「外来魚駆除・魚粉化プロジェクト」について

【平成17年度(第4回)助成団体の活動概況報告②】
「外来魚駆除・魚粉化プロジェクト」について
特定非営利活動法人
アサザ基金
1 外来魚駆除・魚粉化プロジェクトとは
北浦・霞ヶ浦(総称 霞ヶ浦)は、湖岸環境の変化や水質悪化の影響で、生態系が大きく狂っている。
在来魚類は著しく減少し、外来種が増殖している現状は、内水漁業にとって大打撃である。行政は、
水質汚濁対策として多額の費用をかけて霞ヶ浦・北浦底泥浚渫事業を行っているが浚渫直後から再び
ヘドロの堆積は始まり、チッソやリンの溶出も起きる。外来種駆除も、補助金を交付して実施してい
るが年間500万円で100トンまでの買上制限がある。どちらも事後処理型の単発事業で根本解決に
ならないし、緊縮財政の中、継続の保証はない。
この現状に対して私たちは、外来魚および未利用魚を駆除、買い上げて魚粉として販売し、肥料や家畜の
餌など、農業に使用、生産された農産物はブランドとする一連の事業を行った。
外来魚を捕獲することで、湖の富栄養化の原因となっているチッソ・リンを効果的に回収し、農業の栄
養素として利用する。これが従来の化学肥料の使用に置き換わっていくならば、流域外から持ち込ま
れた化学肥料による農業廃水中の汚濁物質削減へとつながる。生産した農作物は霞ヶ浦流域の特産ブ
ランドとして扱う。消費者は「食べることで湖がきれいになる」環境和全型の暮らしに移行を始める。
経済的な価値が生まれ、持続性が期待されるため、仕組みが軌道に乗れば、在来魚の豊富な湖と生物
多様性を取り戻すことができると期待される。
2 体制
事業全体を円滑に進めるため、活動の主体となる環境パートナーシップを設立した。NPO 法人アサザ
基金(代表理事 飯島博)、NPO 法人エコタウンほこた(代表理事 坂東秀樹)、有限会社ギルド(代
表取締役 五十野節雄)が、2004 年 10 月に、環境パートナーシップ協定を結び、JA 八郷職員、魚類
生態学専門家、魚粉専門家、流通専門家、常陸国菜の花ネットワーク有志が参加した。(2005 年 3 月
現在)
3 外来魚を捕獲し買い上げる
きたうら広域漁業協同組合とかすみがうら魚連の協力により、2005 年度の 1 年間で96tの水揚げ
を実施、多種類の外来・未利用魚を捕獲することができた。貴財団からの助成金による水揚げ量は
18.8t に相当する。
4 水質浄化への寄与
今年度の水揚げ96.27tにより、湖から回収されたチッソおよびリンの量を計算して表に示す。
【表7】
漁獲量 100t中のチッソ、リンの含有量計算
元素含有比
元素含有量(t)
0.025
2.407
0.005
0.481
茨城県庁漁政課の益子知樹氏論文中の数値 http://www.pref.ibaraki.jp/forum/forum01/1-7.htm)から転用
チッソ
リン
国土交通省河川事務所が毎年霞ヶ浦で大規模に浚渫を行っているが、浚渫されたヘドロ量は5年で 284 万
m3 である。回収されたチッソとリンはそれぞれ 219.0t/5 年と 22.5t/5 年に上るが、5年で 472 億 6,360
万円にも上る事業費を考慮すると、、今回の事業による水質浄化の効果がいかに大きいかが自明である。
(数
値はUFJ総研の経済効果シミュレーションによる )
http://www.kasumigaura.net/asaza/kenkyu/list/seminar08s0.html
1
5 魚粉を生産流域農業の肥料・飼料として配布
水揚げされた魚体は、26.9tを堆肥用途として直接ユーザー:(有)ギルドの契約した堆肥場
に運搬した。残りの魚体は茨城県・波崎町の有限会社古河鶴商店、千葉県・成田市の中央飼料株式会
社で魚粉化、69.4tの魚粉が得られ、2 で紹介した環境パートナーシップ賛同者に配布された。
分析は茨城県・つくば市の環境研究センターに依頼した。水銀、カドミウム、鉛、砒素はいずれも基
準値以下で、安全面で問題がないことを確認できた。
2-6 農産物を販売する
2006 年2月、JAやさと出荷のキュウリが川崎市スーパークリシ
マサンモール店で、(有)ギルドの鶏卵が有機野菜販売のビオ・マ
ルシェ浦和仲町店殿店頭にて販売された。それぞれ「湖が喜ぶきゅ
うり」、
「湖が喜ぶたまご」の「ブランド名をつけ専用イラストも用
意した。(図)アサザ基金の飯島代表理事のオリジナル作品で、商
標登録申請中である。
2-7
反響
取り組みは大きな反響を呼び、NHK 総合 TV で3回放映、主要新
聞各紙での報道は合わせて 20 に上った。特に 2006 年2月7日の
NHKニュースでの報道には多大な反響があり、放送直後から深夜
まで 100 件を超える問い合わせの電話が寄せられた。
3-2 次の展開
流域農業からの負荷を目に見えて減じるためには、魚粉使用に協力した農業団体が、並行して農薬の
使用量も減らしていく等、更なる積極的な取り組みが必要である。それには環境への負荷を軽減する
努力がプラス評価されるような仕組みと、評価のための適切な基準が必要である。私たちは、それを
「ものさし」と名づけ、創る試みに着手しつつあり、2006 年3月現在は予備調査段階である。
これら各種の「ものさし」を適用した農産物を、新しいブランドとする。当然、消費者の理解と共感
が不可欠であり、地域住民が霞ヶ浦と共に暮らしているという意識を・価値観を醸成させていきたい。、
本事業の一連の流れを、物語性をブランドに取り入れていく演出も有効な広報効果を発揮すると考え
ており、物語創出の検討もあわせて取り組み始めている。流域全体での湖由来魚粉使用総量とその効
果を数値化し、消費者にわかりやすく伝えるシステムも、消費者理解には不可欠であり、総合的に検
討を続けている。
4-2まとめ
以上、取り組みは順調に進み、スムーズに事業を展開できた。しかし取り組みは始まったばかりで、
事業を継続的に遂行する為の課題が発見できたに過ぎない。水質浄化と生態系保全という水環境の改
善は、資源管理を視野に入れた漁獲手法の開発、農業における環境保全に向けた努力目標(ものさし)
創り、消費者との農産物ブランドの創出(地域活性化)という、経済システムと適合させる事ではじ
めて成り立つ。事業を複数年継続してノウハウを積み、現在の実験段階から、民間による安定的な事
業運営段階への移行を確実にしていくことが重要である。
今年度の結果を踏まえて、引き続き取り組みを発展的に進めていく。
以上
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