Ⅰ章 研究の概要 <研究主題> 対話を通した「思考力」の育成(2年次) -「育てるカウンセリング」を生かして,個々の考えを広げ深める授業づくり- 1 研究主題について 本 校 は , 平 成 24年 度 よ り ,「 思 考 力 」 を 育 成 す る ユ ニ バ ー サ ル デ ザ イ ン の 授 業 づ く り に 取 り 組んできた。特別支援教育の考えを生かして,教材等を工夫し,すべての子どもの思考活動を 保障する試みである。それは,ただ単に,思考にのみ焦点を当てた研究ではなく,学習指導要 領 に 示 さ れ て い る 「 学 力 の 3 要 素 」, ○基礎的な知識及び技能 ○思考力,判断力,表現力等 ○主体的に学習に取り組む態度 を 一 体 と し て 捉 え ,「 思 考 力 」 育 成 に 向 け て , 知 識 ・ 技 能 や 学 習 意 欲 に ユ ニ バ ー サ ル デ ザ イ ン の働きかけを行う取り組みであった。 しかしそこには,教材と子どもとの関係を重視するあまり,子どもどうしの関わりが不十分 に な る と い う 課 題 が あ っ た 。 そ こ で 平 成 25年 度 は , 前 年 度 の 課 題 を 受 け , 子 ど も た ち を 関 わ ら せ,学び合いを活性化することにも取り組んだ。ただ,後述するが,その取り組みは一定の成 果 を 見 つ つ も , な お 課 題 を 残 す も の と な っ た 。 こ の よ う な 過 程 を 経 て , 本 校 で は 平 成 26年 度 よ り ,こ の 子 ど も た ち の 関 わ り を 研 究 の 中 心 に 据 え ,と り わ け ,こ と ば を 介 し た 関 わ り で あ る「 対 話 」 に 焦 点 を 当 て ,「 思 考 力 」 の 育 成 に 取 り 組 ん で い る 。 対 話 と は 一 般 に ,「 向 か い 合 っ て 話 す こ と 。 相 対 し て 話 す こ と 。 二 人 の 人 が こ と ば を 交 わ す こ と 。」(『 広 辞 苑 - 第 6 版 - 』) を 意 味 し , こ と ば を 介 し て 人 と 人 と が 関 わ る こ と で あ る 。 本 校 で は , こ の よ う な 対 話 の , 他 者 と こ と ば を 介 し て 関 わ る 働 き に 着 目 し な が ら ,「 思 考 力 」 の 育成を図ろうとしている。それは,子どもたちが,それぞれの考えを友達と重ね合わせて一つ の新たな考えを生み出したり,互いの違いを認めつつ自らの考えを形づくったりする等,学習 集団の考えを収束させたり,拡散させたりする対話を通して,個々の考えを広げ深めていくこ とを目指すものである。 ここまで,本校の研究経緯を視点に研究主題について述べてきたが,次に,思考力育成に関 す る 教 育 動 向 に 目 を 向 け て み た い 。 平 成 26年 3 月 , 国 立 教 育 政 策 研 究 所 教 育 課 程 研 究 セ ン タ ー よ り ,『 資 質 や 能 力 の 包 括 的 育 成 に 向 け た 教 育 課 程 の 基 準 の 原 理 』 が 報 告 さ れ た 。 そ こ で は , こ れ か ら の 子 ど も た ち に 必 要 と さ れ る 「 21世 紀 型 能 力 」 が , 今 後 の 教 育 課 程 や 授 業 づ く り に 反 映 さ れ て い く こ と が 求 め ら れ て い る 。 こ の 21世 紀 型 能 力 は , 基 礎 力 ・ 思 考 力 ・ 実 践 力 の 3 層 か ら構成されている。そして思考力は,その中核に位置づけられ,次のように定義されている。 一人一人が自ら学び判断し自分の考えを持って,他者と話し合い,考えを比較吟味して統合し,よ りよい解や新しい知識を創り出し,さらに次の問いを見つける力 ( 国 立 教 育 政 策 研 究 所 ,『 資 質 や 能 力 の 包 括 的 育 成 に 向 け た 教 育 課 程 の 基 準 の 原 理 』,2014年 ,ⅶ 頁 ) -1 - こ こ か ら は , 変 化 の 激 し い 社 会 に 対 応 す る た め に 必 要 な 力 と し て の 思 考 力 に ,「 他 者 」 と の 関わりという要素が含まれていることが分かる。そして,この報告書の中では,資質・能力を 育成するための授業づくりや教育課程編成の視点の一つとして,対話で子どもたちの考えを深 め て い く こ と の 必 要 性 が 示 さ れ て い る 。よ り グ ロ ー バ ル 化 し て い く こ れ か ら の 社 会 に お い て は , 多様な考えをもった人々が,対話をしながら課題解決を図ることが必要であり,これからの時 代を生きる子どもたちには,その力の育成が求められているのである。 ま た , 平 成 26年 11月 に は , 文 部 科 学 大 臣 よ り , 諮 問 『 初 等 中 等 教 育 に お け る 教 育 課 程 の 基 準 等 の 在 り 方 に つ い て 』 が 出 さ れ ,「 ア ク テ ィ ブ ・ ラ ー ニ ン グ 」 と い う こ と ば に 注 目 が 集 ま っ て いるのは周知のとおりである。もともとは,講義形式に偏った高等教育の質的転換に向け,中 *1 央教育審議会で明示された ものであったが,それが,初等中等教育においても,同様に求め ら れ た の で あ る 。 す な わ ち ,「 ア ク テ ィ ブ ・ ラ ー ニ ン グ 」 を 核 に , 小 学 校 段 階 か ら 大 学 に 至 る まで一貫して,主体的・協働的な学習を展開していくことが,これからの教育で求められてい る の で あ る 。 そ し て , そ の よ う な 模 索 の 中 で , 平 成 27年 9 月 の 中 教 審 の ま と め で は , そ の 冒 頭 *2 に ,「 未 来 に 生 き る 子 ど も た ち に 必 要 な 能 力 」 と し て , 次 の 3 点 が 示 さ れ て い る 。 ○十分な知識・技能 ○思考力・判断力・表現力等 ○主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度 こ こ で 示 さ れ た 能 力 は ,現 行 学 習 指 導 要 領 の「 学 力 の 3 要 素 」が 踏 襲 さ れ て い る 。た だ ,「 多 様な人々と協働して」という点において,それがより発展的に捉えなおされている。思考力等 と一体的に育成される態度として,他者との関わりの中で学ぶという側面が,初等教育から大 学教育まで一貫して,今後さらに求められていくと考えられる。そして,このことは,学習指 導 要 領 改 訂 を め ぐ る 「 論 点 整 理 」 で ,「 他 者 と の 協 働 や 外 界 と の 相 互 作 用 を 通 じ て , 自 ら の 考 *3 えを広げ深める,対話的な学びの過程が実現できているか」 という視点が,学習改善の重要 な視点の一つとして挙げられていることにも通じる。 私たちは,以上に述べてきたような,これまでの本校の取り組み,そして現在の教育動向を 踏 ま え ,「 対 話 を 通 し た 『 思 考 力 』 の 育 成 ( 2 年 次 )」 と い う 研 究 主 題 の 下 , そ の 具 体 的 な 授 業 の 在 り 方 を 模 索 し て い る と こ ろ で あ る 。 そ の 際 , 本 校 で は ,「 対 話 」 を 次 の よ う に 定 義 し , 実践に取り組んでいる。 <本校の対話> 自 己 主 張 と 他 者 受 容 に 基 づ き な が ら ,こ と ば を 介 し て 個 々 の 考 え を 広 げ 深 め る , 子どもどうしの主体的な関わり *1 『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け,主体的に考える力を育成 す る 大 学 へ ~ 』( 答 申 ), 中 央 教 育 審 議 会 , 2012年 *2 『 高 大 接 続 シ ス テ ム 改 革 会 議 ( 中 間 ま と め )』, 中 央 教 育 審 議 会 , 2015年 9 月 , 3 頁 よ り 抜 粋 *3 こ の 視 点 の 説 明 と し て ,「 論 点 整 理 」 で は , 次 の よ う に 述 べ ら れ て い る 。 「身に付けた知識や技能を定着させるとともに,物事の多面的で深い理解に至るためには,多様な表 現を通じて,教師と子供や,子供同士が対話し,それによって思考を広げ深めていくことが求められ る 。」 中 教 審 教 育 課 程 企 画 特 別 部 会 , 2015年 8 月 , 18頁 -2 - ま た ,私 た ち は こ の よ う な 対 話 の 成 立 に 向 け , 教 材 や 授 業 構 成 を 工 夫 し , 学 習 集 団 の 中 に 対 話への必然性を伴った多様な考えが表出されるよう試みている。各教科の問題解決過程で,自 分の考えを伝えたい,友達の意見を聴きたいといった,考えを交わすに値する多様さがなけれ ば,対話の成立は難しいからである。 2 研究副主題について (1)対話と現代の子どもたち 「思考力」を育成する上で重要な役割を果たす対話ではあるが,現代社会では,人々が,主 体的に自分の考えを関わらせ合うこと,すなわち本校が意図するような対話が困難な状況にな り つ つ あ る と 言 わ れ て い る 。社 会 学 者 の 土 井 隆 義 氏( 筑 波 大 学 大 学 院 教 授 )は ,現 代 の 人 々 は , 人間関係が壊れることに対する不安が非常に高く,他者と異なる考えを述べず,相手に同調す ることで,他者との関係を保とうとしていると指摘している。氏は,このような現代社会の中 に あ る 子 ど も た ち の 関 係 を 「 や さ し い 関 係 」 と 呼 び ,「 薄 氷 を 踏 む よ う な 繊 細 さ で 相 手 の 反 応 を 察 知 し な が ら , 自 分 の 出 方 を 決 め て い か な け れ ば な ら な い 緊 張 感 が 漂 っ て い る 」 *1 関 係 で あ ると言う。それは,本来のやさしさの意味とは異なるものである。 実際の学習場面における子どもたちの意識は,どうであろうか。全国学力・学習状況調査に お け る 質 問 紙 調 査 で は , 平 成 25年 度 , 新 た に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 に 関 す る 五 つ の 質 問 が 加 え ら れ た 。 そ の 中 の 一 つ に ,「 一 人 一 人 の 人 間 に は 考 え や 性 格 な ど に 違 い が あ る と い う こ と を 大切にしている」という質問があ り , 約 91% が 「 当 て は ま る 」 と 回 答している。このような結果から は,他者に同調しようとするやさ し い 関係 は見 え てこ ない 。しか し, 平 成 25年 度 質問紙調査結果【全国】 ○ 「一人一人の人間には考えや性格などに 違 い が あ る と い う こ と を 大 切 に し て い る 」・ ・ ・ ・ ・ ・ 約 91% ○ 「 友 達 の 前 で 自 分 の 考 え や 意 見 を 発 表 す る こ と は 得 意 」・ ・ ・ ・ ・ 約 50% 「 友 達 の 前 で 自 分 の 考 え や 意 見 を 発 表 す る こ と は 得 意 」 と い う 質 問 に ,「 当 て は ま る ・ ど ち ら か と 言 え ば 当 て は ま る 」 と 回 答 し て い る 児 童 は , 約 50% で あ る 。 一 人 一 人 の 考 え の 違 い が 大 切 であることを認めながらも,実際には,自信をもって,自己を打ち出すことに,約半数の子ど も た ち が , 困 難 を 覚 え て い る こ と が 伺 え る 。 こ の 割 合 は , 平 成 26・ 27年 度 も , ほ と ん ど 変 化 し ていない。 このような質問紙調査の結果から見える子どもたちの姿は,先に述べた「やさしい関係」へ と向かっていると言われる子どもたちの姿と符合するのではないだろうか。 本 校 の 子 ど も た ち は , ど う で あ ろ う か 。 研 究 を 始 め る に 当 た っ て , 平 成 26年 度 4 月 に 行 っ た ア ン ケ ー ト * 2 の 問 い 「 友 達 の 前 で 自 分 の 考 え や 意 見 を 発 表 す る こ と は 得 意 で す か 」 に ,「 当 て は ま る ・ ど ち ら か と 言 え ば 当 て は ま る 」 と 答 え た 子 ど も は 約 60%で あ り , 全 国 平 均 よ り や や 高 いものの,本校においても,半数近くの子どもたちが,自分の考えや意見を発表することに肯 定 的 で は な い こ と が 分 か っ た 。前 回 の 第 97回 研 究 発 表 会 で の 参 会 者 ア ン ケ ー ト や 授 業 討 議 で は , 「 子 ど も の 発 言 が 少 な い 。」「 声 が 小 さ い の が 気 に な っ た 。」「 な か な か 発 表 が で き な い 子 が い た 。」「 友 達 の 誤 答 に ,『 え ~ 。』 と 児 童 が 反 応 し た た め , 発 表 者 が 最 後 ま で 発 言 を 続 け る こ と *1 土 井 隆 義 著 ,『 友 だ ち 地 獄 』, 筑 摩 書 房 , 2013年 , 9 頁 *2 全 国 の 質 問 紙 調 査 の 項 目 は , 全 体 を 3 分 割 し て 各 学 校 に 割 り 当 て ら れ た 。 本 校 で は ,「 コ ミ ュ ニ ケ ー ション」の項目が割り当てられていなかったため,同様の質問紙調査を学校独自に実施した。 -3 - が で き な か っ た 。」 と い っ た , 自 己 主 張 と 他 者 受 容 が 十 分 で は な い こ と を , 少 な か ら ず ご 示 唆 いただいた。 これらのような点から,本校の子どもたち,そして多くの現代の子どもたちにとって,たと え,問題解決過程において,多様な考えが表出されるように働きかけたとしても,主体的にそ れ ら を 関 わ ら せ る 対 話 へ と 向 か う こ と が 難 し い 状 況 に あ る こ と が う か が え た 。「 思 考 力 」 育 成 に必要な対話が展開されるよう働きかけていくことが,私たちにとっての課題であったのであ る。 ( 2 )「 育 て る カ ウ ン セ リ ン グ 」 を 授 業 づ く り に 生 か す こ の よ う な 課 題 に 対 し , 私 た ち が , 働 き か け の 手 が か り と し た の が ,「 育 て る カ ウ ン セ リ ン グ ( Developmental Counseling)」 で あ る 。 育 て る カ ウ ン セ リ ン グ と は , 次 に 示 す よ う な も の である。 …ブラッガーらによって,第2次世界大戦後に提唱されたカウンセリングの一つの立場であり,それ までのカウンセリングは,不適応状況に陥ったり,問題行動を起こす子どもへの治療・矯正的カウン セリングが主であったのに対して,子どもたちの発達的な面に注目して,現在ある状態よりも,さら に一人一人の全人的な発展・向上を目指すカウンセリングとして出発したものである。…(中略)… 具 体 的 な 方 法 と し て は ,個 人 面 接 に と ど ま ら ず ,グ ル ー プ エ ン カ ウ ン タ ー や グ ル ー プ カ ウ ン セ リ ン グ , 進路相談等をあげることができる。 (『 学 校 カ ウ ン セ リ ン グ 辞 典 』,金 子 書 房 ,1995年 ,31頁 ) 育てるカウンセリングとは,治療的ではなく発達を促進し,育て高めるという働き,そして グループエンカウンター等に見られる「心とこころのふれあいを深め,自己の成長を図ろうと *1 する」 働きをもつものである。一般的に「カウンセリング」ということばからイメージされ る 「 治 療 的 な カ ウ ン セ リ ン グ ( Therapeutic Counseling)」 と 比 較 し な が ら , 育 て る カ ウ ン セ リングの主な特徴を見てみたい。 治療的カウンセリング 育てるカウンセリング 治療を要する子ども 対象 健全なすべての子ども 面接の時間 位置づけ 全教育活動 個人面接 方法 集団への働きかけ 病理行動の除去・緩和 目的 発達課題を解決し,成長を援助する 育てるカウンセリングは,心理的な側面へと働きかけていく点では,治療的カウンセリング と 同 様 で あ る が , こ の 表 *2 に あ る よ う に , 集 団 を 対 象 に 働 き か け を 行 っ て い く も の で あ る 。 前 述した「やさしい関係」のような,現代の子どもたちが抱えている課題は,個と個が影響し合 っている集団の中で生じているものであり,その集団へと働きかけることを目的としている育 て る カ ウ ン セ リ ン グ は , 対 話 を 促 進 さ せ る の に 有 効 な も の で あ る *3 。 *1 國 分 康 孝 編 ,『 カ ウ ン セ リ ン グ 辞 典 』, 誠 信 書 房 , 2012年 , 174頁 *2 國 分 康 孝 著 ,『 教 育 カ ウ ン セ リ ン グ 概 説 』, 図 書 文 化 社 , 2009年 , を 基 に 作 成 。 *3 日 本 教 育 カ ウ ン セ ラ ー 協 会 編 『 教 育 カ ウ ン セ リ ン グ 標 準 テ キ ス ト 』 に は ,「 対 話 の あ る 授 業 」 が , 育てるカウンセリングが扱う領域の一つとして示されている。 -4 - 平 成 25年 度 , 私 た ち が 手 が か り と し た 特 別 支 援 教 育 の 考 え は , 文 字 や 図 と い っ た 教 材 へ の 個 の認識をどう促進するかということが中心とな っていた。したがって学び合いを活性化する働 きかけも,教材を簡略なものにして分かりやす くする等, 「 教 材 と 子 ど も の 関 わ り 」に 働 き か け , その結果,間接的に子どもたちの関わりを促進 *1 し よ う と す る も の で あ っ た ( 図 1 )。 一 方 そ れ に 加 え て , 平 成 26年 度 よ り 新 た に 手 が か り と し ている育てるカウンセリングは,集団における 「子どもと子どもの関わり」を対象とし,それ をより良いものにすることを目的としている。 したがって,その働きかけは,直接的に子ども どうしの関わり,集団の形成を促進するものと な る ( 図 2 )。 その際,育てるカウンセリングが集団を対象としているということは,個よりも集団が優先 されるということではない。よりよい集団形成によって,個の成長を促すことが,最終的に目 指されているところである。 この,集団を対象とした育てるカウンセリングには,例えば次のようなものがある。河村茂 雄氏(早稲田大学教授)は,傷つくことや失敗することを恐れて,新しいことに取り組もうと しない子どもたちに,事前に次のような対応をしておくことを勧めている。 ・ み ん な で 取 り 組 む と き に ,人 を 傷 つ け る よ う な 言 い 方 を し な い よ う に ,事 前 に し っ か り 確 認 す る 。 ・取り組みのなかに,取り組んだ過程を評価しあう場面を設定する(結果だけではなく,取り組ん だ過程も大事なことを理解させる) ・うまくできなかったときにどうするのかという対処策,または逃げ道を用意しておく ( 河 村 茂 雄 著 ,『 教 師 の た め の ソ ー シ ャ ル ス キ ル 』, 誠 信 書 房 , 2012年 , 71頁 ) 「 人 を 傷 つ け る よ う な 言 い 方 を し な い 」「 う ま く で き な か っ た と き に ど う す る の か 」 と あ る ように,育てるカウンセリングは,友達との関わり方,いわば対話における技能を子どもたち に身に付けさせていく上で,多くの示唆を私たちに与えてくれるのである。 また,水上和夫氏(公立校スクールカウンセラー)は,発言者への関わり方や,異なる考え を発言した子どもへの対応について,次のように述べている。 全 体 で 意 見 を 交 流 す る 場 で は ,個 々 の 発 言 を あ た た か い 雰 囲 気 で 共 有 で き る よ う に す る 。教 師 は , 発言者の表情がよく見える位置に立ち,動揺したり,変化したりする子どもの反応を素早く読み取 る。聞き手の笑顔やうなずきなど,発言者を肯定する非言語サインを「…しているね」と言葉でフ ィードバックする。 ま た , 少 数 意 見 や 否 定 的 意 見 の 背 景 を く み ,「 ○ ○ と い う こ と が 言 い た か っ た ん だ ね 」「 よ く 言 え たね」と肯定的にリフレーミングする。このようにして安心して率直な感情交流ができる雰囲気を 保障する。 *1 詳 細 は , 本 校 第 97回 教 育 研 究 発 表 会 研 究 紀 要 23頁 を 参 照 。 -5 - ( 岸 俊 彦 , 水 上 和 夫 , 大 友 秀 人 , 河 村 茂 雄 編 ,『 意 欲 を 高 め る ・ 理 解 を 深 め る 対 話 の あ る 授 業 - 教 育 カ ウ ン セ リ ン グ を 生 か し た 授 業 づ く り - 』, 図 書 文 化 社 , 2013年 , 76頁 ) こ こ で は ,「 個 々 の 発 言 を あ た た か い 雰 囲 気 で 共 有 で き る よ う に す る 」「 安 心 し て 率 直 な 感 情交流ができる雰囲気を保障する」とあるように,育てるカウンセリングの考えからは,対話 における雰囲気を形成する際にも,多くの示唆を得ることができると私たちは考えている。 本 校 の 取 り 組 み は , こ の よ う な 育 て る カ ウ ン セ リ ン グ を 生 か し て ,「 思 考 力 」 育 成 へ と 向 か う対話を促進しようとするものである。また,その際には,対話の基盤となる,一人ひとりの 子 ど も の 他 者 へ の 関 わ り が , 学 級 集 団 の 中 で ど の よ う な 状 態 に あ る の か を , 教 師 の 観 察 や Q-U *1 等の質問紙調査を基に把握しておくことが必要不可欠であると考える。 以上,研究主題・副主題について述べてきた。これらを,研究の視点として整理すると,以 下のようになる。研究の具体的な内容については,次章以降で述べていくこととする。 <本校の研究の視点> *1 ○ 各教科・各単元で育成を目指す「思考力」に必要な対話を設定する。 ○ 対話へと向かう多様な考えが表出されるよう,各教科の教材や授業構成を工夫する。 ○ 育てるカウンセリングを生かして技能や雰囲気を高め,対話を促進する。 QUESTIONNAIRE-UTILITIESの 略 。 河 村 茂 雄 氏 を 中 心 に 考 案 さ れ た , 学 級 集 団 を ア セ ス メ ン ト し , よ り 適 切 な 支 援 を す る た め の 補 助 ツ ー ル 。 詳 細 は , 本 誌 25頁 を 参 照 。 -6 -
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