自閉症スペクトラム障害の きょうだい児に対する 支援の試み

自閉症スペクトラム障害の
きょうだい児に対する
支援の試み
福井大学病態制御医学講座小児科
福井県自閉症協会
川谷正男
要
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約
【はじめに】自閉症スペクトラム障害(ASD)は生涯にわたる適切な支援が必要だが、
ASD当事者だけでなく、周囲の支援者への支援も非常に重要である。しかし、当事者と
生涯にわたって関わりあうきょうだい児への支援は見過ごされがちである。
【目的】ASDのきょうだい児に対する包括的かつ継続的に有効的な支援方法の確立を目
的とする。
【方法】小児科医、臨床心理士、ASD保護者など多職種から成るきょうだい児の支援者
グループを結成し、有効な支援方法について検討を重ねた。きょうだい支援活動(シ
ブショップ)はきょうだい児同士が楽しく過ごし、喜びや心配事を自由に話し合える
場であるとし、シブショップへの参加条件として、きょうだい児の自発的な希望、保
護者は活動には参加しない、こととした。シブショップ参加前に支援者が家庭訪問を
行い対象児童の家庭の様子を把握した。ASD児の障害程度、きょうだい児との関係、き
ょうだい児の発達特性やASDの理解状況、ASD児やきょうだい児に対する保護者の関わ
り方を把握した上で、保護者ときょうだい児に会の主旨を説明し、自発的な同意が得
られた児童に参加してもらった。
【結果】8歳女児(自閉性障害4歳男児の姉)と11歳女児(自閉性障害8歳男児の姉)が
シブショップに参加した。第一回はハロウイーンの仮装パーティー、第二回はクリス
マスのケーキ作り、第三回は花見散策を行った。シブショップは、参加児童にとって
保護者やASD児とは離れて自由に楽しめる場となったようであった。今後、対象児童の
特性に応じたシブショップを定期的に開催しながら、内面を少しずつ引き出す内容を
加えていく予定である。
【結論】きょうだい児同士が楽しく過ごし、きょうだい児の持つ両価性の内面を自由
に表出できる場を提供していく意義は大きいと思われた。
ASDのきょうだい支援の必要性
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両親ときょうだいとの関係について
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きょうだいのASDの障害理解と受容について
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ASDは見えにくい障害といわれ、見た目と障害による困難さのギャップが大きく、な
かなか理解されにくい。両親と違い、きょうだいがASDに関する正しい情報を得る機
会が極めて少ない。したがって、きょうだいが十分にASDのことを理解しASD当事者を
受容することは容易ではない。両親以外の様々な立場から、きょうだいに対するASD
の理解と受容を支援する必要がある。
ASD当事者との長期的な関わり方について
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両親は、ASD当事者に対して療育に熱心で濃密な関係を築きやすいが、きょうだいに
対しては関心が薄くなる傾向がある。また、両親は平等に接しているつもりでも、き
ょうだい自身はかやの外と感じているかもしれない。このようにきょうだいが感じる
親子関係の不公平感やねじれ感を解消する支援が必要である。
ASD当事者との関わりは、一番の理解者である両親より、きょうだいのほうが生涯に
わたって長く続く。両親亡き後も含めて、ASD当事者との長期的な関わり方について
援助が必要な場合も少なくない。
遺伝的素因について
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ASDの原因は不明であるが、多くは多因子遺伝やエピジェネティックスが想定されて
おり、家族性が濃厚で両親やきょうだい自身もASDであると示唆されるケースも珍し
くない。両親やきょうだい自身の発達特性に配慮した支援が必要である。
ASDのきょうだいの特徴
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きょうだい関係に影響を与える要因
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性
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順序・年齢差:弟妹の立場のほうが負担が大きい、年齢差は近いほど影響は大きい
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幼少期から親と過ごす時間が限られている、年下でありながら障害のある兄姉の面倒をみなければいけない
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人
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障害の程度:障害の程度が重いほどストレスは大きい
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親や家庭の状況:
数:二人きょうだいは、三人以上に比べて負担が大きい
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互いに協力的で円満な夫婦関係は、きょうだい関係にもよい影響をもたらす
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親が障害を受容し前向きに取り組んでいるほうが、きょうだい間の理解が深まる
きょうだいの感情
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肯定的側面:
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ノーマライゼーションの意識、思いやり、我慢強くなる、内面の成熟、何事にも感謝の気持ちをもつ、家族への誇り、自立や責任感、職業への影響
否定的側面:
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別:女性のほうが面倒見が良い
きょうだいとしての責務、親の関心を得にくい、親と過ごす時間が減る、将来の不安、遺伝に関する問題、友達との問題、孤独感、憤り・悔しさ、罪
悪感や自己嫌悪、恥ずかしさ、プレッシャー、無力感、過度の自立・自制、不公平感・不満、嫉妬、余暇活動の制限、ライフイベントにおける選択
両価性を併せ持つ
きょうだい児の特徴
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親代わりする子ども:
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優等生になる子ども:
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障害児の代わりに家庭以外の場で頑張る、頑張りすぎて、良い子になりすぎて心に余裕がない
退却する子ども:
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親のように障害児を世話、周囲から認められ、そのことに喜びを見出すが、自分を大切にすることを実感せずに子ども時代を過ごす
家庭に関わることを避ける、不安がないふりをするが、潜在的な抑うつ状態や自責の念が解消されない
行動化する子ども:
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不満や怒りを不適切行動として表現、悪い行動によって親の注意をひこうとする
福井における
ASDのきょうだい支援の歩み
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平成20年
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日本自閉症協会第20回全国大会inくまもと
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福井県自閉症協会親子療育合宿
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「きょうだいの思いと支援」ドナルド・マイヤー
「きょうだいへの支援」川谷正男
「きょうだい支援について」有馬靖子
平成21年
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各地での「きょうだい支援」活動を視察・交流
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名古屋、横浜
「きょうだいの会」を発足
「きょうだいの会」
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目的
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自閉症児・者の「きょうだい」に対して以下の場を提供すること
 「きょうだい」同士が自由に交流し、楽しく過ごせる場
 強制的に内面表出を促すものではなく、自発的に生じた様々
な思いを自由に話し合える場
「きょうだい」を支援することの重要性を自閉症児・者の家族,
他の医療・福祉・教育関係者等に理解・認識してもらうこと
他の「きょうだい支援」活動を行っているグループとの相互交流
を行うこと
参加対象者
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福井県自閉症協会に所属する自閉症児・者の「きょうだい」
発達障害や精神疾患の診断を受けていない
基本的には小学生を対象。ただし「きょうだい」の年齢や発達特
性に応じて参加の制限を設ける。
参加者とその家族は,会の主旨を十分に了解した上で参加
「きょうだいの会」参加への流れ
参加希望者
福井県自閉症協会に所属する「きょうだい」
基本的には小学生が対象、中学生は要相談
福井県自閉症協会
「きょうだい支援部会」事務局
参加条件、面談日を確認
「きょうだい支援の会」
支援者は、現在は小児科医と心理士の2名で構成
事前に自宅訪問し、「きょうだいの会」の主旨を再確認
「きょうだい」の意思や当事者との関係を確認
参加者と活動内容
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参加者
− 8歳女児(自閉性障害4歳男児の姉)
− 11歳女児(自閉性障害8歳男児の姉)
− 参加理由
 互いに仲良し、親の勧め、もっと一緒に遊びた
い
活動内容
− 第一回:ハロウィーンの仮装パーティー
− 第二回:クリスマスケーキ作り
− 第三回:桜花見散策と買い物
参加者の感想と評価・問題点
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感想
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評価
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すごく楽しかった
普段、家族と一緒では経験できない内容なのでよかった
弟に邪魔されずに過ごせてよかった
「きょうだい」同士が楽しく過ごせる場を提供する目的は
果たしている
「きょうだい」の何気ない考えや気持ちを少しずつ表出で
きている
 弟(当事者)との間のトラブル
 家族や友達との微妙な関係、など
問題点
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支援者と参加者の拡充
ASD圏内の「きょうだい」への対応
他の「きょうだい支援」活動との相互交流
「きょうだいの会」今後の課題
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きょうだい支援の現状と必要性に関する調査
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支援する側への調査
 医療機関、教育機関、療育機関などに、現在までに行っ
たきょうだい支援の内容、理想とする支援の在り方、支
援を行うにあたり足りない点、どうすれば有効な支援が
可能となるのか、など
支援を受ける側への調査
 きょうだいと両親に対して、現在までに受けたきょうだ
い自身への支援の内容、親子の関係、ASDの理解と受
容、きょうだいに関する現在と将来の問題点、必要なき
ょうだい支援の内容、など
きょうだいの発達特性の評価
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ASD圏内や他の発達障害や精神疾患と思われる「きょうだ
い」に関しては、必要に応じて「きょうだい」の発達特性
を医学、教育、心理の多面的に評価し個別に対応
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「きょうだいの会」の充実
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支援者と参加者の充実
− 医療機関、教育機関、療育機関、支援機関が連携
し、活動の理解と発展を目指す
他の「きょうだい支援」機関との連携
医療機関
福井大学医学部附属病院
療育機関
平谷こども発達クリニック
教育機関
福井大学教育地域科学部附属特別支援学校
支援機関
福井県自閉症協会
有識者から成る
「きょうだい支援」の会
家族
きょうだい
ASD当事者
深
謝
「きょうだいの会」の設立、運営に多大な理解とご協力をいただいて
いる福井県自閉症協会の皆様、特に、事務局の内田様、高塚様、平谷
こども発達クリニック心理士の河村様、梅田様に深謝申し上げます。
本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金 若手研究(B)
(課題番号:2279560)によって行いました。