Highlight 1 有害排気ガスを浄化し、 とどまることを知らないモータリゼーションの波。自動車の普及は人やモノの移動を容易にし、私たちの生活を豊かにし 環境保全に貢献する自動車触媒 大気汚染の低減に大きく寄与しているのが 「触媒」 です。三井金属では国内の大気汚染が顕著になった1970年代に触媒の てきました。しかし、こうした光の部分だけでなく大気汚染や交通事故など影の部分もあります。この排気ガスによる 研究開発に着手し、今日では、日本、 タイ、インド、中国の4極で生産をしています。 自動車/2 輪車向け触媒 自動車の排気ガス規制としてはマスキー法が有名です。この法律は 1970 自動車の排気ガス制御システム 年に米国で成立した大気汚染防止のための法律で、1975 年以降に販売する 車の排気ガス (CO:一酸化炭素、HC:炭化水素、NOx:窒素酸化物) を10 分の 1 スロットルバルブ にせよというものです。日本でも1970 年代に入ると排気ガスによる大気汚染 がひどくなり、光化学スモッグも多発し、排気ガスの規制が論議され始めま ・CO ・HC インジェクタ 空燃比を理論値に ・NOx 転 化 ( 検出制御する ) 空気 三元触媒 CO2 H2O N2 規制の動向に対応し、 触媒事業を強化 飛躍的に浄化性能が向上した背景には三元触媒の開発とと 排気 した。 もに酸素センサーと電子制御燃料噴射装置の開発があげられ ます。三元触媒は空燃比 (空気と燃料の質量比) が14.7前後の場 こうした大気汚染の悪化や規制の動向を背景に、三井金属の中央研究所 (当時)では触媒の研究が開始されました。触媒は、自身が変化するのでは エアフローメータ 燃料 酸素センサー 検出する ( 空気量を ) ( ) 排気ガスの空燃比を 検知する なく、反応を促進させるもので、上記の有害排気ガスを無害なガス (CO 2:二 コンピューター 酸化炭素、H 2O:水、 N2:チッ素) に変えることを促進させます。当時は電解二 酸化マンガンの触媒作用に注目し、成形し積層して排気ガス管につけて試 験をしましたが、除去効果が低く耐熱性も悪いことから実用化には至りませ 空燃比に応じた信号を ( フィードバックする ) ・ ガソリンの不完全燃焼 ・ 空気中の窒素と酸素との熱反応 ・ ガソリン中の不純物の燃焼 合に効率よくCO、HC、NOxを無害ガスに転化しますが、 これより低 くなると急激にCOやHCの転化率が低下し、逆に高くなるとNOxの 転化率が低下します。このように三元触媒は狭い範囲の空燃比 でしか作用しないため、空燃比を制御できる酸素センサーと電 わが国の排気ガス規制は前述の1975年規制以降強化の一 途をたどっています。しかも、その規制値は漸増型ではなく がるとペレットが燃焼して小さくなり、そのためペレットが動き、最終的には排気ガスとともに出てしまう欠点がありました。 階段型・飛躍型です。例えば2000年規制では、従来の規制値 からCO、HC、NOxが一気に70%削減する数値になっています。 規制は今後も強化されることは必至です。こうした傾向は途 上国でも同様です。現在、途上国の2輪車で触媒が完備して いるのは2割程度ですが、規制の強化によって排気ガス用触 こうした試行錯誤を重ねる中、日本国内で1975年排気ガス規制が施行されました。 媒は急速に普及することは必至です。三井金属ではこうした これは前述のマスキー法と同様の規制値を示したものでした。そのため三井金属の 動向に的確に対応するように1996年にタイ、2006年にインド、 触媒開発も拍車がかかり、その結果、セラミックハニカム型の触媒開発に日本で初 2007年には中国で生産を開始しています。 めて成功しました。 触媒事業部は今後もこうした積極姿勢を堅持し、モータリ 一般的に触媒は粉状ですので、そのままでは排気ガス管に取り付けることはできま ゼーションの光の部分と環境保全の両立が実現できるように せん。そのため触媒を留めるもの 「触媒担体」が必要になります。さらに排気ガス管は高 さらなる研究開発に努めていきます。 温の排気ガスが通過するので 「触媒担体」には耐熱性や強度が求められます。この条 セラミックハニカム触媒の端面拡大 2輪車用の触媒開発当初は振動が大きく、 水がかかる、熱の大きな変化などから触媒のト ラブルが多発していました。当社はこうしたトラ ブルを早期に克服したことから大きなシェアを 獲得できたのだと思います。触媒の開発、検証 は新車のエンジンではなく1世代前のエンジン で行うため、提案の難しさがあります。 しかし、触媒の開発によって 「走れば 走るほど大気をきれいにすること」 も夢ではありません。 中川幸長(海外統括部長兼企画管理室長) 途上国においても規制の大枠が決まってきて いることから、当社も対応を急いでいますが、規 制の施行が不明確のために本格的な生産開始を 決断することが難しい局面がしばしばあります。 しかし、2輪車の増大と規制の強化は必至ですの で、的確に対応していきたいと思います。 山上哲也(営業部長) す。有害排気ガスの除去には排気ガスと触媒が接触することが不可欠ですので、ハニカ 貴金属と原油の高騰などでビジネス環境は厳 ムに触媒をコーティングすると効率よく化学変化を促進することができます。 しくなってきています。 しかし、販売と同時に今後 は貴金属のリサイクルも視野に入れなければなら ないと思います。現実を見ると回収には大きな課 題がありますが、回収、 リサイクルのスキームを考 える段階に来ていると思います。 現在の触媒は酸化還元反応を同時に実現し、CO、HC、NOxを同時に浄化する三元触媒 が使用されています。触媒としては主に白金 (=プラチナ:Pt) 、ロジウム (Rh) 、パラジウ ム (Pd)などの貴金属が使われています。最近ではこれら貴金属が高騰していることから、 05 Environmental Report 廣江和美(開発部長) 件を満たすものがセラミックでした。ハニカムとは 「ハチの巣」を意味します。したがっ て多くの通路があり、通路表面の面積を合計すると通常の筒に比べ格段の差がありま セラミックハニカム触媒 排気ガス浄化触媒の開発は、材料設計と 機能の相関性が取れないという難しさがあ ります。また、車種によって温度領域も異 なることから、車種に合わせて設計し、検 証しなければなりません。このように触媒 開発には困難性がありますが、規制が強化 されている現在、規制をクリアする触媒を開発する使命が私たちには あると思っています。また、 触媒には貴金属が多く使用されていますが、 貴金属資源の不足、高騰といった状況を踏まえ貴金属使用量の削減、 ひいては不使用による触媒を開発したいと思います。 子制御燃料噴射装置の開発は不可欠でした。 んでした。その後、自動車メーカーと共同で、ペレットにパラジウム (Pd) を添付した触媒を開発しました。しかし、反応して温度が上 セラミックハニカム型の触媒開発に日本で初めて成功 藤井純(執行役員 触媒事業部長) 使用量の削減や貴金属不使用の排気ガス浄化技術が求められています。 2 輪車向けの触媒 Environmental Report 06 Highlight 1 有害排気ガスを浄化し、 とどまることを知らないモータリゼーションの波。自動車の普及は人やモノの移動を容易にし、私たちの生活を豊かにし 環境保全に貢献する自動車触媒 大気汚染の低減に大きく寄与しているのが 「触媒」 です。三井金属では国内の大気汚染が顕著になった1970年代に触媒の てきました。しかし、こうした光の部分だけでなく大気汚染や交通事故など影の部分もあります。この排気ガスによる 研究開発に着手し、今日では、日本、 タイ、インド、中国の4極で生産をしています。 自動車/2 輪車向け触媒 自動車の排気ガス規制としてはマスキー法が有名です。この法律は 1970 自動車の排気ガス制御システム 年に米国で成立した大気汚染防止のための法律で、1975 年以降に販売する 車の排気ガス (CO:一酸化炭素、HC:炭化水素、NOx:窒素酸化物) を10 分の 1 スロットルバルブ にせよというものです。日本でも1970 年代に入ると排気ガスによる大気汚染 がひどくなり、光化学スモッグも多発し、排気ガスの規制が論議され始めま ・CO ・HC インジェクタ 空燃比を理論値に ・NOx 転 化 ( 検出制御する ) 空気 三元触媒 CO2 H2O N2 規制の動向に対応し、 触媒事業を強化 飛躍的に浄化性能が向上した背景には三元触媒の開発とと 排気 した。 もに酸素センサーと電子制御燃料噴射装置の開発があげられ ます。三元触媒は空燃比 (空気と燃料の質量比) が14.7前後の場 こうした大気汚染の悪化や規制の動向を背景に、三井金属の中央研究所 (当時)では触媒の研究が開始されました。触媒は、自身が変化するのでは エアフローメータ 燃料 酸素センサー 検出する ( 空気量を ) ( ) 排気ガスの空燃比を 検知する なく、反応を促進させるもので、上記の有害排気ガスを無害なガス (CO 2:二 コンピューター 酸化炭素、H 2O:水、 N2:チッ素) に変えることを促進させます。当時は電解二 酸化マンガンの触媒作用に注目し、成形し積層して排気ガス管につけて試 験をしましたが、除去効果が低く耐熱性も悪いことから実用化には至りませ 空燃比に応じた信号を ( フィードバックする ) ・ ガソリンの不完全燃焼 ・ 空気中の窒素と酸素との熱反応 ・ ガソリン中の不純物の燃焼 合に効率よくCO、HC、NOxを無害ガスに転化しますが、 これより低 くなると急激にCOやHCの転化率が低下し、逆に高くなるとNOxの 転化率が低下します。このように三元触媒は狭い範囲の空燃比 でしか作用しないため、空燃比を制御できる酸素センサーと電 わが国の排気ガス規制は前述の1975年規制以降強化の一 途をたどっています。しかも、その規制値は漸増型ではなく がるとペレットが燃焼して小さくなり、そのためペレットが動き、最終的には排気ガスとともに出てしまう欠点がありました。 階段型・飛躍型です。例えば2000年規制では、従来の規制値 からCO、HC、NOxが一気に70%削減する数値になっています。 規制は今後も強化されることは必至です。こうした傾向は途 上国でも同様です。現在、途上国の2輪車で触媒が完備して いるのは2割程度ですが、規制の強化によって排気ガス用触 こうした試行錯誤を重ねる中、日本国内で1975年排気ガス規制が施行されました。 媒は急速に普及することは必至です。三井金属ではこうした これは前述のマスキー法と同様の規制値を示したものでした。そのため三井金属の 動向に的確に対応するように1996年にタイ、2006年にインド、 触媒開発も拍車がかかり、その結果、セラミックハニカム型の触媒開発に日本で初 2007年には中国で生産を開始しています。 めて成功しました。 触媒事業部は今後もこうした積極姿勢を堅持し、モータリ 一般的に触媒は粉状ですので、そのままでは排気ガス管に取り付けることはできま ゼーションの光の部分と環境保全の両立が実現できるように せん。そのため触媒を留めるもの 「触媒担体」が必要になります。さらに排気ガス管は高 さらなる研究開発に努めていきます。 温の排気ガスが通過するので 「触媒担体」には耐熱性や強度が求められます。この条 セラミックハニカム触媒の端面拡大 2輪車用の触媒開発当初は振動が大きく、 水がかかる、熱の大きな変化などから触媒のト ラブルが多発していました。当社はこうしたトラ ブルを早期に克服したことから大きなシェアを 獲得できたのだと思います。触媒の開発、検証 は新車のエンジンではなく1世代前のエンジン で行うため、提案の難しさがあります。 しかし、触媒の開発によって 「走れば 走るほど大気をきれいにすること」 も夢ではありません。 中川幸長(海外統括部長兼企画管理室長) 途上国においても規制の大枠が決まってきて いることから、当社も対応を急いでいますが、規 制の施行が不明確のために本格的な生産開始を 決断することが難しい局面がしばしばあります。 しかし、2輪車の増大と規制の強化は必至ですの で、的確に対応していきたいと思います。 山上哲也(営業部長) す。有害排気ガスの除去には排気ガスと触媒が接触することが不可欠ですので、ハニカ 貴金属と原油の高騰などでビジネス環境は厳 ムに触媒をコーティングすると効率よく化学変化を促進することができます。 しくなってきています。 しかし、販売と同時に今後 は貴金属のリサイクルも視野に入れなければなら ないと思います。現実を見ると回収には大きな課 題がありますが、回収、 リサイクルのスキームを考 える段階に来ていると思います。 現在の触媒は酸化還元反応を同時に実現し、CO、HC、NOxを同時に浄化する三元触媒 が使用されています。触媒としては主に白金 (=プラチナ:Pt) 、ロジウム (Rh) 、パラジウ ム (Pd)などの貴金属が使われています。最近ではこれら貴金属が高騰していることから、 05 Environmental Report 廣江和美(開発部長) 件を満たすものがセラミックでした。ハニカムとは 「ハチの巣」を意味します。したがっ て多くの通路があり、通路表面の面積を合計すると通常の筒に比べ格段の差がありま セラミックハニカム触媒 排気ガス浄化触媒の開発は、材料設計と 機能の相関性が取れないという難しさがあ ります。また、車種によって温度領域も異 なることから、車種に合わせて設計し、検 証しなければなりません。このように触媒 開発には困難性がありますが、規制が強化 されている現在、規制をクリアする触媒を開発する使命が私たちには あると思っています。また、 触媒には貴金属が多く使用されていますが、 貴金属資源の不足、高騰といった状況を踏まえ貴金属使用量の削減、 ひいては不使用による触媒を開発したいと思います。 子制御燃料噴射装置の開発は不可欠でした。 んでした。その後、自動車メーカーと共同で、ペレットにパラジウム (Pd) を添付した触媒を開発しました。しかし、反応して温度が上 セラミックハニカム型の触媒開発に日本で初めて成功 藤井純(執行役員 触媒事業部長) 使用量の削減や貴金属不使用の排気ガス浄化技術が求められています。 2 輪車向けの触媒 Environmental Report 06
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