実践報告「チーム作り講座~場を創り、場に価値を~」 専修大学附属高等学校教諭 杉山比呂之 Ⅰ.はじめに 「チーム作り講座」(以下、本講座)という授業が専修大学附属高等学校(以下、本校)に存在する。 本校は例年 80%以上の生徒が親大学に進学する付属高校である。受験というハードルが無い分だけ授業 内容にも幅を持たせることができるため、生徒の興味関心に応じながら、モチベーションを上げる授業 を展開してきた。しかしながら、卒業生に会って話を聞いた時に、 「高校でやったことが大学に入っても 活きない」 「勉強よりも人とのコミュニケーションが社会には大切ではないか」などという声をもらった。 それらの話を聞いているうちに、学校の授業と社会に出てから必要なことが、断絶されているように感 じるようになった。そのような状況下で、いかに生徒に対して大学生、社会人を見据えた教育をするか 考えた際、キャリア教育としての授業の在り方が必要不可欠だという一つの結論にたどり着いた。そこ で本校の土曜講座という選択授業において、卒業生の言葉を体現する授業を実践しようと考え、本講座 を開講することとした。 【参考資料①:2011 年度~2014 年度基本方針】 Ⅱ.2011 年度チーム作り講座 当初、本講座を開講した際の紹介文は、以下のとおりである。 「2010 年、 『もし高校野球の女子マネー ジャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社)がベストセラーになりました。 この本は、野球部の女子マネージャーが部活内で経営学(マネジメント)を実践し、甲子園出場まで導 く話です。この話でチーム作りに活かされたのが、企業・社会におけるチーム・組織論の基礎的な論理 です。現在、不況・就職難の時代をむかえ、求められている社会人としての力は、チームワーク力とコ ミュニケーション力です。本講座では、これらの力を身につけるために、教職や企業などの研修で行わ れている方法を実際に体験してもらいます。これからの時代に必要とされる、チームワーク力やコミュ ニケーション力を身につけたい人、部活動・サークル・ゼミや将来就職する会社などのチーム・組織で リーダーシップを発揮できるような人材になりたいという人、また将来について真剣に考えてみたい人 など、人との関わりを大切にしていきたい人の受講を歓迎します。」 この紹介文によって集まったのが、1 年生から 3 年生の計 26 名(定員 28 名)の生徒であり、以下の A~Fのキーワードを軸に授業を展開した。 A:チーム(組織) D:マネジメント(経営) B:コミュニケーション(ふれあい) E:ファシリテーション(支援・場づくり) C:プレゼンテーション(発表) F:キャリアデザイン(人生設計) 2011 年度は、同僚の教員とTT(ティーム・ティーチング)で授業を展開して、教員側は自転車操業 で学んだものをどんどんと実践していった。正直に言って、現在のチーム作り講座と比較すると実践内 容は全く精査されていないが、この一年目の経験が次年度以降大きな糧となっていった。ここで、初年 度の振り返りをまとめておきたい。 【成果と課題】 ・ 「コミュニケーション能力」や「チームビルディング」といったことが、現代の高校生にとって必要不 可欠なことが実感できた。 ・様々なプログラムを実践することにより、高校生のニーズがより明確になってきた。 ・TTで実践することにより、各生徒の様子が把握しやすく授業が進めやすい。 ・毎時間レジュメで前時の実践内容と振り返りシート【参考資料②】を実施することにより、生徒とと もに授業を生み出していける。 以上を踏まえて、2012 年度から内容を精査して授業を展開してゆくこととなる。 Ⅲ.2012 年度チーム作り講座 初年度はTTで実践をしてきた本講座であるが、カリキュラム編成の都合上、同僚の教員と一緒に授 業を担当できなくなってしまった。そこで、私がメインで本講座を実践することとなった。しかし、初 年度授業を実践してきた際、TTのメリットを強く感じており、またひとりで実践する不安も抱えてい た。そこで、初年度の授業で何度か授業見学をしてくれた卒業生の社会人H氏がサポーターとして参加 したいということになり、H氏と運営チームを組織して授業を実践することとなった。 2012 年度の受講生は定員の 28 名で、昨年度の効果によるものかもしれないが全員が第一希望の生徒 であった。1年間を終えての生徒のコメントを抜粋したものが以下のとおりである。 [チーム作り講座を通じて、感じたこと・新たに発見したこと(抜粋)] ・チーム or グループの違い。新しい学年になると同時に新しい仲間もできるから、グループを作るので はなく、時間をかけてより良いチーム(友達)を作っていきたい。 ・相手の気持ちを考えて傾聴をする大切さ。 ・色々な人と関わることの楽しさ。 ・説明をしたり、ファシリテーターをすることの大変さ。 ・ポジティブに考えられ、人を知ろうと努力する意識を持てたこと。 ・一つのことや目標に向かった集団はチームになる。そこから良い関係が生まれる! ・前の自分と今の自分と比べてみるとはっきりと違うものがあった。 ・自分だけではなく相手を含めてより話しやすい方法や、より聴きやすい話し方やペースがわかった。 2 年目となり、生徒のニーズと運営側の伝えたいことがさらに合致するようになり、より社会で求めら れているスキル&マインドを提供できるようになってきたと実感した。 Ⅳ.2013 年度及び 2014 年度チーム作り講座 3 年目となり、大学生も加えて運営メンバーを組織して、また多くの外部の見学者の方々も招いて、参 加者全員が学ぶ場としての本講座を展開するようになった。受講者も応募定員(28 名)を上回り、抽選 せざるをえないという状況になり、生徒がいかにコミュニケーション能力向上を求めているかが肌で感 じられるようになった。夏休みには課題図書(森時彦『ファシリテーターの道具箱』ダイヤモンド社、 2008 年)も提示し、さらに 2 学期以降は生徒がメインファシリテーターとして授業を運営していった。 【参考資料③】 また、2014 年度は運営メンバーの大学生が HP(http://www.s-teamdesign.org/)【参考資料④】を作 成し、本講座の授業内容を今まで以上に発信することが出来るようになり、それに伴いさらに多くの見 学者が来校し、生徒にとっても運営側にとってもさらなる学びの場になってきた。2014 年度は前年度の 課題図書を教科書に指定し、さらに親大学である専修大学のゼミナールと共同研究を開始し、対人関係 の社会的スキル評価尺度(KiSS-18)等を用いた学習効果の分析を実施し、これまで以上に系統的に学ぶ ことを重視した授業を展開している。 【参考資料⑤:チーム作り講座の授業風景(2013 年度~2014 年度 )】 Ⅵ.おわりに(今後の展望) 「場を創り、場に価値を=どんな場でもプラスに変え、自らの意志を伝え実行できる人を育む」本講 座のテーマとして誕生したこのフレーズが、現在私の一教員としての柱となっている。学校が学習する 組織となるためには、学校を取り巻く全ての人々、つまり生徒・教員・保護者・地域の方々との連携が 必要不可欠である。そのうえで、たとえ学習しない学校(場)であっても、価値を見出すことのできる 生徒を育成していけるよう努めたい。そのために、キャリア教育に根ざしたこのような授業をまずは本 校において継続的に実践し、いずれは全国の学校で展開、ゆくゆくは必修化出来るようなシステム作り を目指している。 そして、何よりこのような授業が外部委託によるものでも、教員だけによるものでもなく、外部と教 員で密な連携体制を確立し、これまで以上に学校と社会をつなぐ架け橋となれるような実践にしてゆき たい。 【参考資料②:振り返りシート】 【参考資料④:チーム作り講座 HP】 【参考資料③:2013 年度実践一覧】
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