NFI リサーチ・レビュー 2009 年 9 月 *** 提 言 *** 確定給付(DB)制度 vs 確定拠出(DC)制度再考 日興フィナンシャル・インテリジェンス 副理事長 中田 正 21世紀初頭に新しく確定拠出(DC)制度が導入されたとき、確定給付(DB)制度 との比較がなされ、その良い点、悪い点が活発に議論された。 曰く、「DB制度は、個人の給付が不明だが、DC制度では常に個人個人の持分(積立 金額)がわかる」、「DC制度では、資産運用を上手に行って、老後所得を増やすことが できる」、「企業が入社後死ぬまで丸抱えで面倒を見る時代にはDB制度があっていたが、 転職も増え、自分で人生設計をしていく時代にはDC制度がむいている」等々。 しかしながら、昨年のリーマンショックに端を発した株式市場の暴落を踏まえれば、 DB制度対DC制度の問題は、今一度考えて見る必要があろう。 昨年来の金融危機はDB制度、DC制度双方に大きな影響を与えた。 DC制度では、年齢層ごとにその影響は異なると考えられる。若年層では、DC制度へ の加入期間も短く、積立金もまだそれほど多くなく、また、退職までの期間も長く積立 金回復の時間もあるため、高年層に比較すればダメージは軽い。中高年層では、積立金 も大きく、退職までの期間も短く、積立金回復は困難と思われ、そのダメージは大きい。 特に退職間近の場合、積立金の大幅な減少は回復不可能である。 即ち、DC制度では、積立期間中のみならず、退職時点の金融状況によって老後所得 2009/09/18 日興フィナンシャル・インテリジェンス 本レポートは、信頼性の高いデータから作成されておりますが、当社はその正確性・確実性に関し、いかなる保証をするもので はございません。本レポートは情報提供を目的としており、投資勧誘を目的としたものではございません。証券投資に関する最 終判断は、投資家ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。本レポートの転用および販売は固く禁じられております。本 レポートの著作権は、当社に帰属いたします。 1 NFI リサーチ・レビュー 2009 年 9 月 が大きく変わり得る金融リスクが顕在化したといえる。つまり、保有株式の暴落により、 予定していた退職所得が大きく減少したため、退職間近の人は低い年金で生活するか、 働き続けるかしなければならなくなったのである。そのため、退職までの期間に合わせ た資産配分の変更(リスク資産への投資比率を下げること)の必要性があらためて認識 されたといえよう。スイスでは、積立期間中の金融リスクは保証利率を設けるなどして 緩和することが行われているが、その他にも積立金の年金化時点における金融リスクの 回避方策が必要である。 DB制度では、理論的には、資産運用リスクは事業主が負い、積立不足に対して追加 掛金を拠出するなどして従業員には影響が及ばないとされる。しかしながら、実際には、 追加拠出のみで財政バランスを回復すると大きな拠出が必要となったりする場合など には同時に給付削減が行われたりする。即ち、あまりにリスクの大きなDB制度の場合、 事業主が維持できないことがある。オランダでは、積立レベルによって給付額を変える 条件付スライドが行われている。 金融危機のDC、DB両制度への影響を見れば、事業主が維持可能で、かつ、従業員の 老後生活を豊かにする年金制度が求められることになる。それは、現在でも、事業主と 従業員がリスクを分担する混合制度としてある程度実現されているし、DB制度、DC 制度を組み合わせて実現することも可能である。即ち、資産運用で強調されるリスク分 散を年金制度にも適用し、事業主と従業員でリスクの分担をすることである。それは、 DB制度とDC制度をともに含むような制度とすることである。 戦後の日本では企業内労働組合にみられるように、事業主と従業員が協力して企業を 発展させ経済大国を築いてきた。この慣行を企業年金に生かして、事業主と従業員が協 力して発展させていくことが望まれる。 2009/09/18 日興フィナンシャル・インテリジェンス 本レポートは、信頼性の高いデータから作成されておりますが、当社はその正確性・確実性に関し、いかなる保証をするもので はございません。本レポートは情報提供を目的としており、投資勧誘を目的としたものではございません。証券投資に関する最 終判断は、投資家ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。本レポートの転用および販売は固く禁じられております。本 レポートの著作権は、当社に帰属いたします。 2
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