既存治療下におけるイプラグリフロジンの併用または単独療法における 有効性・安全性に関する検討 -CGMとSMUG測定による研究- Ⅱ-P 232 加藤内科クリニック(東京・葛飾区) 加藤 則子, 金村 幸枝, 森川 よし子, 酒井 久美子, 斎藤 杏子, 三浦 すみ子, 春日 千加子, 中村 野香, 筒井 健介, 山下 滋雄, 加藤 光敏 1. 背景 SGLTはナトリウムの濃度勾配を駆動力として、グルコースを細胞内へ能動輸送するトランスポーターである。SGLT-2は主に腎近位尿細管におけるグルコースの再吸収を担っており、SGLT-2阻害薬は、 グルコースの再吸収を阻害し、尿糖排泄を促進する。本研究では、イプラグリフロジンを服用中の患者の血糖値の推移についてはContinuous Glucose Monitoring (CGM) を用い、尿糖の推移を Self-Monitoring of Urine Glucose (SMUG) を用いて検討した。 2. 方法 主要評価項目 3. 研究スケジュール 【観察期間】 12 週 食事・運動療法または経口糖尿病治療薬による血糖低下療法を6週以上実施している にもかかわらず、血糖コントロールが不十分な2型糖尿病、HbA1c 7.0%以上の外来患者 投与方法 イプラグリフロジン50 mg/日を12週間投与した。 0W 同意取得及び 適格性確認 4W 登録 4. 患者背景 17 年齢 (歳) 54.4±9.8 男性症例数(%) 女性症例数(%) 14(82.4) 3(17.6) 体重 (kg) 80.1±20.9 BMI (kg/m2) 28.9±5.1 HbA1c (NGSP値) (%) 8.3±0.9 空腹時血糖値 (mg/dL) 169.9±49.4 糖尿病罹病期間 (年) 12.0±7.1 併用薬の数 1.8±1.0 数値は平均値±SD 5. HbA1c・空腹時血糖の推移 8.1 7.9 8.0 7.7 * 7.5 ** 7.0 6.5 6.0 0 4 8 12 0.0 -0.5 * ** -1.0 -0.2 -1.5 投与期間 (週) 12 -0.4 -0.6 4 1 8 2 12 3 20 0 4 90.0 n=17 投与期間(週) 8 0.0 ** * ** -3.0 -60 ** ** -28 -5.0 -33 -2.4 -6.0 -2.9 300 Pre-BG 200 1000 Post-BG 100 0 3 6 9 12 15 18 21 4000 3000 300 100 Post-BG 2000 1000 Pre-U 0 0 24 3 6 9 12 時間 (hr) 15 18 21 24 時間 (hr) 図3. CGM, SMUG測定による血糖および尿糖の日内変動 (A), (B)CGM, SMUGを実施した4例中2例を記載. CGMは外来にて実施した. SMUGは, タニタ電子尿糖計UG-120/130にて測定. 曲線(点線, 実線)は血糖, 折れ線(点線, 実線)は尿糖の日 内変動を示す. 三角(▲, ▲)は食事時間を示す. 四角(◆, ■)はSMBG(血糖自己測定)を, 丸(○ , ●)はSMUGを示す. AUC<160, AUC>180の目安として, 血糖160 mg/dL, 180 mg/dLにライ ン. ( )内は治療開始時, 12週時の順に記載. CGM, SMUG実施症例(n=4)のうち, 2例を記載. 第二因子【治療への不安と不満】 n 治療開始時の実測値 12週後における変化量 17 205.8±48.1 -17.7±32.7* 100 中性脂肪 (mg/dL) 17 132.3±77.8 -28.8±54.9* 80 HDL-C (mg/dL) 17 58.7±14.9 3.8±8.5 120.6±38.6 -15.7±23.3* 8週 -0.35 -0.35 12週 (0週) 0.0 0.0 8週 ** -0.5 * -0.63 -0.79 * * -1.0 -0.96 ** -1.0 Δ筋肉量(kg) -0.63 * -0.74 -0.5 -2.10 -2.0 Δ骨格筋量(kg) Δ体脂肪率(%) -1.5 -2.0 -2.11 -1.5 Δ筋肉量(kg) Δ体脂肪(kg) -1.50 -1.77 40 20 12週 -2.5 -3.0 -3.0 運動少群・筋肉量 運動少群・体重 第二因子【治療への不安と不満】 質問25. 現在の糖尿病治療法を続けていくと、 効果が薄れてくるのではないかという 不安がある。 運動多群・筋肉量 運動多群・体重 図4. 骨格筋量,体脂肪の治療開始時からの変化量の推移 (A)筋肉量,骨格筋量,体脂肪,体脂肪率の変化量を各々示す. Paired t-testにて, p<0.05は* をp<0.01は**を示す. (B)運動習慣で週2回未満の運動少群と,2回以上の運動多群に層別 し,筋肉量と体重の変化量を各々示す. 各体組成成分は, InBody430にて測定. 6 5 n=17 * 7 -2.41 -1.29 ** -1.5 -1.0 -1.16 -1.43 -1.49 -2.5 -1.31 ** 61.9 0週 (B) -0.16 (0.00) -1.0 -1.5 72.1 0 -0.99 Δ体脂肪率(%) * -0.74 * 60 運動少群:n=8 運動多群:n=9 -0.48 -0.59 n=17 0.0 -0.51 -0.5 * -0.42 12週 0.0 (0.00) -0.5 4週 スコア(点) 4週 Δ体重(kg) (0週) サブスケールスコア 項目 表3. Paired t-testにて, p<0.05は*をp<0.01は**を示す. 数値は平均値 ±SD. (B) n=17 Δ筋肉量(kg), Δ骨格筋量(kg), Δ体脂肪(kg) (A) (A) 総コレステロール (mg/dL) 17 24.0 23.0 22.0 5.9 5.0 4 3 2 1 0 0週 12週 8週 項目 n 治療開始時 12週時 MAGE (mg/dL) 4 79.2±20.0 83.9±19.5 4.8±4.7 SD (mg/dL) 4 42.0±7.7 35.7±6.7 -6.3±8.4 12週後における変化量 AUC (mg/dL/24hr) 4 5094.6±1518.5 3558.8±526.6 -1535.8±1013.4 AUC <160(mg/dL/24hr) 4 3649.2±230.2 3262.2±291.8* -387.0±90.7 食後2時間の血糖 4 247.8±76.0 194.5±24.9 -53.3±54.8 表2. SMUG各種パラメーターのまとめ 項目 n 治療開始時 12週時 12週後における変化量 AUC (mg/dL/24hr) 4 25378.7 ±19851.2 62305.3 ±32342.7 36926.7 ±33101.6 平均尿糖 (mg/dL/24hr) 4 1122.9 ±778.8 2616.7 ±1369.9 1493.8 ±1376.3 10. 糖質摂取量との相関 (A) 30 y = -3.8365x - 13.746 R² = 0.329 20 n=17 10 体重(kg)変化率 0 -5 0 5 -10 -20 -30 r=-0.574 p=0.016 図5. DTR-QOLの推移と体重との相関 (A)第一因子(社会活動/日常活動の負担), 第 二因子(治療への不安と不満), 第三因子(低血 糖), 第四因子(治療満足度)のサブスケールスコ アについて, 治療開始時との比較をPaired t-test にて検定し, 有意にQOLが向上した因子(*: p<0.05). (B)各質問(全29問)のQOLスコア(1~7点の7 段階で評価し, 得点が高いほどQOLが高い)に ついて, 治療開始時との比較を各質問ごとに Wilcoxon Signed-Rank Testにて検定し, 有意に QOLが向上した質問(*: p<0.05). (C)12週後における治療開始時からの体重変 化率と低血糖サブスコアの変化量との相関. Pearson Product-Moment Correlation Coefficientのr値及び有意確率p値を示す. n=4 y = 1.8273x + 52.997 R² = 0.9057 (B) 30 20 10 0 -50 -40 -30 -20 -10 0 -10 r=-0.952 p=0.048 -20 -30 血糖AUC(mh/dL/24hr)変化率 n=4 y = 25.415x + 57.251 R² = 0.5628 50 25 0 -5 -4 -3 -2 -1 0 -25 -50 -75 r=-0.750 p=0.250 -100 -125 体重(kg)変化率 図6. 糖質摂取量との相関(CGM・SMUG実施者) (A)12週後における治療開始時からの血糖AUCの変化率と1日糖質摂取量の変化率との相関 (B)12週後における治療開始時からの体重の変化率と1日糖質摂取量の変化量との相関 症例1:▲, 症例2:■, 症例3:◆, 症例4:●(7. CGM・SMUGの症例1, 症例2と対応) 11. 有害事象・研究中止理由 発現 発現率 2 10.0% 毛嚢炎 1 5.0% 膣カンジダ症 1 5.0% 全ての有害事象 12. まとめ・考察 12週 表1および表2において, 治療開始時との比較を各々Paired t-testを行った. p<0.05は*を示す. 数値は平均値±SD. (C) -10 BMI 図2. 体重, BMIの推移 治療開始時, 4, 8, 12週後の体重(左 軸)とBMI(右軸)の値を各々示す. Paired t-testにて, p<0.05は*を p<0.01は**を示す. 20.0 4週 9. DTR-QOL 表3. 血清脂質の推移 第三因子(低血糖)変化量 8. 血清脂質・体組成成分 LDL-C (mg/dL) 25.0 体重 表1. CGM各種パラメーターのまとめ 6000 Post-U Pre-BG 27.0 21.0 0 0 0 75.0 7. CGM・SMUG 200 n=17 投与期間 (週) 5000 400 29.0 26.0 0週 尿糖値 (mg/dL) 2000 Post-U 尿糖値 (mg/dL) 血糖値 (mg/dL) 血糖値 (mg/dL) Pre-U 400 ** 78.4 60.0 500 500 ** 78.5 -2.7 症例2 (69歳・女性) HbA1c 9.0→8.8(%), 体重62.2→61.8(kg) 600 3000 * 78.7 65.0 -33 (B) 症例1 (30歳・男性) HbA1c 9.2→7.8(%), 体重127.8→121.6(kg) 80.1 70.0 図1. 血糖コントロールの推移 (A)治療開始時, 4, 8, 12週後のHbA1cの値を示す. (B),(C),(D)治療開始時からの変化量を示す. Paired t-testにて, p<0.05は*をp<0.01は**を示す. 600 ** 28.2 -4.0 -80 -100 (A) ** 28.4 28.0 80.0 -2.0 * -40 * 28.5 1.0 -1.0 -20 30.0 28.9 85.0 12 1日糖質摂取量(g/日)変化率 8.3 8.5 8 6. 体重・BMIの推移 (D) n=17 投与期間 (週) 体重 (kg) 9.0 4 0.5 (C) 3 Δ空腹時血糖 (mg/dL) 9.5 n=17 2 Δグリコアルブミン (%) 投与期間 (週) 1 ΔHbA1c (%, NGSP) HbA1c (%, NGSP) (B) n=17 10.0 イプラグリフロジン投与開始時 症例数 性別 安全性の評価項目 治療期間中に発現した使用薬剤との因果関係が否定できない有害事象 倫理 倫理審査委員会:医療法人財団同仁記念会 明和病院 治験審査委員会 承認日:2014年6月12日 12W 【治療期間】 イプラグリフロジン 50 mg 治療開始時から12週後のHbA1cの変化量 副次評価項目 治療開始時から12週間後の下記項目の変化量または変化率 CGMを用いた血糖値160 mg/dL以下の曲線下面積 SMUGを用いた尿糖値の曲線下面積 食後2時間の血糖値と尿糖 体組成成分 (体脂肪、体水分量等) グリコアルブミン、血清脂質値 体重、ウエスト周囲長、血圧 その他食事記録などの患者情報、Diabetes Therapy Related (DTR)-QOL (A) 8W BMI (kg/m2) 前向き介入研究 対象 1日糖質摂取量(g/日)変化量 方法 登録された20例のうち、治験開始から12週までの結果が得られた17例について解析を行った。 イプラグリフロジン投与により、HbA1c値は経時的に有意に低下(投与12週後 治療開始時より0.6%低下, p<0.01)し、空腹時血糖値、グリコアルブミンも有意な低下を示した。体重減少 (12週後 治療開始時より1.7kg, p<0.01)に伴いBMIも有意な低下(p<0.05)を示した。 体組成について、体脂肪が4週後より減少したが、同時に骨格筋量、筋肉量も経時的に有意に低下(p<0.05)した。また、運動習慣における層別解析の結果、運動多群は体脂肪・体脂肪率が より減少する一方で、筋肉量・骨格筋量の減少は抑えられている。 イプラグリフロジンを服用した4例のCGMの解析の結果、AUC<160値が12週後に有意に低下(p<0.05)を示した。 DTR-QOLの解析より、体重減少率が大きいほど、低血糖に対するQOLが治療後により高くなる傾向が認められた。体重減少率が大きい人の方が、体重が減少しても低血糖症状が起こらない ことをより実感できているため、QOLがより向上した可能性が示唆される。 イプラグリフロジン投与により良好な血糖コントロールおよび体重、BMIの改善が認められた。今後は本剤投与時の血糖値、尿糖の推移に関する詳細な検討を行うと同時に、症例データをさらに 集積し、本剤の適正使用情報について報告する予定である。 中止例:2例 中止理由 • 有害事象の発現により脱落:2例 日本糖尿病学会 COI開示 筆頭発表者名:加藤 則子 演題発表に関連し、開示すべきCOI関係にある企 業などとして、 研究形態:研究者主導研究 研究費:アステラス製薬 本研究は研究者が企画・立案し、契約に基づきアステラス製薬が研究費を助成 した研究であり、研究デザイン、患者登録、集計・解析、データ解釈および原 稿作成に企業は関与していない。 2015年5月21-24日 第58回日本糖尿病学会年次学術集会 下関
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