印刷教育研究会創立30周年記念に寄せて 国際印刷大学校学長、九州産業大学名誉教授、工学博士 木下堯博 (印刷教育研究会初代会長・同顧問) この度は印刷教育研究会30周年記念おめでとうございます。 9月は「印刷の月」 、各地で多彩な行事が開催された。9月10日、ハイデルフォーラム2 1の全国大会や11日から IGAS2015(写真1)などがあり、会期中は内外の印刷人が多数 参加し、各種交流会が活発に行われた。ここでは最近の活動をもとに、まとめたので、印刷 教育研究会の今後の指針になることを希望しています。 ハイデルフォーラムではドイツの Industrie4.0 の動向を討論する機会があり、その運営 メンバーにダルムシュタット工科大学の R.Anderl 教授が参画している。同大学には歴史と 伝統のある印刷機械研究所があり、2回、同研究所を訪問し、研究交流などを行った。 これに関して、IGAS2015 の会期中の9月12日 Dusseldorf Club の drupa2016 の説明会 とレセプションで、 ダルムシュタット工科大学の drupa2016 への対応などの討論があった。 いずれも「印刷教育」の重要性が強調されていた。IGAS2015 では各大学から出展があった が、印刷に直結した展示はあまり見られなかったのは残念である。また、2015 年7月1日 に「印刷メディア教育研究会」がニッケイ会館で開催され、8名の各分野の専門家の参加が あったが、175頁に及ぶ資料からの討論で、印刷工学学科を有する大学が、学科名称変更 し、何がしかの理由でカリキュラムが応用物理学科的内容に移行していった。これは基本的 に「印刷」を愛する精神がなく、印刷での研究から興味ある分野の研究にスライドしたため と思われる。印刷分野の研究は日本印刷学会誌でもオリジナル論文が少なく、2015 年 2 月 中部支部も廃止となり、ある意味で「印刷教育」の危機でもあろう。そのため、 「印刷メデ ィアを教育する職業大学の創設」について、印刷界2015年6,7月号などで発表(1)し てきた。JST の主催する理化学研究所の研究発表会(9月11日)では、3色色素からの色 彩発色を1分子色素で、ガスや応力により、多色変換する分子構造の発表があり、印刷分野 での応用は今後の課題でもあろう。 2015 年 9 月 3 日、本木昌造140回忌が菩提寺である長崎市・大光寺で開催(写真2) され、同氏は日本の印刷産業の基礎を築き、日本初の活版伝習所(初の印刷教育機関、1869 年)を設立し、印刷の普及に貢献された。これを記念し、長崎市図書館と長崎県印刷工業組 合とが共催して、9月の「印刷の月」に、活版伝習所を再現し、市民に広くアピールした。 著者は1995年の120回忌の座談会で本木昌造に関する博物館の建設を提案した。 20年間にわたり、世界の国際印刷展(drupa, IPEX, print, IGAS など)に参加し、日程を 調整して、博物館などを視察してきた。(2)この原点は韓国初の金属活字印刷とされる「直 指身体要説」の印刷された場所に 1990 年、清州古印刷博物館が建設され、2000年に UNESCO の Memory of the World として認証された。この資料調査や論文などは世界の 研究者によって行われ、著者もメンバーとして、日本の印刷発祥、百万塔陀羅尼経などの調 1 (3) 査を報告してきた。 又、長崎大学を中心として、本木昌造など長崎印刷出版文化史を共 同研究する計画があり、全国から10名の研究者が集められたが、本木活字の研究で博士号 (九州大学)を昨年、取得された若手研究者大串誠寿氏(4)も含まれ、今後の研究成果が期 待される。 2015年2月3日の page2015 では「印刷産業界での人財育成」としてセミナーを行っ たが、京都の㈱サンエムカラーで 2014 年 8 月に2週間(実質10日間) 、インターンシッ プ制を導入し、その成果を、日本印刷学会秋季研究発表会(京都工芸繊維大学)で報告(5) した。 準備過程としてカリキュラムの設定、印刷メディア教材制作、指導員(10名)の 各専門分野の教育、京都市内の各大学との交流、公官庁との折衝など多岐にわたった。その 結果、9名の大学3年生の参加があり、オフセット印刷で各自の企画・デザインしたブック カバーの印刷を行った。印刷教育の原点は現場から見出していくことが、大切である。 さて、30年前の1985年9月29日、印刷教育研究会が東京の離島センタービルで発 足し、印刷教育の理念の確立を主目的し、日印産連とも連携し、活動を続けてきた。199 2年には賛助会員は45社、正会員92名となり、全国及び海外との交流が活発になされた。 初期の活動には著書「印刷及び画像材料」などの印税が原資となり、役員は分担し、全国レ ベルで活動してきた実績があり、その基本は積極的に印刷企業及び関連企業と交流を実施、 印刷教育を実践することが重要であった。今後は各種情報交流により、賛助会員、正会員と 共に相互に活性化させていく精神を常に維持していくことが不可欠であろう。 設立30年、当初の理念には未だ到達せず、ここで原点にかえり、印刷メディアに広領域 分野(機能性,3D,ウエラブル,IoT,ロボットなど)を加えて、情熱と科学の融合を目指し、 会員獲得で再スタートさせることを期待している。 今後の主な参加予定の学・研究会は9 月17日 NEDO フォーラム、10月13日 Japan Pack 展、10月21日小森会、11月 20日包装技術研究会、11月21日印刷学会秋季研究発表会、12月インターンシップ学 会、2016 年 2 月 page2016, 5,6 月 drupa2016、文科省中央教育審議会特別部会などで、 これらの成果報告が印刷教育研究会の活動に何がしかのお役にたてれば幸いである。 (2015年9月17日記) 参考文献 (1) 木下堯博;新しい印刷メディア系専門職業大学の創設へ(第2,3報)、印刷界201 5年6、7月号;第1報は印刷教育研究会会報 119 号、㈱富士精版印刷社内報「富士」 168 号(2015年7月) (2) 木下堯博;本木昌造140回忌に寄せてー120回忌から世界の印刷博物館調査― Print Zoom 2015 年 7 月号。9月3日の講演内容は印刷ジャーナル10月に掲載予定。 (3) Akihiro KINOSHITA & Keiichi ISHIKAWA ; Early Printing History in JAPAN, Gutenberg JahrBuch 1998 (4) 国際印刷大学校研究報告第15巻(2015年3月) 2 (5) 木下、森下、谷脇、川口;インターンシップ制度の印刷企業への導入事例、 日本印刷学会秋季研究発表会(京都工芸繊維大学、2014年11月21日) ;page2015 で報告した内容は印刷情報2015年3月号に掲載。 写真1 IGAS2015 開会式(挨拶、日印産連・稲木会長、2015年9月11日) 写真2 本木昌造140回忌(長崎・大光寺、2015年9月3日) 3
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