Miki Toshio 第 67 回日本国際経済学会全国大会(於兵庫大学)2008 年 10 月 12 日(日)国際政治経済 2 台頭するイスラム金融経済 札幌学院大学経済学部 三木 敏夫 21 世紀にはいり、マレーシア、シンガポールや中東産油国を中心にイスラム 金融活動が活発化してきた。かつて 2 回の石油危機時(1973 年と 1979 年)、中 東産油国へのオイルダラーの偏在が問題となり、欧米諸国にとどまらず発展途 上国などの非産油発展途上国へのオイルダラーの還流が問題となった。 現在、原油価格の未曾有の高騰に端を発した、バーレーンやUAEなどの中 東産国では以前の 2 度の石油危機と異なり持続的であり、豊富な石油輸出資金 をもとに、国営の投資会社を設立し、サブプライムローンなどで揺れる米国へ の資金供給源とり、国際金融市場で必要不可分な存在となり、様変わりをみせ ている。国際的にオイルマネーで構成されているイスラムマネーは、国際金融 市場の場で重要な役割を果たしており、また金融市場の新しい分野を切り開く 原動力ともなっている。 オイルマネーすなわちイスラムマネーの大きな特徴は、クルアーンの教えに したがいリバー(利子)をとらないところにある。その貸借と投資形態の巧み な仕組みと概念―ムダ―ラバ、ムラ―バハ、イジャーラ、ムシャーラカなど― は、投資に対する配当であり、利子とは呼ばないが、その実態をみる限り呼び 名は変わるが、資本主義経済における利子と同じ機能を果たし、同じ意味を持 っていることがわかる。このことからイスラム金融経済は生産手段の私的所有 をもとにした資本主義金融経済を応用した金融経済形態といえるものである。 本論では、イスラム金融の基本的な取引形態を考察し、欧米諸国や日本の資 本主義経済でも、イスラム金融形態に類似した金融取引が行われている実態を 明らかにするとともに、国際金融市場で重要さを増しているイスラム金融の一 種であるマイクロファイナンスであるグラミン銀行の成功の背景を探り、なぜ イスラム金融がバーレーンなどの中東イスラム諸国ではなく、バングラデシュ で発展した要因を考察する。この考察を踏まえてバーレーンとイスラム金融市 場のハブを競い合うマレーシアにおいて、文字通りスクークを核にイスラム金 融商品が多数開発され、目覚ましい発展をしているイスラム金融の「ハブ」と してのマレーシアでのイスラム金融市場の発展状況を考察、解明したものであ る。特に、マレーシアでのイスラム金融成功の大きな要因は、ブミプトラ政策 と関係しており、同政策の関係とイスラム金融発展の関係も明らかにした。 9.11 事件によりイスラム金融は、色眼鏡でみられがちであるが、かつて中世 キリスト教が利子を禁止したように、宗教には利子をとることに対する嫌悪感、 憎悪感がつきまとうが、反対に、浄財としてのザカート、チャリティー、ドネ Miki Toshio 第 67 回日本国際経済学会全国大会(於兵庫大学)2008 年 10 月 12 日(日)国際政治経済 2 ーションが進められ社会的正義となっている。本論では、イスラムへの偏見を 軽減し、イスラム金融が資本主義金融経済を補完するものであることを分析、 考察したものである。即ちイスラム経済は多様な私的所有を前提とした市場経 済を是認し、金融商品の多様化を促進するとともに、かつて社会主義運動の中 で飛び跳ねた暴力市場主義のグループと社会主義思想が結び付かないように、 精神的活動であるイスラムとテロは異質なものであり、イスラム金融は極めて 経済的な概念であることを理解する必要がある。 以上
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