燃料電池班

燃料電池班
1 .はじめに
燃料電池は発電効率が高い、環境性に優れている、排熱も利用できる、など、今日
大きな問題となっているエネルギー問題、環境問題の解決に貢献することが可能な理
想的な発電装置として、その実用化と普及拡大に大きな期待が寄せられている。私た
ち燃料電池班は、主に燃料電池の起電力の測定を中心に、研究を行なった。
2 .燃料電池の原理
(ⅰ)燃料電池の仕組み* 1
燃料電池は、燃料を外から供給し続けることによって電気を作り出す装置、すなわ
ち、発電装置である。
水に電気を流すと、水が分解されて水素と酸素が発生する。
H2O +[電流]→ H2 + 1/2O2
燃料電池というのは、この水の電気分解の逆の原理により、水素と酸素を結合させ
ることによって、電流を得る。
H2 + 1/2O2 → H2O +[電流]+[熱]
1
(ⅱ)化学電池と燃料電池の違い* 2
化学電池、燃料電池は、両者とも陰極で酸化反応、陽極で還元反応の起きる際に生
じる化学エネルギーの変化が、直接電気エネルギーに変換される。ただし、現在実用
されている化学電池は、電池自体に化学エネルギーを保有している“電気のため池”
であるのに対し、燃料電池は、装置自体にはエネルギーを保有していないので電池の
意味がやや異なる。前者においては、ため池の水に相当するものは電池内に存在して、
反応を起こし得る物質のもつ化学エネルギーが、電気エネルギーの形で汲み出しつく
されれば寿命が尽きるのであるが、後者では電池内には電気エネルギーに変換される
べき化学エネルギーをもつ物質は存在せず、電池外部から燃料および酸素を供給して、
はじめて電気エネルギーが得られる形態を取っているのである。燃料および酸素が供
給されつづける限り、原理的には永久に電気エネルギーを発生しつづけることができ
るので、この点は太陽電池と同じ性格を持つ電池であるといえる。すなわち、燃料電
池は発電機構が化学電池的であるから電池とよばれるが、同時に、発電器あるいはエ
ネルギー変換器とよぶのにふさわしい装置である。
(ⅲ)燃料電池の原理的特長* 3、* 4
燃料電池は、高効率な発電装置であり、発電効率が40~60%で排熱も温水や蒸気とし
て利用できる。また、生成するのは水だけで、NOX が生成するような高温で作動する
ことがなく、燃料電池の劣化を防ぐため十分に脱硫した燃料を使用するので、SOX も
発生しないクリーンな発電システムである。さらに、主要機器にエンジンなどの騒音
を発生させる機器がないので騒音や振動が尐ない。以上より、燃料電池は都市部の環
境調和性に優れたコージェネレーションシステム(電気と熱を効率よく供給するシス
テム)用発電装置に最適であるといえる。
2
3 .燃料電池の種類*3
①リン酸型燃料電池(Phosphoric Acid Fuel ; PAFC)
リン酸が電解質であり、約200℃で作動させる燃料電池。
燃料極と空気極の触媒層で起こる電極反応および全体の反応は、それぞれ次式の
ようになる。
燃料極(陽極): H2 → 2H+ + 2e-
空気極(陰極): 1/2O2 + 2H+ + 2e― → H2 O
全体
: H2 +1/2O2 → H2O
②アルカリ型燃料電池(Alkaline Fuel Cell ; AFC)
水酸化カリウム水溶液を電解質として用いる燃料電池。100℃以下で作動させる。
純水素および純酸素を用いてアメリカの有人宇宙船の電源兼飲料水製造器として利
用されている。電解質のKOHは、二酸化炭素を吸収して炭酸イオンを生成し、こ
れが多量になると電池性能が低下するので、二酸化炭素の除去が必要である。
燃料極と空気極の触媒層で起こる電極反応および全体の反応は、それぞれ次式の
ようになる。
燃料極(陽極): H2 +2OH- → 2H2O+ 2e-
空気極(陰極): 1/2O2 + H2O+ 2e― → 2OH-
全体
: H2 +1/2O2 → H2O
ただし、空気極の反応は1段で進むのではなく
O2 + H2O+ 2e― → O2 H- +OH-
で、まず過酸化水素イオンと水酸化物イオンが生成し、過酸化水素を分解する触媒
があると
O2 H- →OH- + 1/2O2
の反応が進み上式のようにまとめられる。
③溶融炭酸塩型燃料電池(Molten Carbonate Fuel Cell ; MCFC)
溶融状態にある炭酸塩を電解質として用い、その中の炭酸イオン(CO3 2- )の
移動を利用して電池反応を行わせる燃料電池。通常炭酸リチウム(Li2 CO3 )と
炭酸カリウム(K2 CO3 )の2成分混合物あるいは、これらに炭酸ナトリウム
(Na2 CO3 )を加えた3成分混合物が用いられている。このため、電池の動作には
炭酸塩の融点以上の温度が必要であり、運転温度は600~700℃である。
燃料極と空気極の触媒層で起こる電極反応および全体の反応は、それぞれ次式の
ようになる。
3
燃料極(陽極): 2H2 +2CO3 2 -→ 2CO2 +2H2O +4e-
空気極(陰極): O2 +2CO2 +4e― → 2CO3 2 -
全体
: 2H2 +O2 → 2H2O
④固体電解質型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell ; SOFC)
電解質としてイットリア安定化ジルコニアなどの酸化物イオン導電性固体電解質
を用い、その両面に多孔性電極を取り付け、これを隔壁として一方の側に燃料ガス
(水素、一酸化炭素など)、他方の側に酸化剤(空気、酸素)を供給し、約1000℃で
動作する燃料電池。
燃料に水素(H2 )を用いた場合の電極反応は、
燃料極(陽極): H2 + O2 - → H2O + 2e-
空気極(陰極): 1/2O2 + 2e― → O2 -
全体
: H2 +1/2O2 → H2O
燃料に一酸化炭素(CO)を用いた場合の電極反応は、
燃料極(陽極): CO + O2 - → CO2 + 2e-
空気極(陰極): 1/2O2 + 2e― → O2 -
全体
: CO +1/2O2 → CO2
⑤固体高分子型燃料電池(Polymer Fuel Cell ; PFC)
電解質が固体であり、かつ高分子である燃料電池。現在では高分子電解質材料と
してパーフルオロカーボンスルフォン酸膜が使用されている。
燃料極と空気極の触媒層で起こる電極反応および全体の反応は、それぞれ次式の
ようになる。
燃料極(陽極): H2 → 2H+ + 2e-
空気極(陰極): 1/2O2 + 2H+ + 2e― → H2 O
全体
: H2 +1/2O2 → H2O
⑥メタノール直接型燃料電池
燃料にメタノールを使った燃料電池。電極反応はギ酸を経て二酸化炭素にまで、
すなわち
CH3 OH + O2 → HCOOH + H2 O
2HCOOH + O2 →CO2 + 2H2 O
全体:2CH3 OH + 3O2 →2CO2 + 4H2 O
で示される。
4
4 .実験
【実験1】炭素電極による起電力測定
ⅰ)目的
電極に異なる条件の炭素棒を使ったときに起こる、起電力の違いについて調べる。
ⅱ)器具・薬品・装置
H字管、炭素棒×4、ゴム栓、電解装置、電圧計、3%硫酸、6%硫酸
図1
H字管を使った実験装置
ⅲ)実験操作
1. H字管に炭素棒のついたゴム栓を着け、そこに3%硫酸を入れて同じく炭素棒
のついたゴム栓でふたをした。
2. 下側の炭素棒に電解装置を使って電気を流し、水の電気分解を行なった。
3. 陰極で発生した水素がH字管の3cmぐらいまでたまったら電解装置を止め、炭
素棒の(上、上)(上、下)(下、上)(下、下)の組み合わせで回路を作り
電圧を測定した。
4. 水素極のたまっている水素を抜き、同様に電圧を測定した。
5. 6%硫酸でも同様の実験を行なった。
5
【実験2】メタノール、エタノール燃料電池の起電力測定*5
ⅰ)目的
燃料にメタノール、エタノールをそれぞれ使って、その起電力の違いを調べる。
ⅱ)器具・薬品・装置
2リットルPETボトル、素焼きのコップ、備長炭(炭素棒)、電圧計、0.5M硫酸、
メタノール、エタノール
図2
メタノール燃料電池
ⅲ)実験操作
1. 図2の装置を作り、PETボトルに0.5M硫酸100mlを、素焼きのコップにメタノー
ルをいれた。そして、回路を作り電流を流して起電力を測定した。
2. メタノールに代わってエタノールを使い、1と同様の実験を行なった。
6
【実験3】電解質の違いによる起電力測定(リン酸型)
ⅰ)目的
塩酸(硝酸)、硫酸、リン酸を電解質に用いたときの起電力の違いを比較する。
ⅱ)器具・薬品・装置
2リットルPETボトル、素焼きのコップ、備長炭(炭素棒)、電圧計、0.1M塩酸、
0.1M硫酸、0.1Mリン酸、エタノール
ⅲ)実験操作
(1)
1.図2の装置を作り、PETボトルに0.1M塩酸100mlを、素焼きのコップにエタノー
ルをいれた。そして、回路を作り電流を流して起電力を測定した。
2.0.1M硫酸、0.1Mリン酸についても1と同様にして起電力を測定した。
(2)
1.H字管に炭素棒のついたゴム栓を着け、そこに0.10M硝酸を入れて同じく炭素
棒のついたゴム栓でふたをした。
2.下側の炭素棒に電解装置を使って電気を流し、水の電気分解を行なった。
3.陰極で発生した水素がH字管の3cmぐらいまでたまったら電解装置を止め、炭
素棒の(下、下)の組み合わせで回路を作り電圧を測定した。
4.0.10M硫酸、0.10Mリン酸でも同様の実験を行なった。
【実験4】電解質濃度の違いによる起電力測定(リン酸型)
ⅰ)目的
リン酸の濃度の違いによる起電力を測定し比較する。
ⅱ)器具・薬品・装置
H字管、炭素棒×4、ゴム栓、電解装置、電圧計、0.25Mリン酸、0.50Mリン酸
0.75Mリン酸、1.00Mリン酸
ⅲ)実験操作
1.H字管に炭素棒のついたゴム栓を着け、そこに0.25Mリン酸を入れて同じく炭
素棒のついたゴム栓でふたをした。
1. 下側の炭素棒に電解装置を使って電気を流し、水の電気分解を行なった。
2. 陰極で発生した水素がH字管の3cmぐらいまでたまったら電解装置を止め、炭
素棒の(下、下)の組み合わせで回路を作り電圧を測定した。
3. 0.50Mリン酸、0.75Mリン酸、1.00Mリン酸でも同様の実験を行なった。
7
【実験5】電解質の違いによる起電力測定(アルカリ型)
ⅰ)目的
NaOHaq、KOHaq、Ca(OH)2 aqを電解質に用いたときの起電力の
違いを比較する。
ⅱ)器具・薬品・装置
H字管、炭素棒×4、ゴム栓、電解装置、電圧計、NaOH、KOH
Ca(OH)2
ⅲ)実験操作
1. 0.1M NaOHaq、0.1M KOHaqを作った。なお0.1M Ca(OH)2 aq
はCa(OH)2 が難溶性であるため作れなかった。
2. H字管に炭素棒のついたゴム栓を着け、そこに0.1M NaOHaqを入れて同
じく炭素棒のついたゴム栓でふたをした。
3. 下側の炭素棒に電解装置を使って電気を流し、水の電気分解を行なった。
4. 陰極で発生した水素がH字管の3cmぐらいまでたまったら電解装置を止め、炭
素棒の(上、上)の組み合わせで回路を作り電圧を測定した。
5. 0.1M KOHaqでも同様の実験を行なった。
【実験6】電解質濃度の違いによる起電力測定(アルカリ型)
ⅰ)目的
KOHの濃度の違いによる起電力を測定し比較する。
ⅱ)器具・薬品・装置
H字管、炭素棒×4、ゴム栓、電解装置、電圧計、KOH
ⅲ)実験操作
1.0.25M KOHaq、0.50M KOHaq、0.75M KOHaq、1.00M KOH
aqを作った。
2.H字管に炭素棒のついたゴム栓を着け、そこに0.25M KOHaqを入れて同
じく炭素棒のついたゴム栓でふたをした。
3.下側の炭素棒に電解装置を使って電気を流し、水の電気分解を行なった。
4.陰極で発生した水素がH字管の3cmぐらいまでたまったら電解装置を止め、炭
素棒の(下、下)の組み合わせで回路を作り電圧を測定した。
5.0.50M KOHaq、0.75M KOHaq、1.00M KOHaqでも同様の実験
を行なった。
8
5 .結果
【実験1】炭素電極による起電力測定
表1-1 炭素棒の場所の違いによる燃料電池の起電力(3%硫酸、水素を抜く前)
水素・酸素
上・上
上・下
下・上
下・下
起電力(V)
0.82
1.05
1.11
1.52
表1-2 炭素棒の場所の違いによる燃料電池の起電力(3%硫酸、水素を抜いた後)
水素・酸素
上・上
上・下
下・上
下・下
起電力(V)
0.81
0.94
1.03
1.17
表1-3 炭素棒の場所の違いによる燃料電池の起電力(6%硫酸、水素を抜く前)
水素・酸素
上・上
上・下
下・上
下・下
起電力(V)
0.88
0.35
0.61
2.04
表1-4 炭素棒の場所の違いによる燃料電池の起電力(6%硫酸、水素を抜いた後)
水素・酸素
上・上
上・下
下・上
下・下
起電力(V)
0.85
0.19
0.52
1.54
いずれの場合も電圧は安定しなかった。測定値は回路をつないですぐの値を読み
取った。
【実験2】メタノール、エタノール燃料電池の起電力測定
表2
起電力(V)
メタノール
エタノール
メタノール、エタノール燃料電池の起電力
1回目
2回目
0.17
0.07
0.20
0.20
3回目
0.26
0.27
いずれの場合も電圧は安定せず、起電力はどんどん上がっていった。測定値は回路
をつないですぐの値を読み取った。
9
【実験3】電解質の違いによる起電力測定(リン酸型)
表3-(1) 塩酸、硫酸、リン酸を使ったときのエタノール燃料電池の起電力
電解質
塩酸
硫酸
リン酸
起電力(V)
0.102
0.121
0.148
測定値は回路をつないですぐの値を読み取った。
表3-(2)
電解質
起電力(V)
硝酸、硫酸、リン酸を使ったときの燃料電池の起電力
硝酸
硫酸
リン酸
1.77
1.56
1.86
測定は3回とも電解質の違い以外は同条件で行なった。また測定値は回路をつな
いですぐの値を読み取った。
【実験4】電解質濃度の違いによる起電力測定(リン酸型)
濃度(M)
起電力(V)
表4 リン酸の濃度の違いによる起電力
0.25
0.50
0.75
1.44
1.47
1.44
1.00
1.50
測定値は回路をつないですぐの値を読み取った。電圧は下がっていったが安定は
しなかった。
起電力(V)
電解質濃度による起電力(リン酸型)
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0.25
0.5
0.75
濃度(M)
10
1
【実験5】電解質の違いによる起電力測定(アルカリ型)
表5 NaOHaq、KOHaqを使ったときの燃料電池の起電力
電解質
NaOHaq
KOHaq
起電力(V)
0.056
0.063
測定値は回路をつないですぐの値を読み取った。
【実験6】電解質濃度の違いによる起電力測定(アルカリ型)
濃度(M)
起電力(V)
表6 KOHの濃度の違いによる起電力
0.25
0.50
0.75
1.40
1.30
1.55
1.00
0.90
測定値は回路をつないですぐの値を読み取った。電圧は下がっていったが安定はし
なかった。
起電力(V)
電解質濃度の違いによる起電力(アルカリ型)
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
1
2
3
濃度(M)
11
4
6 .考察
[実験1]では、電極に異なる条件の炭素棒を使ったときに起こる、起電力の違いに
ついて調べた。電解質が3%硫酸での結果を見ると、水素極、酸素極両方が下側のと
き一番起電力が高く、水素極が下、酸素極が上のときが二番目に高い。さらに、水素
極が上、酸素極が下のときは三番目で、最も電圧が低かったのは両方が上側のときで
あった。これは電気分解によって水素と酸素を発生させた際に、水素および酸素が炭
素棒に吸収されたからだと考えられる。炭素棒は多孔性であるため、気体を中に取り
込む性質がある。もし炭素棒に気体が溜まってなかったら水素を抜いた後で電圧の測
定はできないので、炭素棒中に気体が存在していたことは確かである。また、水素極、
酸素極両方が下側のとき一番起電力が高いのは、電気分解の際に下側の炭素棒が気体
をたくさん吸収したためであり、両方が上側のとき最も起電力が低いのは、炭素棒が
吸収した気体が尐なかったからだと考えられる。さらに、水素極が下、酸素極が上の
とき二番目に高く、水素極が上、酸素極が下のとき三番目であったのは、水素が酸素
よりも分子が小さいので炭素棒により多く吸収されるためだと考えられる。
電解質が6%硫酸の結果では、水素極が下、酸素極が上のときと水素極が上、酸素
極が下のときが、両方が上側のときよりも起電力が小さい。これは、ゴム栓を付け替
えた際に水素極と酸素極が入れ替わってしまったため、炭素棒中に残っていた水素、
酸素が起電力を低くさせた。よって、[実験4、5、6]では、ゴム栓が入れ替わらない
よう注意して行なった。
[実験2]では、メタノール燃料電池、エタノール燃料電池の起電力を測定した。2
つを比べ、起電力の違いはあまり見られなかった。起電力の値が安定せず上がって
いったのは、炭素棒が気体(空気)を吸収していったからだと思われる。また、2回
目のメタノール燃料電池の実験でほかに比べて極端に値が低いのは、[実験1]の6%
硫酸のときと同様炭素棒が入れ替わってしまったからである。
[実験3]では、電解質に同一濃度の塩酸、硫酸、リン酸を使ったときのエタノール
燃料電池の起電力、またH字管を使用して同一濃度の硝酸、硫酸、リン酸を電解質に
使った燃料電池の起電力を測定した。なお塩酸についてH字管を使った実験ではなく
エタノール燃料電池を使ったのは、塩酸を電気分解すると水素と塩素が発生するため
である。結果を見ると、塩酸、硫酸、リン酸、また硝酸、硫酸、リン酸の起電力はそ
れぞれ異なっているのがわかる。このことから、電解質の酸の種類によって起電力は
異なると言える。また、[実験2]と同様起電力の値が安定せず上がっていったのは、
炭素棒が気体(空気)を吸収していったからである。
12
[実験4]では、同一電解質(リン酸)の濃度の違いによる起電力を測定した。今回
の実験では濃度によっての起電力の違いを見ることができなかったが、0.25~1.00M
の間でしか測定していないため、濃度の違いによって起電力は変化しないと断言する
ことはできない。また、電圧は下がっていって安定しなかったが、これは先に述べた
理由のほかにリン酸の濃度が場所によって変わる濃度分極が起きた可能性も考えられ
る。
[実験5]では、同一濃度のNaOHaq、KOHaq、Ca(OH)2 aqを電解質
に用いたときの起電力の違いを比較する実験であったが、Ca(OH)2 は水に難溶性
であるため0.1M Ca(OH)2 aqを作れなかった。NaOHaq、KOHaqの結
果を比較すると、ほぼ同じ値をとっていることから、この濃度のとき起電力はおなじ
であることがわかる。これはNaOHとKOHの性質が似ているからだと考えられる。
また、測定値が低いのは、図1の(上、上)の炭素棒の組み合わせで測定したからであ
る。
[実験6]では、同一電解質(KOHaq)の濃度の違いによる起電力を測定した。
各値がばらばらなので、これも[実験4]と同様濃度の違いによって起電力は変化しな
いと断言することはできない。ただし、1.00Mのときは他の場合に比べかなり値が低
いが、これは二酸化炭素が炭酸イオンになってKOHaqに溶け出し、濃度が他に比
べ高いため早く溶け出したからだと考えられる。今回電極には炭素棒を使用したが、
二酸化炭素を嫌うアルカリ型燃料電池には炭素棒はふさわしくない。
総じて、燃料電池を使うには燃料と酸素をうまく供給することが、起電力をあげる
要素であり、そのためには電解質と燃料、酸素をそれらの間にある電極にしみ込ませ
ことが重要であるとわかった。また電解質の違いによって起電力が変わることもわ
かった。
7 .感想
今回の実験では、白金が予算の関係上使えない、火が実験室で使えないなどの制約
はあったが、できる範囲でいろいろなことができた。上記の実験のほかに、電解質の
温度の違いによる起電力の測定を試みたが、温度差を作ることができず実験を断念し
た。また、知識不足による数々の失敗も、とても良い勉強になった。実験室ではみん
な楽しく実験を行なえたように思う。このレポートを読んで燃料電池について興味を
持ってもらえるとうれしい。最後に、いろいろ助言を下さった先輩方、友人に感謝し
ます。
13
8 .参考文献
(*1)広瀬 研吉:燃料電池のおはなし、日本規格協会、p10.11 (1992)
(*2)高橋 武彦:燃料電池(第2版)、共立出版、pp21~23 (1992)
(*3)電気学会編:燃料電池発電、コロナ社、
p21,pp51~53,pp74~75,p104105,p116.117,p129.130 (1994)
(*4)JCA/天然ガスで発電する燃料電池について(ホームページ)
URL=http://www.gas.or.jp/fuelcell/fctop.html#5
(*5)なんでも実験室(ホームページ)
URL=http://www.snet.ne.jp/milk32/jikken.html
9 .班員
チーフ 近松
会計
彰
2K
川端
隼仁
2OK
阿部
達也
伊藤
サブチーフ 今井
渉外
寛子
2OK
志村
真一郎 2OK
1OK
池上
淳一
1OK
雅也
1OK
大沢
政寛
1K
小田
博和
1OK
館山
慶太
1OK
古野
智美
1K
宮本
芳子
1K
14