ディジタルアーカイブへの期待

ディジタルアーカイブへの期待 - 時を超えてコミュニティをつなぐ ー
杉本重雄 筑波大学・図書館情報メディア系 [email protected]
2015/1/11
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背景(自己紹介)
•  筆者は90年代からディジタルライブラリ、メタデータ
の領域で研究活動を進め、その中で、ディジタル
アーカイブに関する研究活動に携わってきた。 •  総務省「知のデジタルアーカイブに関する研究会」
(2011年2月~2012年3月、通称知デジ研) •  文化遺産のディジタルアーカイブの推進 •  地域のMLA(図書館、博物館等)における推進 •  提言に基づくDigital Archive Network (DAN)の取組み •  知デジ研とそれに続くDANの活動が、東日本大震
災アーカイブとの縁 2015/1/11
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目次
•  はじめに •  ことば:ディジタルアーカイブ •  災害とディジタルアーカイブ-背景- •  東日本大震災から学んだこと •  災害の記憶と記録のためのディジタルアーカイブ •  ディジタルアーカイブの役割 •  ディジタルアーカイブを一般化して考える •  震災アーカイブを考える •  1次コンテンツとメタデータ •  コミュニティ指向のディジタルアーカイブ •  まとめーディジタルアーカイブへの期待 •  使う、創る、伝える、つなぐ(つながる) 2015/1/11
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はじめに
災害アーカイブは、文化遺産から観測データ、公文
書まで、多様な資料を扱うこと、そしてそれに関わる
コミュニティも多様である。 ここでは、 1.  災害の記憶と記録を将来に残す仕組みとしての
ディジタルアーカイブを一般化した視点から述べ
ること 2.  ディジタルアーカイブの利用性、価値を高める上
で重要と思われることを述べること にチャレンジしたい。
2015/1/11
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ことば: ディジタルアーカイブ
「ディジタルアーカイブ」ということばの共通理解のために •  アーカイブ •  記録文書などの資料を収集して、長期に保管する •  国立公文書館:NaEonal Archives of Japan •  Film Archive •  データを長期に保管する(コンピュータ用語) •  ディジタルアーカイブ •  有形、無形の文化資源等をディジタル化して保存等を
行うシステム(平成15年版情報通信白書) •  文化財に限らず、いろいろなリソースをディジタル形式
で収集、組織化し、長期に渡って提供するサービス 2015/1/11
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ことば: ディジタルアーカイブ
•  ディジタルアーカイブ(あらためて): いろいろなリソースをディジタル形式で収集、組織化し、
長期に渡って提供するサービス、システム •  ディジタルアーカイブに蓄積されるリソース •  元の資料をディジタル化して作られたもの、もともとディジタ
ル形式で作られたもの •  データベースとして作られたもの、個別の資料として作られ
たもの •  ここでは震災に関わる写真や記事等に限定せず、震災前の
もの、観測データや統計データ等も含めて考えたい •  「長期」は重要なキーワード •  将来に伝えること •  長く使うことで様々な付加価値を生み出すこと 2015/1/11
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補足: 関連するキーワード
•  メタデータ(Metadata):データに関するデータ。より一般化し
て、何らかの対象に関する記述 (メタ・メタデータもある) •  MLA:Museum, Library, Archivesの総称(LAMとも) •  リソース(Resource):記録文書、文化財などの総称 •  ディジタル保存(Digital PreservaEon):ディジタルリソースの保存 •  ディジタルキュレーション(Digital CuraEon):価値あるディジタル
リソースを収集、保存、提供 •  オープンデータ:(行政データ等)を公開し第三者による利用
を進め、データの価値を高める取組み •  Linked Data / Linked Open Data (LOD):Web上のデータを意
味の明確なリンクでつなぎ、価値を高める取組み •  研究データ (Research Data):研究活動で作りだされるデータ。
長期の保存が世界的課題 2015/1/11
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災害とディジタルアーカイブ ー 背景 ー •  東日本大震災から学んだこと(知デジ研から得た感想) →  形あるものは簡単に失われる •  紙であれ、ディスクであれ、モノは失われる →  地域の記憶と記録の保存におけるディジタルアーカイ
ブの役割・重要性 •  残したいものはディジタルアーカイブ化しよう •  オリジナルを捨てるという意味ではない →  Web・インターネットの力 •  Web上にはいろいろなアーカイブがある →  高度に信頼できるアーカイブは高価 •  コミュニティ間で共有できることが望まれる 2015/1/11
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災害とディジタルアーカイブ ー 目的と内容 ー
•  コミュニティの記憶と記録としてのアーカイブ •  アーカイブされるものは記録(資料、データ) •  記憶は何らかの形で表現し、記録する •  記録を残すことで記憶を保つ •  災害の規模や原因とは無関係にアーカイブは必要 •  災害アーカイブの内容は多様 •  災害そのものに関する資料・データ •  災害後に関する資料・データ •  コミュニティの記憶と記録の保存 •  災害はコミュニティの歴史の一部
2015/1/11
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災害とディジタルアーカイブ ー 利用 ー
•  災害アーカイブの利用 •  できるだけ広い範囲で集めた資料を利用したい •  アーカイブ間の連携の必要性 •  垣根を越えて利用できるようにすること •  多様な利用目的(利用者による違い) •  社会として、コミュニティとして、個人としての利用 •  同じ資料であっても解釈、価値は異なる •  一般的な課題 •  コミュニティの違いを超えた利用:アーカイブ間連携 •  時を超えた利用:アーカイブコンテンツの長期利用 2015/1/11
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災害とディジタルアーカイブ ー 技術的視点 ー
•  ディジタル保存の難しさに対する懸念に関して •  ボーンディジタルなコンテンツの増加 •  東日本大震災では多くのディジタルビデオ、ディジタル写真が
とられ、WebやSNSで多くの情報が提供された •  確かにディジタル保存にはいろいろな問題はある •  保存は維持管理の問題ととらえるべき •  多くのディジタルアーカイブに共通の課題が多い •  リソースと知識の共有に関して •  データを蓄積するための信頼できる基盤の共有 •  データを相互に運用するためのメタデータ基盤の共有 •  サービスの構築と継続的運用のためのノウハウの共有 2015/1/11
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ディジタルアーカイブの役割 -コンテンツの循環-
社会・コミュニティの記憶 様々な形態の記録(資料、データ) ディジタルコンテンツ (ディジタルアーカイブ) 利用
利用
利用
大学・研究機関
新たな知
行政・実務機関
コミュニティ・個人
新たな知
新たな知
現代、将来の社会・コミュニティのためのコンテンツ 社会への還元
2015/1/11
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ディジタルアーカイブの役割 -コンテンツの共有によるつながり作り-
社会・コミュニティの記憶 様々な形態の記録(資料、データ) (言うまでもないかもしれないが) ディジタルコンテンツ インターネットを介して共有することの意味 (ディジタルアーカイブ) 機械と人間の知によるコンテンツ同士の結び付き 利用
利用
利用
つながりあうコンテンツによる人と人、コミュニティとコミュニティ
の結び付き 大学・研究機関
コミュニティ・個人
行政・実務機関
ディジタルアーカイブの役割 新たな知
新たな知
新たな知
信頼できるコンテンツを、長期にわたって提供すること 新たなコンテンツを創りだす基盤として働くこと
現代、将来の社会・コミュニティのためのコンテンツ
2015/1/11
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ディジタルアーカイブの役割 -多様性と長期利用性-
社会・コミュニティの記憶 様々な形態の記録(資料、データ) 多様な利用者が多様な目的で利用する ディジタルコンテンツ (ディジタルアーカイブ) 災害科学の研究者、地域の歴史や環境を教える教員、災害に
利用
利用
強い街づくりを考える行政マン、自分の町の移り変わりを記録し
利用
たい住民、海外・国内からやってくる旅行者など、様々 大学・研究機関
コミュニティ・個人
行政・実務機関
コンテンツの多様性と長期保存による付加価値 多様なコンテンツを使うことで新たな価値を生み出すために、長
新たな知
新たな知
新たな知
期の利用を可能にしなければならない
現代、将来の社会・コミュニティのためのコンテンツ
2015/1/11
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震災アーカイブを考える
•  ディジタルアーカイブの一般的な構成: 1次コンテンツ
とそのメタデータによって構成されるデータベース •  1次コンテンツ •  写真、映像、文書などさまざま •  非ディジタルコンテンツの場合もある(コンテンツへの参照) •  メタデータ •  1次コンテンツに共通の一般的な情報(書誌的情報:タイトル、
作成者、作成日時、内容のキーワード、権利管理等の記述) •  その他の情報 •  アノテーション: メモやコメントなどいろいろな付加的記述 •  リンク: 他のコンテンツへの結び付け(関係の記述) •  メタメタデータ: メタデータに関する情報の記述
2015/1/11
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震災アーカイブを考える 1次コンテンツとメタデータ
1次コンテ
ンツ
メタデータ (書誌的情
報)
メタデータの例: NDLひなぎくでキーワード「金華山」で検索した結果の一例
タ​イ​ト​ル:金​華​山
出​版​者​・​公​開​者​(​U​R​I​)
:
h​t​t​p​:​/​/​i​d​.​n​d​l​.​g​o​.​j​p​/​a​u​t​h​/​e​n​t​i​t​y​/​0​0​9​8​1​4​4
​3
出​版​者​・​公​開​者:G​o​o​g​l​e
出​版​者​・​公​開​者​よ​み:グ​ー​グ​ル
利​用​条​件:W​e​b​閲​覧​可
ラ​イ​セ​ン​ス​表​示​U​R​I
:h​t​t2015/1/11
​p​:​/​/​w​w​w​.​m​i​r​a​i​k​i​o​k​u​.​c​o​m​/​t​e​r​m​s​.​h​t​m​l
寄​与​者:t​w​e​n​t​y​ ​t​h​ ​c​a​s
主​題:震​災​前
フ​リ​ー​キ​ー​ワ​ー​ド:m​i​r​a​i​k​i​o​k​u
フ​リ​ー​キ​ー​ワ​ー​ド:宮​城​県
フ​リ​ー​キ​ー​ワ​ー​ド:石​巻​市
フ​リ​ー​キ​ー​ワ​ー​ド:金​華​山
注​記​等:金​華​山b​y​ ​石​巻​観​光​協​会​※​N​P​O​法
​人​2​0​世​紀​ア​ー​カ​イ​ブ​仙​台​が​代​理​で。。。
作​成​日:2​0​1​0​-​1​1​-​0​7
出​版​・​公​開​年​月​日:2​0​1​1​-​1​1​-​0​7​T​0​3​:​5​8​:​0​0​Z
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震災アーカイブを考える 1次コンテンツとメタデータ
メタデータ (書誌的情
報)
1次コンテ
ンツ
共通のメタデータによる複数のアーカイブの横断的な検索
ひなぎく 横断的検索
東北大学
2015/1/11
NHK
せんだいメ
ディアテーク
Google
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震災アーカイブを考える 1次コンテンツとメタデータ
結び付け
1次コンテ
ンツ
1次コンテ
ンツ
メタデータ (書誌的情
報)
メタデータ (コメント)
メタデータ (コメント+
リンク)
メタデータ (コメント)
メタデータによる付加価値
メタデータが1次コンテンツと同様な価値を持つ
2015/1/11
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震災アーカイブを考える コミュニティ指向の観点からの素朴な疑問
•  ディジタルアーカイブは誰が使うのか? •  研究機関、行政・実務機関、教育機関、一般人 •  地域住民、地域外住民(国内、海外) •  個々の利用者と利用環境の多様性への対応? •  年齢の違い、障害の種類 •  利用機材や環境の違い •  利用者の特性とニーズに応じたサービスは? •  技術的課題:コンテンツへのアクセス制御、提示方法等 •  内容的課題:コンテンツの分類や内容の説明等 2015/1/11
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震災アーカイブを考える コミュニティ指向の観点からの素朴な疑問
•  利用者に合ったコンテンツへのアクセス方法は? •  書誌的情報は一般的な検索 •  地図、時間軸(年表)からのアクセス •  時と場所は災害の記録に関する共通の切り口 •  より広い範囲のコンテンツから探したい •  長期の利用への対応は? •  メインテナンスの記録 •  カギはメタデータ •  1次コンテンツそのものは変えられない •  目的に合ったメタデータは作れるか? 2015/1/11
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震災アーカイブを考える コミュニティ指向のディジタルアーカイブ
•  コミュニティの視点 •  コミュニティ •  地域のコミュニティ •  業務でつながるコミュニティ •  共通の関心でつながるコミュニティ、など •  同じコンテンツであっても解釈はコミュニティ毎に異なる •  コミュニティ毎のニーズとコミュニティ間共通のニーズ •  一般的な書誌的情報はコミュニティ間共通ニーズ •  コンテンツ提供者側だけの視点になっていないか? •  コミュニティ毎のニーズは? •  そして、どう応えるか? 2015/1/11
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震災アーカイブを考える コミュニティ指向のディジタルアーカイブ
•  個別のコミュニティ向けと複数のコミュニティにまた
がるサービス •  使いやすいか、わかりやすいか? •  コミュニティのことばでアクセスできるか? •  アーカイブを使って新しいコンテンツを創造できるか? •  他のアーカイブと結び付けて利用できるか? •  地域MLAへの期待 •  地域コミュニティのアーカイブ利用の拠点としての期待 •  地域の人たちとのつながりに基づく利用推進への期待 •  長期のサービスによる付加価値への期待 2015/1/11
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まとめ -ディジタルアーカイブへの期待-
•  つながるディジタルアーカイブへの期待 •  アーカイブの境を越えてつながるコンテンツ •  時間とコミュニティの違いを超えてつながりを支え
るのはメタデータ 従来
インターネット 1次コンテンツ 2015/1/11
これから
インターネット
メタデータ
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まとめ -ディジタルアーカイブへの期待-
•  時間とコミュニティの壁を超えたコンテンツとメタデータの共有 多様なコミュニティ
多様なコミュニティ
時間
インターネット
メタデータの定義、関連情報
2015/1/11
インターネット
メタデータの定義、関連情報
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まとめ -ディジタルアーカイブへの期待-
•  コンテンツの利用の仕方は様々 •  研究利用、復興事業、学習活動、地域の活性化... •  利用を支えるのはコミュニティの力 •  アーカイブ利用のサイクルを考えたい •  アーカイブされたコンテンツを使って •  新しいコンテンツを創り •  何かを伝え •  そしてつながる •  継続こそが力 2015/1/11
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参考
•  知のデジタルアーカイブに関する研究会(総務省) 知のデジタルアーカイブ~社会の知識インフラの拡充
に向けて~―提言及びガイドラインの公表― hXp://www.soumu.go.jp/menu_news/s-­‐news/
01ryutsu02_02000041.html •  国立国会図書館東日本大震災アーカイブ ひなぎく (hXp://kn.ndl.go.jp/)とそこからつながったサイト •  震災前を見るために使ったサイト(名前のみ) • 
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未来へのキオク みちしる(NHK):新日本風土記アーカイブス 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業WARP Internet Archive
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