2012年5月発行 ~クラウドファンディング

DISCO
GLOB A L I NSIGH T
海 外 教 育 機 関 の 最 新 事 例 レ ポ ート
Vol.
5
5回目の連載となる今回は、Vol.4で取り上げた高等教育機関における寄付について考える上で最近注目を
集めつつある、
「 クラウドファンディング」と呼ばれる資金や寄付を集めるしくみについて紹介します。
1 クラウドファンディングとは
クラウドファンディングとは、インターネットやソーシャルネットワーキングサービスを活用することで不特定多数の
人から資金や寄付を集める手法のことを指します。
資 金 調 達を希望する個 人や団 体が 実 現したい 具体 的なプロジェクトについて動 画 や画 像 を盛り込 んだ
メッセージをオンライン上に掲載し、プロジェクトを実現するために必要な目標金額を設定した上で期限内に
賛同者から目標 額が集められると、その資 金を獲 得できるというものです。
資金提 供 者には、見返りとして提 案者からモノやサービス等が送られ、意義を感じるプロジェクトの支援者
として共感を得られるというしくみが一般的です。
クラウドファンディングの定義はまだ明確に定まっておらず、出資の方法もモノやサービスを得る「購入型」、
金銭によるリターンが得られる「投資型」、そしてそもそも見返りを期待しない「寄付型」等、その手法も様々な
ものが存在します。プロジェクトの内容も映像制作等のクリエイティブな作品から、ソフトウェア開発のスタート
アップ企業、そして、災害支援やチャリティといった社会貢献への寄付等、様々な目的でクラウドファンディングの
しくみが取り入れられ、進化を続けています。
2 012 年 4月5日 、アメリカで 緊 急 雇 用対 策の一環として提 案されていた「 クラウドファンディング 関 連 法 」
(The Entrepreneur Access to Capital ActおよびJOBS(Jump-Start Our Business Start-Ups)Act)が
成立し、起業家がインターネット上で不特定多数に向け直接株式を公開することが可能になりました。今までは
証券法などで実質制限されていた私企業による株式の公募活動を
大幅緩和し、年間10 0万ドル(約8,0 0 0万円)を上限に、一般個人
から株式割り当てを対価とした資金調達が可能になるというもの
です 。小規模 企 業の透 明 性を高めることで 起 業を促して雇 用を
増 やし 、米 国におけるビジネスや 技 術のイノベーション促 進に
つなげることがその狙いといわれています。
こうしたクラウドファンディングの盛り上がりの火付け役となった
のが、今や自主制作映画や音楽の業界では圧倒的な知名度を持ち、
クラウドファンディングサービスの 代 名詞とも言われる「 キック
スターター(Kickstarter)」です。2009年4月にサービスを開始して
以来、2万以上ものプロジェクトに対し、2億ドル(160億円)以上の
キックスターターのサイトより
http://www.kickstarter.com/
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資金が集められ、今まで存在しなかったような新しい資金調達の方法、業界を作り出すことに成功しています。
例えば、2012年4月にインターネット上で資金調達を試みた、スマートフォンと連動する腕時計「Pebble Watch」の
場 合、たった2 週間で購入希望者5万人以 上から、合計70 0万ドル(約5 億6 0 0 0万円)を超える資金調達を
可能にした、というような例も生まれています。*
*出所: Star t-Ups Look to the Crowd(ニューヨークタイムズ 2012.4.30)
また、数は多くないものの、キックスターターを通じて資金調達に成功した教育関係の事例も生まれています。
アメリカヴァージニア州にあるメリーワシントン大学のオンライン公開講座「デジタル・ストーリー・テリング」を
担当するジム・グルーム(Jim Groom)氏の場合、授業の運営に必要な機材代として3,000ドル(約24万円)の
資金を募ったところ、たった2週間で予想を超える約1万3,0 0 0ドル(約10 0万円)を164人から集めることに
成功しました。資金提供者には金額に応じてオリジナルステッカーやTシャツ、そして100ドル提供してくれた方には
授業で課す宿題にその人の名前を冠する権利等、趣向を凝らしたお礼が提案されていました。
2 教育分野におけるクラウドファンディングの可能性
主にクリエイティブなモノやサービスを対 象にした事例が 多いクラウドファンディングですが、目覚ましい
発 展と規模の拡 大にともない 、教育機 関においても効果 的にクラウドファンディングサービスを活用する
ケースが生まれています。
最 近日本で話題になった事例としては、京都大学iPS 細胞研究所長
(CiR A=サイラ)の山中伸弥教 授が、クラウドファンディングサイト
「 ジャストギビング( J u s t G i v i n g )」を活用することで 、研究 活動に
必 要な 基金1, 0 0 0万円を集めたケースがあります。このサービスの
場合、同サイト上で寄付を集める目的を記載した上でフルマラソンを
走ることを宣言 、山中教 授の試 みに共 感した人 が 製 品や 金 銭 的な
リターンを求めない寄付として資金が集められています。
再び海 外の事例に目を向けると 、全 米の公立学 校での教育改善に
特 化した サービスとして 、ニューヨークに拠 点を持 つ非 営 利 団 体
「ドナーズチューズ(DonorsChoose.org)」の活動が注目に値します。
2000年に公立学校の先生と教育改善に関心を持つ個人をオンライン上
で 繋げることを目的に設 立されたこのオンライン寄 付 サービスの
ジャストギビングのサイトより
http://justgiving.jp/c/7882
特徴は、寄付の対象が大きなチャリティの団体ではなく、全米の公立
学校の先生により提案される、子供たちのための「具体的な」教室での
プロジェクトである点です。
例えば「教室で使う30人分のノート、
ペン、
クレヨンが欲しい(170ドル)」、
「化学の実 験に使う器 材が 欲しい(110 0ドル)」、
「 生のアートに触れ
させるために地 域の美 術 館に連 れていきたい( 7 0 0ドル )」、
「 音楽
プログラムのための16台のギターが欲しい(1000ドル)」というような
リクエストが、やる気に満ちた先生の提 案とともに写真付きでウェブ
サイトに掲載されています。
その背景には、多くの公立学校では予算が非常に限られていて、特に
ドナーズチューズのサイトより
http://www.donorschoose.org/
貧困地域の学校では、先生が「自腹」で教材や文具等を購入しなければ
いけないこともあるという厳しい状況がありました。
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テーマや地域等で興味を持った個人が、プロジェクトに対して最低1ドルから簡単にオンラインに寄付をする
ことができ、目標寄付額に達した場合、リクエストしたものが直接ドナーズチューズから教室に送り届けられます。
設立から約12年、2012年4月末の時点でそれまでに集められた寄付の総額は約1.15億ドル(約92億円)に達し、
約27.5万もの教室のプロジェクトを通じて、655万人近い子供達の学習環境の改善に役立てられています。
※同ウェブサイトのデータより(http://www.donorschoose.org/about /impact.html)
その他、ユニークな試 みとしては、世界的に有名な米国屈指の美 術
デザイン大学、R h o d e Is la n d S c h o ol of D e s ig n(R I S D)による
前述のクラウドファンディングサービス「キックスターター」の活用が
挙げられます 。クリエイティブな作品を創 造する在 校 生や同窓 生 、
そしてファカルティ
(教員)
を応援するために、同校は「キックスターター」
に
専用ページを設置し、大学として積極的に同校関係者のプロジェクトを
支援するしくみを設けています。
以上、今回はクラウドファンディングについてその概要と教育分野の
事例を取り上げました。成功するクラウドファンディングプロジェクトに
共通することとして、
オンライン上に掲載されたプロジェクト
(チャレンジ、
作品)に対し数多くの共感を得て、その試みに賛同した人が口コミを
通じて拡がっていくことが挙げられます。こうした新しい資金調達方法の
キックスターターのサイトより
発展は、まだ黎明期であり、その対象領域も寄付型、事前購入型、起業支援・投資型等、様々な領域で独自の
事例が生まれ、しくみも発展していくと思われます。
大学経営という視点で積極的に活用している事例は、世界的に見てもまだ少ないのが現状ですが、サイエンス
分野での研究に特化した寄付サービス等は既に複 数誕生しており、次回はそうした取り組みを紹介しつつ、
今後の高等教育機関におけるクラウドファンディングの可能性をさらに探っていきたいと思います。
※本文中に紹介しているサイトのアドレスは、執筆当時のものです。参照する際に、移動または削除されている場合が
ありますのでご了承ください。
編集
: 株式会社ディスコ 教育広報カンパニー 企画開発部
ライター : 市川裕康(株式会社ソーシャルカンパニー 代表取締役 / ソーシャルメディアコンサルタント)
ソーシャルメディア・コンサルタントとして、ツイッター、フェイスブック等を活用したビジネス・
コンサルティング、非営利団体や企業のCSR / 社会貢献活動の推進・支援に取り組んでいる。
講談社「現代ビジネス」にて「ソーシャルビジネス最前線」を連載中。
株式会社ディスコ 教育広報カンパニー 企画開発部 [東京本社]〒112-8515 東京都文京区後楽2-15-1
TEL:03-5804-5568 E-mail [email protected] URL:www.disc.co.jp
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