Stereophile Stereophile誌2013年4月号 Air Force One Air

Stereophile誌
Stereophile誌2013年
2013年4月号 Air Force One レビュー
ANALOG CORNER by Michael Fremer
TechDAS Air Force One の テストドライブ
TechDAS Air Force Oneが
Oneがアメリカで
アメリカで“発進”
発進”する
レコード全盛期にロイ・マシューズがイギリスのミドルエセックスのヘイズでEMIのレコードプレス工場を経営して
いた。彼は会社のために新しいプレス機を設計製作するスタッフさえ抱えていた。しかし他の大手レコード会社と同
様にEMIも工場を閉鎖しプレス機もほとんどスクラップにしてしまった。そしてマシューズは引退した。2000年に80
代になっていたマシューズは引退生活から引っ張り出され、自分でもうれしい驚きだったがもう一度修復したプレス
機を使ってレコードプレス工場を経営するようになっていた。プレス機の多くは彼自身の設計だった。彼にインタ
ビューしたときの記事はこちらで読んでほしい http://tinyurl.com/be6qd23 また、当時Portal Space Records と呼ば
れていた施設の写真をこちらで見てほしい www.analogplanet.com/content/take-virtual-tour-0
2013年Consumer Electronics Showで TechDAS のAir Force One ターンテーブルの設計責任者、西川英章氏と話した
とき、マシューよりはずっと年下ではあるが、私はマシューのことを思い出した。レコード全盛期、西川氏はマイク
ロ精機のチーフエンジニアだった。彼のチームが設計した超弩級のターンテーブルは、いまだに大変すぐれたハイパ
フォーマンス、ハイテクの古典的最高傑作と言われている。西川氏はCDが導入されてLPが“絶滅”したとき他の道に進
んだ。
西川氏は最新鋭のターンテーブルの設計に戻ったことを楽しんでいるようだ、それはロイ・マシューズがプレス工場
の経営にもう一度喜びを見出したのと同じだ。西川氏は、このAir Force Oneターンテーブルを作っている自社ブラン
ド の TechDAS だ け で な く Brinkmann、Constellation、Devialet、Einstein、Graham Engineering、Magnepan、Tidal、
Vivid Audio などの一流ブランドの製品を日本で販売しているステラ社のCEOである。Graham社のPhantom II Supreme
は Air Force One の日本での“公式“トーンアームとなっており、Graham は Air Force One のアメリカ合衆国、カナダ、
南米地域のディストリビューターでもある。
マイクロ精機のターンテーブルを知っている人たちは Air Force One のダブルリップのバキューム吸着システムを見
たらすぐ分かるだろう。通訳を介して私は西川氏に、1970年代の自分は2013年にターンテーブルを設計、生産、販
売していると予想していたか尋ねた。質問の意図が伝わらなかったのか、彼はこの質問に直接答える代わりに、最新
のテクノロジーを使えば CD よりも LP からのほうがもっと多くの情報が引き出せると考えたので新しいターンテー
ブルを作ったと話した。Air Force Oneはマイクロ精機の以前のトップモデル、中古市場では今でも垂涎の一機である
SX-8000をベースにしていると彼は述べた。
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西川氏にAir Force Oneのテクノロジー上 最も大きく進歩した点は何か尋ねた。彼は空気の乱れによって引き起こされ
る問題であるリップルを新しいエアポンプで防げるようになった点を挙げた。また、モーターコントロールシステム、
これはアナログに貢献するデジタル技術と言えるものだが、これが新しいターンテーブルのパフォーマンスを実現す
る大きな要因の一つであると彼は付け加えた。
多くのマイクロ精機のターンテーブルもそうだったが、Air Force Oneのベルトドライブ式のプラッターは空気のクッ
ションの上でスピンする。これはノイズがなく摩擦もないという点では理想的なベアリングだが大きな問題がある。
摩擦のないベアリングの上の高質量プラッターを回転させているベルトを想像してみてほしい。もしベルトの接触と
テンションが完璧でなければ、モーター/ベルトはプラッターとの厳密な接点を失い、微細なスピード上のゆらぎが
生じてしまう。
実際TechDASのプラッターはエアベアリングの上に浮かんでいるが、グリースの上に乗るセンターベアリングもあり、
必要な摩擦を作り出してエアポンプからの残留リップルを減少させている。その上、ベルトテンションはマイクロプ
ロセッサーでコントロールされた手順によって自動的に正確に調整されている。この調整はセットアップまたはベル
ト交換のときだけに行なえばよい。昔のマイクロ精機のエアベアリングターンテーブルでもベルトテンション調整が
可能だったが、そのプロセスはAir Force One に比べると大雑把だった。
Air Force One 徹底解剖
TechDAS Air Force Oneは $97,000、Phantomのアップグレードバージョンである新しい Elite アームをつけると
$103,000 である。Elite を使用すれば音質はさらにグレードアップすると Bob Graham は言っている。また外観的に
も Air Force One にもっとマッチすると彼は述べている。Elite 単体は$9,500なのでセットで購入すれば$3,500の節
約にもなる。
その丸みを帯びた重厚な外観を見ても Air Force One(1990年代のForsell Air Force Oneターンテーブルと混同しない
ように)は視覚的にも息をのむほど美しいテクノロジーの傑作だ。ゴテゴテとして“技術屋的”な外観だと思う人がい
るとしてもだ。多層構造のシャーシは重さ94ポンド(約43Kg)で総重量は174ポンド(約79Kg)である。我々はマッ
シブなものに惹かれるが、Air Force One は実にマッシブだ。この名品のベースシャーシはA5052アルミニウムで出
来ている、ミドルシャーシはさらに強度のあるA7075スーパージュラルミン、アッパーシャーシ、すなわちターンテー
ブル上の目に触れる部分は、ハードアノダイズ仕上げのA5052アルミニウムだ。
メインプラッターは41ポンド(約18.5Kg)あり、非磁性鍛造加工ステンレススチール(高熱処理により硬度を高め
てある)で作られている。加工後の底面はなめらかな鏡面のように磨き上げてあり、エアベアリングが完璧になめら
かな空気の流れを確実に受けられるようにしている。プラッターの底面に対向しているベースの表面はガラス製で、
これもなめらかな空気の流れを確保している。
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プラッターの内部は1.1リットルのエアチャンバーを有し、メインプラッターとアッパープラッターの間の共鳴を排
除するためのダンピング効果を生み出す。アッパープラッターは LP と接触する部分だが、超スーパージュラルミン、
非磁性ステンレス、メタクリレート(アクリル樹脂)の3つの材質タイプから選べる。購入者はこの3タイプから1つ
選ぶこともできれば、3つ全て入手することもできる。交換にはかなりの時間と労力が必要であるが、そこが楽しい
部分だ。メインとアッパープラッターは力学的に確実かつ強固に連結されている。このアッパープラッターはレコー
ドマットではない。宣伝文句によると非ディスク吸着タイプのアッパープラッターも入手可能である。つまり6タイ
プのプラッターの選択肢があるわけだが、非ディスク吸着タイプのアッパープラッターを選択することなど私には考
えられない。
とは言え、Continuum Audio LabsがCaliburnターンテーブルに付属させているのと同じポロン製レコードマットがAir
Force One に付属している。その本来の目的は静電気を減らすことだが、それと同時に、埃からプラッターとLPを守
り、ディスク吸着の力によって埃がレコードの溝に入り込むのを防ぐ。
設計者西川氏と輸入者 Bob Graham はまずアルミのプラッターを薦めた。このレビューで使われたのはそれだ。その
次に薦められたのはステンレススチールで、最後がアクリル樹脂だった。アクリル樹脂は“もっとソフトで、あまりダ
イナミックではないサウンド”を求めている人々のためのものだ(彼らはそのように表現していたと思う)。
プラッターは、表面を研磨した伸びのないポリウレタン繊維の平ベルトと大きなACシンクロナスモーターによって駆
動している。モーターは高質量の独立筐体に収められ、クリスタルロックされたAC波形を作り出すスピード調整機能
付きデュアル50Wアンプで制御されている。
シャーシにマウントされたセンサーがメインプラッターの底に刻まれたタコメーターのラインを読み取ることにより
プラッターの回転スピードを検知する。回転スピードが定速になるまでモーターによって最大トルクが適用される。
定速になるとモーターの電圧が二分の一になる。(このような基本的に摩擦のないエアベアリングにおいては、マッ
シブなプラッターが定速に達すると、モーターは最小のトルクで作動することが可能だ)。シャーシに搭載されたデ
ジタルスピードインジケーターの両側にある2つのボタンを使ってプラッターのスピードを±0.1rpm刻みで調整する
ことができる。33 1/3と45rpmのそれぞれで、最大10%の範囲で調整が可能だ。
アンビリカルケーブルでターンテーブルに接続された驚くほどコンパクトで美しい仕上げのアルミの筐体には、モー
ターのパワーアンプ、ソレノイドで動作するエア制御バルブが収められている。また、コントロールボタン、LED、
リレー、センサー、制御システムのための4基のDCパワーサプライが収められている。
この外部筐体にはさらに、ゴム製サスペンションが施された完全に静粛で振動がないエアポンプが2つ収められてい
る。1つはディスク吸着に、もう1つはエアベアリングに使われている。
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もう一つのボックスは、DCパワーサプライのコンデンサーバンクと類似して、エアポンプとターンテーブルを連結し、
微小なエアリップルを排除するエアコンデンサーとして機能している。このボックスの内部はガラスで仕上げてあり、
二次的なリップルを作り出す歪みを防いでいる。Eminent Technology社のE.T.IIのようにポンプで駆動するエアベアリ
ングのトーンアームを所有したことがある人や、水槽フィルターを詰めた5ガロン(約22リットル)の容器であまり
洗練されていないコンデンサーを作った経験のある人ならば、この装置の価値がわかるはずだ。
Air Force Oneに は同時に2つのトーンアームをセットできる。標準的な9または10インチのアームはターンテーブル
の右側のメインマウントに、そして、10、11、12インチアームは左後方からせり出すマウントに取り付けできる。
これらメインとサブのアームボードは12mmの厚いエボニーまたはブラジルローズウッドとスーパージュラルミンの
硬軟の組み合わせで作られていて、振動モード解析に基づいて設計されている。
ターンテーブルは、3つの調整可能な脚部で支えられている。ただし、現在生産中のロットでは、調整可能なエア/液
体のハイブリッドサスペンションをもっとシンプルなエアとゲルのドーナツ型のものに変更した。(フロントパネル
上にある Air Force One のネームバッジを取り除くと、以前はエアサスペンションを時々膨らませるために使われて
いたニップルが今は使えないようにしてあるのが分かる)。$5,300のオプションとしてHRS社がM3Xアイソレーショ
ンベースの TechDAS 専用バージョンを生産している。ベースには Air Force One の脚部とモーター筐体に合わせたく
ぼみが加工されている。
セットアップと
セットアップと使用法
輸入者の Bob Graham は Air Force One のセットアップを行う際に HRS のベースを持ってきた。至極当然だ。私もす
でにダブル幅のHRS SXRラックを使っている。
コンデンサーとメインコントロールボックスはシステムのケーブルやホースが届くかなりの範囲内のどこへでも設置
できるリモート機だ。コントロールボックスのフロントパネルでシステムの電源を一度入れれば、各ユニット間を行
き来する必要がない。
ターンテーブルの電源を入れてから、Graham はアップグレードの途上にある Phantom II Supreme トーンアームの
SMEベースバージョンを取り付けてくれた。このトーンアームには、新形状ヘッドシェル、Graham マグネグライド
スタビライズ システム、インバート軸受筐体が含まれる。彼は親切にも Kuzma 4Point アーム用のセカンドアームマ
ウントをセットアップしてくれた。そのおかげで Air Force One と、やはりセカンドのアームボードに 4Point を取り
付けた自分のリファレンス機 Continuum Audio Labs Caliburn を比較しやすくなった。
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興味深いことに、GrahamはAir Force OneのメインボードがGrahamトーンアームのワンドの有効長10インチに最適化
されていると私に言った。標準の9インチのワンドでは長さは十分ではなかったのだ。さらにKuzma 4Pointの11イン
チの有効長もヘッドシェル延長プレートを加えなければ使えなかった。Kuzmaのマウンティングシステムは独特で、
ターンテーブルによってはピボットからスピンドルの間隔で問題が起こる。しかしスピンドルに対してメインアーム
ボードを設置する際にGrahamのアームの長さが10インチに限定されることを考えると、Air Force Oneは幅広い種類
のアームに合うのか疑問ではある。TechDASは、ボードの穴あけによって幅広い種類のアームに適応することができ
ると言っているのだが。購入する前にAir Force Oneが自分の持っているアームと合うのかどうか問合せるほうがいい
だろう。とは言うものの、10インチPhantomII SupremeはTechDASと理想的な組み合わせだ。ヘッドシェル延長プレー
トが必要となる4Pointは、Phantomほどではないにしても、おそらく改造することなくメインアームボードに合うだ
ろう。
TechDASの説明ではサブアームボードの性能はメインボードと同等とのことだが、私の目から見ると、これは最初か
ら設計に組み込まれていたというよりも後から追加されたものだと思われる。マイクロ精機が複数のアームを設置可
能なターンテーブルを長い間生産していたことを考えると、興味を引く点である。
Air Force Oneは複雑に見えるものの、最初にスピード記憶とベルトのキャリブレーションさえ行えば(どちらも一度
行なうだけでよい。この作業がその後 必要になるのはベルトを交換したときだけである)使用法はいたって簡単だ。
Suctionボタンを押してバキューム吸着を作動させる。吸着カップは必要ない。33 1/3か45rpmボタンを押せばプラッ
ターが回転しはじめ、素早くスピードが上がる(自動オフ機能を選択しておけば、うたた寝しても酔っぱらっても、
どちらのスピードボタンも押さない状態が一時間続くと自動的にプラッターを止めてくれる)。最後にStopを押して
Suctionボタンを押す。吸着が終了し、システムからエアが逆方向に少し噴出してLPを取り外しやすくしてくれる。実
に気が利いている !
バックライト付きボタン(明るさは調整可能)はトーンアームがアームレストに置いてあるときは比較的レコード針
に近いので、アームを最初にセットアップするとき、必ずプラッターのできるだけ近くに横方向位置をロックしたほ
うがいい。言うまでもなく、どのボタンを押すときも気を付けるようにしたい。
サウンド
試聴はほとんど Lyra Atlas カートリッジを Graham Phantom II Supreme に取り付けたものを使って行われた。
TechDAS Air Force One は音の傑作だ。その評価はすぐさま歴然になった。MinusK プラットフォームに載せた
Continuum Caliburn と全く同じほど豊かな静寂とはいかないまでもそれに非常に近い超低レベルのノイズフロアだ。
この観察については、改造した Alesis MasterLink を使って両者のターンテーブルの出力を24-bit/96kHzで録音して
確認することができた。
音量を十分に上げて針を Air Force One のプラッターの上に置いても、スピーカーを通してほんのかすかなポンとい
う発泡性の音の気配しか聞こえないのだ。そしてそれすらも速やかにスムーズに静寂へと消えていった。
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一流のターンテーブルとよくできたレコード盤が組み合わさるといつもそうなるように、湧き上がった音楽は、まる
で無から噴出した火山の力に例えられるほどの爆発力を持っていた。それと同時にホログラフで描いているような3D
イメージを描きながら身体的リラクゼーションと耳からの興奮が得られるのだ。何も知らされずに高性能なターンテー
ブルの再生を耳にしたときにリスナーが最初に感じるのが、この音質の素晴らしさである。CD品質の録音であったと
してもそう感じるはずである。私はあるオーディオショーでそのような録音を初めて再生したときのことを思い出し
た。そのときRockport Technologies社のSystem III Sirius ターンテーブルを使い喝采を博したのだ。
プラッターのスピードが正確で一定になればなるほど、LPの溝の変調度合に関係なく、音の聴きやすさは増し、音楽
のインパクトはよりドラマチックに、リスナーはよりリラックスし、喜びはより大きくなる。そうなると、リスナー
は何を聴いているかを分析しようとすることなくより原始的な(そして恐らくより正確な)感覚処理に身をまかせる
ようになるのだ。Air Force Oneを試聴していた何週間というもの、私は気楽にあるいは批判的に聴いてみた。そして
そのどちらにおいても、何の苦痛も感じず、ただ感覚的な喜びが高まり、コンサートで席にゆったりと座って聴いて
いるときのような非日常的なリラクゼーションを味わった。それはデジタル、特にCDを聴くときには絶対に経験しな
いことだ。
Spiral Groove社のSG1.1やOnedof社のOne Degree of Freedomなどのターンテーブルでもそう思ったが、隣のスタンド
に私のリファレンス機であるContinuum Caliburnターンテーブルがありながら、私はAir Force Oneが聴きたくなった。
その衝動を引き起こすターンテーブルの価格が低ければ低いほど、そのターンテーブルは感動を与える。だからこそ
SG1.1はこれほどまでに重要なのだ。しかしAir Force OneはSG-1よりも広く豊潤な物理的また空間的な音の世界を作
り出す。特に過渡的な音の立ち上がりの鮮やかさやマイクロダイナミクスのグラデーションにおける繊細なデリカシー
がそれに伴っている。とはいえ、繰り返しになるがTechDASはSpiral Grooveの三倍以上の価格である。
Air Force One は Continuum Caliburn(トーンアームとスタンドを含め$160,000)と似ている。Onedof(レビューを
書いた時は$150,000)の過渡的イメージはある種のリスナーにとってほとんど均質化していると言えるほどスムー
ズである。あるオーディオ店の試聴イベントで参加者が希望した24/96録音によるポールサイモンの Diamonds on
the Soles of Her Shoes を聴くのにどちらのターンテーブルで再生するかで意見が分かれた。Air Force One は
Caliburn のスムーズさよりもわずかにシャープでより豊かな過渡特性を持っている。
Air Force One が Caliburn に最も似ているのは、マイクロダイナミクスの描写、すなわち命のないものを生きたプラ
ズマに変える小さな動的活動という点であろう。その爆発的マクロダイナミックな表現は一流のターンテーブルをじっ
くり聴いたことがないリスナーや、レコード盤のダイナミクスはデジタルにかなわないと考えている人たちにとって
間違いなく衝撃的なはずだ。
TechDAS のダイナミックな表現は感動的だったのだが、それと同じくらい感動的で長い期間のうちに印象に残ったの
は細やかな表現だった。この点における Air Force One のパフォーマンスは私が今まで経験した中で最も素晴らしい
部類に入る。
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私が持っているウラディーミル・アシュケナージがアナトール・フィツォラリとロンドンシンフォニーと共演したラ
フマニノフ ピアノコンチェルト3番(Decca SXL6057)は品質に問題がある(“VG+”)レコードだ。編集なしで録音し
てあり、私からすると、それは流れる音の黄金であり至高の音楽である。ウォルサムストー・アセンブリーホールで
少し離れた位置から録音され大きく温かい残響音があるため、プレス上の欠点であろうと表面の傷であろうと強調し
てしまう。Caliburn と同様に Air Force One はそのパフォーマンスが素晴らしいだけでなく、不要なポップ音やクリッ
ク音を抑制する能力も大変優れていて、なおかつ音楽的表現を最大限に実現してくれる。難有りのレコード盤をここ
まで聴きやすく、そして楽しめるようにしてくれるターンテーブルはごくわずかだ。
セロニアス・モンクの The London Collection: Volume One (45rpm LP, Black Lion/ORG Music 1052)を Kuzma 4Point
アームと Lyra Atlas カートリッジを使って2つのターンテーブルで再生してみた。Caliburn のほうがいくらかマイク
ロダイナミクスのグラデーションのレンジが広く、過渡的アタックの繊細さがわずかに増しディテールやインパクト
を損なわない。しかし僅差である。
再 発 売 さ れ た 素 晴 ら し い LP ハ リ ー ・ ベ ラ フ ォ ン テ の Belafonte Sings the Blues (45rpm LPs, RCA Living
Stereo/Impex IMP 601245) に収録された ”Cotton Fields” を使って比較してみても結果は同じだった。どちらのター
ンテーブルの音もハーモニクス、空間、テクスチャー、ミクロダイナミクスの面で素晴らしいが、オープニングの
ウォーキングベースラインがごくわずかな違いを正確に示している。Caliburn のアタックはより丸みがあり、テクス
チャーがより複雑になっている。その結果生じる低周波パルスの深みとベースの背景の空間が増している。そしていっ
そう滑らかに静寂へと減衰していく。道楽者の御託かもしれないが、他の言い方が思いつかない。しかし、ここでも
また二つのターンテーブルの差はごくわずかである。
これら2機のターンテーブルの微妙でありながら聞き分けることができる違いの多くは Continuum Caliburn 独自のトー
ンアーム取り付け、すなわちアームが3次元的に絶縁されている取り付けと、素晴らしいバッテリー駆動のモーター
とドライブシステムによって説明できると思う。二つのモデルの大きな違いは$60,000の価格差である。
超洗練されたテクノロジーと類まれな構造品質、美しい仕上げ、魅力的な音、やや分析的な傾向を持つ TechDAS Air
Force One は、最も人を魅了し、かつ優れたテクノロジーを持つ超高性能なターンテーブルの一つである。もし買え
るならぜひ買ったほうがいい!もし Caliburn をまだ買っていなかったなら、私はこれを買っていただろう。
Michael Fremer
※ 筆者 Michael Fremer はアナログ全般の専門ウェブサイトAnalogPlanet.comの編集者でもある
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