国内銀行の預金・貸出金・有価証券動向

NFI リサーチ・レビュー
2011 年 9 月
*** レポート ***
国内銀行の預金・貸出金・有価証券動向
資産運用研究所
-------------------------------------------- 要
約
山本 直紀
--------------------------------------------
国内銀行を取り巻く環境として、預貸比率が伸び悩み有価証券運用の重要性が増してい
ると指摘されて久しい。そこで公表データから近年における国内銀行(都市銀行、地方銀
行および第二地方銀行)の主要負債および資産の推移と、有価証券の残存期間構成の変化
について検証を行った。
国内銀行の預金は全体的に順調な増加を見せている。貸出金の推移を見ると、都市銀行
は金額・対預金比ともに縮小傾向にあり、地方銀行・第二地銀は金額的には増加傾向にあ
るが、対預金比ではやや減少傾向にあった。国内銀行全体としては、対預金比で見ると有
価証券が増加傾向にあることがわかった。
有価証券の内訳を見ると、全体的に国債の比率が増加傾向、株式が減少傾向にある。そ
の他特徴的な点として、都市銀行では外国証券の比率が高まっているが地方銀行・第二地
方銀行ではむしろ減少傾向にあること、地方銀行・第二地方銀行では地方債の金額ならび
に対預金比が増加傾向にあることが挙げられる。保有債券の残存期間構成を見ると、
「都市
銀行<地方銀行<第二地方銀行」の順に長期化傾向にあり、地域銀行ほど金利上昇リスク
が高いと考えられる。
目
1.
2.
3.
4.
次
はじめに
国内銀行の主要負債および資産の推移
保有債券の残存期間構成の変化
おわりに
2011/09/30
日興フィナンシャル・インテリジェンス
本レポートは、信頼性の高いデータから作成されておりますが、当社はその正確性・確実性に関し、いかなる保証をするもので
はございません。本レポートは情報提供を目的としており、投資勧誘を目的としたものではございません。証券投資に関する最
終判断は、投資家ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。本レポートの転用および販売は固く禁じられております。本
レポートの著作権は、当社に帰属いたします。
1
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2011 年 9 月
1.はじめに
国内銀行を取り巻く環境として、預貸比率が伸び悩み有価証券運用の重要性が増して
いると指摘されて久しい。そこで、まず初めに日銀が公表している統計データから国内
銀行(都市銀行、地方銀行、第二地方銀行)の主要な負債および資産(預金、貸出金、
有価証券)の過去の推移について検証を行い、次に有価証券の運用内容について、日銀
公表データによる種別区分(国債、地方債、社債、株式、外国証券)に加え、各行のディ
スクローズ資料より残存期間構成の変化について検証を行った。
2.国内銀行の主要負債および資産の推移
図表 1 および図表 2 は過去の都市銀行(6 行)の主要負債および資産の金額、ならび
に主要資産(対預金比)の推移である。
都市銀行の預金については 1990 年代から 2000 年代にかけて一時減少したものの、
その後はほぼ一貫して増加傾向にあることがわかる。
一方で、貸出金の金額ならびに預金に対する貸出金の比率は低下傾向にある。預金に
対する有価証券の比率は 2000 年代に入り大幅に増加している。その後、一時減少傾向
にあったものの、特に近年ではその比率が大幅に上昇している。
有価証券の内訳を見ると、都市銀行における有価証券の主な運用先は国債であること
がわかる。直近 5 年間で見ると、国債以外の債券(地方債および社債)がほぼ横ばい
なのに対し、国債はほぼ倍増している。また、株式は 2006 年度から直近にかけて半減
している一方、外国証券は徐々に増加している。
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図表 1
都市銀行
主要負債および資産の推移
(単位:億円)
資産
負債
年度末
預金
貸出金
有価証券
国債
地方債
社債
株式
外国証券
1990
2,482,662
2,133,869
475,121
91,530
22,813
88,027
192,007
55,819
2000
2,102,820
2,133,507
867,034
418,048
20,468
37,294
274,567
107,810
2005
2,507,624
1,896,885
1,076,898
567,024
12,885
127,910
189,016
148,551
2006
2,487,565
1,860,370
979,934
446,954
12,880
129,832
194,877
165,986
2007
2,525,751
1,854,662
899,190
425,376
10,330
121,632
147,347
175,803
2008
2,575,584
1,952,042
983,422
567,072
9,659
111,124
103,960
180,351
2009
2,633,256
1,846,180
1,266,218
853,529
10,494
112,164
121,457
156,018
2010
2,742,676
1,794,237
1,460,246
1,013,902
11,939
108,705
111,051
202,740
(出所:日銀公表データより NFI 作成)
図表 2
都市銀行
主要資産の推移(対預金比)
160%
142.7%
140%
貸出
+
有価証券
120%
対預金比
100%
80%
118.7%
102.9%
105.1%
86.0%
貸出
65.4%
60%
有価証券
53.2%
国債
40%
20%
37.0%
19.1%
外国証券
7.4%
0%
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
年度
貸出金
有価証券
国債
地方債
社債
株式
外国証券
貸出+有価証券
(出所:日銀公表データより NFI 作成)
図表 3 および図表 4 は、地方銀行(63 行)の主要負債および資産の推移である。預
金、貸出金および有価証券は順調に増加傾向にある。有価証券の内訳を見ると、都市銀
行同様、国債が増加傾向、株式は都市銀行同様に 2006 年度から直近にかけてほぼ半減
している。一方で地方債は増加傾向、外国証券は減少傾向にある。
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2011 年 9 月
図表 3
地方銀行
主要負債および資産の推移
(単位:億円)
資産
負債
年度末
預金
貸出金
有価証券
国債
地方債
社債
株式
外国証券
1990
1,554,253
1,173,423
348,119
114,592
32,277
91,942
41,356
51,024
2000
1,785,742
1,357,418
447,360
155,135
67,670
100,959
62,206
41,613
2005
1,888,910
1,403,556
612,683
230,516
67,615
118,503
80,467
90,529
2006
1,936,818
1,445,409
599,691
226,002
67,608
124,936
80,910
74,236
2007
1,956,991
1,483,586
564,077
202,130
72,614
140,394
60,456
66,952
2008
2,002,165
1,547,581
544,844
211,804
79,363
137,364
42,971
57,282
2009
2,072,150
1,547,663
613,837
267,525
87,161
138,065
47,380
59,198
2010
2,124,424
1,574,727
651,923
300,928
94,653
142,098
41,643
58,498
(出所:日銀公表データより NFI 作成)
図表 4
地方銀行
主要資産の推移(対預金比)
160%
140%
貸出
+
有価証券
120%
対預金比
100%
97.9%
104.8%
80% 75.5%
貸出
74.1%
60%
40%
有価証券
30.7%
22.4%
国債
20%
14.2%
0%
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
年度
貸出金
有価証券
国債
地方債
社債
株式
外国証券
貸出+有価証券
(出所:日銀公表データより NFI 作成)
図表 5 および図表 6 は、第二地方銀行(42 行)の主要負債および資産の推移である。
預金および貸出金については 2000 年度以降減少傾向にあったが、近年では再度増加傾
向に転じている。有価証券の内訳を見ると、地方債が増加傾向、株式が 2006 年度から
直近にかけてほぼ半減している。
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2011 年 9 月
図表 5
第二地方銀行
主要負債および資産の推移
(単位:億円)
資産
負債
年度末
預金
貸出金
有価証券
国債
地方債
社債
株式
外国証券
1990
566,604
478,592
107,249
31,866
6,019
34,892
14,454
11,179
2000
567,976
465,931
103,406
39,833
7,221
32,632
11,640
6,451
2005
541,266
412,564
135,001
63,185
6,568
28,167
15,374
14,796
2006
546,219
419,377
134,849
63,984
6,332
27,450
14,907
14,346
2007
555,619
429,309
131,719
62,001
7,227
28,793
11,141
13,453
2008
560,995
435,832
125,263
62,455
7,902
29,164
7,966
11,213
2009
567,701
434,891
136,108
69,449
10,008
31,290
8,244
10,615
2010
576,041
438,766
143,759
71,224
13,182
33,607
7,694
12,173
(出所:日銀公表データより NFI 作成)
図表 6
第二地方銀行
主要資産の推移(対預金比)
160%
140%
120%
貸出
+
有価証券
103.4%
101.1%
対預金比
100%
84.5%
貸出
80%
76.2%
60%
40%
有価証券
20%
18.9%
25.0%
国債
12.4%
0%
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
年度
貸出金
有価証券
国債
地方債
社債
株式
外国証券
貸出+有価証券
(出所:日銀公表データより NFI 作成)
3. 保有債券の残存期間構成の変化
次に有価証券運用の中心である債券の運用内容について、残存期間構成で確認する。
図表 7 は、国内銀行の保有債券の残存期間別構成を 2005 年度および 2010 年度のディ
2011/09/30
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2011 年 9 月
スクローズ資料から集計した。
保有債券の平均残存期間は「都市銀行<地方銀行<第二地方銀行」の順に長期化傾向
にある。また、5 年前(2005 年度)の残存期間構成と直近(2010 年度)を比較すると、
都市銀行および第二地方銀行は短期化の傾向がみられるが、地方銀行は逆に長期化して
いることがわかる。
残存期間別に詳しく見てみると、10 年超の債券保有比率はどの業態でも低下してい
る。金額・比率ベースでみると都市銀行は運用の中心を残存期間 5 年以下の債券にシ
フトさせているのに対し、地方銀行ではむしろ 7 年超 10 年以下を大幅に増加させてい
る。また、第二地方銀行では 7 年超 10 年以下および 3 年超 5 年以下の年限が増加して
いる。
地方銀行については銀行間で保有資産額に大きな差があるため 2010 年度の有価証券
が 1 兆円を超える銀行(63 行中 28 行)と、それ以下である銀行(63 行中 35 行)にグ
ループ分けして比較を行った。残存期間構成はどちらも長期化傾向にあるが、1 兆円超
のグループの方がより長期化傾向にあった。
図表 7
保有債券の残存期間別構成比および推定残存期間1
1年以下
都市銀行
地方銀行
うち有価証券が1兆円超
うち有価証券が1兆円以下
第二地銀
1年超
3年以下
3年超
5年以下
5年超
7年以下
2005年度
31.7%
22.0%
21.7%
6.0%
2010年度
32.6%
24.3%
26.2%
3.4%
2005年度
14.0%
22.8%
24.9%
10.4%
2010年度
10.6%
21.9%
22.8%
13.5%
2005年度
13.8%
22.6%
25.9%
2010年度
10.0%
21.8%
23.3%
2005年度
14.3%
23.1%
2010年度
11.8%
22.1%
2005年度
10.4%
2010年度
10.1%
7年超
10年以下
5.9%
10年超
合計
推定
残存期間
12.7%
100.0%
3.60
7.8%
5.7%
100.0%
3.13
14.1%
13.9%
100.0%
4.73
25.9%
5.2%
100.0%
4.94
10.7%
13.7%
13.4%
100.0%
4.70
13.3%
26.4%
5.2%
100.0%
4.98
23.1%
9.9%
14.7%
15.0%
100.0%
4.80
21.8%
14.1%
24.9%
5.3%
100.0%
4.86
19.5%
18.6%
11.4%
22.5%
17.5%
100.0%
5.54
19.3%
23.3%
10.6%
28.4%
8.3%
100.0%
5.25
(出所)各行ディスクローズ資料より NFI 作成
1
推定残存期間は、各年限の残存期間を 1 年以下=0.5 年、1 年超 3 年以下=2 年、3 年超 5 年以下=4 年、5 年超 7 年
以下=6 年、7 年超 10 年以下=8.5 年、10 年超=10 年として加重平均した値。
2011/09/30
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本レポートは、信頼性の高いデータから作成されておりますが、当社はその正確性・確実性に関し、いかなる保証をするもので
はございません。本レポートは情報提供を目的としており、投資勧誘を目的としたものではございません。証券投資に関する最
終判断は、投資家ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。本レポートの転用および販売は固く禁じられております。本
レポートの著作権は、当社に帰属いたします。
6
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2011 年 9 月
4.おわりに
日銀公表データおよび各行のディスクローズ資料から、国内銀行の負債および資産の
状況を概観した。この数年、都市銀行では預金が増加傾向にある一方で、貸出金はむし
ろ減少し、そのギャップを有価証券運用へシフトしていることがわかった。また、地方
銀行および第二地方銀行においても、対預金比でみた場合、徐々に有価証券の比率が高
まってきており、国内銀行全体として有価証券運用の重要性が高まっていることが確認
できた。有価証券の運用内容を見ると、国内銀行全体の動きとして、有価証券の増加に
比例して国債の金額・比率とも増加している。一方、株式は金額・比率ともに低下傾向
にある。都市銀行では外国証券が増加しているが、地方銀行・第二地方銀行ではむしろ
減少傾向にあった。保有債券の残存期間構成を見ると、都市銀行と地方銀行・第二地方
銀行では対照的であり、地域銀行ほど投資対象年限が長期化傾向にあり金利上昇リスク
が高いと考えられる。
本レポートは、公表データに基づいて国内銀行の業態毎に概括したものであり、個々
の銀行の状況は個別に精査する必要があろう。また、今回は銀行の資産サイドの有価証
券運用に着目し、資産構成や保有債券の残存期間構成から国内銀行の業態別比較を試み
たが、ALM 的観点からは預金の残存期間構成や貸出の残存期間構成との関係等につい
て検証する必要があるだろう。さらに、調達・運用金利の変化やイールド・カーブの変
化が運用内容に与える影響についても考慮する必要があると考えられる。
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