平成26年(2014年) 7月14日 No.132 東近江市教育研究所長 中野正堂 手習いをさせながら生き方について教える ○ 往来物:寺子屋の教科書 文字をある程度覚えた寺子(寺子屋の弟子)たちは手紙の書き方を学びました。その手本としたの は、過去に書かれた手紙文(往来物)でした。師匠は、手紙文だけでなく過去に出版された優れた文 章集をテキストとして与えました。このことから手紙文でなくても、寺子屋の教科書のことを“往来 物”と呼ぶようになりました。 ○ 教訓類:礼儀作法や道徳観を示したテキスト 基礎基本を学んだ子どもたちは、礼儀作法や人間としての生き方を示す内容の往 来物(後の学者が教訓類と分類した)を与えられ、それを手習いしながら、自然に 礼儀や道徳を身につけていったようです。どこの寺子屋でも「童子教」「実語教」 という鎌倉時代から伝わる往来物に加えて、「寺子教訓」と呼ばれるテキストを与 えていました。この「寺子教訓」は、宝永年間(18Cはじめ)と天保年間(19 C前半)に出版された2種類のものがあり、時代の推移と共に記述が平易になって いるとは言え、どちらも「寺子屋ではおしゃべり禁止、筆の軸をかじるな、落書き などするな」というような心得が記述されています。 川並の寺子教訓(滋賀大学蔵) ○ 近江商人の心を育てる川並の寺子屋 ところで、私が学んでいます五個荘川並の寺子屋の幕末期の五代目師匠川島俊蔵は、宝永年間出版 のものをモデルにしながらも独自の記述をふんだんに挿入した手書きの「寺 子教訓」を編纂しています。その中に「仏神」とか「仁義礼智信の五常」と いう他の「教訓」には全く見られない宗教や儒教の言葉が出てくるのです。 よく知られているように、近江商人の家には「家訓」が定められています が、そこには「人間の力を超えた仏や神への信仰の大切さ」 「自分を忘れ、他 人や世間を大切に考える儒教精神の重要性」が説かれています。のちの学者 が「三方よし」と名付けた近江商人の商業哲学がこの家訓の中にちりばめら れていますが、川島俊蔵の「寺子教訓」はこれにつながる教えを説いている のです。近江商人を輩出する寺子屋では「読み書き計算」といった商人必須 の学力に加え、 「近江商人の心」をも育んでいたのです。 中村治兵衛家家訓(三方よしの下り) (近江商人博物館蔵) ○ 学び続ける師匠 川島俊蔵は、若い時、青蓮院門跡(御家流書道の家元)で書道を指 導していた勝見主殿の門を叩き御家流を学んでいます。川並に戻り寺 子屋師匠となってからも、勝見との交流を続け、自分の書いた字を京 都に送り、勝見に朱を入れてもらったりしているのです。 この、常に学び続ける姿勢こそが、優れた教師の姿であると、私た ちは学ばなければならないと思います。 勝見主殿の朱書きの入った文書(滋賀大学蔵) 7月1日(火)10年経験者研修が開催され、今年度11年目を迎えた10人の先生方 が研修会に参加されました。午前中は布引小学校で楠本晃久先生が国語科の授業を公開し て下さ いまし た。先生のこれまでの取り 組 みの積 み重ね を踏まえた丁寧な授業に、 子 どもたちもよく頑張って学習していまし た。 授業後にはKJ法を用いての授業研究会 が行われました。先生方がそれぞれに、 「良 かった点・学びたい点」を黄色のカードに、 「課題点・改善点」 「自分ならこうする」 「こ んな方法もある」といった点をピンク色の カードに記入され、それらを授業の展開が 書かれた模造紙に貼り付けながら、グルー プ討議をされました。先生方のコメントに は含蓄のある発言が多く、10年を経験し た先生方のキャリアが十分に感じられまし た。 最後に布引小学校の野瀬校長先生より、 講 話 が あ り 、 先 生 方 は 、 あ る べ き 教 師 像 の 3 つ の 要 点 等 に つ い て 、 学 ば れました。 研 修 後 の 感想では、 「 校 長 先 生 の お 話 はとても大切な こ と で 、 こ れ か ら の 指 導 に 活 か し た い 。」 とのコメントも見られました。 午後は会場を湖東支所に移し、教育研究 所中野所長による「学校運営への参画」の 講義と、(株)メンタル・パワー・サポー ト代表の丸本敏久氏よる「コーチングを生 かした保護者対応や生徒指導、人間関係づ くり」についての講義・演習がありました。 コーチングについての講義・演習は、丸 本先生の作られる明るい雰囲気の中で進め られ、先生方も終始意欲的に学ばれていま した。具体的な事例や演習で、わかりやす く学ばせて頂き、研修後の感想からは、子 どもたちや保護者の方とのコミュニケーシ ョンの仕方に悩みを抱えておられた先生方 が、今回の研修を改善へのヒントにされた様子が数多く伺えました。 各校の職員構成の中で中堅の先生の数は少なく、10年経験者の先生方は、大変大事な 存在です。今後のご活躍や力量アップに期待が集まっています。 7 月 3 日 ( 木 )、 第 2 回 初 任 者 研 修 が 行 わ れ ま し た 。 午 前 中 は 東 近 江 市 の 教 育 課 題 に つ い て の 講 義 で した 。 1 つ 目 は 、 発達 支 援 セ ン ター の 岩 嵜 純 久 主査 よ る 「 特 別 支援 教 育の 現 状」 に つ い て の 講 義 で 、 脳 の 機 能 に つ い て の お話 や 、 先 生 が 障 が い 児 教 育 に 取 り 組 ま れ た 時の 具 体 的 な 様 子 な ど が 話 さ れ ま し た 。 初 任 者の 先 生 方 は 、 こ の 講 義 を 通 し て 「 科 学 的 な 知識 」 と 「 個 々 の 特 性 に 応 じ た 指 導 」 の 大 切 さを 学 ば れ た こと と思 い ます 。 2 つ 目 は 、 児 童 生 徒 成 長 支 援 室 の 川口 英 一 指 導 主 事 に よ る 「 不 登 校 対 応 の 現 状 」に つ い て の 講 義 で し た 。 講 義 の 中 で 、 不 登 校傾 向 に な る 理 由 に つ い て 、 初 任 者 の 先 生 方 にも 考 え て い た だ く 場 面 も あ り 、 考 え ら る い ろい ろ な 理 由 が 発 表 さ れ ま し た 。 支 援 室 の 取 り組 み の 情 報 も 提 供 さ れ 、 一 人 で 悩 ま ず 対 応 して い く 大 切 さが 確認 さ れま した 。 午 後 は 会 場 を 河 辺 い き も の の 森 に 移し 、 講 義 と 実 習 が あ り ま し た 。 は じ め に 河 辺い き も のの森の丸 橋裕一副主 幹より、森 の様子の移 り変わり、 自然の中で の子どもた ちの学び、 施設の取り 組みなどに ついて、講 義がありま した。具体 的な事例も 数 多 く 紹 介 さ れ 、 わ か り や す く ご 指 導い た だ き ま し た 。 教 師 の 自 然 に 対 す る 考 え 方や 教 師 の ち ょ っ と し た 言 葉 、 教 師 が 一 緒 に なっ て 活 動 に 取 り 組 む か ど う か な ど が 、 子 ど もた ち の 自 然 に 対 す る 興 味 や 行 動 に 大 き く 影 響す る と い う お 話 に 、 先 生 方 も し っ か り と 耳 を傾 け て お ら れま した 。 そ の 後 の 実 習 で は 、 初 任 者 の 先 生 方が 4 ~ 5 人 ず つ の グ ル ー プ に 分 か れ 、 協 力 して バ ー ム ク ー ヘ ン 作 り に 取 り 組 ま れ ま し た 。木 片 に 火 を つ け る と こ ろ か ら 始 ま り 、 生 地 を練 り 、 そ の 後 は 竹 に 生 地 を 塗 り つ け て 焼 く 作業 を 根 気 よ く 繰 り 返 さ れ 、 時 間 を か け て 完 成さ れ ま し た 。 作 業 の 過 程 で 、 協 力 す る 姿 や 会話 が 自 然 と 生 ま れ 、 先 生 方 同 士 の 交 流 も な され て い ま し た 。 良 い 色 に 焼 き 上 が っ た バ ー ムク ー ヘ ン を カ ッ ト し 、 き れ い な 年 輪 模 様 が 見ら れ た 時 に は、 どの グ ルー プか ら も笑 顔 が見 られ 、 大 き な歓 声が 上 がっ てい ま した 。 楽しいひと時で出てきた笑顔を大切に、1学期の締めくくりとなる7月を、しっかりと 頑 張 って いた だ きた いと 思 いま す 。次 回の 研 修は 11 月 を予 定 して いま す 。 6月6日、今年度第1回目のICT推進委員会が開かれました。 今年度は「デジタル教材開発作成・授業研究部会」「環境整備・公 務支援活用部会」「電子黒板活用研究部会」の3つの部会で取り組 みが進められることとなり、各部会で活動方針や年間計画が話し 合われました。研修では「情報モラル教育のさらなる推進」と題 し学校教育課の北川守一指導主事の講義があり、携帯端末の所持 率拡大に伴って発生し続けている問題やそれらへの対策について 学びました。各校に1台導入された「ワイビアⅢ」について説明もあり、数名の先生は、閉会 後も機器の周りに集まって、熱心に使用法等を確認されていました。 ※ワイビアⅢはパソコンやタブレット・スマートフォンなどと出力機器(プロ ジェクタなど)を無線でつなぐことのできる機器です。 東近江市では、市内教職員の自発的な教育研究活動の促進を図り、教職員個々の資質を向上 を目指して、教育現場における学習指導方法の改善ならびに学校・学級・学年等の経営の充実 をテーマとした、個人およびグループでの意欲的かつ創意あふれる研究を募集しています。1 次募集の締め切りは7月31日(木)です。 ※詳しくは、デスクネッツ「回覧・レポート」の5月19日回覧をご覧下さい。 『育てて、発見!「ゴーヤー」』 真木 文絵/文 石倉ヒロユキ/写真・絵〈福音館書店〉 いよいよ夏休みが近づいてきました。日々暑さが増していくなか、 対策として学校や自宅でゴーヤーのグリーンカーテンを作っている人も多いでしょう。 そんなゴーヤーですが、 「 グリーンカーテンなのに葉っぱがうまくネットにひろがらない」 「な かなか実がならない」といったお悩みをお持ちではないですか?本書では上手なグリーンカー テンの作り方や実の収穫方法以外にも、成長が早くてうっかり見過ごしてしまいがちな観察ポ イントや、ゴーヤーチャンプルーだけじゃない!おいしいゴーヤー料理を紹介しています。 せっかくのグリーンカーテン、暑さ対策だけでなく、色んな楽しみを子どもたちと見つけてみ ませんか? 『ゆとりを生み出す学級担任の「多忙感」解消術』 <小学館> 先日OECDが発表した中学校教員への勤務環境などの国際調査結果では、 “日本の先生が世界一多忙”だと報道されていましたが、この本では、仕 事を効率よく進め、時間的・精神的ゆとりを持つことで多忙感を解消する ための工夫やアイデアが具体的に紹介されています。ぜひご活用ください。 このほかにも図書館では、学級づくりや授業準備に役立つ本、子どもたち と一緒に読んでいただきたい絵本や読み物、知識の本などもたくさんご用 意しています。図書館のHPからお探しの分野の新刊を見たり、キーワード で検索していただくこともできます。ご登録いただければWeb予約も可能 です。(詳細は窓口にてお尋ねください) 夏休みには、どうぞ図書館へお越しください。 (紹介:永源寺図書館)
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