1 右肩腱板断裂関節症によりリバース型全人工肩関節置換術を施行され

第 1 セッション
運動器(症例報告)
症例報告
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右肩腱板断裂関節症によりリバース型全人工肩関節置換術を施行された症例
に対する理学療法の経験
小林 優太(こばやし ゆうた)
姫路聖マリア病院 リハビリテーション技術課
キーワード
腱板断裂関節症,リバース型全人工肩関節置換術,ADL
【目的】
2014 年 4 月より,日本でもリバース型全人工肩関節置換術
(Reverse total shoulder arthroplasty:以下 RSA)
が
許可された.本邦での RSA 症例の術後理学療法経過に対しての報告はまだ少ない.そこで今回,RSA 術後の理学
療法を実施し,術後の自動関節可動域(以下 ROM)が改善し,ADL 能力の向上が得られた症例を経験したので
報告する.
【症例紹介】
88 歳女性.2013 年 11 月頃より誘因なく右肩痛出現.近医受診し,右変形性肩関節症および腱板断裂と診断さ
れ,保存療法施行も症状改善せず,精査加療目的に当院に紹介.右肩腱板断裂関節症と診断され,手術希望にて
2014 年 12 月に RSA 施行した.
【経過】
当院の RSA 術後プロトコールは,術後 6 週で装具除去.肩関節の他動 ROM 練習は術翌日より開始(術後 4
週までは屈曲 90̊・外旋 0̊ 制限,術後 6 週までは屈曲 120̊・外旋 20̊ 制限)
,術後 4 週より三角筋 isometric exercise 開始,術後 6 週より自動挙上運動開始,術後 3 か月より三角筋の isokinetic exercise 開始.本症例は,術前右
肩関節の ROM(自動 他動)は,屈曲(110̊ 110̊),外転(70̊ 120̊),疼痛は運動時に NRS5 であった.術後 3
か月で右肩 ROM(自動 他動)は,屈曲(140̊ 145̊),外転(150̊ 160̊),疼痛は運動時に NRS1 と改善された.
日常生活では,2∼3 回の自動挙上で疲労感の訴えが強かったが,術後 3.5 か月で自動挙上を繰り返し行うことも可
能になり,洗髪動作や洗濯ものを干す動作が可能になった.術後 4 か月で挙上位での持続した動作でも疲労感の
訴えが軽減し,高いところの掃除が可能になった.
【考察】
RSA は,変形性肩関節症や修復困難な腱板断裂を呈しており,三角筋の機能が残存している症例が適応となる.
本症例は,術前の画像所見では,右上腕骨頭が上方に転位し,肩峰と上腕骨頭の間はほとんど距離が認められず,
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肩甲下筋腱,棘上筋腱,棘下筋腱の広範囲腱板断裂を認めた.術前肩関節運動時,肩峰と上腕骨頭間での impingement により,疼痛出現,肩関節の自動 他動 ROM 制限も認め,洗髪動作や洗濯物を干す動作等に支障をきたして
いた.RSA により,肩峰と上腕骨コンポーネントの impingement が消失し,疼痛消失,肩関節他動 ROM が改善
した.また,RSA により肩関節の関節回転中心を内側,下方に移動させることにより,三角筋のモーメントアー
ムが長くなることで肩関節自動 ROM 改善に繋がった.そして,装具固定中から三角筋の isometric exercise の実
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施や三角筋短縮位での筋収縮の学習を行なった結果,挙上位での動作が可能になった.今後は,症例数の増加と
ともに,RSA 術後のプロトコールの確立とともに解剖学的全人工肩関節置換術との比較を行っていきたい.
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第 1 セッション
運動器(症例報告)
症例報告
2
肩甲骨脊柱間距離の変化に着目した肩腱板広範囲断裂保存療法の 1 例
金剛 一(こんごう はじめ)1),村山 潤1),渡辺 千聡2)
河端病院 リハビリテーション科1),河端病院 整形外科2)
キーワード
腱板広範囲断裂,保存療法,肩甲骨アライメント
【目的】
今回,右肩腱板広範囲断裂の保存的症例に対する理学療法において,肩甲骨脊椎間距離(以下 SSD)の変化に
伴い肩自動挙上機能が改善した症例を経験し,考察を加えて報告する.なお,症例報告の主旨を説明し患者の同
意を得ている.
【症例紹介】
症例は 69 歳女性である.ハイキングにて転倒し右肩挙上困難となる.転倒より 5 日後に当院受診し,MRI,超
音波エコー所見により右肩腱板広範囲断裂と診断される.転倒から 12 日後より理学療法開始となる.
【経過】
初回時の肩関節可動域(以下 ROM)は,自動では屈曲 65̊,外転 50̊ で,他動では屈曲 160̊,外転 150̊ であっ
た.疼痛は運動時に見られ,自動挙上 90̊ 付近で肩前面に VAS 6.7 の痛みを訴えた.SSD(左 右,cm)は,肩甲
棘基部で(8.5 10)
,肩甲骨下角部で(9 10.5)で,右側の肩甲棘基部,下角レベルで 1.5cm ずつ肩甲骨の偏位(右
肩甲骨外転位)を認めた.小胸筋,大胸筋,前鋸筋に高緊張を認めた.筋力評価は筋力測定器(ミュータス,ア
ニマ社)を用いて,3 回ずつ最大等尺性収縮筋力を測定し,その平均値(単位 N)を求めた.肩関節外転 23,1st
外旋 18.7,肩甲骨内転 52 であった.JOA スコアは 60.5 点であった.
理学療法は,週 1∼2 回の頻度で実施した.高緊張の筋群に対して等尺性収縮を用いたリラクセーション,肩甲
骨内転・後傾方向へのストレッチを中心に実施した.肩甲骨内転筋の筋力増強運動として,肩甲骨内転・後傾方
向への自動介助運動から開始し,僧帽筋中部・下部の収縮を確認して実施した.
二カ月後,肩 ROM は,自動屈曲 160̊,外転 150̊ で,疼痛は VAS 0.9 に軽減した.SSD は,肩甲棘基部で(7
7.5),肩甲骨下角部で(7.5 9.5)で,肩甲棘レベルで 0.5cm,下角レベルで 2cm 肩甲骨の偏位(右肩甲骨上方回旋
位)
を認めた.小胸筋,大胸筋,前鋸筋に高緊張は認めなかった.筋力は,外転 49,1st 外旋 27.3,肩甲骨内転 130
であった.JOA スコアは 80.5 点に改善した.本人希望により理学療法終了となる.
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【考察】
肩甲骨の位置は,脊柱アライメント,胸郭の形態,肩鎖関節・胸鎖関節・肩関節(関節包や靱帯など)の性状,
肩甲骨周囲筋など多くの因子が関与している1).初回時,本症例は肩腱板断裂の急性期の疼痛による防御性の筋収
縮が肩甲骨周囲筋に生じ,SSD の測定において肩甲骨外転方向へのアライメント不良に至ったと考える.理学療
法終了時では,肩甲骨内転・上方回旋方向への変化を認めた.これは小胸筋,大胸筋,前鋸筋の高緊張の消失と
肩甲骨内転筋力の向上が関与したと考える.
そして,
肩甲骨上方回旋により上腕骨頭は関節窩に求心力が高まり2),
これにより,腱板の負荷が軽減したことが,肩自動挙上機能が改善に至ったと考える.
【文献】
1)石谷栄一:肩甲骨脊椎間距離の臨床的意義,肩関節,2009
2)嶋田智明:筋骨格系のキネシオロジー,医歯薬出版,2006
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第 1 セッション
運動器(症例報告)
症例報告
3
大腿骨頸部骨折後の高齢者に対する前庭リハビリテーションの経験
中口 拓真(なかぐち たくま),岡 泰星,岡 賢佑
貴志川リハビリテーション病院
キーワード
眩暈,前庭リハビリテーション,大腿骨頸部骨折
【目的】
本邦では,前庭機能に対する治療で理学療法士が介入する頻度は低い.しかし高齢者は加齢によっても前庭機
能は低下するとしており,近年注目されている
(仁木,2013).今回,転倒により大腿骨頸部骨折を呈した高齢患
者に対し,前庭機能に着目した理学療法を行った症例を報告する.
【症例紹介】
症例は右大腿骨頸部骨折を受傷し人工骨頭置換術後 4 週経過し回復期病棟に入院中の 85 歳男性である.主訴
は,動き始めに眩暈がする.Hope は一人で歩きたい.既往歴は,7 年前に脳梗塞があるが,合併症は特になく,
Fugl Meyer Assessment(FMA)は左右共に 226 点であった.椎骨脳底動脈循環不全(−)
,下肢筋力(右 左)
は,膝伸展筋 0.95 0.9Nm kg,股関節外転筋 1.5 1.7Nm kg.運動機能評価は,5 回立ち座りテスト 23.3 秒,最大
歩行速度 0.87m s であり,院内歩行器歩行見守りレベルであった.蝸牛症状は左耳側のみ高音域,低音域で聴力
低下を認め,耳鳴は
(−)
であった,また,長谷川式認知機能検査は 24 点であった.前庭機能評価は,自発眼振・
注視眼振・Roll test(−)
,Dix Hallpike test 左下方(+)で持続時間 3 秒,Dynamic visual test(DVT)にて頭
部左回旋時は軽度視力低下と軽度の眩暈があり,重心動揺検査では,閉眼時 X 軸方向に異常を認めた,Dizzness
handicap inventory(DHI)は 26 点であった.
【経過】
以上の初期評価より,Dix Hallpike test(+)である点から,左後方半規管型良性発作性頭位めまい症である可
能性が高いと考えたが,左耳で聴力低下が見られる点,Dynamic visual test(+)
,眼振のない状態での重心動揺
検査でも閉眼時に X 軸方向への異常がある点から左前庭機能の全般的な低下も考えられた.治療介入は通常の理
学療法に追加して,前庭機能に対する理学療法を行った.初期 3 回の前庭アプローチは後方半規管に対し Epley
法を行った.3 回介入時点で Dix Hallpike test(−)
眼振は消失し眩暈軽減を認めたが眩暈消失まで至らなかった.
そこで,前庭機能に対するアプローチを Herdmann(2014)らの Habituatuion,Substitution 等に変更し,自主練
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習として Brandt Daroff exercise を指導した.4 週後には,すべての動作で眩暈は消失した.しかし,DVT では
初期評価時と比べて大きな変化はなかった.下肢筋力については,膝伸展筋 1.1 1.2Nm kg,股関節外転筋 1.2 1.3
Nm kg,5 回立ち座りテスト 7.8 秒,最大歩行速度 0.98m sec であり,重心動揺検査では X 軸の異常は消失した.
また,DHI は 4 点となり改善を認めた.
【考察】
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本症例は,眩暈により転倒し左大腿骨頸部骨折を受傷している.交絡因子として,既往歴の脳梗塞による眩暈
なども視野に入れて評価を行ったが FMA は満点となっており耳鳴や視野狭窄もない為,医師により前庭機能低
下ありという指示のもと前庭機能に対する理学療法を行った.その結果,眩暈は消失し独歩可能となった.しか
し,DVT での改善は確認できていない為,再発予防のエクササイズなどの指導が今後も必要であると考える.
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第 1 セッション
運動器(症例報告)
症例報告
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左大腿骨頸部骨折置換術後,仙腸関節不安定性による疼痛を来した症例の一
考察
河合 和之(かわい かずゆき)
八家病院 リハビリテーション科
キーワード
大腿骨頚部骨折,仙腸関節,後仙腸靭帯
【目的】
大腿骨頸部骨折術後に術創部の疼痛以外に腰殿痛を認める症例を経験することがある.今回,後仙腸靭帯由来
の疼痛を訴える症例を報告する.
【症例紹介】
80 歳代男性.左大腿骨頸部骨折を受傷し,A 病院で受傷 3 日目に人工骨頭置換術施行.術後 27 日リハ目的で転
院.床上動作は修正自立,移乗やトイレ動作,杖歩行は軽介助が必要.陳旧性腰椎圧迫骨折による後弯と骨盤後
傾位を呈し,左と比較し右寛骨が後方回旋していた.主訴は起立時と歩行時の腰殿部痛であった.また疼痛によ
り就寝は右側臥位,端座位は背面サポートを必要とした.
【経過】
one finger test は左上後腸骨棘,Newton test(変法)陽性,Patrick test 陽性,Gaenslen test 陰性であった.上
殿皮神経,中殿皮神経,梨状筋,腸腰靭帯の疼痛再現性は認めなかったが,後仙腸靭帯のストレステストにて再
現を認めた.左多裂筋は右に比べて収縮不良であった.左腸腰筋は鼠蹊部の spasm と上前腸骨棘に圧痛初見,大
腿二頭筋は近位付着部で spasm を認めた.左股関節屈曲は 50 度で抵抗を示した.村上は仙腸関節後方の靭帯が仙
腸関節痛の発痛源であると報告しており,
理学所見より仙腸関節由来の腰殿部であると考え仙腸関節に着目した.
理学療法では左後仙腸靭帯と左仙結節靭帯の伸張,左大腿二頭筋の柔軟性獲得,左多裂筋の促通を行った.動作
練習として端座位での股関節被覆運動を通して,起立動作における仙骨の Nutation と腸腰筋の促通を行い,動的
アライメントの調整を行った.開始 18 日目で端座位保持 30 分,左片脚立位が可能となり,杖歩行が自立した.
【考察】
後仙腸靭帯は仙腸関節の後面を補強しており,短繊維は骨間仙腸靭帯と結合し,長繊維は仙結節靭帯と結合す
る.この靭帯は深部で多裂筋と結合し,寛骨の前方回旋の制御と仙骨を Nutation させる.仙結節靭帯は 3 つの繊
維から構成され,上部繊維は骨間仙腸靭帯の表面を走行し Nutation,Counter Nutation の制御を行い,大殿筋や
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大腿二頭筋との連結がある.これら 2 つの靭帯は仙骨外側部で強固な結合をしており,仙骨の動きに大きく関与
するとされる.仙腸関節の動きは,荷重側の寛骨が後方回旋し,仙骨は荷重側が Nutation する.ただしソファー
に埋もれたような座位では仙骨は Counter Nutation しているとされる.症例は後弯の影響により腸腰筋と大腿
二頭筋の spasm をきたし,術後の左股関節の屈曲制限と腰殿部痛により,右殿部へ偏倚したソファーにもたれる
ような座位が習慣化していた.
起立動作における寛骨の前方回旋が後仙腸靭帯にストレスを発生させるとともに,
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大腿二頭筋への伸張刺激が仙結節靭帯を介して機能不全を呈したと推測される.歩行時痛は寛骨の前方回旋が後
仙腸靭帯にストレスを発生させ,結果として Force closure Form closure の荷重緩衝作用が障害されたと影響と
考える.大腿骨頸部骨折術後に腰殿部痛を抱える症例を通して仙腸関節との関連性が重要であると認識した.
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第 1 セッション
運動器(症例報告)
症例報告
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右股関節人工骨頭置換術後の股関節伸展制限のある患者に対し,運動パター
ンの修正を行うことにより歩容の改善が見られた一症例
友藤 剛士(ともふじ たけし)
八家病院 リハビリテーション科
キーワード
股関節運動中心,股関節伸展制限,腰椎前弯
【目的】
今回,右股関節人工骨頭置換術後の症例を持つ機会を得た.不良姿勢による代償動作を軽減させることにより
歩容の改善に至ったので報告する.
【症例紹介】
70 歳代女性.自宅前階段にて転倒,右大腿骨頸部骨折受傷し,当院にて人工骨頭置換術を施行.術後より術創
部と右腸腰筋,右中殿筋に強い疼痛を認めた.また腰椎過前弯,著明な右股関節伸展制限が認められた.
【経過】
理学療法は ROM 訓練や動作練習に加え,右腸腰筋,恥骨筋,大腿方形筋,梨状筋を中心に滑走性向上と筋のイ
ンバランス解消を目的として行い,並行して術創部周囲の皮膚・皮下組織のリリースを実施した.
術後の疼痛の軽減とともに右股関節伸展の可動性,右股関節周囲筋群の筋力が改善したが,術後 30 日目より歩
行時に右大腿後面の疼痛の出現,右脛骨神経,L5 椎間関節に圧痛所見,右股関節自動伸展時に右脊柱起立筋の過
剰収縮が触知された.股関節伸展運動は代償動作として腰椎前弯を生じやすいとされるため股関節運動中心に着
目し,デジタルビデオカメラにて腹臥位での右股関節自動伸展運動の撮影を行った.撮影された動画を元に Dartfish software を用いて動作解析を行った.大転子頭側を股関節軸と仮定し,そこから実際の股関節運動中心との距
離を,矢状面上に xy 座標をとって求めた.その結果,股関節軸より頭側への股関節運動中心の偏位が認められた.
そこで股関節軸に近い位置での股関節自動伸展運動を行い,再現性を高めるよう Intelect advanced combo 2762
cc を用いて EMG バイオフィードバック療法を実施した.
EMG バイオフィードバック療法開始直後は大きな改善は認められなかったが,開始 7 日頃より大腿後面の疼
痛が減弱した.特に右立脚中期から後期にかけての股関節伸展動作が円滑に行われるようになり,歩容の改善を
認めた.再び Dartfish software にて解析を行った結果,股関節軸と実際の股関節運動中心との距離の短縮が確認
された.
【考察】
西村らは腰椎前弯型の OA では人工股関節全置換術後に疼痛や可動域,筋力は改善しても立脚中期から後期に
かけての股関節伸展を腰椎前弯にて代償することがあり,股関節運動軸が頭側へ偏位すると述べている.本症例
は股関節 OA を認めないが,術前より類似した腰椎前弯の不良姿勢を呈していたと推察され,術後の右腸腰筋の
筋攣縮により腰椎前弯がより増強したものと考える.右腸腰筋の筋攣縮が抑制された後も誤った運動パターンの
学習により不良姿勢が継続した.結果,腰仙リズムの破綻を来し L5 椎間関節にストレスを与え,大腿後面の疼痛
を誘発したと考える.これに対し,股関節軸を意識した動作練習を行うことにより,脊柱起立筋の筋活動の抑制
と大殿筋が賦活された.これらにより不良姿勢の一定程度の改善が見られ,疼痛が減弱し歩容の改善に至ったと
考える.術前より習慣化された運動パターンの修正を視野に入れた治療の重要性を感じた.
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第 1 セッション
運動器(症例報告)
症例報告
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右人工股関節全置換術の早期退院後に自己管理シートを導入した症例
上原 勇人(うえはら はやと)
あんしん病院 リハビリテーション科
キーワード
自己管理シート,疼痛管理,早期退院
【目的】
当院では人工股関節全置換術(以下:THA)の入院期間は 5 泊 6 日である.その為,THA 後の退院後は自己で
の疼痛管理,活動量調節が必要とされる.今回,右 THA 退院後の疼痛管理,活動量調節が不安であった症例に対
し『自己管理シート』を導入した為,報告する.
【症例紹介】
60 代女性.身長 162cm.体重 38.6kg.2013 年 12 月右股関節滑膜切除術施行後,退院後の自己管理が適切に行
えず,疼痛再発を招いた.疼痛が改善しなかった為,2015 年 4 月 25 日右 THA を施行.術後 3 日目に院内 ADL
(移動:杖)
自立となったが,退院後の疼痛管理,活動量調節不安があった為,自己管理シートを導入した.自己
管理シート内容は『痛みの程度』
『大腿周径』
『歩数管理』
『セルフエクササイズの実施状況』
『備考欄』の計 5 項目と
した.
『疼痛の程度』は,Numerical Rating Scale(以下:NRS)を用い,0:(痛みなし)∼10:
(耐えられない痛
み)とし,安静時痛,動作時痛を 1 日に 2 度(起床時・就寝前)記録した.『大腿周径』は恥骨結節を指標に大腿
部周囲を測定し記録した.『歩数管理』
は歩数計を使用し,1 日の歩数を記録した.1 週間ごとに歩数調整を行い,
術後 1 ヶ月で 1 日 3500 歩前後の獲得を目標とした.
『セルフエクササイズ実施状況』は,炎症抑制のためのアイ
シング,股関節内外旋自動運動,股関節周囲筋の筋力増強運動,患部外運動,腸腰筋の促通運動などが記載され
たセルフエクササイズ用紙を配布し,実施の有無と回数を記録した.
『備考欄』
には,疼痛発生時期や余暇活動な
どの行動経過を記録した.
【経過:大腿周径,NRS(平均),歩数(平均)
】
《術後 4 日目》48.5cm,1.85,1113 歩《術後 6∼11 日》46.5cm,1.41,1272 歩《術後 12∼18 日》45.5cm,1.17,
1003 歩《術後 19∼25 日》45.5cm,0.54,2337 歩《術後 26∼32 日》44cm,0.60,3286 歩.備考欄は,介入当初は
疼痛出現時期などの記録が多かったが,徐々に疼痛に対する自己分析や余暇活動,仕事復帰の記録がされるよう
になった.
【考察】
今回,THA 後の早期退院後の疼痛管理や活動量調節を目的に自己管理シートを導入した.自己管理シートを使
用し,大腿周径や歩数計などの客観的な指標を用いたことで自己での身体管理が可能となった.その結果,疼痛・
腫脹が軽減し,活動量の拡大が図れたと思われる.また,備考欄に行動経過を記載することで,ADL や余暇活動・
仕事復帰の詳細など生活背景の把握が可能となり,症例に即したアドバイスを提案できた.早期退院後の自己管
理シート導入は,術後の疼痛,活動量調節の管理に有用であり,退院後のサポートツールとして活用することで
早期の ADL 拡大や社会復帰に繋がると考える.
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第 1 セッション
運動器(症例報告)
症例報告
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人工膝関節全置換術後早期の膝関節周囲筋の安静時筋収縮と膝関節伸展可動
域との関係性
北西 秀行(きたにし ひでゆき)1),木下 和昭2),米田 勇貴1),中 雄太1),吉岡 芳泰1),
柴沼 均3),石田 一成3),大塚 靖子1)
神戸海星病院 リハビリテーションセンター1),四條畷学園大学 リハビリテーション学部2),
神戸海星病院 整形外科3)
キーワード
人工膝関節全置換術,膝関節伸展可動域,安静時筋収縮
【目的】
人工膝関節全置換術(以下,TKA)後に残存する膝関節伸展可動域(以下,伸展 ROM)は疼痛や歩容異常を誘
発する.坂本らは術直後から伸展 ROM の改善を推奨している.臨床上,伸展 ROM の改善に安静時筋収縮を軽減
させることが重要と考える.しかし,伸展 ROM と膝関節周囲筋の安静時筋収縮との関係性を調査したものは,
我々の渉猟した限りでは少ない.そこで,今回 TKA 後の伸展 ROM と膝関節周囲筋の安静時筋収縮が及ぼす影響
について検討した.
【症例紹介】
対象は,当院で TKA を施行された変形性膝関節症患者 4 名(男性 1 名,女性 3 名,年齢 80±2.5 歳)とした.
術前の伸展 ROM は A: 10̊,B: 5̊,C: 20̊,D: 15̊ であった.安静時筋収縮の測定は,Myosystem1200
(NORAXON 社製)を使用し,術前と術後 3 日目に測定した.記録筋は術側の大腿直筋(RF),内側広筋(VM),外
側広筋(VL)
,大腿筋膜張筋(TFL)
,半腱様筋(ST),大腿二頭筋(BF),腓腹筋内側頭(MG)
,腓腹筋外側頭
(LG)とした.電極は電極中心距離 15mm,SENIAM に準じて貼付した.測定肢位はギャッジアップ座位 60̊ とし,
膝関節屈曲 15̊,30̊,45̊ の順に計測した.計測後,電極部位に印を入れ,術後 3 日目も同部位に電極を貼付した.
データ処理は 5 秒間の測定を行い,全波整流後に中央 3 秒間の値を平均化し,各筋の筋活動量を術前後で比較し
た(術前 術後 3 日目×100:以下,術後比率)
.伸展 ROM は術前,術後 3 日目,術後 4 週目に測定した.
【経過】
術後伸展 ROM(術後 3 日目 術後 4 週)は A: 5̊ 0̊,B:0̊ 0̊C: 10̊ 5̊,D: 10̊ 5̊ であった.術後比率は
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症例 C,D が LH,MG,LG で伸展位に近づくにつれて,増加する傾向を示した.膝屈筋群における膝関節屈曲
15̊ の 術 後 比 率(A!
B!
C!
D)は ST:36.0%!
68.0%!131.1%!16.7%,BF:28.3%!40.3%!620.2%!162.2%,MG:
158.3%!
129.6%!
626.1%!
2413.0%,LG:21.2%!39.6%!67.3%!634.4% であった.
【考察】
今回の 4 症例において,TKA 術後 4 週目の伸展 ROM には,術後早期の膝関節屈筋群の安静時筋収縮が影響す
る可能性が示唆された.術前の伸展 ROM 制限が大きい症例は,術後疼痛や膝関節屈筋群,関節包などの軟部組織
がより伸張され,安静時から防御性に筋がより強く収縮していたと考える.よって,TKA 後の伸展 ROM 改善に
は,術前から伸展 ROM を改善することや,術後早期の膝関節屈筋群の防御性の筋収縮を軽減させることが必要で
ある可能性が示唆された.
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第 1 セッション
運動器(症例報告)
症例報告
8
慢性的な足関節前外側部痛を呈した競泳選手の一症例
吉川 昌利(きっかわ まさとし)1),小田 高志1),吉岡 豊城1),愛洲 純1),佐竹 信爾2)
島田病院 リハビリテーション課1),島田病院 整形外科2)
キーワード
競泳,キックパフォーマンス,二分靭帯損傷
【目的】
競泳選手の足部障害に関するこれまでの報告は,三角骨障害による足関節後部痛や足関節底屈可動性の高さが
影響すると考えられるプール外での足関節捻挫が多い.本症例は競泳中の慢性的な右足関節前外側部痛を主訴と
した稀な症例である.今回その疼痛発生機序を考察し治療をおこなったことで疼痛軽減と自己ベスト記録の更新
をすることができたため報告する.
【症例紹介】
高校 1 年生の 16 歳女性で,幼少期より競泳をしており,現在は週 6 回の頻度で練習に参加している.2015 年 1
月から練習量増加に伴って,競泳中のキック動作時に右足関節前外側部痛が出現し,徐々に強くなってきたため
同年 2 月 7 日に当院を受診された.受診の結果,
足関節機能障害と診断され 2 月 19 日よりリハビリ開始となった.
【経過】
踵立方関節面および内側踵立方靱帯に圧痛と内出血があり,同部位の離開ストレス時の疼痛がキック動作時の
疼痛と一致していた.踵立方関節はゆるく,内側踵立方靱帯の断裂を示唆する所見であった.足関節底屈 60̊ 60̊
であり,競泳選手の特性として足関節底屈は過可動性を示しているが,距腿関節での可動性は低く,最大底屈位
での内転は 30̊ 50̊ であり疼痛による右足関節の制限があった.徒手的な距腿関節底屈操作で即時的な回外可動域
の改善があったため,距腿関節の自動運動の可動性低下に伴い,踵立方関節での過可動性が生じていると推察さ
れた.腓腹筋,ヒラメ筋 MMT 2 4 と右側で出力低下が著明であったため,従重力下でのエクササイズからはじめ,
MMT3 まで改善したときより,徐々に疼痛軽減が認められた.キック動作での中枢部での安定性,とくに膝伸展
時の足関節底屈にも介入し,現在では MMT5 まで改善,足関節可動域は左右差なく,疼痛は初回来院時に比べ 3
割程度になっている.パフォーマンスでは専門であるバタフライで自己ベスト記録を更新することができた.
【考察】
本症例の疼痛に関連した所見からは距骨前方突起骨折または二分靭帯損傷の可能性が高いと考えられる.距腿
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関節での底屈機能が不十分な状態で練習量が増加したため慢性的な疼痛へと移行した.キック動作の推進力とし
ては大腿四頭筋などの近位部の筋力が重要であり,陸上で抗重力筋トレーニングが不十分な状態であったことが
遠位部である足関節への過負荷になったことが考えられる.競泳選手にとって足関節柔軟性に加え,動態の評価
が重要であった.再発予防の観点では,構造的破綻を呈した踵立方関節への負荷軽減のためには距腿関節,膝関
節のさらなる機能向上が課題であると考えられた.
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第 1 セッション
運動器(症例報告)
症例報告
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イリザロフ法を施行後,外側ウェッジ型足底板を使用し,さらにイリザロフ法
の一部を解除後,荷重が得られ骨癒合が促進した症例の理学療法
久田 祥寛(ひさだ よしひろ)1,2),松原 彩香1),藤田 康孝1),岡村 正嗣1),内田 真樹1),
白井 孝昭2)
京都市立病院 リハビリテーション科1),京都市立病院 整形外科2)
キーワード
イリザロフ法,外側ウェッジ型足底板,荷重
【目的】
右脛骨・腓骨遠位粉砕骨折後,イリザロフ法による長期間の固定を行った症例の理学療法を経験した.疼痛が
遷延し荷重の獲得に難渋したが,自宅退院に至った.理学療法の経過と工夫した点について報告する.
【症例紹介】
64 歳,男性.身長 158.5cm.体重 55kg.自転車で走行中に軽トラックと衝突した.右脛骨・腓骨遠位粉砕骨折
の診断で入院した.既往歴:26 歳頃右脛骨骨幹部骨折後,変形治癒あり.
【経過】
第 1 病日,創外固定を実施した.右下肢免荷.第 2 病日より理学療法を開始し,筋力増強運動や膝・足部の関
節可動域運動を実施した.骨癒合得られず,第 97 病日,脛骨近位 1 3 で骨切りし,脛骨遠位 1 3 骨折部に腸骨骨
移植を行い,イリザロフ法を施行.全荷重可能の指示があった.
足関節可動域は背屈−10̊・外がえし 5̊ 固定であっ
た.第 104 病日より脛骨近位の骨切り部を毎日 0.5mm ずつ延長した.第 117 病日,骨折部を 5mm 短縮し,第 138
病日にさらに骨折部を 3mm 短縮した.第 156 病日,脛骨近位骨切り部の延長を終了した.しかし,踵骨のリング
ピン刺入部で疼痛が出現し,荷重は 15kg 程度に留まった.これに対して,表皮や軟部組織にリラクゼーションを
行うも除痛効果は乏しいため,シリコーン性外側ウェッジ型足底板を装着し疼痛が軽減した.同時期に右ハムス
トリングスの短縮にて,膝関節伸展制限が生じたが,他動運動を開始し,荷重は 35kg から 40kg まで向上した.
イリザロフ法解除の条件は全荷重獲得であるため,主治医と相談の元,第 219 病日,踵骨のリングピンを抜去し
た.足関節可動域運動を開始し,足関節背屈 0̊・外がえし 5̊・内がえし 10̊ まで向上した.疼痛は著しく軽減し,
荷重は 50kg から 55kg まで可能となった.骨癒合は促進され,第 267 病日リング支柱 4 本から 3 本,第 274 病日
リング支柱 3 本から 2 本,第 288 病日イリザロフ法を全て解除した.右足関節背屈制限は残存し,跛行にて補高
15mm を使用し,第 319 病日杖歩行にて自宅退院した.
【考察】
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難治性骨折後にイリザロフ法を行った症例において,
踵骨のリングピン刺入部の疼痛により荷重困難となった.
疼痛の一因としては,底屈・外がえしで固定している足関節が,踵接地時に部分的に踵骨内反作用が生じ,リン
グピン刺入部に剪断応力が発生したと思われた.シリコーン性外側ウェッジ型足底板を装着し,材質の緩衝作用
並びに,底屈・外がえし位を保持したまま荷重が可能となり,踵骨のリングピン刺入部の剪断応力が軽減された
と示唆された.さらに,膝関節伸展制限が軽快した事で踵接地時の膝屈曲モーメントが減少し,膝伸展筋力が発
揮しやすくなり,荷重が向上したと推測された.踵骨のリングピンを抜去後は足関節可動域練習にて,内がえし
の制限が軽快し,荷重が増え骨癒合が得られた.継続的に足関節の伸長運動を行うも背屈制限は残存したが,15
mm の補高にて歩行踵接地後に足関節ロッカーを促す事で,跛行が改善したと考えられた.
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