教職員等中央研修講座資料 13/10/30 動物の時間・教育の時間 東京工業大学生命理工学研究科 本川達雄 要旨 動物の時間についてお話しします。それをもとに、教育や私たちの生き方について 考えてみることにしましょう。 私たち現代人は、時間とは時計で計るもの、万物に共通のものと考えています。で も動物が関わると時間が違ってくるのです。 私たちの体で時が刻々とたっていることを一番実感できるのは心臓の拍動でしょ う。一回のドキンにかかる時間は、われわれではおよそ 1 秒です。ところがハツカネ ズミのように小さなものでは 0.1 秒、ゾウのような大物では 3 秒もかかります。動物 の時間は大きいものほどゆっくりになるのです。これは心臓に限りません。肺の動き でも大人になるまでの時間でも、そして寿命という時間でも成り立つ関係です。 どれだけのエネルギーを使うかを調べてみると、時間の速いものほど、体重あたり にしてエネルギーをたくさん使います。活発に働いて生きるペースが速いものほどエ ネルギーをたくさん使うのは当然でしょう。動物の時間を生きるペースととらえれば、 時間の速度とエネルギー消費量とが比例するのは、納得のいくことです。 このような時間の見方を私たち人間の時間に当てはめて考えるとどうなるでしょ うか?子供は体重あたりにすれば、大人よりずっとたくさんのエネルギーを使います。 子供の時間は、きっと大人より速いのです。だからこそ、1 日にたくさんのことがで き、逆に 1 日が長く感じられるのではないでしょうか。子供たちの時間が大人のもの とは違うとすれば、時計だけにたよって教育を行っては、大きな間違いをおかすこと になります。 人間、老いてくれば、1 日も 1 年も、サッと過ぎうようになりますね。子供時代、 成人の時代、老人の時代と、時間が違うものならば、おのおのの世界観や価値観に違 いがでてきて、当然だと思われます。そういう複数の時間、複数の世界を認めてはじ めて、私たちは一生を無理なく過ごせるのではないでしょうか。 「エネルギーを使えば使うほど時間が速く進む」という関係は、社会生活の時間に もあてはまると私は思っています。私たち現代人は、莫大な量のエネルギーを使って います。これで車やコンピュータを動かしているのですが、これらは使えば便利なも の。便利とは早くできることです。だからエネルギーを使えば、やはり時間が速くな 教職員等中央研修講座資料 13/10/30 ると言えるのではないでしょうか。私たちはお金でエネルギーを買い、そのエネルギ ーで時間を買い取っていると私は考えています。今や貧富は、物の多さよりは、時間 の速さが問題になっているように私には感じられます。 速ければよいという風潮のなかで、教育はどうあるべきなのでしょうか?てまひま をかけてこそ、人生。てまひまをかけてこそ、教育だと私は思うのですけれど。 エネルギー消費量と時間の速度が比例するということは、エネルギーを使って仕事 をしてはじめて、生物にとって意味のある時間が流れるとも考えられます。働かない 方が豊かだいう考えがあるとすれば、それは生物としては有意義な時間をもてない考 え方のような気がします。 なぜ動物の時間はエネルギー消費量に比例するのでしょう?生物の時間は回るも の、そして回転速度が速いほど、回転数に比例してエネルギーを使うものだと私は考 えています。エネルギーを注ぎ込んで時間を元に戻し、いつも新たになって回り続け ることにより、永続性を保つのが生物です。子供をつくるというのが、まさにこれで あって、エネルギーを注いで、自分のそっくりで若々しい次世代をつくっています。 ここで時間が新たに 0 から始まるのです。こうして回ればずっと続いていく。これが 生命の知恵なのですね。教育とは、まさにエネルギーを注ぎ込んで次世代をつくり、 そうして私たちが人類が続いていく、もっとも大切な仕事なのです。 ♪生命はめぐる♪ 日は昇り 日は沈み また朝が来て 夜となる 月は満ち 月は欠け 月はまた 丸く輝く 月日はめぐる 月日はめぐる めぐるリズムの中で 私は 生きてゆく 人は生まれ 愛しあい 大きく育ち めぐる月日の中で そして老い 私は 子供へと 子供をつくる 生きてゆく 死にゆくとき 希望をたくす 生命はめぐる 心臓は 肺は 休まずうち 呼吸を繰り返す クエン酸回路はまわり サーカデイアン・リズムは続く 血潮はめぐる 生理はめぐる 親から子へと めぐる命の中で 私は 生き続ける
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