第 26 回健康医科学研究助成論文集 平成 21 年度 pp.68∼77(2011.3) 徒手マッサージによるセルフケアを加えた監視・非監視併用型の 健康づくりトレーニングの効果 寺 田 和 史* 中 谷 敏 昭* INTERACTIVE INFLUENCE OF SELF-MASSAGE INTERVENTION AND GROUP-BASED AND HOME-BASED EXERCISE PROGRAMS IN MIDDLE-AGED AND ELDERLY PERSONS: A RANDOMIZED CONTROLLED TRIAL Kazufumi Terada and Toshiaki Nakatani SUMMARY Background: A manual massage for muscle pain, soft tissue pain, and general muscle weakness has become a popular and widely used modality for recovery after exercise. However, the effectiveness of massage in exercise training remains unclear. Purpose: To investigate the interactive influence of self-massage intervention and exercise programs in middleaged and elderly persons via a randomized controlled trial. Methods: Thirty-eight healthy male adults aged between 40 and 69 years were randomly and equally assigned to 1 of 3 groups: the exercise and self-massage intervention group(SG, n = 13), exercise training intervention group (TG, n = 13), and control group(CG, n = 12) . Members of SG underwent a structured manual self-massage, and their exercise regimen consisted of group-based and home-based training, which included resistance training of upper and lower limbs and abdominal muscles, endurance training, plyometrics, and alertness training for 12 weeks. TG members underwent the same exercise program as the SG members for 12 weeks. The outcome measures were body composition, abdominal girth, blood pressure, 30-second chair-stand test(CS-30), vertical force in sit-tostand movement from a chair, vertical jump(VJ) , shoulder horizontal adduction(SHA, a test of muscle strength), 30-second sit-up test(SU-30) , center of foot pressure(CoP, a static equilibrium function test) , chair sit-and-reach test(CSR), and 2-minute step test. Results: At baseline, all 3 groups were well matched in physical characteristics. After 12 weeks of intervention, the SG showed significantly greater improvements(P<0.05)in measures of CS-30(+22.1%) , VJ(+23.2%), SU30(+13.7%), locus length per unit area(L/A)in CoP, with the eyes closed(17.7%), and CSR(+44.4%), and the TG also showed significantly greater improvements(P<0.05)in measures of CS-30(+10.6%) , VJ(+19.9%) , SHA(+15.0%)and L/A in CoP, with the eyes closed(−24.3%). However, in the CG, no significant changes were observed in any of the measurements. The post-intervention values of CS-30 and VJ were significantly higher in the SG than in the CG(P<0.05, ANCOVA with Bonferroni correction, adjusted values of post-intervention for values of pre-intervention). On the other hand, there were no significant differences in any of the measurements * 天理大学体育学部体育学科 Faculty of Health, Budo & Sports Studies, Tenri University, Nara, Japan. (69) between TG and CG. Conclusion: These results suggest that the effect of exercises is enhanced by concurrent self-massage intervention. Key words: massage, group-based exercise, home-based exercise, randomized controlled trial, interactive influence. 緒 言 れる。トレーニングによる筋損傷の回復過程には 加齢の影響が認められることから、とりわけ、中 加齢により身体機能、すなわち体力は低下し、 高年者に対するトレーニング後の身体のケアは必 それによって健康的な生活を送る期間が減少した 要性が高いと考えられる 8,26)。従来、各種の物理 り、また、体力の水準が疾患の発症や死亡と関係 療法が運動後の身体のケアの方法として用いら したりすることが明らかとなってきた 3,4)。その れており、なかでもマッサージなどの徒手療法 ため、従来、中高年者を対象として、それらを防 は、比較的広く用いられている療法の 1 つといえ ぐための種々の方策が検討されている。無作為化 る 31)。マッサージは、疲労の除去や運動パフォー 比較対照試験 1) を含めたいくつかの介入研究に マンスの低下を防ぐ、運動後に実施することで より、運動トレーニングが高齢者の身体機能の維 遅発性筋痛を予防するなどの効果が示されてお 持、改善に対して有用であることが明らかとなっ り 6,24)、また、徒手で行うため特定の器具や場所 ている 11) 。運動トレーニングの介入方法として、 を必要とせず、更には侵襲性が低く比較的安全で これまでに、対象者を、トレーニング指導を含め あることなどから、一定の技術や方法を習得する た介入実施者の監視下の元に、集団でトレーニン ことで自分自身の身体のケアに用いることもでき グを実施させる方法(group-based)13)、あるいは、 る。あるいは、運動トレーニングやトレーニング 実施方法等を指示したうえで、家庭などで対象者 以外で生じる種々のストレスに対して、それらを に単独で実施させる方法(home-based)などが検 解消するためのリラクセーション効果なども期待 5) 討されてきているが 、それぞれに利点や欠点が できる 27)。したがって、トレーニングにより生 あり、実際に現場で応用する場合にどちらがより じる疲労や障害、ストレスなどの種々の負の影響 有用であるかは一定の見解を得ていない。監視型 を取り除く手段としての効果が期待でき、トレー のトレーニングは実施率が高い半面、コストがか ニング効果の減少を抑え、それを保持するのに有 かり参加人数や時間の制約も生じる。そのため、 用であることが考えられる。しかし、これまでに、 多数の参加が期待でき、時間的制約を受けにくい マッサージをはじめとした物理療法が、とりわけ 非監視型 15,21) の導入も試みられているが、反対 中高年者に対する運動トレーニングの介入効果に に、監視の目が届かないことから、実施率の低下 相乗的に与える影響を検討した研究は見当たらな が問題となる。近年では、これら両方の方法を取 い。 り入れた介入についての検討もしばしばみられ そこで、本研究では、中高年男性を対象に、健 る 14,25)。 康づくりを目的とした監視型と非監視型のトレー 一方、運動トレーニングを行った結果として、 ニングを合わせた運動プログラム単独による介入 それに伴う疲労や筋痛、あるいは、外傷・障害な と、それに徒手マッサージによるセルフケアプロ どの負の影響が現れることもある。例えば、運動 グラムを加えた介入を実施し、その効果に違いが 後に生じる遅発性筋痛は、筋力の低下や関節可動 みられるか、無作為化比較対照試験により検討し 域の減少をもたらし、運動パフォーマンスを低下 た。すなわち、トレーニングと身体のケアの両方 させることが知られている 2,22)。このような原因 を実施することが、中高年者の健康関連体力の向 によってトレーニングの頻度が低下したり、継続 上等に相乗的な影響を及ぼすかどうか明らかにす が困難になったりすることも示唆されることか ることを目的とした。 ら、それらの影響を取り除くことは、トレーニン グ効果の減少に対して抑制的に働くことが考えら (70) 研 究 方 法 A.対象 と比較的幅広い年齢層であるため、対象者のな かに存在する高年者にも適するよう、American College of Sports Medicine お よ び American Heart 奈良県天理市の某事業所に所属する 40 歳から Association の推奨する高齢者の身体活動レベルの 70 歳までの、運動トレーニングを実施するに支 向上を目的とした内容に沿って実施した 20)。監 障のない健康な男性現業労働者に対して、本研究 視下で行うトレーニング種目は以下のとおりとし の目的や内容を説明したうえで研究参加の募集を た。筋力トレーニングとして、腕立て伏せ、自重 行った。その結果、募集に応じ文書による同意を によるスクワットおよびフロントランジ、シット 得た、40 歳から 69 歳までの計 38 名(平均年齢 アップによる腹筋運動、縄跳びやミニハードルな 50.5 8.2 歳)が対象者として研究に参加した。 どを用いたプライオメトリクス運動を行った。ま なお、本研究の実施にあたっては、天理大学体育 た、平衡機能に対するトレーニングとして、不 学部研究倫理委員会の承認を得た。 安定板による運動や障害物等を用いた歩行運動、 B.無作為割付 敏捷性に対するトレーニングとして、ラダーやミ 運動トレーニングと身体セルフケアの体力等に ニハードルなどの障害物を用いたアジリティ・ト 及ぼす影響を明らかにするために、運動トレーニ レーニングを用いた。なお、対象者の時間的拘束 ングに加えて徒手マッサージやスタティック・ス や疲労などの負担を考慮して、全身持久性トレー トレッチングを用いたセルフケアの両方を行う群 ニングのみ監視下での実施種目から除外した。ト (S 群)、トレーニングのみを行う群(T 群) 、お レーニング実施にあたっては、対象者の体力水準 よび、特定の介入を行わないコントロール群(C や自覚的な疲労度、安全性等を考慮して種目や実 群)を設定した。対象者を、年齢を階層化したう 施方法の選択を行い、事前に十分なウォーミング えで、これら 3 群に研究遂行者と別の者がパーソ アップを実施するようにした。 ナルコンピュータを用いた乱数発生プログラムに 非監視下でのトレーニング種目には、監視下で より、無作為かつ均等に割り付けた。その結果、 行うトレーニング種目のなかから、筋力トレーニ S 群 13 名(平均年齢 50.6 9.2 歳) 、T 群 13 名(平 ングとして、腕立て伏せ、スクワットあるいはフ 均年齢 50.6 8.0 歳)、C 群 12 名(平均年齢 50.3 ロントランジ、シットアップによる腹筋運動、縄 8.1 歳)となった。 跳びあるいはその場での両脚ジャンプを選択し C.介入内容 た。また、全身持久性トレーニングは、ウォーキ 介入期間は 2010 年 5 月から 2010 年 7 月末まで ングやジョギングとした。 の 3 か月間の、計 12 週とした。このうち、S 群 各トレーニングの実施頻度は、監視下と非監視 と T 群においては、2 週に 1 回(計 6 回)の、運 下を合わせて原則として少なくとも週 3 回とし 動指導の専門家、および、あん摩マッサージ指圧 た。各トレーニング種目の 1 日当たりの実施頻度 師の指導による監視下での介入を行った。監視下 は、原則的に 1 セットとした。筋力トレーニング で行う運動トレーニングについては、S 群と T 群 の強度の設定には、活動筋の自覚的疲労感を示す が同時に実施できるように時間を設定すること ことのできる Shiomi s scale(S スケール)を用い、 で、両群の対象者がほぼ均質・同強度のトレーニ 目標とする強度を全 6 段階中の 5 に設定した。す ングを行うことができるように配慮した。その他 なわち、対象者の実施時の自覚として、活動筋が の運動トレーニングおよびセルフケアを行う機会 疲労してかなり重たく感じる程度、 「かなり効い については、非監視下で対象者自身が行うことと てきた(S5) 」と感じる状態まで同一の運動を反 した。また、監視下による実施機会を使って、対 復させる方法をとった 19)。全身持久性トレーニ 象者に、非監視下で行う運動トレーニングおよび ングについては、少なくとも 20 分以上継続でき セルフケアの方法について十分に習得させた。 る運動強度で行うよう指示した。対象者には、各 D.運動トレーニング 運動トレーニングは、対象が 40 歳から 69 歳 種目の反復回数や時間、および、トレーニング実 施に伴って発生したと考えられる筋痛やその他の (71) 痛み等の発生状況を記録させた。 を取り付けた特製の筋力計(竹井機器)を用いて、 肩関節の水平屈曲力(肩押力)の測定を行った。 E.身体セルフケア セルフケアは、運動トレーニングによる疲労の 筋力計を立位で胸の前で両手保持した姿勢(肩 軽減や外傷・障害、遅発性筋痛等の予防 7) を目 関節外転 90 度,肩関節水平屈曲 30 度,肘関節 的として、東洋医学的手法である経穴(ツボ)刺 90 度)から、両腕を押す動作を等尺性に行わせ 激やマッサージを徒手によって行う方法、および、 た。筋力計の力信号はデジタル指示計(TA250, 全身のスタティック・ストレッチングを用いた。 TEAC,日本)に 25Hz で取り込み、最大値を記録 頻度については、週 3 回以上とした。マッサージ させた。測定時は怒責しないように、呼気時での の方法として経穴刺激や徒手を用いた理由は、 力発揮を指示した。測定は 2 回行い、良いほうの 経穴の刺激法などが一般に興味のもたれている方 値を測定値とした。 法であることから、セルフケア実施の動機づけの 5 .30 秒上体起こし 16) 要因になり得ることや、刺激部位や刺激方法など 文部科学省新体力テスト項目である 30 秒上体 がマニュアル化しやすく、かつ、道具が不要であ 起こしを行い、腹筋群の筋機能を評価した。 り非監視下で行う場合も容易に実施できることな 6 .平衡機能評価 どである。また、セルフケアのプログラムにスト 足圧中心動揺計(グラビコーダ GS-7,アニマ, レッチングを取り入れた理由は、一般的にトレー 日本)により、開眼および閉眼の際のロンベルグ ニング後のクーリングダウンの手段として用いら 姿勢による立位時の足圧中心の軌跡を記録した。 れているためである。なお、監視下で行う介入機 評価項目には、開眼および閉眼時の足圧中心軌跡 会においては、セルフケア以外にもペアで行う の外周面積、単位軌跡長、単位面積軌跡長を用い マッサージやストレッチング等を取り入れた。 た。測定時間は 30 秒とした。 7 .椅座位体前屈 28) F.測定項目 介入期間の前後に、身体特性等および体力等に 高齢者の柔軟性を評価するフィットネステスト 関する測定を行った。なお、体力の変化について として用いられている、椅座位体前屈による測定 は、従来、中高年者の体力テストバッテリーとし を行った。約 40cm の高さの椅子の前縁に座り、 て多用されている項目、および、介入に用いたト 片側の脚の踵を床につけ、足関節を背屈、膝関節 レーニング種目の効果を反映しやすいと考えられ を伸展させた状態で、同側の腕をつま先に近づけ る項目を測定することで評価した。 るようにして上体を前にできるだけ屈していった 1 .身体特性および血圧 ときの、指尖とつま先の距離を測定した。測定は 身長、体重および body mass index(BMI) 、体 2 回行い、良いほうの値を評価に用いた。 脂肪率(TBF-310,タニタ,日本) 、腹囲などの身 8 .2 分間腿上げテスト 29) 体特性、自動血圧計(HEM-770A,オムロン,日本) 高齢者の全身持久性の評価に多用されている、 による最高血圧および最低血圧の測定を行った。 2 分間腿上げテストを行った。腿を上げる高さは、 2 .30 秒椅子立ち上がりテスト(CS-30) 各参加者の右膝蓋骨が、直立位での膝蓋骨中央と 中谷ら 18) の方法を用いて、高さ 40cm の椅子 上前腸骨棘を結ぶ線の中点の高さの水平線に到達 に座り、腕を組んだ姿勢から 30 秒間に直立姿勢 するまでとし、その高さで 2 分間の両脚での腿上 まで立ち上がれる回数を測定した。 げを行わせ、その間の右脚の上がった回数を記録 3 .垂直跳び した。 垂直跳び測定機器(JUMP-MD,竹井機器,日本) G.統計解析 を用い、垂直方向への跳躍高を測定した。測定は データはすべて平均値 標準偏差で示した。統 2 回行い、良いほうの記録を測定値とした。 計学的検定として、各群間の値の比較には、2 群 4 .肩関節水平屈曲力 30) 間については Student の t 検定、3 群間では一元 引 張 圧 縮 両 用 型 小 型 ロ ー ド セ ル(LUR-A- 配置の分散分析を用い、各群の介入前後の値の比 1KNSA1,KYOWA,日本)に専用アタッチメント 較には対応のある t 検定を用いた。また、介入前 (72) の値を共変量とした共分散分析を用いて、各測 なかった。 定値の介入後の値の平均値の差を各群間で比較 各群における介入前の年齢および身体特性の値 した。多重比較には Bonferroni 法を用いた。有意 の平均値の差を、一元配置の分散分析により検定 水準は 5 %未満とした。統計解析ソフトには、 した結果、有意な違いは認められなかった。また、 SPSS 16.0J for Windows(SPSS,日本)を用いた。 介入前のすべての体力に関連する測定項目におい ても、3 群間に有意な差はみられなかった。した 結 果 がって、ベースラインにおける各群の年齢、身体 A.対象者 特性、および、体力などの等質性が確認された。 介入期間中、監視下(group-based)での介入へ B.各群の介入前後の測定値の変化 の参加率は、S 群で平均 91.0 0.1%、T 群で平均 S 群と T 群の対象者が、介入開始直後に「かな 75.6 0.3%であり、S 群のほうが高い傾向にあっ り効いてきた(S5) 」と感じるまで反復可能であっ たが、統計学的に有意な差は認められなかった。 た筋力トレーニング各種目の回数(これを介入前 なお、参加回数が 4 回(参加率 66.7%)未満で の値とした)と、介入 9 週目以降で同様に反復可 あった者は T 群のみで 3 名おり、これらの者は 能であった回数の最高値(これを介入後の値とし データ解析の対象から除外した。また、事情によ た)を比較したところ、両群ともにすべての種目 り介入後の測定に参加できなかった者が S 群で で有意な増加が認められた(表 1)。なお、増加 2 名、C 群で 4 名おり、これらの者も同様に解析 の程度には、両群間に差はみられなかった。 から除外した。その結果、S 群 11 名(年齢 49.8 表 2 に、各群の介入前後の各測定値を示した。 9.7 歳)、T 群 10 名(年齢 48.0 6.4 歳) 、C 群 8 S 群では CS-30(+22.1%) 、垂直跳び(+23.2%) 、 名(年齢 50.0 8.2 歳)が解析の対象となった。 30 秒上体起こしテスト(+13.7%) 、閉眼時の単 なお、S 群 11 名の監視下での介入への参加率は 位面積軌跡長(−17.7%) 、椅座位体前屈(+44.4%) 90.9 11.5%、同様に、T 群 10 名の参加率は 91.7 の 5 項目が、T 群では CS-30(+10.6%) 、垂直跳 11.8%となった。S 群の総トレーニング日数は び(+19.9%)、肩押力(+15.0%) 、閉眼時の単位 平均 40.8 27.0 日、T 群は平均 27.9 17.2 日で、 面積軌跡長(−24.3%)の 4 項目が有意な改善を S 群の日数が多かったが、両群間に有意な差は認 示した。C 群では、すべての項目で有意な変化が められなかった。また、S 群におけるセルフケア 認められなかった。 の総日数は 24.8 28.0 日であった。トレーニング C.各群間における介入後の各測定値の比較 によって生じたとみられる、筋痛や局所の疲労以 介入前の値を共変量とした共分散分析を用い 外の有害事象の報告はなかった。トレーニング て、各測定値の介入後の値の平均値の差を 3 群間 日数当たりの筋痛の発生率は、S 群で平均 10.7 で比較したところ、CS-30、垂直跳び、および、 10.9%、T 群で平均 24.0 29.9%であり、T 群で 開眼時の単位面積軌跡長で有意な差がみられた。 高い傾向が認められたが、統計学的な差はみられ また、多重比較検定では、CS-30 および垂直跳び 表 1 .介入前後のエクササイズ種目の反復回数の変化 Table 1.Number of iterations in exercise items by group at pre-intervention and post-intervention. Exercise and self-massage intervention group (S group) Exercise item Pre-intervention Post-intervention P Exercise training intervention group (T group) Pre-intervention Post-intervention P Push-up, times 26.5 19.5 43.9 29.6 < 0.001 19.1 13.1 37.3 27.6 0.014 Squat, times 64.6 25.1 104.4 65.0 < 0.001 55.6 17.9 86.8 40.0 0.017 Sit-up, times 11.8 7.2 33.6 29.6 0.004 11.9 7.6 24.5 6.5 Values are means SD. < 0.001 (73) 表 2 .各群の介入前後の測定値の変化 Table 2.Measurements by group at pre-intervention and post-intervention. Group Weight, kg Body mass index, kg/m2 Percent of body fat, % Abdominal girth, cm Systolic blood pressure, mmHg Diastolic blood pressure, mmHg CS-30; 30-second chair-stand test, times Vertical jump(VJ) , cm Shoulder horizontal adduction(SHA) , kgf 30-second sit-up test, times Outer area in locus traced center of foot pressure, with the eyes open, cm2 Locus length per unit time, with the eyes open, cm/sec Locus length per unit area, with the eyes open Outer area in locus traced center of foot pressure, with the eyes closed, cm2 Locus length per unit time, with the eyes closed, cm/sec Locus length per unit area, with the eyes closed Chair sit-and-reach test, cm 2-minute step test, times S T C S T C S T C S T C S T C S T C S T C S T C S T C S T C S T C S T C S T C S T C S T C S T C S T C S T C Pre-intervention 63.9 65.3 71.7 23.6 24.0 25.7 21.9 18.9 21.1 82.3 84.0 87.4 131.9 128.0 129.4 85.3 81.4 79.0 22.2 25.5 22.8 33.4 35.1 37.4 35.9 39.3 42.9 15.9 14.8 18.3 2.62 2.89 2.14 1.49 1.90 1.52 21.8 22.1 22.5 3.81 2.98 3.02 2.25 2.42 2.09 24.3 26.4 23.5 10.0 8.0 8.0 142.6 151.7 158.1 13.7 8.6 13.1 4.5 3.2 3.5 12.8 4.2 5.0 13.2 7.3 12.4 18.7 10.2 13.3 14.3 10.1 11.5 6.8 6.3 6.9 9.5 5.7 7.0 12.8 8.5 8.5 7.8 8.5 5.6 2.01 1.01 0.75 0.48 0.53 0.43 10.9 10.4 6.6 5.02 1.25 1.79 1.67 0.66 0.80 8.2 8.3 5.6 14.0 10.0 8.2 27.7 26.7 34.9 Post-intervention 63.1 64.4 71.2 23.2 23.7 25.5 16.4 18.1 20.3 82.5 84.4 87.6 126.2 121.4 127.6 83.4 81.3 80.3 27.1 28.2 22.8 41.1 42.1 38.1 38.5 45.2 43.9 18.1 18.2 18.1 3.30 3.33 2.35 1.64 1.95 1.52 17.8 18.4 25.7 4.85 3.73 3.26 2.23 2.27 2.14 20.0 20.0 21.1 14.5 10.7 6.5 139.7 145.9 143.3 12.7 8.4 13.9 4.2 3.1 3.9 6.1 3.4 5.6 14.3 7.2 11.4 9.8 9.5 14.7 9.8 8.6 7.9 8.3# 6.4 6.8 10.9# 7.0 7.2 11.9 9.6 11.6 8.5 5.9 6.0 2.01 1.19 1.95 0.51 0.74 0.57 7.3 5.4 10.3 7.05 1.63 1.47 1.56 0.67 0.66 7.5 6.8 4.7 13.3 11.9 9.5 22.8 19.3 25.3 P† 0.10 0.09 0.37 0.10 0.08 0.37 0.25 0.17 0.29 0.71 0.57 0.88 0.19 0.07 0.69 0.36 0.97 0.56 0.009 0.001 1.00 0.001 < 0.001 0.69 0.15 0.046 0.63 0.048 0.16 0.76 0.06 0.35 0.71 0.07 0.63 0.99 0.12 0.27 0.30 0.15 0.29 0.58 0.95 0.43 0.84 0.02 0.02 0.17 0.008 0.19 0.45 0.80 0.40 0.22 * F(P) 0.34(0.72) 0.32(0.73) 0.60(0.56) 0.02(0.98) 0.84(0.45) 0.05(0.96) 4.71(0.02) 4.38(0.02) 1.22(0.31) 0.81(0.46) 0.40(0.68) 0.67(0.52) 3.52(0.04) 0.30(0.74) 0.15(0.86) 0.72(0.50) 3.00(0.07) 0.12(0.89) Values are means SD, S; exercise and self-massage intervention group(n = 11) , T; exercise training intervention group(n = 10) , C; control group(n = 8). * results of analysis of covariance(ANCOVA, a covariate was values of pre-intervention) , #significant difference(P<0.05)from C † . group(Bonferroni post hoc test), pre-intervention vs. post-intervention(paired t-test) (74) で、S 群と C 群の間にのみ有意な差が認められ いても、トレーニング種目に自重を用いた比較的 た。その他の項目では、どの群間にも有意な差は 低負荷の筋力トレーニングやプライオメトリクス 認められなかった(表 2) 。 運動、あるいは、平衡能力改善のための運動を取 り入れたことにより、静的平衡機能の向上がみら 考 察 れた可能性が考えられた。これらの項目の他には、 本研究では、これまでに明示されていない、中 S 群では、30 秒上体起こしテストと椅座位体前 高年者に対する運動トレーニングの効果に与える 屈が、T 群では肩押力が有意な改善を示した項目 身体セルフケアの相乗的な影響を明らかにするた であり、これらを合計すると、S 群のほうがわず めに、3 つの群に対して異なる介入を用いた無作 かながら多くの項目で改善効果が認められる結果 為化比較対照試験を実施した。監視・非監視併用 となった。とりわけ、S 群で椅座位体前屈が改善 型の運動トレーニングにセルフマッサージを中心 したことについては、身体ケアの介入内容に、ス とした身体ケアを加えた群と、それが加えられず、 タティック・ストレッチングが含まれていたこと トレーニングのみを実施した群とを比較すると、 による影響もあったのではないかと考えられた。 介入前後の体力の変化の仕方に違いが見受けられ 比較的高強度の筋力トレーニングは、当該筋が関 た。すなわち、身体ケアが加わった群では、改善 係する関節の可動域を減少させることを示す報告 のみられた測定項目が多く、また、その程度につ もあるが 9)、S 群では逆に柔軟性の改善がみられ いても大きい傾向にあった。加えて、3 群間で介 た。したがって、本研究で用いたストレッチング 入後の値を比較すると、非介入のコントロール群 を含んだ身体ケアおよび自重による低強度の負荷 (C 群)に対して、トレーニングに身体ケアを加 が、関節可動域の維持および向上に貢献した可能 えた群(S 群)のみに、CS-30 および垂直跳びの 性が示唆された 12)。S 群で 30 秒上体起こしに、 2 項目で有意な差が生じており、すなわち、測定 T 群で肩押力にと、それぞれ違う項目で効果が認 項目の改善に対する介入の効果が認められた。し められたことについての考えうる理由は見当たら たがって、運動トレーニングを単独で実施するよ なかった。 りも、身体ケアの手段を取り入れたプログラムと 3 群間で、各測定値の介入後の値の平均値の して実施したほうが、健康関連体力の向上にとっ 差を比較したところ、CS-30 および垂直跳びで、 て有効である可能性が示唆された。 S 群と C 群の間にのみ有意な差が認められ、その 介入前後で有意な改善を示した体力測定項目 他の項目では、どの群間にも有意な違いは認めら は、S 群で 5 項目、T 群で 4 項目、C 群では 0 項 れなかった。すなわち、トレーニングにセルフケ 目であり、運動トレーニングを実施した両群では、 アを加味した群にのみ、コントロール群との差が 非介入であったコントロール群と比較して、本研 生じたことが示され、体力の向上が認められる結 究で用いた監視・非監視併用の介入によるトレー 果となった。したがって、コントロール群と比較 ニング効果が明確に認められた。また、CS-30、 しても、本研究におけるトレーニングプログラ 垂直跳び、閉眼時の単位面積軌跡長の項目は共通 ム単独の介入は、統計学的には体力を改善させ して改善しており、本研究で S 群と T 群の両方 るまでの影響をもたなかったことが示唆される で実施したトレーニングの介入内容が、これらの が、それにセルフケアを用いた介入を加えること 項目に関しては特に効果的であったと考えられ で、CS-30 や垂直跳びなどの一部の体力要素につ た。すなわち、脚の伸展にかかわる筋群の筋力向 いては効果が得られる可能性が示された。運動パ 上に対して、あるいは、静的平衡機能の一部の向 フォーマンスに対するマッサージの影響について 上に対して効果をもつトレーニングの内容であっ は、これまであまり多くの検討がなされていない たことが示唆された。これまでに、中高年者に対 が、例えば、運動のインターバルにマッサージを して低負荷で速い動作を含んだ筋力トレーニング 実施した場合、いわゆるリカバリー効果が認めら を実施することで、静的あるいは動的平衡能力が れるなど、疲労の回復等に及ぼす急性的な効果に 向上することが示されているが 10) 、本研究にお ついて認められている 23)。本研究は、いくつか (75) の先行研究のような急性的な影響ではなく、3 か ラメーターを用いたりする必要がある。あるいは、 月という介入期間での長期的な実施の効果につい 身体ケアの実施と、監視下トレーニングへの参加 て検討しているが、毎回のトレーニング終了後に 率および非監視下トレーニングの実施率との関係 ケアを実施することで、介入期間中の疲労の蓄積 を明確にする、または、トレーニングおよびセル や遅発性筋痛の発生を抑制し 17,31) 、それによりト レーニングの実施頻度や実施回数の増加を促した フケアの内容をより吟味するなど、更なる検討を 加える必要があると考えられた。 可能性が考えられる。これは、統計学的な差異は 総 括 認められなかったものの、S 群と T 群を比較する と、S 群で総トレーニング日数が多く、筋痛の発 中高年男性を対象に、健康づくりを目的とした 生率については T 群のほうが高かったことから 監視・非監視併用型の運動プログラムによる介入 も裏付けられる。また、S 群で総トレーニング日 と、それに徒手マッサージを中心としたセルフケ 数が多くなった理由には、身体ケアを加えたプロ アプログラムを加えた介入を実施し、その効果の グラムが動機づけとなり、特に、実施率が低くな 違いを無作為化比較対照試験により検討した。そ りがちな非監視で行うトレーニングの実施回数を の結果、セルフケアを加えた介入群では、運動ト 結果的に増加させたという背景もあったのではな レーニング単独の介入群よりも改善のみられた体 いかと推察された。一方で、トレーニングの効果 力測定項目が多く認められ、かつ、コントロール が CS-30 と垂直跳びに現れた理由としては、セ 群と比較した場合、セルフケアを加えた群にのみ、 ルフマッサージは徒手で行われたため、結果とし 有意に改善した項目が認められた。これらのこと て対象部位には手の届きやすい範囲の下肢が中心 から、身体ケアが疲労や筋痛などの発生を抑制す に選ばれ、ケアの効果がこれらの脚の機能に関連 るなどの影響をもたらすことで、トレーニング効 する項目に多く出現した可能性が考えられた。 果を増強させる可能性が示唆された。 本研究は、これまで明らかにされていなかった、 謝 辞 マッサージなどの身体ケアが運動トレーニングの 効果の増強に影響を及ぼすかどうかについて、無 作為化比較対照試験を用いて行った点で、新たな 試みであったといえる。介入の前後を比較するこ とによる効果の有無を、介入の内容別にそれぞれ 天理スポーツ強化推進室の灘本雅一氏には、対象者の募 集および測定等に多大なる協力を得た。ここに記して感謝 の意を表する。また、本研究への助成を賜った、財団法人 明治安田厚生事業団に深謝する。 独立して検討した場合には、いくつかの項目で、 参 考 文 献 トレーニング介入単独の群(T 群)についても効 1)Binder EF, Schechtman KB, Ehsani AA, Steger-May K, 果が認められたものの、各群間の比較では、セル Brown M, Sinacore DR, Yarasheski KE, Holloszy JO フケアプログラムを加えた群(S 群)にのみ、コ (2002): Effects of exercise training on frailty in communi- ントロール群との間に有意なトレーニングの効果 ty-dwelling older adults: results of a randomized, controlled を認めた。このような結果が得られた理由とし て、本研究では、セルフケアの介入が疲労や筋痛 を抑制することでトレーニングの効果を増強させ trial. J Am Geriatr Soc, 50(12), 1921-1928. 2)Clarkson PM, Nosaka K, Braun B(1992): Muscle function after exercise-induced muscle damage and rapid adaptation. Med Sci Sports Exerc, 24(5), 512-520. たと推察しているが、実際に、どのような機序で 3)Cooper R, Kuh D, Cooper C, Gale CR, Lawlor DA, CS-30 や垂直跳びの記録を向上させ、トレーニン Matthews F, Hardy R(2010): Objective measures of physi- グ効果をもたらしたのか明らかにするためのデー cal capability and subsequent health: a systematic review. タは得られていない。また、一部の体力要素にの Age and Ageing, 0, 1–10. doi: 10.1093/ageing/afq117. み有意な変化がみられた理由についても明示され 4)Cooper R, Kuh D, Hardy R(2010): Objectively measured ていない。今後は、運動トレーニングの効果への physical capability levels and mortality: systematic review 身体ケアの相乗効果の有無をより明確にするため and meta-analysis. BMJ, 341:c4467. doi: 10.1136/bmj. にも、対象者の数を増やしたり、より客観的なパ c4467. (76) 5)Cyarto EV, Brown WJ, Marshall AL, Trost SG(2008) : view. J Sports Med Phys Fitness, 45(3), 370-380. 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