。
予防サービスの必要性や利用方法等について
の普及啓発は必要であるが、サービスの利用
の向上とともに、格差の縮小には必ずしも効
果的でない場合がある。予防サービスの利用
に伴う経済的あるいは時間的コストも格差の
背景となっている。
雇用される事業所の規模、加入している保険
者の種類によって、特定健康診査を含む健康
診査、がん検診などの予防サービス利用の違
いがある。事業所規模が大きいほど(および
公務員で)、そして、健康保険組合加入者で利
用・受診率が高い 3)。予防的な歯科受診では
所得や学歴による違いは大きい 4)。所属する
職場や加入する医療保険による提供あるいは
都道府県や市町村によって健康診断の受診率
等が異なる。また、予防サービスの提供状況、
すなわち、健康診断の種類、補助の有無、自
己負担額、実施方法などに違いがある。十分
な科学的根拠(エビデンス)のない疾病予防
サービスの実施は、財源や人的・物的資源の
不適切な配分によって平等なサービスの提供
を妨げる。
参考文献
1) Ueda M, Kondo N, Takada M, Hashimoto H. Maternal work conditions, socioeconomic and educational
status, and vaccination of children: a community-based household survey in Japan. Prev Med. 2014;
66: 17-21.
2) Nagaoka K, Fujiwara T, Ito J. Do income inequality and social capital associate with measles-containing
vaccine coverage rate? Vaccine 2012; 30: 7481-8.
3) 福田吉治.がんの社会格差ー喫煙率とがん検診受診率を例にー.がん・統計白書 2012.篠原
出版新社.2012; pp. 258-63.
4) Murakami K, Aida J, Ohkubo T, et al. Income-related inequalities in preventive and curative dental care
use among working-age Japanese adults in urban areas: a cross-sectional study. BMC Oral Health.
2014; 14:117.
5) Kuwahara A, Takachi R, Tsubono Y, et al. Socioeconomic status and gastric cancer survival in Japan.
Gastric Cancer 2010; 13: 222-30.
10
図1 社会経済的要因による健康診断(過去 1 年間)の受診率
世帯所得(年) 雇用形態
0%
20%
40%
60%
80%
400万円未満
~500万円未満
~750万円未満
750万円以上
自営・家庭従事者
非正規社員
世帯所得、雇用形態、医療保険の種類によ
常時正社員
医療保険種
.
100%
り受診率が大きく異なる。
(データソース:J-SHINE、25~59 歳)
国民健康保険
共済組合保険
健康保険
図2 予防的歯科ケアの利用と所得・学歴との関連
利用割合(%・過去1年間)
利用割合(%・過去1年間)
40
30
20
10
0
第1グループ 第2グループ 第3グループ 第4グループ
(最も低い)
(最も高い)
40
30
20
10
0
高卒以下
所得グループ
短大
学
大学以上
歴
所得(左図、男性)
、学歴(右図、女性)とも、高いほど予防的歯科ケアの利用割合が高い。(文献4より)
政策提言
①
所得、学歴、職業、保険者に伴う予防サービス利用の格差をモニタリングし、その縮小を
政策的目標とする。
②
予防サービスの必要性と提供状況等に関する情報の提供と普及啓発をさまざまな方法で
行う。その際、対象者の特性を考慮した方法を用いる。
③
行政等からの費用補助、健康診断のための時間の確保など、予防サービスの利用に伴う経
済的、時間的な障害を小さくする。
④
格差の構造的背景となっている職場、地域、保険者等に関連する提供サービスの量と質の
格差を縮小する制度を構築する。
⑤
健康診断等の予防サービスの効果を検証する研究を推進し、得られた科学的根拠(エビデ
ンス)に基づき、効果の明らかなものに特化した予防サービスを効率的に提供する。
11
6.医 療
6.医 療
療
6.医
キーメッセージ
キーメッセージ
・
・ 医療へのアクセスを妨げる主要な要因は、地理的、経済的、社会文化的、知識・情報的
医療へのアクセスを妨げる主要な要因は、地理的、経済的、社会文化的、知識・情報的
キーメッセージ
キーメッセージ
な障壁である。
な障壁である。
・医療へのアクセスを妨げる主要な要因は、地理的、経済的、社会文化的、知識・情報的
医療へのアクセスを妨げる主要な要因は、地理的、経済的、社会文化的、知識・情報的
・
・ ・地理的障壁については、医療従事者の増加により改善しつつあるが、医師とそれ以外の
地理的障壁については、医療従事者の増加により改善しつつあるが、医師とそれ以外の
な障壁である。
な障壁である。
職種に対するアクセスの改善度合い(地理的分布)には違いがある。
職種に対するアクセスの改善度合い(地理的分布)には違いがある。
・地理的障壁については、医療従事者の増加により改善しつつあるが、医師とそれ以外の
地理的障壁については、医療従事者の増加により改善しつつあるが、医師とそれ以外の
・
・ ・経済的障壁については、
経済的障壁については、
世帯所得と受診時自己負担額が影響を与えており、
世帯所得と受診時自己負担額が影響を与えており、予防、
予防、外来、
外来、
職種に対するアクセスの改善度合い(地理的分布)には違いがある。
職種に対するアクセスの改善度合い(地理的分布)には違いがある。
入院、症状の軽重によってその影響の度合いは異なる。
入院、症状の軽重によってその影響の度合いは異なる。
・経済的障壁については、
経済的障壁については、
世帯所得と受診時自己負担額が影響を与えており、
予防、
外来、
世帯所得と受診時自己負担額が影響を与えており、
予防、
外来、
・
・ ・近年、医療費自己負担が増加していることから、経済的要因による医療アクセスへの影
近年、医療費自己負担が増加していることから、経済的要因による医療アクセスへの影
入院、症状の軽重によってその影響の度合いは異なる。
入院、症状の軽重によってその影響の度合いは異なる。
響をモニタリングする必要がある。
響をモニタリングする必要がある。
近年、医療費自己負担が増加していることから、経済的要因による医療アクセスへの影
・・近年、医療費自己負担が増加していることから、経済的要因による医療アクセスへの影
響をモニタリングする必要がある。
響をモニタリングする必要がある。
一方、歯科医師の地理的分布は、歯科医師数
一方、歯科医師の地理的分布は、歯科医師数
医師数増加と
医師数増加と
1961
1961 年の皆保険達成により、
年の皆保険達成により、
の増加に伴って市町村レベルにおいても改善
の増加に伴って市町村レベルにおいても改善
都道府県レベルでみた医師の都市圏(富裕地
都道府県レベルでみた医師の都市圏(富裕地
1)
1)
一方、歯科医師の地理的分布は、歯科医師数
一方、歯科医師の地理的分布は、歯科医師数
している
医師数増加と
1961
年の皆保険達成により、している
医師数増加と
1961
年の皆保険達成により、
。
。
看護師の地理的分布についても、
看護師の地理的分布についても、
域)への集中は改善している。しかし、より
域)への集中は改善している。しかし、より
の増加に伴って市町村レベルにおいても改善
の増加に伴って市町村レベルにおいても改善
都道府県レベルでみた医師の都市圏(富裕地 診療報酬改定の影響による変動はあるものの、
都道府県レベルでみた医師の都市圏(富裕地
診療報酬改定の影響による変動はあるものの、
小さな区域(二次医療圏、市町村)レベルで
小さな区域(二次医療圏、市町村)レベルで
1-2)
1-2)
1) 1)
。
。 看護師数増加によって全般に改善している。
看護師数増加によって全般に改善している。
みた医師の分布はあまり改善していない
みた医師の分布はあまり改善していない
している
している
。看護師の地理的分布についても、
域)への集中は改善している。しかし、より
。看護師の地理的分布についても、
域)への集中は改善している。しかし、より
また、医師不足が顕在化している診療科があ
また、医師不足が顕在化している診療科があ
診療報酬改定の影響による変動はあるものの、
小さな区域(二次医療圏、市町村)レベルで
診療報酬改定の影響による変動はあるものの、
小さな区域(二次医療圏、市町村)レベルで
経済的障壁は、
経済的障壁は、1961
1961 年の皆保険達成および
年の皆保険達成および
1-2)
1-2)
る。なお、極端な医師不足地域について改善
る。なお、極端な医師不足地域について改善
看護師数増加によって全般に改善している。
みた医師の分布はあまり改善していない 。。 看護師数増加によって全般に改善している。
みた医師の分布はあまり改善していない
1973
1973 年の老人保健制度施行
年の老人保健制度施行(あるいはそれ
(あるいはそれ
が認められ、自治医科大学などの奨学システ
が認められ、自治医科大学などの奨学システ
また、医師不足が顕在化している診療科があ
また、医師不足が顕在化している診療科があ
経済的障壁は、
1961
年の皆保険達成および
経済的障壁は、
1961
年の皆保険達成および
に先行する一部の自治体における老人医療費
に先行する一部の自治体における老人医療費
る。なお、極端な医師不足地域について改善
る。なお、極端な医師不足地域について改善
ムが効果を上げている。医療過疎地で診療活
ムが効果を上げている。医療過疎地で診療活
4)
4)
。とり
。とり
無料化)により、大きく軽減された
無料化)により、大きく軽減された
1973
年の老人保健制度施行
(あるいはそれ
1973
年の老人保健制度施行
(あるいはそれ
が認められ、自治医科大学などの奨学システ
が認められ、自治医科大学などの奨学システ
動をする医師の特徴として、非都市部出身で
動をする医師の特徴として、非都市部出身で
に先行する一部の自治体における老人医療費
わけ、
わけ、
高齢者層の医療受診は大きく増加した。
高齢者層の医療受診は大きく増加した。
に先行する一部の自治体における老人医療費
あること、公立校出身であること、当初の就
あること、公立校出身であること、当初の就
ムが効果を上げている。医療過疎地で診療活
ムが効果を上げている。医療過疎地で診療活
4) 4)
。とり
。とり
無料化)により、大きく軽減された
無料化)により、大きく軽減された
しかし、1980 年代後半以降、医療へのアク
年代後半以降、医療へのアク
動をする医師の特徴として、非都市部出身で しかし、1980
動をする医師の特徴として、非都市部出身で
業地が非都市部であること、プライマリケア
業地が非都市部であること、プライマリケア
わけ、
高齢者層の医療受診は大きく増加した。
わけ、
高齢者層の医療受診は大きく増加した。
セスは、繰り返される自己負担増や経済格差
あること、公立校出身であること、当初の就 セスは、繰り返される自己負担増や経済格差
あること、公立校出身であること、当初の就
指向であることが示唆されている。医師不足
指向であることが示唆されている。医師不足
5)
5)
拡大により悪化している可能性がある
。入
。入
の科の特徴として、長時間の診療や時間的拘
の科の特徴として、長時間の診療や時間的拘
しかし、1980
年代後半以降、医療へのアク
しかし、1980
年代後半以降、医療へのアク
業地が非都市部であること、プライマリケア 拡大により悪化している可能性がある
業地が非都市部であること、プライマリケア
3)
3)
セスは、繰り返される自己負担増や経済格差
セスは、繰り返される自己負担増や経済格差
指向であることが示唆されている。医師不足
院については、種々の医療費助成や高額療養
院については、種々の医療費助成や高額療養
指向であることが示唆されている。医師不足
束、訴訟の多いことが指摘されている
束、訴訟の多いことが指摘されている
。
。
5) 5)
拡大により悪化している可能性がある
拡大により悪化している可能性がある
。入
。入
の科の特徴として、長時間の診療や時間的拘 費制度により、アクセスの良さが比較的保た
費制度により、アクセスの良さが比較的保た
の科の特徴として、長時間の診療や時間的拘
近年、二次医療圏レベルで人口対医師数の改
近年、二次医療圏レベルで人口対医師数の改
3) 3)
れている。今後、予防や治療、疾患の種類や
院については、種々の医療費助成や高額療養
院については、種々の医療費助成や高額療養
束、訴訟の多いことが指摘されている。。 れている。今後、予防や治療、疾患の種類や
束、訴訟の多いことが指摘されている
善がみられるが、これは医師数増よりも人口
善がみられるが、これは医師数増よりも人口
費制度により、アクセスの良さが比較的保た
費制度により、アクセスの良さが比較的保た
重症度等により、適正な自己負担と医療費助
重症度等により、適正な自己負担と医療費助
減による。今後
減による。今後
20
20 年間で多くの二次医療圏
年間で多くの二次医療圏
近年、二次医療圏レベルで人口対医師数の改
近年、二次医療圏レベルで人口対医師数の改
れている。今後、予防や治療、疾患の種類や
れている。今後、予防や治療、疾患の種類や
成のあり方が検討されるべきである。
成のあり方が検討されるべきである。
善がみられるが、これは医師数増よりも人口
善がみられるが、これは医師数増よりも人口
で人口が減少し、二次医療圏間の人口格差が
で人口が減少し、二次医療圏間の人口格差が
重症度等により、適正な自己負担と医療費助
重症度等により、適正な自己負担と医療費助
減による。今後
20
年間で多くの二次医療圏
減による。今後
20
年間で多くの二次医療圏
さらに拡大すると予測されている。
さらに拡大すると予測されている。
成のあり方が検討されるべきである。
成のあり方が検討されるべきである。
で人口が減少し、二次医療圏間の人口格差が
で人口が減少し、二次医療圏間の人口格差が
さらに拡大すると予測されている。
さらに拡大すると予測されている。
参考文献
参考文献
1)
1)
2)
2)
3)
3)
4)
4)
5)
5)
Toyokawa
Toyokawa S,
S, Kobayashi
Kobayashi Y.
Y. Increasing
Increasing supply
supply of
of dentists
dentists induces
induces their
their geographic
geographic diffusion
diffusion in
in contrast
contrast with
with
physicians
physicians in
in Japan.
Japan. Soc
Soc Sci
Sci Med
Med 2010;
2010; 71:
71: 2014-9.
2014-9.
参考文献
参考文献
Tanihara
Tanihara S,
S, Kobayashi
Kobayashi Y,Y, Une
Une H,
H, et
et al.
al. Urbanization
Urbanization and
and physician
physician maldistribution:
maldistribution: aa longitudinal
longitudinal study
study in
in
Toyokawa
S, Kobayashi
Y. Increasing
supply
dentists
induces
their
geographic
diffusion
in contrast
with
1) 1) Toyokawa
S, Kobayashi
Y. Increasing
supply
of of
dentists
induces
their
geographic
diffusion
in contrast
with
Japan.
Japan. BMC
BMC Health
Health Serv
Serv Res
Res 2011;
2011; 11:
11: 260.
260. ..
physicians
in Japan.
Med
2010;
2014-9.
physicians
in Japan.
SocSoc
SciSci
Med
2010;
71:71:
2014-9.
Matsumoto
Matsumoto M,
M, Inoue
Inoue K,
K, Kajii
Kajii E.
E. Characteristics
Characteristics of
of medical
medical students
students with
with rural
rural origin:
origin: Implications
Implications for
for
Tanihara
S, Kobayashi
Y, Une
Urbanization
and
physician
maldistribution:
a longitudinal
study
2) 2) Tanihara
S, Kobayashi
Y, Une
H, H,
et et
al. al.
Urbanization
and
physician
maldistribution:
a longitudinal
study
in in
selective
selective admission
admission policies.
policies. Health
Health Policy
Policy 2008;
2008; 87:
87: 194-202.
194-202.
Japan.
BMC
Health
Serv
2011;
260.
Japan.
BMC
Health
Serv
ResRes
2011;
11:11:
260.
. .
Ikegami
Ikegami N,
N, Yoo
Yoo BK,
BK, Hashimoto
Hashimoto H,
H, et
et al.
al. Japan:
Japan: Universal
Universal Health
Health Care
Care at
at 50
50 Years
Years 2:
2: Japanese
Japanese universal
universal health
health
Matsumoto
Inoue
K, Kajii
E. Characteristics
medical
students
with
rural
origin:
Implications
3) 3) Matsumoto
M,M,
Inoue
K, Kajii
E. Characteristics
of of
medical
students
with
rural
origin:
Implications
forfor
coverage:
coverage: evolution,
evolution, achievements,
achievements, and
and challenges.
challenges. Lancet
Lancet 2011;
2011; 378:
378: 1106-15.
1106-15.
selective
admission
policies.
Health
Policy
2008;
194-202.
selective
admission
policies.
Health
Policy
2008;
87:87:
194-202.
豊川智之、村上慶子、兼任千恵、小林廉毅.医療サービスへのアクセスと水平的公平性.医療と社
豊川智之、村上慶子、兼任千恵、小林廉毅.医療サービスへのアクセスと水平的公平性.医療と社
Ikegami
Hashimoto
Japan:
Universal
Health
Care
Years
Japanese
universal
health
4) 4) Ikegami
N, N,
YooYoo
BK,BK,
Hashimoto
H, H,
et et
al. al.
Japan:
Universal
Health
Care
at at
5050
Years
2: 2:
Japanese
universal
health
会
会 2012;
2012; 22:
22: 69-78.
69-78.
coverage:
evolution,
achievements,
and
challenges.
Lancet
2011;
378:
1106-15.
coverage:
evolution,
achievements,
and
challenges.
Lancet
2011;
378:
1106-15.
豊川智之、村上慶子、兼任千恵、小林廉毅.医療サービスへのアクセスと水平的公平性.医療と社
5) 5) 豊川智之、村上慶子、兼任千恵、小林廉毅.医療サービスへのアクセスと水平的公平性.医療と社
2012;
69-78.
会会
2012;
22:22:
69-78.
12
図 1 日本における年齢別外来受診率の年次推移(1950 年~2005 年)
1961 年の皆保険達成および 1973 年の
老人保健制度施行により特に高齢者の医
療受診が大きく増加し、
医療の経済的障壁
療受診が大きく増加し、医療の経済的障
が軽減された。
(文献
4 より)
壁が軽減された。
(文献
4 より)
表 1 医療へのアクセスについての集中度指標と水平的不公平指標
医療へのアクセスを集中度指標と水平的
不公平指標で評価したところ、
外来および
不公平指標で評価したところ、外来およ
定期的外来において相対的に低所得層の
び定期的外来において相対的に低所得層
アクセスが低かった。
一方、入院へのアク
のアクセスが低かった。一方、入院への
セ
スは低所得層において高かった。
アクセスは低所得層において高かった。
(J-SHINE に基づく。文献 5 より)
政策提言
① 医療へのアクセス改善のため、医師の地理的偏在の改善や医師不足の診療科への支援の方策
を検討する必要がある。地域枠や奨学制度の活用、へき地で勤務する医師を支援する体制の
を検討する必要がある。自治医大が一定の成果を上げていることから、地域枠や奨学制度の
構築が有効であろう。
活用、へき地で勤務する医師を支援する体制の構築が有効であろう。
② 各地域の高齢化の状況を想定した医療従事者の適正な養成数および人材動員の検討を行う。
その際、地域間移動の大きい職種(医師等)と少ない職種(看護師等)を勘案すべきである。
③ 医療へのアクセスのみならず、生活の利便等から住民の集住化も検討すべきである。
④ 近年、医療費自己負担が増加していることから、経済的要因による医療アクセスへの影響を
モニタリングする必要がある。また、世帯所得に応じた、自己負担の軽減措置(免除、助成)
を検討して行く必要がある。
13
7.ソーシャル・キャピタル
キーメッセージ
・ 個人および地域レベルのソーシャル・キャピタル(Social Capital; SC)が、個人レベ
ルの人口学的・社会経済的特性の影響を統制しても、健康度自己評価や精神的健康、孤
独感に影響を及ぼしている。
・ SC が健康や孤独感に与える効果は、青壮年者よりも高齢者において顕著にみられる可
能性が高い。
・ 地域レベルの SC が階層による健康格差を緩衝する可能性も示唆される。
・ ボランティア集団や NPO の活動状況を地域ごとに把握する地区診断を行うとともに、
地域特性に応じた SC の醸成を目指す介入方法を構築する必要がある。
SC は、個人と地域の二つのレベルに分けて
議論される。個人レベルの SC は、人々が何
らかの行為をするために活用するネットワー
クに埋め込まれた資源と捉えられ、具体的に
「結合型(同じ属性をもった人との関係)」と
「橋渡し型(異なる属性をもった人との関係)」
といったネットワークの特質に着目して測定
される。地域レベルの SC は、自治体や学区
レベルでの信頼・互酬性の規範・ネットワー
クなどの特徴として捉えられ、具体的に、集
団参加や近隣関係などのフォーマル/インフ
ォーマルなつながりといった構造的側面、サ
ポートや社会的凝集性(信頼・互酬性)など
の認知的側面に着目して測定される 1)。
いて、青壮年者では、友人と集団参加のいず
れも結合型の SC が橋渡し型と比較して健康
度自己評価の向上に貢献していたが、高齢者
では、近隣については、橋渡し型の方が健康
度自己評価の向上に貢献していた(図 1)。
2)地域レベルの SC と精神的健康について、
ボランティア集団参加率が高い地域に住んで
いる者ほど精神的健康が良かった。また、地
域レベルのボランティア集団参加と学歴の交
互作用項が有意であった。この効果は、学歴
による精神的健康の格差が、ボランティア集
団参加率が高い地域では小さいことを示して
いた(図 2)
。
3)地域レベルの SC と孤独感について、高
齢者と青壮年者に分けて分析した結果、社会
的凝集性は高齢者でのみ孤独感と関連が見ら
れた。つまり、青壮年者よりも高齢者の方が
地域レベルの SC の影響を受けやすいことが
示唆された。ただし、全体的に健康や孤独感
の地域差は大きいものではなく、個人レベル
の要因に規定される部分が大きかった。
近年、日本でも SC が豊かな地域に住んでい
る者ほど身体的・精神的健康状態が良好であ
るという実証研究が報告されている 2-4)。
本研究班が実施した「30 自治体調査」の主
なエビデンスは、次の三点である。
1)個人レベルの SC と健康度自己評価につ
参考文献
1) イチロー・カワチ,S. V .スブラマニアン,ダニエル・キム.ソーシャル・キャピタルと健康.日
本評論社.2008.
2) Fujisawa Y, Hamano T, Takegawa S. Social capital and perceived health in Japan: An ecological and
multilevel analysis. Soc Sci Med 2009; 69: 500-5.
3) Hamano T, Fujisawa Y, Ishida Y, et al. Social capital and mental health in Japan: a multilevel analysis. PLoS
ONE 2010; 5(10): 1-6.
4) Ichida Y, Kondo K, Hirai H, et al. Social capital, income inequality and self-rated health in Chita peninsula,
Japan: a multilevel analysis of older people in 25 communities. Soc Sci Med 2009; 69: 489-99.
14
図1
個人レベルのソーシャル・キャピタルと健康度自己評価の関連(高齢者)
縦軸は得点が高いほど、健康度自己評価が高いこと
を示す。性、世帯年収、通院の有無の影響を統制し
た値を表示した。近隣関係が「橋渡し型(異なる属
性をもった人との関係)
」の人の方が、
「結合型(同
じ属性をもった人との関係)」の人よりも健康度自
己評価が高い。
(データソース:30 自治体調査、65 歳以上)
図2
精神的健康に対する地域レベルのソーシャル・キャピタルと学歴の交互作用効果
ボランティア集団の参加率 (地域レベル)
4.35
精神的健康の得点
低
中
高
4.08
3.81
縦軸は得点が高いほど、精神的健康が悪いこと
を示す。横軸の教育年数は、中心化を行った値
である。ボランティア集団参加率が高い地域で
3.54
は、学歴による精神的健康の格差が小さい。
(データソース:30 自治体調査)
3.27
-4.03
-2.28
-0.53
1.22
2.97
教育年数 (個人レベル)
政策提言
①
各自治体で活動を展開している町内会、ボランティア集団や NPO の活動状況を地域(日常
生活圏域など)ごとにデータベース化し、定量的/定性的な地区診断を行う。
②
どのような文脈的要因、歴史的背景、組織間ネットワークが地域レベルのソーシャル・キ
ャピタルの水準を規定しているのかを明らかにし、ソーシャル・キャピタルの醸成を目指
すプログラムに必要な条件を探る。
③
健康問題の解決に必要なソーシャル・キャピタルの機能や特性を明確にするために、ソー
シャル・キャピタルがどのように健康情報/行動の伝達に寄与しているのか、どのように
情緒的サポートやセルフ・エスティーム(自己効力感)の源泉として機能しているのかな
どのエビデンスを構築する。
④
低階層の人々は資源へのアクセスが情報的・心理的障壁によって妨げられており、それら
を解消することなしに対策はたたない。地域包括支援センターや社会福祉協議会を中心に、
ソーシャル・キャピタルの機能の何を利用した介入か、それを明示化した介入方法の開発
が必要である。
15
8.女性の健康
キーメッセージ
・ 日本においては、女性は男性に比べて貧困に陥りやすい。その結果、女性は貧困の健康
に対する悪影響を受けやすい傾向がある。
・ 「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業の強い日本社会では、働く女性はワークラ
イフ・バランス(仕事と生活の調和)の達成に困難をかかえやすく、このことが健康に
影響する。
・ 性別によって期待される役割が異なることによって、社会階層、生活環境や働き方が健
康に与える影響は、男性と女性で異なる場合があることに注意する必要がある。
る研究では、正規雇用労働者と比較した場合、
男性はパートタイム労働者(非正規雇用)の
精神的健康が悪いのに対し、女性はパートタ
イムではなく派遣・契約社員の精神的健康が
悪い傾向が見出された 4)。男性のパートタイ
ム労働者の精神的健康が悪いのは、低賃金で
雇用が不安定なパートタイム労働が“男は働
いて家計を支える”という性別役割分業意識
と強い葛藤を引き起こすためと考えられる。
一方、女性の派遣・契約社員の精神的健康が
低いのは、派遣・契約社員として働く女性が
抱える正社員との待遇の違いに対する不満や
正社員としての雇用を希望しているのにそれ
が実現できないことによる不安が背景にある
ため考えられる。
日本においては、女性の方が低賃金で雇用が
不安定な非正規雇用につきやすいことなどか
ら、貧困率は男性より女性の方が高い傾向が
ある(特に単身世帯の高齢女性や母子世帯)
1)
。貧困は様々な面で健康に悪影響を及ぼす。
したがって、女性の貧困率が高いことは、女
性の方が健康上の悪影響にさらされやすいこ
とを意味する。肥満や高血圧などの循環器疾
患のリスク要因に対する経済状態の影響を調
べた研究では、女性は男性よりも経済状態が
悪い(家計支出額が低い)ことの悪影響を強
く受けることが明らかになっている 2)。
日本における女性の健康を考える際には、ワ
ークライフ・バランス(仕事と生活の調和)
も重要である。日本の地方公務員を対象とし
た研究では、女性の精神的健康は男性より悪
いことが明らかになった。この原因のひとつ
に、女性の家庭外就労が進んでいる一方で、
家庭での家事や育児の役割の担い手が依然と
して女性に偏っていることにより、働く女性
のワークライフ・バランス実現が困難である
ことが挙げられる 3)。
このように、社会的要因の健康への影響が男
女で異なり、女性の方が不利な影響を受けや
すい場合があるのは、日本社会における人び
との働き方・雇用環境やライフスタイルが男
女で異なること、特に“男は仕事、女は家庭”
という性別役割分業に由来する男女差が大き
いことが原因と考えられる。この観点から社
会階層と健康の関係を注視すると共に、性別
に関わらず、より働きやすく・生活しやすい
社会の実現を目指すことが求められる。
また、職業や雇用の健康への影響は男女で異
なる場合がある。労働者の精神的健康に関す
参考文献
1) 内閣府.男女共同参画白書(平成 22 年度版)
.2010
2) Fukuda Y, Hiyoshi A. Associations of household expenditure and marital status with cardiovascular risk
factors in Japanese adults: analysis of nationally representative surveys. J Epidemiol 2013; 23: 21-7.
3) Sekine M, Chandola T, Martikainen P, et al. Sex differences in physical and mental functioning of Japanese
civil servants: explanations from work and family characteristics. Soc Sci Med 2010; 71:2091-9.
4) Inoue A, Kawakami N, Tsuchiya M, et al. Association of occupation, employment contract, and company size
with mental health in a national representative sample of employees in Japan. J Occup Health 2010; 52:
227-40.
16
図 1 家計支出と循環器疾患のリスク要因の関係
第1グループ(低支出)
第3グループ
第2グループ
第4グループ(高支出)
2
循環器疾患のリスク要因に対す
る家計支出の影響(支出額に基づ
る家計支出の影響(支出額に基づ
1.5
いて 4 グループに分類。最も支出
の多い第 4 グループを 1 とした
1
時のオッズ比。肥満、高血圧、空
腹時血糖のいずれにおいても、女
0.5
性において収入の影響がはっき
性において支出の影響がはっき
り確認できる。
(文献 2 より)
0
男性
女性
男性
肥満
女性
男性
高血圧
女性
高空腹時血糖
図 2 精神的健康と雇用形態
正規雇用
パートタイム(非正規雇用)
1.4
契約社員・臨時雇用
精 1.2
神
的 1
健 0.8
康
0.6
悪 0.4
い
0.2
その他
精神的健康(K6 で 5 点以上)に対
(
する雇用形態のオッズ比(正規雇用
を 1 とした場合)
。男性ではパート
タイムのオッズ比が高いのに対し、
)
女性では契約社員・臨時雇用のオッ
ズ比が高い。(文献 4 より)
0
男性
女性
政策提言
① 経済的に困難な状況に陥った人へのセーフティネットを強化し、女性の貧困を減少させる。
② 働く人のワークライフ・バランスを実現するための働きかけを行う。具体的には、残業時間
の削減(特に男性)、育児・介護休業の充実(特に男性)、家庭における男性の育児・家事参
加の推進など。
③ 非正規雇用労働者の雇用環境を改善し、より安心して働ける環境を整える。特に、待遇の改
善(同一労働同一賃金の実現)と、非正規雇用から正規雇用への移行を促進する制度的サポ
ートが重要である。
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