シモン・ティソが生まれたフランス南東部の S.T.DUPONT 呼ばれていたことから、 そのブランド名が ●[エス・テー・デュポン] 誕生したのだそうだ。 Photo/Tomoaki Tsuruda (WPP) Tsukasa Tobiishi S.T.Dupont Archives Text/Teruhiko Doi (WPP) 世紀末から 世紀初頭に かけてのパリは、 ベル・エポック期と呼ばれる 黄金時代を謳歌していた。 産業革命も進み、 都市の消費文化が 繁栄を見せていた時代。 パリの象徴といえば エッフェル塔だが 1889年のパリ博のために 建造されたそのランドマークが パリ市中に現れる 年前の1872年、 革製品を扱う小さなメゾンが 誕生した。創業者の名は シモン・ティソ・デュポン。 サヴォア地方で生まれた彼は ナポレオン3世の専属写真家 であった叔父のフランソワを 頼ってパリへ行き、そこで 5年ほど働く。普仏戦争が 始まると故郷へ戻り、 歳で再びパリに向かった。 パリのデュー通りに設けられた 旅行鞄と革製品の工房として 革製品のビジネスを開始し 知見のあったパリの上流階級 のために、独自のスタイルを 持つトランクをデザインし その名声は高まっていく。 最高級のライターやペン、 そして革製品で知られる ﹃S.T.DUPONT/エス・テー・ デュポン﹄の始まりである。 19 17 25 96 97 ファベルジュには “ティソ” 姓が多く 一帯の村で 「橋の近くのティソ」 と SINCE1872∼ 「橋の側」 という意味。 創業者の DUPONTというのはフランス語で mono VOL.97 20 ﹁エス・テー・デュポン﹂ 創業時の アルチザンに触発された現代の職人たちが、 その独特な漆仕上げの技法を蘇らせた ﹃アトリエ﹄ コレクション。 純正漆を丹念な手作業で何層にも塗り重ね、 完璧な仕上げが施された逸品が揃う。 純正漆だからこその特性である アトリエ・コレクション にはレザーアイテムも ﹁アトリエ・コレクション﹂には、 今年からレザーのアイテムも追加 される。同社創業時から製作され ていた革製品が、 世紀のいま再 び蘇る。左の作業風景はナチュラ ルタンニングのレザーの上に色を 重ねていくパティーナの工程。こ こで使用される染料は、洋服の生 地などにも使われるナチュラル染 料。独自の色の組合せで、他の製 品にはない色となっている。ビン テージの雰囲気を出すために、革 がエージングしたあとをイメージ しながら色を付けていく。すべて が熟練の職人による丹念な手作業 で行われる。ムートンを使ったポ リッシュで鏡のように透き通った 輝きが出るのだそうだ。ブリーフ ケース1つに色を入れるのに大体 5∼6時間かかる。 21 98 99 防炎性、 そして高い耐久性を誇り、 プロダクトとしての高次元な完成度を 持ちながらも、 そのフォルムやスタイルに 芸術的なエレガントさを失っていない、 まさに 〝名品〟 の称号で讃えたいコレクション。 同社アーカイブからインスピレーションを 受けた、 復刻版としての意味合いもある。 ライター/LINE 2 ATELIER 1953 世界に知られるデ ュポンのガスライターの登場は1953年。 その名品登場年 を冠したアトリエ・コレクション。 チェリーレッド純正漆 ×イエローゴールド (手前右) 、 ライトブラウン純正漆× イエローゴールド (奥右) 、 パープル純正漆×パラディウ ム (奥中央) 、 グリーン純正漆×イエローゴールド (奥左) 。 万年筆/LINE D ATELIER 名品 「ラインD」 シリーズの アトリエ・コレクション。 チェリーレッド純正漆×イエロ ーゴールド (手前左) 、 ブルー純正漆×イエローゴールド (中央右) 、 ダークブラウン純正漆×イエローゴールド (中 央右から二番目) 、 ブルー純正漆×パラディウム (中央左 から二番目) 、 パープル純正漆×パラディウム (中央左) 創業から144年。 その間に蓄積された 膨大なアーカイブには、 mono 「アトリエ・コレクション」 は、 そんなアーカイブに 同社のモノ作りの歴史が詰まっている。 残された過去のアルチザンの技術や芸術性を 現代に蘇らせるプロダクトなのである。 の創業者であるシモン・ティ が、 ﹃エス・テー・デュポン﹄ フランスの皇帝ナポレオン は歴史上よく知られた人物だ な時代から﹃エス・テー・デ ある都市計画が施されたそん 混沌としたパリ市街に、秩序 ッフェル塔が建設された時代。 エス・テー・デュポンのアルチザン。 その矜持は フランスの歴史と文化を体現する。 ソ・デュポンの叔父、フラン ュポン﹄というブランドは歴 作った人物。パリ市街の改造 ぞ知る近代のパリの街並みを ︵ボナパルトの甥︶は、知る人 歳でパリに上京。写真家の シモン・ティソ・デュポン は叔父のフランソワを頼って 史をスタートさせている。 オペラ座︵ガルニエ宮︶やエ ソワが仕えたナポレオン3世 を指揮したジョルジュ・オス 改造計画は、現在のパリ市街 化に大きく貢献したこの都市 た。フランスという国の近代 されたセーヌ県の知事であっ マンはナポレオン3世に指名 歳でパリへ戻り革製品ビジ ュに帰郷。そして1872年、 郷のサヴォア県ファヴェルジ 争︶が始まると、シモンは故 争︵プロイセン=フランス戦 叔父と5年ほど働く。普仏戦 ド発信地だった百貨店マガザ その製品は当時パリのトレン をデザインするようになり、 工房を構え、やがて豪華な品 のDIEU︵デュー︶通りに ク期と呼ばれるこの時代は、 ドの旅行鞄、オードリー・ヘッ スターのハンフリー・ボガー の旅行トランク、ハリウッド 戦後、エリザベス女王のため ニウムのライターが大ヒット。 代替品として製造したアルミ ネスをスタートさせる。パリ るようになった。この頃から 話題の製品を次々にデザイン。 プバーンのためのバッグなど、 といった著名人たちが名を連 チ・オグッチ、ルイ・ルノー チル、ココ・シャネル、グッ 客はロックフェラー、チャー 代∼1950年代、同社の顧 ことを決意した。1930年 作りでビジネスを発展させる 級向けのより一層豪華な製品 れない購買層、つまり上流階 中にこうした不景気に影響さ のパニックを目撃し、帰国途 暴落︵ブラックサーズデー︶ デュポンはウォール街の株価 ーヨークでルシアン・ティソ・ カルティエと共に訪れたニュ ている。1929年、ルイ・ 現在も工房は同地に構えられ 地ファヴェルジュに移転し、 24年には工房を一族発祥の に同社は発展していく。19 経営を息子のルシアンとア ンドレに託し、その後も順調 ス・テー・デュポンは、まさ もエレガンスさを失わないエ 時代との調和を意識しながら ン D﹂シリーズが発売された。 の新しいコレクション﹁ライ った原点に立ち返った革製品 年には、トランクメーカーだ ン140周年を迎えた。この る。2012年、同社はメゾ 品を次々と世に送り出してい を中心にラグジュアリーな製 もライター、筆記具、革製品 ﹁クラシック﹂が登場。その後 3年には同社初の筆記用具 ほどの存在になった。197 デュポン以外は考えられない など、高級ライターといえば 跳ね上げ音、スムーズな着火 み、そしてピーンという蓋の 商品となった。あの独特の重 が愛用し、世界的な大ヒット ソ、ウォーホルといった名士 が登場。ヒッチコック、ピカ 今年発表された﹁ファイアヘッ ド﹂ デザイン。三角の面で6方向か ら磨き上げられた職人技術の粋を 集めた幾何学的モチーフだ。素材 の重量感と手ざわり、そしてクリ スタルクリアな﹁ピーン﹂という独 自音。触覚と聴覚で味わえる高級 感にとって、ファイアヘッドのデ ザインは職人からの名回答だ。同 社を代表する﹁ダイヤモンドヘッ ド﹂と共にアイコニックなデザイ ンモチーフになるはず。 エス・テー・デュポン の歴史年表 シモン・ティソ・デュポンが メゾン創設。 1872 不景気に左右されない富豪のオーダ ーだけを受ける企業戦略開始。 パリのDIEU通りに工房をオープン。 1921 ココ・シャネル、ウィンストン・チ ャーチル、ジョン・D・ロックフェ ラー、ウィンザー公爵夫妻、トルー マン大統領夫人などが顧客に。 1930 最初のオイルライターを発売 ︵アルミニウム製︶ 。 1950-1930 エリザベス王女、フィリップ王子の 結婚祝いとしてトラベルケースを納 品。ハンフリー・ボガードのために ﹁ボギーバッグ﹂を製作。 1941 の原型となった。ベルエポッ ン・ド・ルーブルでも扱われ 上流階級のための旅行鞄やト ラベルケースの製造も始めて そして1953年、歴史に 残るデュポンのソリッドブラ ねるようになる。1935年 に名品の宝庫といえるブラン ス製ガスライター ﹁ライン 1﹂ には漆製品の製造を開始し、 いる。 1941年には戦争で軍需統 ドだ。 整然としたラインが並ぶ工房内では、 ひとつひとつの製品が美しく配列されて いる。 こうした高度なモノ作りに対し2012年、 フランス政府よりEntreprise du Patrimoine Vivant (無形文化財企業) の認定書が授与された。 上の写真は工房をサヴォア県ファヴェルジュに移転した当時の写真。 前 列中央の二人が、 シモン・ティソ・デュポンの二人の息子ルシアンとアン ドレ。 その下は広告。 1925年に開催されたパリ万国装飾美術博覧会で注 目されたアールデコの影響が見える。 制によって入手困難な材料の ロックファン垂涎の 「ローリング・ストーンズ」 コレクション。 スワロフスキー・クリスタル をあしらったライター 「ミニジェット」 は一生もののコレクションになるだろう。 18 25 最初のガスライター﹁ライン 1﹂を 発売。瞬く間にステイタス・アイテ ムとなる。 ﹁オードリー リヴィエラ・シークレッ ト・コンパートメント﹂をオードリ ー・ヘップバーンのためにデザイン。 ジャクリーン・ケネディ愛用のライン 1ライターに合うボールペン ﹁クラシ ック﹂が誕生。 革製品の ﹁ライン 2﹂ガスライター、 ﹁ライン D﹂シリーズを発売。 メゾン140周年。 100 101 エス・テー・デュポンの職人たちのすべてが詰め込まれたコレクション「ファイアヘッド」 ザ・ローリング・ストーンズとのコラボモデルも! 一つの機械で多くの工程をこなす、 エスー・テー・ デュポンの専用マシーンでエングレービングさ れるファイアヘッドのデザイン。 6方向の面は各 面に反射するので、 美しい輝きを実現する。 漆と の組み合わせも凄い技術。 ←左から、 スワロフスキー・クリ スタル 「ミニジェット」 ブラック /価格3万4560円、スワロフス キー・クリスタル 「ミニジェッ ト」 ホワイト/価格2万8080円。 裏面にはそれぞれのモデルに異 なったメッセージが入っている。 1947 1952 1953 1971 1977 2012 ファヴェルジュの工房内のあるラインでは、 リミテッド・エ ディションの 「フェニックス」 の製造が行われていた。 細か な仕上げなど、 ほとんどが手作業という徹底ぶり。 独特の 「ピーン」 というライターの音は、 工房内の専門 職が耳で確認。 繊細な音の違いを聞き分ける。 1971年、 現駐日米大使キャロライン・ケネディ さんの母親であるジャクリーン・ケネディから mono mono o 同社に愛用のライター 「LINE 1」 に合う ボールペンのオーダーがあり、 そこから生まれたのが 「CLASSIQUE」 。 同社の筆記具シリーズは、 このオーダーから 実は同社はラグジュア リーブランドの中でも 突出した漆のノウハウ を持っている。 漆と金 属を組み合わせた最初 のメゾンでもある。 作 られている製品は、 レ オナルド・ダ・ヴィンチ の名作 「ウィトルウィ ウス的人体図」 にイン スパイヤされた作品。 始まったという歴史がある。 mono mono 左:パリ市内のエス・テー・デュポン本店 「モンテーニュブティック」 。 右:ファヴェルジュの工房。 ●エス・テー・デュポンの製品に関するお問い合わせは、 ☎03-5549-7420 http://www.st-dupont.com/ja ファイアヘッドコレクション/定番として知られるライターの他に、 無線による スキミングからクレジットカードの情報を保護するRFID保護技術が搭載された クレジットカードホルダーやジッパー付き長財布にも注目したい。 価格ファイア ヘッド二つ折り財布=3万6720円、 ファイアヘッド ジッパー付き長財布=5万 8320円、 ファイアヘッドLINE 2ライター (パラディウム×純正黒漆) =17万4960 円、 ファイアヘッドLINE 2ライター (ゴールド、 パラディウム) =13万9320円 (各) デフィ パンチングレザーコレクション/2012年に誕生した 「デフィ コレクショ ン」 に新しく 「デフィ パンチングレザー」 が発表。 レザーグッズは現在でも同社の アイコン的存在。 このコレクションも妥協のないレザーの性能と、 無類の高貴さ、 エレガンスを兼ね備えている。 最高品質のフルグレインカーフスキンにパンチン グを施したレザーは最高品質であり、 一生涯使い続けられるアイテム。 バッグ=価 格11万8800円、 財布=価格3万1320円、 ペン=価格4万8600円 アイアンマン・ コレクションに ファンは感涙する 103 革製品には手縫いのトリコロールカラーがワンポ イントで入っている。 このセンスが嬉しい。 ファイアヘッドコレクション/ライ ンDシリーズをベースにしたファイ アヘッドコレクション。 普遍的なシ ンボルである炎 (ファイア) の三角形 状に敬意を表したパターンを採用。 ボールペンと万年筆がラインナップ されている。 ブラックの純正漆×パ ラディウム ボールペン=価格6万48 00円 (左) 、 万年筆=価格10万8000円 エス・テー・デュポンとマーベ ルのパートナーシップから生まれ た﹁トニー・スターク/アイアン マンコレクション﹂ 。このコレクシ ョンではアイアンマンの世界観を 損なわずに、フランスに古くから 伝わる職人の流儀やノウハウが製 品に込められている。赤と黒のペ ンの素材は3年間かけて独自開発 したセラミウムA. C. T. というア ルミニウムとセラミックを化合し 誕生。軽量化と耐傷性を実現した この新素材は、 アイアンマンのパワ ースーツを表現。 ハニカムのモチー フは﹁アイアンマン﹂のスーツを動 かす動力炉であるアークリアクタ ーのデザインからインスパイア。 アイアンマンの世界観そのままのボディは、 フラ ンスに古くから伝わる技法で表現されている。 ラインDミディアム万年筆/フラン ス大統領官邸であるエリゼ宮殿の公 式筆記具として愛用されている 「ラ インD」 は、 150を超える工程を職人 がひとつひとつ手作業で仕上げた、 重量感と手にフィットする心地よさ が魅力の筆記具。 そんな 「ラインD」 のエレガントなイメージをそのまま に、 通常のコレクションより一回り 小さいサイズの 「ラインDミディア ム」 。 キャップをペンの後ろに挿すと 丁度いい安定した重さになる逸品。 ブラックラッカー×パラディウム ブラックラッカー×イエローゴールド ブルーラッカー×ピンクゴールド 価格8万6400円 (各) 102
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