法面保護工

5. 法面保護工
法面保護工は法面の風化・浸食を防止し法面の安定を図るものであり、植物を用いて法面
を保護する植生工と、コンクリート等の構造物による法面保護工の 2 種類に大別される。
また、法面に湧水がある場合は法面の洗掘を防止し安定を図るため、法面保護工に加えて
地下排水溝等の法面排水工を併用する必要がある。
表-5.1 に平成 11 年度から平成 20 年度に出題された問題の内容と出題年度の一覧を示す。
表-5.1
年度
内
容
20
年度別出題一覧表
19
18
17
16
法面保護工全般
15
14
13
○
プレキャスト枠工
○
コンクリート張工
○
ブロック張工
○
グラウンドアンカー工
○
モルタル・コンクリート
吹付工
杭
工
法面排水工
○
○
※平成 20 年度は地震における斜面の被害について出題。
-1-
12
11
(1) 法面保護工
法面保護工は植生工と構造物によるものとに大別されるが、一般に工費、景観等から考え
ると植生工が望ましい。しかし、気象、地質、土質、勾配、湧水の状態等から植生工による
法面安定の確保が難しい時は、構造物による工法を採用する。
法面は以下のような理由から、切土や盛土が完了したらすぐに法面の保護を行うことが望
ましいが、植生工は施工時期に注意を要する。
① 雨水などによる表面水や湧水により浸食されやすい
② 土質や気候によっては、施工後の法面に乾燥亀裂や凍上による表面の剥離を生じる場
合がある
③ 岩盤の種類によっては風化が進みやすい場合がある
標準的な法面保護工の工種を表-5.2 に示す。
表-5.2
分類
植
生
工
構
造
物
に
よ
る
法
面
保
護
工
工
主な法面保護工の工種と目的
種
目
的
・
特
徴
種 子 散 布 工
客 土 吹 付 工
植生基材吹付工
張
芝
工
植生マット工
植生シート工
浸食防止、凍上崩落抑制、全面植生(緑化)
植
筋
工
工
盛土法面の浸食防止、部分植生
植生土のう工
不良土、硬質土法面の侵食防止
苗木設置吹付工
浸食防止、景観形成
植
景観形成
生
筋
芝
栽
工
編
柵
工
じ ゃ か ご 工
法面表層部の浸食や湧水による土砂流出の抑制
プレキャスト枠工
中詰が土砂やぐり石の空詰めの場合は浸食防止
モルタル・コンクリート吹付工
石
張
工
ブロック張工
風化、浸食、表面水の浸透防止
コンクリート張工
吹 付 枠 工
現場打ちコンクリート枠工
法面表層部の崩落防止、多少の土圧を受けるおそ
れのある箇所の土留め、岩盤はく落防止
石積、ブロック積擁壁工
ふとんかご工
井桁組擁壁工
コンクリート擁壁工
ある程度の土圧に対抗
補強土工(盛土補強土工、切土補強土工)
ロックボルト工
すべり土塊の滑動力に対抗
グラウンドアンカー工
杭
工
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(2) プレキャスト枠工
プレキャスト枠工は、侵食されやすい切土法面や標準勾配でも状況によって植生が適さな
い箇所、あるいは植生を行っても表面が崩落するおそれのある場合に用いられ、1:1.0 より
緩やかな勾配の法面に適用される。
枠の交点部分には滑り止めのため、長さ 50 から 100 cm 程度のアンカーピンを設置し、枠
内は良質土で埋め戻し植生で保護することが望ましい。
図-5.1
コンクリートブロック枠工の例
(3) ブロック張工
ブロック張工は、法面の風化及び浸食等の防止を主目的とし、1:1.0 以下の緩勾配で粘着
力のない土砂、泥岩等の軟岩ならびに崩れやすい粘土等の法面に用いる。
また、法面勾配を標準より急にする必要がある場合や、オーバーブリッジの埋め戻し部、
盛りこぼし橋台の全面の保護等にも用いられる。
一般に直高は5m以内、のり長は7m以内が多い。
図-5.2
コンクリートブロック張工の例
-3-
(4) モルタル・コンクリート吹付工
モルタル・コンクリート吹付工は、法面にさしあたりの危険は少ないが、風化しやすい岩、
風化して剥げ落ちるおそれのある岩、切土した直後は固くてしっかりしていても、表面から
の浸透水により不安定になりやすい土質ならびに固結シルトなどで植生工が適用できない箇
所に用いる。
吹付厚は、法面の地質状況や凍結度合等の気象条件等を考慮して決定するが、一般にモル
タル吹付工の場合は 8∼10 cm、コンクリート吹付工の場合は 10∼20 cm を標準とする。
図-5.3
モルタル・コンクリート吹付工
(5) コンクリート張工
コンクリート張工は、コンクリート擁壁工とモルタル吹付工との中間に位置付けられ、原
則として土圧等の作用しない箇所に用いられ、節理の多い岩盤や緩い崖錐層等で、法枠工や
モルタル吹付工では法面の安定が確保できないと考えられる場合に用いられる。長大法面、
急勾配法面では金網または鉄筋を入れるとともに、すべり止めのアンカーピンまたはアンカ
ーバーをつけることが望ましい。
一般に 1:1.0 程度の勾配の法面には無筋コンクリート張工が用いられ、1:0.5 程度の法
面には鉄筋コンクリート張工やH鋼等で補強したコンクリート張工が用いられる。
図-5.4
コンクリート張工の例
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(6)現場打ちコンクリート枠工
湧水を伴う風化岩や長大のり面等で、のり面の長期にわたる安定が若干疑問と思われる箇
所、あるいはコンクリートブロック枠工等では崩落の恐れがある場合に用いる。
また、節理、亀裂等のある岩盤でコンクリート吹付工等で浮石を止めることができない場
合にも、支保工的機能を期待して適用されることがある。
図-5.5
現場打ちコンクリート枠工の例
(7)吹付枠工
亀裂の多い岩盤ののり面や、早期に保護する必要があるのり面等に用いる。
標準的な機能は現場打ちコンクリート枠工と同様であるが、施工性が良く、凹凸のある法
面でも施工でき、のり面状況に合わせて各種形状の枠も可能である。
図-5.6
-5-
吹付枠工の例
(8) グラウンドアンカー工
グラウンドアンカー工は、法面において岩盤に節理、亀裂等があり、崩落または崩落する
おそれがある場合、比較的締った土砂の法面や斜面で崩壊のおそれがある場合等で抑止力を
付与する目的で用いられる。
グラウンドアンカー工は、現場打ちコンクリート枠工、吹付枠工、コンクリート張工、擁
壁工等の工法と組み合わせて使用される。
アンカー引張部材には高張力が作用することから、鋼材のリラクゼーションを少なくする
等の理由により、一般にPC鋼材(PC鋼棒、PC鋼より線、多重PC鋼より線等)が用い
られる。
図-5.7
グラウンドアンカー工の例
(現場打ちコンクリート枠工との組合せの例)
(9) 杭
工
杭工は、限られた範囲で崩壊に対して比較的大きな抑止力を有する工法である。杭はすべ
りの形態によってせん断のみ、もしくはせん断及び曲げに対して安全な構造としなければな
らない。
杭の断面、形状、杭間隔については、必要な抑止力から算定する。この場合、杭間の中抜
けに対しても安全であるよう配慮する必要がある。
杭にはH形鋼杭、鉄筋コンクリート杭、鋼管杭等あり、施工法としては挿入杭がよく用い
られる。挿入杭は大口径ボーリング(30∼60 cm 程度)の孔に直径 30∼50 cm 程度の鋼管を
挿入し、コンクリートで中詰めし、管と孔壁の間隙にグラウトして施工する。
図-5.8
-6-
曲げ杭の種類
(10) 法面排水工
法面の崩壊の原因の多くは、表面水あるいは浸透水等の作用が原因となっている事例が多
いため、水の処理が法面の安定を確保するためには重要である。法面の安定のために設けら
れる排水工には、表面水を対象とするものと浸透水、地下水を対象とするものがある。
表-5.3
目
的
法面排水工の種類
機
排水工の種類
能
表面排水
(路面、隣接地、法面
の排水)
法肩排水溝
縦排水溝
小段排水溝
法面への表面水の流下を防ぐ
法面への雨水を縦排水溝へ導く
法肩排水溝、小段排水溝の水を法尻へ導く
地下排水
(法面への浸透水、地
下水の排水)
地下排水溝
じゃかご工
水平排水孔
垂直排水孔
水平排水層
法面への地下水、浸透水を排除する
地下排水溝と併用して法尻を補強
湧水を法面の外へ抜く
法面内の浸透水を集水井で排除する
盛土内あるいは地山から盛土への浸透水を排除する
1) 表面排水施設
a. 法肩排水溝
隣接地域から表面水が、法面に流入しないよう法肩に沿って設ける排水溝で、素掘り排水
溝、ソイルセメント排水溝、鉄筋コンクリート U 形溝、石張り排水溝等がある。
ソイルセメント排水溝は風化や凍害などに弱く耐久性に問題がる。
図-5.9
素掘り排水溝
図-5.10
ソイルセメント排水溝
b. 縦排水溝
法肩排水溝や小段排水溝からの水を、法尻の水路に導くために法面に沿って設ける水路で
あり、鉄筋コンクリート U 形溝、遠心力鉄筋コンクリート、半円管、鉄筋コンクリート管、
石張水路等が用いられる。
U形溝,コルゲートはのり面に明渠として,また鉄筋コンクリート管はのり面に埋設して
暗渠として用いられるが,前者の方が施工および維持管理が容易である。U形溝はソケット
付きがよく,水が裏面にまわらぬよう継目のモルタルを完全にし,3mごとにすべり止めを設
置する。
豪雨等により縦排水溝に土砂が大量に流れ込んだり,草木等により排水溝が閉塞されたり
することもあるので,現地の状況に応じて断面を大きくしておく必要がある。また縦排水溝
を流下する水は流速が大きいため水がはね出し,両側を洗掘するおそれがあるので,側面に
勾配をつけ,張芝や石張りを施すのが望ましい。
-7-
他の水路との合流箇所や流れの方向が急変するところには桝を設け、流水の減勢を図るため
簡単な土砂だめを作る。桝には必ず蓋を設置する。
図-5.11
鉄筋コンクリート U 形溝による縦排水溝の例
(単位:cm)
c. 小段排水溝
法肩排水溝と同様に素掘り排水溝、ソイルセメント排水溝、鉄筋コンクリート U 形溝、石
張り排水溝等が用いられ、集められた水は縦排水溝等によって法尻に導かれる。小段排水溝
を設置するときには小段幅を 1.5 m 以上とることが望ましい。
図-5.12
小段排水溝の例
1) 法面の地下排水施設
a. 地下排水溝
地下排水溝は法面に浸透してくる地下水や、地表近くの浸透水を集めて排水するのに有効
である。地下排水溝は、法面に生ずる浸透の状況によって W 形や矢はず形等に配置する。し
かし、浸透水の多い箇所やいくつかの溝が合流する箇所には集水桝や溝の中に穴あき管を埋
設するのが望ましい。
図-5.13
地下排水溝の例
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b. じゃかご工
じゃかご工は、法面に湧水があって土砂が流出するおそれのある場合や、崩壊した箇所を
復旧する場合、あるいは凍上により法面がはく離するおそれのある場合等に用いる。
じゃかご
ふとんかご
図-5.14
じゃかごの例
c. 水平排水孔
法面に小規模な湧水があるような場合には、下図に示すような孔を掘って穴あき管等を挿
入して水を抜くのがよい。孔の長さは一般に 2 m 以上としている。
図-5.15
水平排水孔
d. 垂直排水孔
法面の直上あるいは法面の中に垂直な排水孔を掘り浸透水の排除を図るもので、集水井工
が通常は用いられる。集水井は、地盤の比較的良好な地点に直径 3.5∼4.0 m の井戸を設置し、
集まった地下水は横ボーリング工(長さ 100 m 程度)または排水トンネルにより自然排水させ
ることが望ましい。集水井は一般にライナープレート(耐錆メッキしたものが望ましい)で作
られ、完成後は危険防止のための蓋(鉄鋼等)を設けなければならない。
図-5.16
集水井の設置例
図-5.17
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集水井による地下水排除工
e. 水平排水層
含水比の高い土で高盛土をすると盛土内部の間隙水圧が上昇し、法面のはらみ出しや崩壊
が生じることがあるので砂の排水層を挿入し、間隙水圧を低下させて盛土の安定性を高める。
図-5.18
傾斜地盤上の盛土の地下排水溝及び排水層
参考文献
・ 社団法人 日本道路協会
道路土工−のり面工・斜面安定工指針
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平成 11 年 3 月
【演習問題 5.1】
(平成 19 年度 No.4)
切土した法面に設ける縦排水溝に関する次の記述のうち,適当でないものはどれか。
(1)縦排水溝は,法肩排水溝及び小段排水溝からの水を速やかに斜面外に排除するものである。
(2)縦排水溝の設置箇所は,地形的な凹地など水の集まりやすい箇所とし,その構造は,水が
あふれたり飛び散ることのないようにする。
(3)縦排水溝が他の水路と合流するところに設ける桝には,点検が容易になるように蓋を設け
ない。
(4)縦排水溝の断面は,原則として流量を検討し決定するが,法肩排水溝,小段排水溝の断面,
土砂や枝葉の流入,堆積を考慮して十分余裕のあるものとする。
【演習問題 5.2】
(平成 18 年度 No.5)
法面排水溝に関する次の記述のうち適当でないものはどれか。
(1) 盛土法面の表層崩壊のおそれのある箇所には、必要に応じて排水層等による排水を行な
ったり、あるいは法尻部を砂礫や砕石ふとんかご等により置き換えて、補強と排水を併用
した対策を行うのがよい。
(2) 切土法面に湧水等があって安定性に悪影響のある場合には、その箇所に水平排水孔を設
けるなどの処理をその都度行い、小段排水溝、縦排水溝等は原則として法面整形後に施工
する。
(3) 法面に小規模な湧水があるような場合には、水平排水孔を掘って穴あき管等を挿入して
水を抜き、その孔の長さは一般に 2 m 以上とする。
(4) ソイルセメントを用いた排水溝は、風化や凍害に対する耐久性が大きいので本設の排水
溝としても多く用いられる。
【演習問題 5.3】
(平成 15 年度 No.5)
法面保護工に関する次の記述のうち適当でないものはどれか。
(1) 構造物による法面保護工の場合には、すべて背後の土圧に耐えられる構造のものとしな
ければならない。
(2) 法面保護工は、切土又は盛土が完了したら間をおかず引き続き施工し、植生工にあたっ
ては施工時期に注意する。
(3) 切土法面で崩落が予想される部分があれば、あらかじめ除去するなどの処理を行う必要
がある。
(4) 法面を吹付けなどにより全面被覆する場合は、湧水または浸潤水の排水には特に注意が
必要である。
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【演習問題 5.4】
(平成 13 年度 No.5)
法面保護工に関する次の記述のうち適当でないものはどれか。
(1) プレキャスト枠工は、亀裂の多い岩盤法面や早期に保護する必要がある法面等に用いら
れ、凹凸のある法面でも施工できる。
(2) コンクリート張工は、節理の多い岩盤やゆるい崖錐層などの法面に用いられ、一般に 1:
1.0 程度の勾配の法面には無筋コンクリート張工、1:0.5 程度の勾配法面では鉄筋コンク
リート張工が用いられる。
(3) ブロック張工は、法面の風化及び浸食等の防止を主目的として 1:1.0 以下の緩勾配の法
面に用いられ、一般には直高は 5 m 以内、法長は 7 m 以内とすることが多い。
(4) グラウンドアンカー工は、法面において岩盤に節理、亀裂等があり崩落又は崩壊するお
それがある場合に、抑止力を付与する目的で用いられる。
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