ゼミナール∼環境・CSR∼ 【経済的・社会的価値の融合に向けて の企業 ‐ NGO パートナーシップ】 ~途上国におけるインパクトを最大化するための戦略とは~ CAREフランス事務局長 フィリップ・レヴェック氏 私は、企業で の勤務経験を経 て現在、世界最 大の国際協力 NGO の ひ と つ 「 CARE 」のフラ ンス事務所で働 いています。企 業と NGO をどう 5 11 企業と NGO(非政府組織)の価値ある社会貢献のための協力関係とはーー。 (主 Cash & Sales と Care & Solidarity 両立の時代へ」 催:財団法人ケア・インターナショナル ジャパン)より、企業と国際 NGO の戦略的パートナーシップの海外での最新事例を紹介した講演を採録する。 月 日、 東 京・ 新 宿 の 大 成 建 設 大 ホ ー ル で 開 催 さ れ た フ ォ ー ラ ム 「 Strategic Philanthropy Forum 2009 ~ 東京・新宿の大成建設大ホール (構成・フリーランスライター・井上理江) 今、問われる企業と NGO のパートナーシップ 「戦略的な社会貢献」が新たな価値を生み出す (財)ケア・インターナショナル ジャパンがStrategic Philanthropy Forum 2009 結びつけるかと いうことには常 に大きな関心を 抱いており、企 業との協働をよ り推進したいと ^ 考えています。 実際に、大手の多国籍企業が世界各地の貧困など の問題にどう取り組んでいるか、私たち CARE フ ランスが協力した戦略的パートナーシップの 4 つの 具体例を紹介したいと思います。 ■エイズ対策で費用対効果の分岐点を算出 フランスを拠点に事業の国際展開を行うセメント 会社ラファージュは、数年前にイギリスのセメント 会社を買収して世界最大のセメント会社となりまし た。最初の事例として、同社のアフリカでのエイズ 対策についてご紹介します。 同社は南アフリカやケニア、タンザニア、西アフ リカなどアフリカ地区に多くの拠点を持っています が、この地域の 10%以上の従業員がエイズの原因で ある HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染していま す。 64 | 地球環境 2009 年 8 月号 , 【 PROFILE 】Philippe Leveque IBM など IT 企業のマーケティング部門の要 職、国際 NGO「世界の医療団 ( メドゥサン・ デュ・モンド)」で事務局長代理やファンドレ イジング部長を歴任して現職。フランスの 複数のグローバル企業でステークホルダー 委員を務めるなど、企業と NGO の戦略的 パートナーシップに積極的に携わっている。 ゼミナール ∼環境・CSR∼ 2002 年、この会社から「当社ではアフリカの多く から無償資金を得られるようになり、現在のコスト の従業員が HIV に感染している。彼らに治療薬を は当初の半分の年間 100 万米ドルとなっています。 届けるのがわが社の義務だと思うので、協力してほ 毎年 12 月 1 日は世界エイズデーとして知られて しい」という相談がありました。私は「それは素晴 いますが、2 年前のこの日、フランス最大のテレビ らしいことです。でもそれには非常にコストがかか 局がゴールデンタイムの夜 8 時に放映される有名な りますし、十分な対策でもありません。ビジネスと ニュース番組で、3 分間にわたって同社のエイズに いう観点から、この問題について一緒に考えましょ 対する取り組みを紹介し、社会的に大きな反響を呼 う」と答えました。 びました。 そこから、CARE フランスと同社との間で話し合 3 年前から、ラファージュから CARE フランスへ いが始まりました。まず我々は、エイズで亡くなっ は、年間 8 万ユーロの支援が行われています。この た従業員の人数を集計し、それに伴って生じる新た 支援は昨年 12 月に更新時期を迎え、世界不況の影 な雇用にかかる人件費などのコストについて計算し 響により打ち切られるのではないかと我々は非常に ました。そこからコストと費用対効果の分岐点を割 心配したのですが、今後 3 年間の継続が決まり、さ り出した結果、1 人の従業員につき扶養家族を含め らに支援額が倍増されることになりました。このこ て合計 7 人まで、エイズに関する医療的なケアが可 とは、企業側がこの支援について、社会的にも経済 能なことが明らかになりました。 的にも大きな価値を認めていることの現れだと思い 最初の話し合いから 7 年経ちましたが、現在まで ます。 に 7000 人の従業員がエイズに関する情報を入手し エイズ問題への取り組みをきっかけに、CARE フ 自 主 的 に HIV 検 査 を 受 け た ほ か、2007 年 に は、 ランスとラファージュの関係はさらに密接になりま 1388 人の従業員とその扶養家族、および地域の人々 した。同社では「持続可能な開発委員会」を設置し が HIV に関する無料の医療ケアを受けており、500 ていますが、年 2 回開催される会議にはラファー 人が HIV の増殖を抑える抗レトロウイルス薬の処 ジュの CEO(最高経営責任者)をはじめとした役員、 方を受けています。 CARE からは私やそのほかの理事が出席して、エイ この事例は、CSR(企業の社会的責任)は単に道 ズに限らず、持続可能な開発にかかわるさまざまな 義的な観点からだけでなく、ビジネス的なアプロー 議題について話し合いが行われています。不正や汚 チが可能なことを示しています。プログラムはス 職など、数年前まで NGO と企業の間で話題にのぼ タートした当初、年間 200 万米ドルのコストがかか るとはとても考えられなかったような大きな問題に りました。その後成功を収めることで他の国にも広 ついても、話し合うようになっています。 がり、その結果、国連の世界エイズ・マラリア基金 ■都市で働く銀行員が途上国で現地活動 次に紹介するのは、フランス最大級の銀行、ソシ エテ ジェネラルのケースです。我々は 2007 年に この銀行から相談を受けました。その時に人事部長 が私に言ったのは「うちの銀行は、世界中の都市で たくさんの若い行員が働いている。彼らはとても若 く、多くのお金を稼いでいるけれど、頭ばかりが先 行してしまい、心の成長が伴っていない」というこ とでした。 そこで私たちが提案したのが、世界の貧しい人た ちを支援する教育プログラムに、行員たちが実際に 世界的なセメント会社、ラファージュはアフリカで働く従業員のエイズ 問題に積極的に取り組んでいる 参加するプロジェクトでした。3 年以上の期間にわ 地球環境 2009 年 8 月号 | 65 ゼミナール ∼環境・CSR∼ 購買層をピラミッドにたとえるなら、富裕な上層 部に対するマーケティングはよく行われています。 しかし、今は限られた所得しかなくても、底辺部に 位置する層が、明日の有望なマーケットとなる可能 性が十分あります。そうした観点から、この 2 社は 数年前から、アジア・アフリカ地域でピラミッドの 底辺にあたる人たちへのマーケット拡大、販売促進 活動を展開しています。 バングラデシュでは農村地域の貧しい人々を対象 に、バータは低価格の靴、ユニリーバは少額で買え ソシエテ ジェネラル銀行では、世界の都市で働く行員たちが途上国で の教育プログラムに参加 る 1 回分ずつパックされたシャンプーやボディク たり、100 万ユーロをかけて、ペルー、マリ、バン り地元の貧しい人々で、ほとんどが女性です。 グラデシュで 3 つの教育プログラムが行われまし バングラデシュには低所得者に少額の資金を貸し た。 付けるマイクロファイナンスを行う「グラミン銀行」 我々は事前にアジア、アフリカ、南アメリカそれ があり、CARE はこのマイクロファイナンスを支援 ぞれから 2 つずつ、計 6 つのプログラムを用意しま しています。販売の方法は、この事業にかかわる各 した。そこから社内のイントラネットを通じて、行 地域のスタッフがきめ細かく教えています。 員自身による投票により、どの国でプログラムを実 今では、バングラテシュで 1000 人以上の女性が 施するかが決められました。 販売員として活動しており、順調に拡大中です。ほ また、行員たちが主催するチャリティーイベント かの企業や国にもこうした「ピラミッドの底辺」に などが多数行われて、彼らが自主的に、社会貢献に 販促活動を行う動きは広がっており、乳製品などを 参加するという当初の目的が果たされています。世 製造する食品メーカーのダノン社も、低価格のヨー 界の各都市で働く行員たちの中でも特に優秀な取り グルトを農村地域で販売し始めています。 組みを行った行員が選ばれ、途上国でのさまざまな こういった活動が浸透するには時間が必要です 教育プログラムに参加しました。 上の写真は、ニュー が、バングラデシュはマイクロファイナンスが盛ん ヨークで働く中国系とインド系の行員が、バングラ なところなので、こうした販促活動を行うのに適し デシュで活動しているところです。 た環境と言えます。こうした活動は企業にとっては な お、 ソ シ エ テ ジ ェ ネ ラ ル は、 協 力 相 手 の 潜在マーケットの発掘に貢献するとともに、現地で NGO に対して何を求めるかをあらかじめ明確にし は女性の雇用拡大、地位向上につながっています。 リームなどを販売しています。商品を売るのもやは ており、 4つのNGOにプレゼンテーションを依頼し、 その中から最も自分たちの希望に添う NGO として、 我々を選定しました。その手法はビジネスでサプラ イヤーを選ぶ場合とほとんど同様で、社会貢献に対 しても、非常に戦略的なアプローチをとっているの が印象的でした。 ■「ピラミッドの底辺」の市場を開拓 3 番目に紹介するのは、世界に店舗展開を行う靴 メーカーのバータと、シャンプーなどの日用品メー カー、ユニリーバの例です。 66 | 地球環境 2009 年 8 月号 バングラデシュでは靴メーカー、バータ社が低所得者向けの販促活動を 行っている。写真は販売の方法を地元の女性たちに教えている様子 ゼミナール ∼環境・CSR∼ ■ NGO と企業がフラットな立場で協力 べての人々が何らかの恩恵を受けられることです。 最後に紹介するのは、世界にコーヒー店を展開す 3 番目が公平でフラットな関係を作ることです。 るスターバックスコーヒーです。同社は 1991 年か NGO は企業に寄付を乞う側、企業は NGO に施しを らの長期計画で CARE と協力しており、世界中ど する側といったようにどちらかが優位に立つのでは のスターバックスの店にも、その協力を紹介したパ なく、NGO と企業が対等な立場で、価値ある社会 ンフレットが置いてあります。我々とスターバック 貢献を目指して協力関係を作り上げて行くことが大 スが行った最新のプロジェクトは、質の高いコー 切です。 ヒーの産地として知られるエチオピアの農村地帯、 してはいけないことの第一が、「グリーンウォッ 西ハラレ地域で行われました。 シング」(greenwashing) です。これは、消費者など 年間に 50 万ドルの資金を投じた 3 年計画のプロ に受けがいいよう、環境保全活動に対して見せかけ グラムでは、6000 人以上の地域住民に対して経済 だけの支持姿勢を示すために企業が行う表面的な寄 状態の向上と教育機会を提供しました。1500 世帯 付・広報活動のことです。 に対して成人の読み書き教育を行い、コーヒーの収 1 度だけの、単発的な支援もしてはいけないこと 穫ロスを減らし、マイクロファイナンスのサービス のひとつです。もし支援を行うなら、3 年なり、5 を確立しました。 年といったある程度の期間をかけて行うことが必要 スターバックスはフェアトレード(公正取引)を です。そして 3 番目が戦略に欠けた援助です。目的 はじめ NGO との協力にも積極的で、コーヒー 1 杯 を明確にせず、行き当たりばったりの計画は持続不 につき 1 セントを NGO に寄付するといった運動も 可能でよい結果を生み出さず、かかわった人々を疲 行っています。コーヒー豆の原産地であるアフリカ 弊させます。 や南アメリカにおいても非常に高度な CSR の方針 今、求められているのは、社会的にも、また企業 をとっており、現地のコーヒー農家が適正な利益を にとって経済的にも利益をもたらす戦略的な社会貢 得られるよう、正しい形での公平なビジネスを心が 献だと思います。日本企業は非常にプロフェッショ けています。 ナルで優秀なスキルや社員が揃っています。ぜひそ そうしたことをきちんと行わず、現地農民を搾取 うしたものを生かし、世界に向けてより価値ある社 しているといった抗議運動が、もし店の前などで行 会貢献が行われることを期待しています。 われれば、ビジネスにとって大きな打撃です。公正 なビジネスをすることは、コーヒー生産者にとって はもちろん、結果的に彼らにとってもプラスになる のです。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 国際協力 NGO「 CARE 」 第二次世界大戦後直後の 1945 年に、戦後ヨーロッパ の被災者支援を目的として米国で設立された国際支援 団体。現在は世界でも有数の国際協力 NGO として、途 上国や紛争地域を含め、世界 70 カ国以上の現地事務所 を展開している。国連をはじめとする各種専門機関や支 最後に、NGO と多国籍企業とのパートナーシッ 援国政府などとも協力し、約 1 万 3000 人のスタッフに プを通じ、 私が経験から学んだ「やるべきこと」と「し より、戦争や災害などの復興や緊急支援、貧困の克服や てはいけないこと」のポイントをそれぞれ 3 つずつ、 お話します。 まず 1 番目に挙げられるのが、NGO、企業の双方 教育などの開発支援事業などを行っている。 1987 年には日本事務局としてケア・ジャパンが設立 され、2005 年には名称を(財)ケア・インターナショ ナル ジャパン ( 代表者 : 数原孝憲 ) に変更した。現在は、 に求められることですが、行動規範や会計などすべ アジアやアフリカを中心に、途上国における緊急支援と てにおいてオープンにし、お互いに透明性を保つこ ともに、HIV/AIDS 対策や女性と子供に焦点を置いた支 とです。そして 2 番目は、援助を受ける側はもちろ 援活動を展開している。 ん、行う側も含め、そのプロジェクトにかかわるす http://www.careintjp.org 地球環境 2009 年 8 月号 | 67
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