タイル卸売業から輸入雑貨卸売業へ タイル卸売業から輸入雑貨卸売業へ

タイル卸売業から輸入雑貨卸売業へ
林
敦司
(中小企業診断士)
1.企業概要
(有)十九陶業は昭和38年に創業者である小島光三が、タイルの卸売業として設立した
会社である。同社のある岐阜県の東濃地区は、古くからタイルを含め陶磁器産業で発達し
た地域であり、陶磁器製造業を中心に下請け及び販売会社が広がる典型的な産業集積地帯
である。その中で同社は1次問屋機能を受け持つ企業である。高度成長期からバブル期ま
で一貫して伸びつづけた市場に対し同社は産地問屋として消費地へ販売していた。しかし
バブル崩壊後、他の産業と同様に、流通経路の短絡化、流通チャネルの多様化が広がり、
激しい価格競争の中で他社との差別化を余儀なくさせられた。
後継者である創業者の長男(現社長)は昭和 55 年の入社である。バブルによる好調期
を知る反面、バブル崩壊後の市場縮小による低迷期も知ることとなった。そしてバブル崩
壊後まもなく次男の現専務が入社した。現専務は入社以前アパレル関係の会社に勤務して
おり、生活関連について知識が豊富であった。その中で、現社長と専務は他社との差別化
を図り、同社のあるべき姿を想定するために多くの議論を交わした。そして社内の風が変
わり始めた。
2.輸入品への取り組み
同社は早くから本来のタイル販売業に加え、海外からの石材の輸入品の販売を手がけて
いた。小規模企業ではあるが複数の企業と連携しており、古くはヨーロッパから、また最
近では中国から石材を商社を通して輸入し、販売商品の柱としてきた。しかし、現在では
輸入品についてもライフサイクルが短くなっており、輸入石材も激しい価格競争となって
いる。
このように卸売業をめぐる厳しい環境変化の中でオリジナリティーのある商品の必要性
はさらに重要になり、多くの産地問屋はその模索に懸命になった。そこで同社は他社に比
べ輸入に対するノウハウがあったことから、輸入品の商品開発に注力するようになった。
また、商社経由の商品仕入れでは価格的にも限界があり、商品のオリジナリティーにつ
いても発揮しにくいことから輸入業の許可を取り、直接仕入へとシフトすることでさらに
強みを生かすこととした。
3.商品開発の重要性
岐阜県東濃地方のタイル産業は、多くの地元メーカーがあり、メーカーブランドで産地
問屋が消費地に届ける方法が中心であった。しかし昭和 60 年代に入り、当該地域のメー
カーは、大手メーカーによる系列化が進み、OEM生産が主流となった。その中で、産地
問屋はライバルが地元同業者から大手メーカーへと変化していった。そして地元メーカー
ブランド商品は商品点数、ボリュームともに減少し、少ないパイの奪い合いが進むことと
なり、利幅は減少していった。
各産地問屋は自社のオリジナリティーを発揮するため、いろんな方向へ特化し始めた。
一部の商品に特化し単品大量販売により徹底的なコスト削減を進める企業、輸入タイルを
中心に多くの在庫を抱え、オリジナルブランドを確立し、メーカー的な方向へ進んだ企業
などである。その中で同社は限られた経営資源をどちらに向けるか悩んでいた。
(1)輸入建材
商品開発中のサンプル
輸入建材として従来
から扱ってきた石材に
加え平成8年には、当
時一部のメーカーの独
占市場であったアメリ
カ製のセメント製品を
韓国で作ることができ
るルートを開拓し、オ
リジナル製品の委託生
産にこぎつけることが
できた。現地のメーカ
ーは大資本ではなくあ
る程度の小ロットにも
対応が可能であった。
また信頼できるパート
ナーとの出会いもあり、
言葉の違い、文化の違
いを感じる事もなく、取引がスタートできた。
その後、品質の問題、デリバリーの問題など、数々の問題を一つ一つ解決し、現在
では多くの商品点数を、商品化するにいたっている。
(2)輸入雑貨
フラワーポットを作るインドネシアの工場
平成9年、輸入建材が
軌道に乗り、次なる商品
の開発を手掛ける時が来
た。その焦点は、当時少
しずつ流行りだしてきた
アジアンテイストと自社
の持っている建材ルート
の合流点であった。試行
錯誤のあげく、インドネ
シア産のフラワーポット
を仕入れるルートを開拓
することができた。ちょうどその頃からガーデニングブームが起こり、さらにアジア通
貨危機と相まって、最初から極端に安い商品を安定的に販売することができた。そして
そのルートを確立した上でさらなる新しい商品の仕入れとして、インドネシア産の家具、
バリの雑貨など時流にあった商品の開発を常に続けている。しかしすべてが順調に来た
わけではない。不慣れな点から輸入手続きの問題、品質的な問題、インドネシアの政情
不安など多くの問題点を解決して、現在に至っている。そして現在の課題は、新しく取
り上げた商品の販売ルートと既存の販売ルートとの乖離である。今後は新商品の開発と
新たな販売ルートを同時に開発する必要が出てきたのである。
4.新たな販路の開拓
以上のように、販売ルート、仕入ルートなど限られた経営資源の中で、同社は新たなチ
ャネルの開拓とプロモーションを展開するようになった。特に雑貨の扱いから、その方向
は鮮明になりつつある。なかでも雑貨の主力であるフラワーポットは、当初は住宅建材関
連ルートの中で販売してきたが、現在では自らプロモーションし造園ルート、
店舗ルート、
ガレージセールによる直販、卸団地祭りへの出展など次々に新しいルートを開発し続けて
いる。またプロモーションも、従来のタイルの場合、消費地の2次問屋に対するプッシュ
戦略が主体であったが、現在は雑誌広告、ターゲットを絞ったポスティング、DMの発送
など新たな方法で行っている。
5.本業からの脱却
商品開発の効果が現れ始め、現在では輸入品の合計が1/3程度まで上がっており、価
格競争の激しい従来タイルの利益率低下をカバーできる状態まで伸びてきた。今後はさら
にその比率を上げ、本業からの脱却をめざし、タイル卸売業から輸入雑貨主体の生活提案
企業として時代に合わせて変化していく方針である。
売上構成比率
100%
80%
60%
40%
20%
0%
輸入雑貨
輸入建材
従来タイル
輸入雑貨
輸入建材
従来タイル
平成7年
0
18
82
平成10年
0
25
75
平成13年
23
18
59
6.終わりに
当該地域の同業者の中からこんな言葉をよく聞くことがある。
「値段が下がってとても利益が出ない」、
「景気が悪くてね」、
「海外の安いものが入って
きてね」・・・。しかしこれらの自社を取り巻く環境を変えるエネルギーと自分を変えるエネ
ルギーを比べたら、自分を変えることが遙かに現実的である。同社のようにあるべき姿を
模索したら少しずつでも着実に変化を起こし、自分の生存領域を確保していくことが重要
である。それが住み慣れた本業からの脱却であろうと、勇気を持って進めていくべきであ
る。
そしてこのように、多くの企業がチャレンジ精神を持ち経営革新を進められることを祈念
している。