2012年7月発行 ~教室での学びへのソーシャル

DISCO
GLOB A L I NSIGH T
海 外 教 育 機 関 の 最 新 事 例 レ ポ ート
Vol.
7
7回目の連載となる今回は、海外の教育機関におけるICT活用、特に教室での学びへのソーシャルメディア
導入事 例として大きな注目を集めているサービス、エドモド(w w w.ed modo.com /)というサービスに
ついて紹介します。日本国内でも2 012年 4月に総 務省が「教育分野におけるICT 利活用推 進のための
情 報 通 信 技 術 面に関 するガイドライン( 手 引書 )2 0 1 2 」を公 表するなど 、教 育分 野におけるI C T 、
ソーシャルメディア活用がますます無 視できない大きなテーマとなりつつあります。
1 生徒、教師、その保護者をつなぐSNS「エドモド」とは
今日、高等教育機関が講義をオンラインで広く公開したり、あるいは小学校、中学校でタブレットPCやインタラク
ティブ・ホワイト・ボード(電子黒板)を導入するなどクラウド・サービスやソーシャルメディア・ツールを活用する
ことで、教室を越えたオンラインでの協業等が可能になりつつあります。
edmodo
http://www.edmodo.com/
edmodo(エドモド)はアメリカで2008年9月に設立された、いわゆる「K12=幼稚園(KindergartenのK)から
始まり高等学 校を卒業するまでの13年間の教育期間」といわれる層の生徒と教師、そして保 護 者のための
ソーシャル・ネットワーキング・サービスです。
フェイスブックを国民の半数以上が使い、特に若年層はデジタル機器をあたりまえのように自由に使いこなす
アメリカにおいて、教室で行われた授業内容について学校以外でクラスメートや教師とやり取りをすることは
極めて自然なことでした。
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ただ、個人的な情報が実名ですべて開示されてしまうフェイスブックではプライバシーの問題もあり、教師と
生徒が「友だち」となってしまうことが問題視されており、2011年8月にはアメリカ・ミズーリ州で教師の性犯罪
から子どもたちを守るためにフェイスブック上で生徒と教師が「友だち」になることを禁止する法律が可決される、
ということがありました(3カ月後には教師らの抗議により廃止)。最 近では2012年5月にニューヨーク市で
公立学校の教職員向けにソーシャルメディアのガイドラインを策定し、フェイスブックやツイッター等を利用して
生徒と接触することが禁止されたという事例もあります。
このような 背景の中 、イリノイ州の 公立学 校のI T 部 門の職 員 2 人 、N i c B o r g( ニック・ボルグ )氏とJ e ff
O ' H a r a(ジェフ・オハラ)氏によって開 発されたのが、エドモドでした。彼らは生徒が 学 校で S N Sサイトや
動画共有サイトにアクセスできないようブロックする作業をする中で「何かがおかしい」と感じ、仕事を続け
ながら週 末と夜に自宅の地下室で、教師と生徒が安心して使うことができるソフトウェアを開発したことが、
このエドモドの原点です。
教師のニーズを何度も聞きながら、教師が使わされるのではなく、使いたいと思えるようなサービスを開発した
結果、現在の一見フェイスブックによく似た、しかし、その中身は教師によりコントロールされる教育系SNSが
生まれたのです。安全な環境で生徒にアサインメントを課したり、ディスカッションをさせたり、ドキュメントや
映像等をライブラリーとして共有したり、採点結果を通知することが可能なサービスです。
教師は無料でアカウントを作成することができ、自分の授業のグループを作成した上で生徒に特定のコードを
送付し、授業の内容に特化したコミュニティをつくることができます。生徒の親を招待することも可能で、また
世界中の他の教師と教授方法について情報交換することも可能です。
2 学校教育における新しいプラットフォームサービス
2011年9月、昨年の入学シーズンには既に利用者が300万人規模に成長しており、1年間のスクールイヤーを
経て、現在利用者は約780万人といわれており、アメリカのみならず、東南アジア、イギリス、オーストラリアなどを
含め、8万校以 上で 使 用されるプラットフォームに成長しつつあります(エドモドは 現在 英 語、スペイン語、
ポルトガル語 、ドイツ語 、フランス語 、ギリシャ語に対応 。日本 語は 未 対応( 入 力は可能 ))。利用者のうち
教師の数は間もなく100万人に達する勢いで成長しており、世界中の教師が教室での成功・失敗事例を共有
しながら、強力なコミュニティが生まれつつあります。
App store Edmodo
http://itunes.apple.com/jp/app/edmodo/id378352300?mt=8
また、ip h o n eアプリやアンドロイド版アプリ、そしてiPa dアプリも既にリリースされており、教 師や生徒が
どこにいても学習できる環 境が 整っています 。優 秀な成 績を取ったり 、授 業を休まなかった生徒に対して
バッジを与えたりする等、ゲーミフィケーション(ゲーム化)の要素を取り入れ、生徒に学ぶことを楽しみながら
課 題に取り組んでもらう工夫も取り入れられています。
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教 師は オンライン上で 例えば「 K a h n A c a d e m y 」という
ユーチューブを利用した3,200以上の無料教育コンテンツを
共有することも可能ですし、人気のあるTEDというサイトを
通じて 、世 界 中の 著 名なイノベーターによる1万を 超 える
プレゼンテーション動画を多言 語でクラスメートと共 有 、
視 聴することも簡単にできます。
なお、2012年3月にはエドモドのAPI(Application Programming Inter face)が公開され、外部のウェブ
開発者が自由にエドモドのプラットフォーム上で利用できるアプリを作成することができるようになりました。
例えば授 業 用のミニ・クイズを簡単に作成するアプリや 、生徒のテスト結果をオンラインで分析・解 析し 、
学習指 導に役 立てることができる分 析アプリ 、あるいはゲームを活用することで 学習に興 味 喚 起を促す
ゲームなどが、今年の9月にリリースされるプラットフォームサイトからダウンロードが可能になります。
まるでアップル社が提供するアップストアのようなしくみで、今後も現場で奮闘する教師からのフィードバックを
いち早く取り入れ、様々なアプリケーションが 生まれてくることが 期待されています。アプリは無料ですが、
今後は有料版の導入が予定されており、有料の場 合には購入の際にエドモドに15%の手数料が入るという
ビジネスモデルです。
このエドモドの成長は、アメリカのしくみがそのまま日本に適 応されることはすぐにはないにしても、同様の
サービスがいずれ日本でも開発され、利用されるであろうことを予兆させます。
学校教育のプラットフォームサービスとして、様々な教育サービス(進学情報や教職員の採用情報の提供等)が
いずれ付与され 、そこに 新しいビジネスが 生まれる可能 性 すら感じえます 。新入学シーズンである9月 、
エドモドの動向から目が離せません。
※本文中に紹介しているサイトのアドレスは、執筆当時のものです。参照する際に、移動または削除されている場合が
ありますのでご了承ください。
編集
: 株式会社ディスコ 教育広報カンパニー 企画開発グループ
ライター : 市川裕康(株式会社ソーシャルカンパニー 代表取締役 / ソーシャルメディアコンサルタント)
ソーシャルメディア・コンサルタントとして、ツイッター、フェイスブック等を活用したビジネス・
コンサルティング、非営利団体や企業のCSR / 社会貢献活動の推進・支援に取り組んでいる。
講談社「現代ビジネス」にて「ソーシャルビジネス最前線」を連載中。
株式会社ディスコ 教育広報カンパニー 企画開発グループ [東京本社]〒112-8515 東京都文京区後楽2-15-1
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