平成 14 年度卒業研究発表会(日本大学工学部情報工学科) A-9 ホットスポットにおける効率的な通信手法について Efficient Communication Techniques on Hot-spotted Networks 116147 1 林 陽介 はじめに 近年のモバイルネットワーク環境は、携帯電話でのセル ラーネットワーク、無線 LAN を用いたホットスポット、 ITS による高速自動車ネットワークと多様化している。 また、その伝送特性も、表1に示すように異なっている。 特に、最近では、ホットスポットを用いた高速インター ネット通信が、比較的安価に設備導入が図れることもあ り注目されている。しかし、無線リンクにおける伝送レ ートの高速化により、そのセルサイズは比較的小さく、 また、セルラーネットワークに比べ間欠的に配置されて いるため、このようなホットスポットを用いて、高速走 行する自動車により通信を行う場合、移動ホストは短時 間の間にセルを通り抜けてしまう可能性がある。このた め、断続的な通信を繰り返し、効率的な通信を行うこと が困難である。この問題を解決するため、文献[1]におい て、プロアクティブデータ転送が提案されている。しか し、この方式では、ホットスポットに設置されるプリフ ェッチエージェント発見の問題を解決する必要がある。 本稿では、上記プロアクティブデータ転送方式を概説 するとともに、プリフェッチエージェンを用いない新た なプロアクティブデータ転送方式を提案し、プリフェッ チエージェント発見の問題を解決する。なお、前提とす るモバイル環境としては、文献[1]と同様にセルラーネッ トワークとホットスポットを用いている。 表1:ホットスポットとセルラーネットワークの特徴 Hot-spotted Cellular Network Network Cell size 非常に小さい 大きい Transmission rate 非常に高い 非常に低い Cell configuration 不連続 連続 spotted network Hot-spotted network Hot [竹中研究室] ガソリンスタンド、駐車場などを含む街の中のさまざま な場所に設置される ITS ネットワークへの適用も可能で あり、将来的に有望な方式と考えられる。 2.1 プリフェッチエージェント 文献[1]のプリフェッチエージェントは、ホットスポッ トに設置され、移動ホスト宛てのデータを保存し転送を 行う。プロアクティブデータ転送では、移動ホストはデ ータ要求をセルラーネットワーク経由で行い、コンテン ツの受信をホットスポットで高速に行う。このために、 経路をダイナミックに変更するルーチング手法が必要と なる。 この問題の解決に、文献[1]ではモバイル IP でのルー チング手法を適用している。モバイル IP では、外部リン クへ移動中である移動ホスト宛てのすべてのデータをホ ームエージェント(HA)が受信し、移動ホストが存在する リンク上の外部エージェントに転送する。プロアクティ ブデータ転送では、移動ホストの移動先のホットスポッ トにデータを予め転送する必要があるが、これを実現す るため、移動ホストが移動先ホットスポットを予測し、 予めプリフェッチエージェントに HA 経由でダウンロー ドすることにより解決している。 2.2 プロアクティブデータ転送プロトコル ここでは、プロアクティブデータ転送を実現するため のプロトコルに関して述べる[1]。このプロトコルはモバ イル IP をベースにして設計されている。セルラーネット ワークにも、モバイル IP のような移動透過なプロトコル が導入されており、ホットスポットにはプロアクティブ データ転送プロトコルが適用される。図2にプロトコル の概要を示す。 ① プロアクティブデータ転送を行う移動ホストは、プリ フェッチエージェント発見後、そのプリフェッチエー ジェントに対してセルラーネットワーク経由で登録 を行う。登録パケットを受信したプリフェッチエージ ェントは、そのパケットをホームエージェントにリレ ーする。 Cellular network Cellular network 図1 ホットスポットとセルラーネットワークによる モバイル環境 2 プロアクティブデータ転送 文献[1]で提案されたプロアクティブデータ転送方式 では、ホットスポットに設置されたプリフェッチエージ ェントに、当該移動ホスト宛てのデータを予めダウンロ ードする。移動ホストが、このホットスポットに入った 時に、直ちに通信を開始することにより、通信の効率化 を図る方式である。この手法は、ホットスポットのアク セスポイントが、一般道路上における交差点の信号機、 ② 登録完了後、移動ホストは通信先ホストに対してデー タの要求を行う。 ③ 要求を受信した通信先ホストは、要求データをホット スポットのエリア内のホームエージェントに対して 転送する。ホームエージェントはデータをプリフェッ チエージェントに転送する。 ④ 移動ホストがホットスポットのエリアに進入すると、 ホームエージェントに対して、外部エージェント登録 を行う。 ⑤ 移動ホストは、プリフェッチエージェントにデータ転 送要求を送信し、データのダウンロードを開始する。 平成 14 年度卒業研究発表会 A-9 CH 2.Data request 1.prefetch state registration Internet 3.Proactive data transfer HA FA PA HA PA Hot-spotted network 5.download Cellular network 4.Foreign state registration move MH: Mobile Host HA: Home Agent FA: Foreign Agent MH PA: Prefetch Agent (2) 通信 ②移動ホストは、HA に対してセルラーネットワーク経 由で位置登録を行ったのち、移動ホストは HA に対し てデータの要求を行う。 ③HA は移動ホストの代理として通信先ホストに対して データ要求を行う。 ④要求を受信した通信先ホストは、要求データを HA に 対して転送する。 ⑤移動ホストがホットスポットのエリア内に進入すると、 気付アドレス CoA を取得し、HA に対してセルラーネ ットワーク経由で位置登録を行う。 ⑥登録完了後、HA からホットスポット経由でデータの ダウンロードを開始する。 CH:Correspondent Host 図2 3 プロアクティブデータ転送プロトコル HA CH 4 3 プリフェッチエージェントの発見 移動ホストはプロアクティブデータ転送に先立ち、使 用するプリフェッチエージェントを発見する必要がある。 この発見には、GPS 等の位置情報取得機構を用いて得ら れた情報をもとにして行われる。 プリフェッチエージェントの発見手法には2つのアプ ローチが提案されている[1]。1つは、プリフェッチエー ジェントの地理的位置情報を保持するディレクトリサー バをネットワーク内に設置するアプローチである。この 手法では、例えば、プリフェッチエージェントが定期的 に自身の情報をディレクトリサーバに送信することによ り、ディレクトリサーバではプリフェッチエージェント の位置情報と故障等の状態管理を行う。もう1つのアプ ローチは、プリフェッチエージェントの地理的位置情報 とネットワーク位置情報を移動ホストに持たせる手法で ある。この手法を用いると、移動ホストはネットワーク に問い合わせることなしにプリフェッチエージェントを 検索することが可能である。しかしながら、プリフェッ チエージェントに関する情報を定期的に更新する必要が あるため、ネットワーク及び移動ホストに負荷がかかる とともに、プリフェッチエージェントの故障等の状態変 化に即応できないという欠点が挙げられる。 4 提案方式 プリフェッチエージェント発見の問題を解決するため、 本研究では、プリフェッチエージェンを用いない新たな プロアクティブデータ転送方式を提案する。提案方式で は、インターネット内の HA にプリフェッチエージェン トの機能を持たせる。 4.1 位置登録と通信手順 図3に本提案方式の概要を示す。移動ホストはセルラ ーネットワークのみ利用可能な場所にいるとする。 (1)位置登録 ①移動ホストがセルラーネットワークのみ利用可能な場 所にいる場合、HAに対してセルラーネットワーク経 由で位置登録する。 ②移動ホストがホットスポットのエリア内に進入すると、 IP アドレスを取得し、セルラーネットワーク経由で HA に対して位置登録を行う。 Internet 1 2 6 5 Hot-spotted network Cellular network move MH: Mobile Host HA: Home Agent CH:Correspondent Host 4.2 図3 提案方式の通信手順 従来手法との比較 従来のプロアクティブデータ転送では、プリフェッチ エージェントの発見が必要であったが、提案方式では HA にプリフェッチエージェント機能を持たせたため、その 機能は不要である。しかし、従来手法では、移動ホスト の移動先のホットスポットにプリフェッチエージェンが 存在するため、インターネット輻輳の影響を受けずに高 速転送できるメリットがある。提案方式では、プリフェ ッチエージェント機能を移動ホストの HA に集約したた め、インターネット輻輳の影響を受けやすい問題がある が、プリフェッチエージェント機能のないホットスポッ トに入った場合もプロアクティブデータ転送可能である。 今後は、インターネットのブロードバンド化が進むと考 えられ、インターネット輻輳による影響は少なくなると 考えられる。 5 むすび 移動ホストがホットスポット間を移動するモバイル環 境下、効率的に通信を実現するために提案されたプロア クティブデータ転送を概説した。また、問題点としてプ リフェッチエージェントの発見が必要となることを示し た。この問題を解決するため、プリフェッチエージェン ト機能を HA に持たせる方式を提案し、その通信手順を 明らかにした。今後は、本提案方式における通信手順の 詳細化を図るとともに、高速ハンドオーバについても検 討する必要がある。 参考文献 [1]今井 尚樹, 森川 博之, 青山 友紀, ホットスポッ 情報 トにおけるプリフェッチを用いたデータ通信 処理学会マルチメディア,分散,協調とモバイル (DICOMO 2000)シンポジウム, pp.31-36 Jun. 2000.
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