インターネットの授業での活用 表現活動での インターネットの活用実践事例 菅 原 抄 録 弘 一 てよい。どんな撮り方をすると意図が伝わるよい写真と 表現活動を充実させるためには,伝えるための技術と 伝えたい内容を結びつけて考えさせていくことが大事で なるのかということは,実は,教師もわかっていないこ とが多いのである。 ある。ディジタルコンテンツを活用したり,インターネ また,伝える目的や伝える相手が明確に意識されない ット上に表現の場を求めたりすることによって改善を図 まま取り組んでいるために,自己満足的な表現で終わっ った社会科の授業を例に,表現活動でのインターネット てしまう場合もある。表現の仕方は,伝える目的や相手 活用のあり方について考えてみたい。 が明確になって初めて,伝えたい内容がわかりやすく伝 <キーワード> わったかどうかの見直しをかけることができる。 デジタル教材,情報活用の実践力,交流学習 デジタルカメラで撮影ができたとしてもWebページの 作成ができたとしても,伝えたい内容とそれがどう伝わ っているのかということについて考えられなければ,学 1 はじめに 習過程に表現活動を取り入れる効果は薄いのである。 インターネットを活用した表現活動といえば,学習し 本実践は,このような問題を解決する一助としてイン た内容を写真や文章で表現し,Webで発信するという活 ターネット上のコンテンツを活用したり,インターネッ 動が思い浮かぶ。実際に,本校の情報教育のカリキュラ トを表現の場として利用したりしながら,表現活動を中 ムでも,デジタルカメラを使って撮影した写真をコンピ 味のある充実したものにしようとした社会科の授業実践 ュータに取り込み,プレゼンテーションを行ったり,Web である。 ページを作成したりすることを目標として掲げている。 これらの活動が,教科学習の中で行われるときには, 単に機器の操作の仕方,表現の仕方の学習で終わること 2 表現活動でのインターネット活用の目的 はない。総合的な学習の時間であっても,学ぶ内容につ 表現活動の質の向上を図るためには,学習モデルから いて,より具体的に考えていくために表現活動が取り入 型を学ぶ→実践する→意味を考えるという活動を繰り返 れられているはずである。 しながら表現する力を鍛えていくことが大事である。イ しかし,実際には,情報機器を活用した表現活動を始 めていくと,機器を使うことに満足して終わったり,伝 ンターネットを単に表現物の公開の場とするのではなく, 次のような目的のために活用し,実践した。 えるための技術を使いこなして,見た目のよい表現にす ① るというところに力点が移ってしまったりして,本来学 活用し,学習モデルから表現方法を学ばせたり,表現 ぶべき内容の理解につながらないことも多い。伝えたい と内容の結びつきに気づかせたりすることで,表現の 内容をよりわかりやすく伝えるための活動にならないの 質の向上を図る。 である。 ② このようなことが起こってしまう理由は,いくつか考 えられる。1つは,情報機器を用いた表現の仕方がよく インターネット上にあるディジタルコンテンツを インターネット上に表現の場を確保し,伝える相 手を意識させながら表現活動に取り組ませることで, 表現する力を実践的に鍛えていく。 わかっていないために,それに振り回されるということ である。例えば,デジタルカメラでの撮影の仕方につい ては,それを学ぶ教科書があるわけではない。日常生活 の中で写真を撮影する機会はあっても,撮影の仕方と伝 える意図との関係を考えることは,ほとんどないといっ SUGAWARA 3 表現力向上のために工夫して取り組んだ点 (1) NHKデジタル教材の活用 社会科の授業づくりを支援するツールとして05年度に Koichi : 仙台市立東二番丁小学校(宮城県仙台市青葉区一番町 2-1-4) - 35 菅原弘一:表現活動でのインターネットの活用実践事例 登場したNHKデジタル教材「しらべてゴー!」には,従来 学をするときの視点を明確にする。 の社会科番組の内容に加え,学び方を学ぶための動画ク リップ「しらべ方虎の巻」やWebコンテンツ「しらべ方道 場」が加わり,充実した教材群となっている。社会科で 学ぶべき内容と,学習を進めていく上で必要となる学習 スキルを結びつけながら学ぶことができるディジタルコ ンテンツなのである。 番組も動画クリップもインターネットで配信されてい るので,教材を利用するタイミングを工夫しながら,表 現方法を学ぶための学習モデルとして利用した。 図2 インターネットで配信される番組 ② 見学の計画を立てる。 ・ 見学の準備のために,ワークシートに,見学する店, 撮影のポイント,インタビュー項目を記入する。 ③ 学習モデル教材で撮影の仕方を学ぶ。 ・ スムーズに取材ができるようにするために,しらべ方 道場「写真の撮り方<初級編>」でデジタルカメラで 図1 NHKデジタル教材「しらべてゴー!」 http://www.nhk.or.jp/syakai34/ja/frame.html の撮影の準備やマナーを確認し,「写真の撮り方<中 級編>」で失敗例をもとに写真撮影のコツを学ぶ。 ・ 動画コンテンツである,しらべ方虎の巻「写真のとり (2)ポスターで伝え合う活動の設定 伝える相手を明確にするために,同様の教材,学習ス タイルでともに学ぶ交流相手校を設定した。(東京都目 方」を視聴し,お店の工夫を伝える写真を撮影すると きに,<近づいて撮る・遠くから撮る>ことが大事で あることを理解する。 黒区立下目黒小学校3年)お互いの表現活動を比較しや すくするために,学習成果は,基本パターンを同一にし て,ポスターにまとめることにした。ポスターは,イン ターネット上でのホワイトボード共有システムを利用し て作成し,共有や比較を行いやすくした。 4 4 表現力の向上をねらった社会科授業 の実践事例 図3 (1) 単元名 実践する 3年社会科「お店ではたらく人~お店の工夫を伝える ポスターをつくろう!~」 (2) 目標 お店の仕事について調べ,お店で働いている人々の工 夫や努力を考えるようにする。 (3) しらべ方道場 図4 しらべ方虎の巻 ④ お店を見学し,写真撮影やインタビューを行う。 ・ デジタル教材を活用した事前学習で学んだことを生 かしながら取材を進める。 ・ アップとルーズに気をつけながらお店の工夫がわか る写真を撮影する。 授業の流れ 学習モデルから学ぶ ① 番組視聴によって学習のイメージをつかむ。 ・ NHK デジタル教材「しらべてゴー!」の「探してみよ う!お店の工夫」を視聴して,課題をつかむ。 <お店の工夫を探してポスターで伝えよう!> ・ 番組から見つけた工夫を整理して,自分たちがお店見 - 36 学習情報研究 2006.11 写真 1 写真撮影の様子 写真 2 インタビューの様子 表現活動を通して考える ⑤ お店の工夫を伝える写真を選択する。 を伝える写真として写真5を選んだ。この写真で伝えた いことは何かを問うと,「子どもの目線に子どもが好む ・ 撮影した写真をインデックスプリントし,お店の工夫 商品を置いていること」と答えた。インタビューして聞 が伝わると思う写真を3枚選び,友達に説明する。 いたことと,選んだ写真がうまく結びついていないので ・ 友達の意見を聞きながらポスターに使用する3枚の ある。しかし,選ばれなかった写真の中に,写真6があ 写真を確定する。 り,伝えたい内容とピッタリ合う写真はどちらかという ことを考えさせることができた。 写真 3,4 自分が選んだ写真を友達に評価してもらう 写真5 アップ 写真6 ハイアングル ⑥ お店の工夫を紹介するポスターを作成する。 ・ 選んだ写真3枚を使って,ポスターを作成する。 ・ ポスターは,「タイトル」「写真」「写真に対する見 出しとコメント」「全体のまとめ」で構成する。 商品をアップで撮影してしまうとお店全体の中での商 品の位置はわからない。商品が子どもの目線を意識して 置いてあるということを伝えたい場合には,その商品の 位置がわかるように,ハイアングルで撮影した写真6を 表現を見直す(社会科から総合への発展) ⑦ ポスターをディジタル化し交流相手に伝える。 選んだほうがよいことを理解させることができた。 逆にアップの写真からは「標準品のトミカは2軒隣」 ・ 社会科学習で作成した紙ベースのポスターをインタ と書かれている文字に注目すると,そこに陳列されてい ーネット上での共有や修正を容易に行うことができる るのは専門店ならではの特別な商品であることがわかる ように,ホワイトボード共有システムでディジタル化 ということを理解させることができた。お店の工夫を伝 する。 えるために,自分たちで撮影した写真を選択するという ・ ポスターは,紙ベースで作成したときと同様に,「タ イトル」「写真」「写真に対する見出しとコメント」 「全体のまとめ」で構成した。 活動を通して,改めて撮影の意図とアングルの関係に気 づかせることができたのである。 写真撮影の仕方を事前に学んでいながらよく理解され ていないことを踏まえて,「しらべ方道場」のゲーム「デ 5 表現力の向上をねらった授業の効果 (1) 写真の選択を通して考える 子どもたちは,1人平均25枚の写真を撮影した。学 ジタルカメラのわざ」にもチャレンジさせた。同じもの を撮影しても,撮影するアングルによって伝わり方が違 うことを,インタラクティブゲームで,より効果的に確 かめさせることができた。 習モデルを利用して視点を明確にし,アップとルーズの 違いを指導をしたにもかかわらず,お店の工夫が読み取 れる写真は1割程度に過ぎず,アップとルーズの割合は 半々くらいであった。商品をアップで撮影した写真が思 った以上に多く,ポスターに使用する写真として選んだ ものも最初は,商品や看板のアップが多かった。学習モ デルで事前学習をして,頭の中でわかったつもりになっ ても,それがすぐに子どもたちの表現力として反映され るわけではないのである。 選択の際には,学習課題とのつながりを考えさせ, 「お 店の工夫」がわかる写真になっているかどうかを点検さ せた。その上で,選択の理由を明確に話すことができる ように指導した。 模型や玩具の専門店を取材した子どもは,お店の工夫 図5 「しらべ方道場」の「デジタルカメラのわざ」 - 37 菅原弘一:表現活動でのインターネットの活用実践事例 学習モデルとして活動の前に見せるだけではなく,写 また,下目黒小では,お客さんの数や商品の種類(数) 真表現の振り返りのタイミングでこのコンテンツを利用 に注目していた。テレビ会議の場面で,「仙台ではどう したことで,伝えたい内容と写真撮影の仕方の関係につ なっているのか?」と聞かれて,子どもたちは返答に困り いて,実感を持って学ぶことができるようになった。 ながらも必死に取材メモからデータを拾い出そうとする 場面があった。 (2) 相手を意識させることで表現の質はどう変 わったか 畑の広さを確認したり,植えられている野菜の数を丁寧 次のテーマとなった「農家のふしぎ」の追究活動では, 肉屋を取材した子どもたちは,最初にポスターを作っ に数えたりして,その結果をポスターに表現した。野菜 た段階では,「牛タンボール」という商品が何となく気 を買いに来たお客さんにもインタビューを試みるなど, になって写真を撮影し,お店の工夫として紹介した。テ 交流相手の学び方にふれたことで,自分たちに足りない レビ会議を実施して話し合う中で,下目黒小の友達から ものを自覚し,次のステップに生かせるようになったの 「どうして牛タンボールなんですか?」と問われ,改め である。 てその商品が持っている意味について考えざるを得なく なった。 話し合いを通して,牛タンが仙台の名物であることや 6 まとめ 牛タンボールのようなオリジナル商品が専門店としての 学習過程にただ表現活動を位置づけても,表現の質の 工夫の1つであることに改めて気づいたのである。最終 向上は図れない。表現する活動を体験することにとどま 的に完成したポスターでは,タイトルに「スーパーには り,表現活動を通して具体的に物事を考えることにつな 負けないぞ!」という一文が入り,コメントにも「評判 がらないからである。 のよいオリジナル商品」であることが明記され,専門店 「ポスターを作って交流相手に伝えるためにどうしても としての特徴がわかるものに仕上がった。交流相手との 写真を3枚選ばなければならない。」といった条件設定 かかわり合いが,何となくわかっているつもりになって が,今回の授業では,表現の仕方を考えさせるための重 いることへの問い直しを迫ることになり,それを表現活 要なポイントとなった。選択を迫られたことで,撮影し 動の見直しにつなげることができたのである。 た写真の意味を吟味せざるを得なくなったのである。 また,表現する力というのは,一度の学習で簡単に身 につくものではないことも改めて実感した。学習モデル から型を学ぶ→実践する→意味を考えるという活動を繰 り返しながら表現する力を鍛えていくことができるよう な授業デザインが大事である。 今回の授業をデザインしていくときに,インターネッ トは,心強い味方となった。インターネットで配信され ているコンテンツには,NHK デジタル教材のように,表 現の技法と学習内容の結びつきを具体的に考えることが できるものがあり,表現の質をより高いものへと導くた めに利用できたからである。また,インターネットを利 図6,7 肉屋を紹介したポスター(紙とディジタル) 用することで,表現の目的や相手を設定しやすくなり, 自己満足に陥らないように見直しをかけるための仕かけ (3) 交流相手の学び方から学ぶ テーマや表現物の様式を共通にしたことで,違いが見 が作りやすくなったことも大きな助けとなった。コンテ ンツ利用のタイミングや相手意識の持たせ方については, えるようになった。特に,写真の撮り方やインタビュー 今後も検討を重ね,表現する技術と内容との結びつきを の仕方に両校の違いが表れていた。 テレビ会議後に,「下 強めた授業の実践を重ねていきたい。 目黒小のポスターのよかったところは?」と問うことで, 下目黒小の友達が,「お客さん」に注目した写真や「道 具」に注目した写真を撮影していること,お得意さんへ のインタビューをしていること等,その店のよさがわか るようにするための取材活動を行っていたことに気づか せることができた。 - 38 学習情報研究 2006.11
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