京都ディジタル・アーカイブの 成果と今後の課題

ディジタルコンテンツをつくる人材育成―ディジタル・アーキビスト
京都ディジタル・アーカイブの
成果と今後の課題
清 水 宏 一
抄
録
京都におけるディジタルコンテンツ蓄積の拠点であり,
よるコンピュータの高性能化と小型化,低廉化が,またた
く間に世界の様相を変えてしまった。
ディジタル・アーカイブ研究の魁であった「京都デジタ
携帯通信の普及と放送のディジタル化がこの動きをさ
ルアーカイブ研究センター」が,2004 年3月に幕を閉じ
らに加速する。ここ数年の携帯電話の普及はすさまじく,
た。3年7か月に延べ約1万人,総額4億5千万円を注
全ての人が携帯電話を持つようになり,これにインターネ
ぎ込んだ巨大プロジェクトの膨大な成果とコンテンツは,
ットやメール,写真,音楽,動画,バーコードリーダー,
後継のそれぞれの機関に引き継がれ,2年が経過した。
さらにはGPS機能までが搭載されるようになった。
その後,京都のディジタル・アーカイブ事業がどのような
これまで電波資源を独占してきたアナログ放送のディ
進展を見せているのかを検証するとともに,今後に残され
ジタル化が急がれた理由の1つは,携帯電話の急速な普及
たディジタル・アーキビスト育成等の課題を探る。
により窮迫した電波帯域の開放にあるが,同時に地上波の
<キーワード>
ディジタル化は超高精細高品質なハイビジョン放送とイ
ディジタル・アーカイブ,コンテンツ,文化遺産,
ンタラクティブな付加情報の提供を可能にし,携帯電話や
伝統産業,国家戦略,ディジタル・アーキビスト
PDAに対するワンセグ放送も始められた。
その一方,9・11を契機とする危機管理への認識の変化
1
ディジタル・アーカイブの背景
は,ネットワークやデータのバックアップと分散管理の重
要性を認識させた。また同時に,インターネットに対する
グローバル化は,国境を超えた文化の広がりを招来する
不信と危惧感をも増幅させ,より安全なインターネット環
一方,確実に地域文化を消滅させる。英語を国際標準化し
境を保持するため地域に続々とインターネットデータセ
て国語をおろそかにし,言語を改変して方言を放逐し,地
ンター(iDC)を誕生させ,地域インターネットエクスチェ
名を忘却させ,民謡を消滅させ,民俗芸能を過去に追いや
ンジ(IX)を不可欠なものと認識させた。
り,伝統産業を倒壊させ,さらには民族をも瓦解させる。
コンピュータソフトは,OSを囲い込み利益を独り占めす
それはコンテンツのありように関しても深刻で,世界的な
る時代から,人間社会の健全な発達をめざすオープンソー
インフラの独占とメディアの偏向は地域文化の軽視と商
スの時代へと徐々に自然な転移を始め,良質の素材が巷に
業主義の台頭を招き,横暴ともいえる著作権の主張とWIPO
溢れ,コピーレフトの思想が流行る時代になった。また,
の強者支配,ディファクトスタンダードの不公平さ,国際
レガシーシステムが見直され,グリッド等ネットワークコ
争訟の煩雑さ,さらには,文化的侵略政策等,多くの国際的
ンピュータが主流になるとともに,ユビキタスやICTが一
問題を引き起こすに至っている。
般用語として使われるようになった。
社会のグローバル化を進めた主役はインターネットだ
が,同時にインターネットは万人がメディアを自由に操れ
る環境をも作った。これまで新聞社や出版社,レコード会
社,放送局にしかできなかったマスコミの役割を一個人が
2
ディジタル・アーカイブの重要性
ここで一躍脚光を浴びたのがディジタル・アーカイブだ。
できるようにし,加えて,インタラクティブな通信が電子
欧米では古くから歴史や文化,芸術等の保存方法として美
メールという「手紙」を「出版」の域に高め,通信と放送
術館や博物館であるミュージアムと図書館であるライブ
の境界を実質的に取り払ってきた。大容量で料金も安いブ
ラリー,そして公的情報やその保管庫を表すアーカイブと
ロードバンドの普及がインターネットに勢いを与えた。
いう3通りの方式があったが,明治の欧化政策の中でミュ
これらの技術の元になったのが情報処理のディジタル
ージアムとライブラリーは取り入れられたものの,アーカ
化とコンピュータの進化だ。パケットによる超高速大容量
イブだけが抜け落ちていた。1971年に国立公文書館が設立
な通信と光ネットワーク,大容量メモリーと超高速演算に
され,その後各地に公文書館が次々に誕生した。
SHIMIZU Hirokazu:平安女学院大学人間社会学部(大阪府高槻市南平台 5-81-1)
- 41 清水宏一:京都ディジタル・アーカイブの成果と今後の課題
ディジタル・アーカイブはディジタルとアーカイブをつ
芸術,芸能,文化と伝統産業がある。公家と大本山,家元
なげた造語で,東京大学(当時)の月尾教授の命名による。
が現存する京都は,日本文化の結晶であり,コンテンツの
グローバル化し情報社会化する国際環境の中で,わが国の
宝庫であるといえよう。しかし,その多くが滅失や散逸の
アイデンティティを確立し,日本文化を世界に向けて発信
危機にある。移ろいゆく時代の中で,建造物,彫刻,自然
すべき知的情報基盤として提唱された。
景観,風物,風俗,産業が徐々に侵食され続け,特に,伝
これに最初に応じたのが地域である。「e-JAPAN戦略」
統産業の衰退とバブルの崩壊による社会破壊が急激に進
や電子政府構想とも連動して,歴史文化の保存と活用を通
みつつある今日,京都の文化財コンテンツのアーカイブが
じ地域のアイデンティティを確立するとともに,コンテン
焦眉の課題とされてきた。
ツ産業の育成をめざし,地方自治体や商工会議所を核とす
だが,そのディジタル・アーカイブ化はかなりの困難を
るディジタル・アーカイブ推進団体が,石川県,岐阜県,
伴っている。第一は,コンテンツの所有権,著作権の処理
京都市,中四国地域,沖縄県等に次々と誕生した。
にかかわる問題で,第二が,ディジタル化のための膨大な
これらの地域団体と政府が核となり,民間企業をも含め
て結成されたのが「デジタル・アーカイブ推進協議会
(JDAA)」で,省庁の枠を超えた新しい取組が真剣に模索
資金の調達であり,さらにはディジタル・アーカイブ技術
の進化の早さである。
寺社仏閣や旧家等に文化資産のディジタル・アーカイブ
され始め,歴史,文化にとどまらず, 政治,産業,観光,
化を働きかけたが,当初は,ディジタル化によりどのよう
芸術,芸能,祭事,学術,教育,生活, 風俗,自然等広範
なメリットがあるのか,コピーすることにより原作品の値
な切り口から,ディジタル・アーカイブの内容も,テキス
打ちが下がったりしないか,勝手に他の用途に転用されは
ト,画像,映像,音,音楽等広範な分野に広がり,手法も,
しないか,アーカイブ化の資金は誰が負担するのか,収益
写真やスキャナー,映画フィルム,音声テープからの取り
配分はどのようにするのか,現在の技術や方法で今後とも
込みのみならず,ディジタルビデオ,3D撮影や航空写真
万全なのか等々の心配があり,コンテンツホルダーとの交
からの立体映像,GPSの利用等,ディジタルコンテンツ
渉は常に難航した。
の蓄積と有効活用をめざす多彩なプロジェクトが立ち上
がった。
知的財産権としての課題も多い。コンテンツにおける著
作権情報の不足はその第一で,複合著作物の場合には著作
者認識すらままならず,著作権の処理は現実上,不可能に
3
デジタル・アーカイブ・ビッグバン
これらの動きを決定づけたのが,1998年12月に京都で開
催された「デジタル・アーカイブ・ビッグバン京都’98」
である。「人間は,大地と人々の記憶に歴史と文化を刻ん
なっている。パブリック・ドメインやフェアーユース等と
して知られる教育や研究等公共財としての利用問題のほ
か,著作権管理士やディジタル・アーキビスト等,人材の
面でも解決されなければならない問題は数多い。
知的財産取引においては,その多くの場合が少額決済で
できました」に始まる「デジタル・アーカイブ京都宣言」
あるため,ICカードによる簡易決済等,技術面での開発
は多くの人々に感動と動機を与え,“新しい文化の知の大
が続けられているが,いまだに決定的な方策は固まってい
地”を拓く取組が本格化した。
ない。法制度としても,財物性の有無や価値評価,税制度
ディジタル・アーカイブ技術の開発はもとより,デザイ
等ディジタル物であるがゆえの諸問題に加えて,ディファ
ンや画像,映像等のディジタルコンテンツを専門に取り扱
クトスタンダードの身勝手さや,産業振興と弱者保護への
う多くのベンチャー企業が創業され,NHKアーカイブス
同時配慮,グローバル化の中での公正取引と紛争処理等,
等の放送の将来を見越した巨大プロジェクトが始動し,各
制度化は不十分なままである。
地のディジタル・アーカイブ推進団体が結集して「地域デ
ジタル・アーカイブ全国協議会」を発足させた。電子自治
体の実質的なコンテンツとして,さらには人材育成や雇用
の目標として,ディジタル・アーカイブが注目され,文化
5
ディジタル・アーカイブと著作権
ディジタル・アーカイブで留意しなければならないのは,
遺伝子による地域活性化に向け人材育成,企業創生,地域
「ディジタル」な「著作物」であるが故の問題だ。著作物
再生の戦略化が叫ばれるまでになってきている。さらに,
は,特許や実用新案等と異なり著作権の対象として登録が
「いつでも,どこでも,誰でも」のユビキタス環境がこの
不必要な半面,原則として自由利用が許されず,改変利用
動きを早め,メディアの東京集中を地域からの発信に変え
には創作性が必要であるという一面を持つ。と同時に,デ
ようとする試みが顕在化し始めた。
ィジタルなものであるがゆえに,著作物の成立時期の確定
が難しく,製造単位(ロット)がないため,価格の判断基準
4
文化資産のディジタル・アーカイブ
京都には多くの歴史的遺跡と文化財があり,優れた学術,
- 42 学習情報研究 2006.7
が不明確であるという側面をも併せ持つ。
芸術作品等の著作物本体とディジタルデータの概念的
乖離や,ディジタル化権の発生,さらには,本体Aとディ
ジタルコピーであるA´ないしはA"の間に全く差異が
用形態,枚数等の条件によって異なるが,画像による付加
なく,一種のコピーであるがゆえに原本が全く減らず,コ
価値のおおむね4割をめどに算定するものとし,こうした
ピーされたもの全てが原本性を持つというディジタルコ
概略を画像使用権許諾契約で定めておくのである。
ピーの特殊性をも具有するからだ。加えて,原創作物の改
例えば,ホテルの内装による代金のうち,画像による付
変がいとも簡単であるという利便性,さらにはパロディー
加価値が100万円であったとすれば,業者(A)が受け取
化や引用にあたっての模倣と創作の峻別の困難さ等,確か
るのは40万円,そのうち20万円が寺社仏閣等に支払われる
な目利きがどうしても必要になってくる。
という勘定になる。すなわち,寺社仏閣等は,ディジタル
ディジタル技術の進化の速さと,その一方での技術の陳
化の自己資金を持たずとも,また文化財の価値を個々に判
腐化は,法制度の立ち遅れを余儀なくし,ディファクトス
定し,個々に契約を結ばなくても,一定割合の配当が受け
タンダード化がこれに追い討ちをかける。ディジタルコン
られるという仕組みであり,いわば文化財自身が自らを保
テンツの管理には,原本の滅失対策としての分散管理が必
全し,修復する資金を稼ぐという構図だ。
要であり,ディジタル化原本の改変や流出を防ぎ,コンテ
ンツの永続性を維持するため,エミュレーション(擬似的
文化財保存の京都ビジネスモデル
再現),マイグレーション(記録再編),XML化等,技
術的対策をも講じなければならない。最近,ディジタル原
所有・管理
本の真性を維持するため,ディジタル原本のマイクロフィ
修復・保全等に使用
文化財
ルム化等タイムスタンプ技術が開発されており,著作物の
登録・管理・運用と,成立証明のための「コンテンツ管理
センター」の必要性が主張されている。
寺社仏閣
20
画像使用権許諾(排他的でない)
画像使用権許諾料
20
デジタル化権
ホテル内装等
画像使用料
6
文化財保存の京都ビジネスモデル
こうした文化資産ディジタル・アーカイブのビジネス展
図
ウオーターマーク付
デジタル画像
代金
100
活用
画像使用契約
業者A
開を可能にしたのが,
「京都ビジネスモデル」だ。例えば,
40
業者B
インテリア会社等
文化財保存の京都ビジネスモデル
寺社仏閣が持っている障壁画や屏風絵,絵図,書籍等の文
化財をディジタル・アーカイブする場合,その第一の目的
は保全と修復にあるが,問題はディジタル化に必要な資金
7 京都デジタル・アーカイブ研究センター
の調達だ。宗教法人自体の資金や,国や地方自治体の委託
「古都京都の文化財」がユネスコの世界文化遺産に登録
研究費や補助金を活用するのも有効だが,画像の商業利用
されたのは1994年12月のことである。京都市は1996年8月
を前提に,民間資金を活用しようというのが,このビジネ
の「デジタル・アーカイブ推進協議会(JDAA)」の立ち上
スモデルの特徴だ。
げに参加し,「京都デジタルアーカイブ構想」を策定する
まず,寺社仏閣等が保有する文化財の画像使用を業者
とともに,1998年8月に「京都デジタルアーカイブ推進機
(A)に許諾し,業者(A)が自己資金でディジタル・ア
構」を立ち上げ,2000年8月に「京都デジタルアーカイブ
ーカイブ化する。その際,国や自治体の資金があれば,こ
研究センター」を設立した。
れをも組み合わせて上手に運用することが肝心だが,大切
「京都デジタルアーカイブ研究センター」は,京都に本
なのは,業者(A)だけに独占使用権を認めないことで,
拠を置く全ての大学の結集組織である「大学コンソーシア
必要なら他の業者(A2,A3等)にも同一条件下でディ
ム京都」の拠点施設として建設された「大学のまち交流セ
ジタル・アーカイブ化を許諾できるよう留保しておくこと
ンター(キャンパスプラザ京都)」の最上階に開設された。
だ。こうすることによって,将来の業者の身勝手や不当な
運営の中心になったのは,稲盛和夫顧問,村田純一理事
独占,契約をめぐる争い,さらには技術の進化による技術
長,桝本頼兼副理事長,坂上守男副理事長,長尾眞所長,
の遅れ等,予想される数々の障害を克服しうる。
小堀脩専務理事,清水宏一副所長(いずれも当時の職)の
業者(A)は,ディジタル・アーカイブ化された画像(コ
各氏らで,北川善太郎,天野昭,武邑光裕の各氏をアドバ
ンテンツ)を他の業者(B)に転貸して,例えばホテルの
イザーに,3年7か月間にわたり従事延べ人数約1万人,
内装や,衣装,小物等のデザインに転用して代金を受け取
人件費を含めた総額4億5千万円の壮大なプロジェクト
り利益を得る。その利益から,画像利用料として一定割合
を展開し,ディジタル・アーカイブ研究とコンテンツビジ
を業者(A)が受け取り,その半分を権原者である寺社仏
ネス育成の魁をなした。
閣等に支払うというものだ。もちろん,業者(A)と業者
(B)が同一人であることもありうる。
画像利用料は,原画像の内容,画像の質,利用対象,利
「京都デジタル・アーカイブ研究センター」の研究実績
は,二条城,京都市美術館,京都市学校歴史博物館,京都
市歴史資料館,高台寺,北野天満宮,三井寺,天龍寺等17
- 43 清水宏一:京都ディジタル・アーカイブの成果と今後の課題
館の収蔵品アーカイブのほか,古写真,伝統技術,祭礼図,
てコンテンツビジネスを確立し,新しい京都ブランドの創
ニュース映画,SPレコード,航空写真等アーカイブ技法の
成に成功し,コンテンツを通じた観光客誘致を達成し,産
種類も多岐多様で,視察会や研修会,講演会,全国大会等
学公による地域戦略に結びつけ,さらには国家戦略を誘導
の実績も多いが,伝統的デザインアーカイブの商業化やコ
してきた実績は高く評価されている。
ンテンツ流通ビジネス等ベンチャー企業のインキュベー
ターとしての役割も大きい。
京都ディジタル・アーカイブの第三ステージは,研究か
ら脱却し,実践と実現のステージである。研究センターが
蓄積してきたコンテンツや研究成果,コンピュータをはじ
めとするアーカイブ機器類は,「財団法人京都高度技術研
究所(アステム)」に引き継がれ,「財団法人京都国際文
化交流財団」が管理運用を行っている。また,ディジタル・
アーカイブの諸活動は,京都府に移され「京都デジタルミ
ュージアム」として内外に発信され,点から面へのランク
写真1
スタジオ
アップがなされた。さらに,研究センターが育ててきたベ
ンチャービジネスは,実戦的な営業を競い始めている。
写真2
キャンパスプラザ
人材の点でも,研究センターはディジタル・アーカイブ
技術者やベンチャーを育成したほか,多数の研究者や補助
8
政府のディジタル・アーカイブへの動き
者,支援者を輩出した。
だが,設置期間の関係から,今後においてディジタル・
こうしたなか,国としての戦略化が強く求められるよう
アーカイブを担当していくディジタル・アーキビストの育
になった。内閣官房を中心とする「知的財産戦略本部」が
成にまでは至らなかった。今後,ディジタル・アーカイブ
立ち上げられ,国際知的財産取引委員会や知的財産信託制
を推進し,着実に維持し,持続的に運用していくためには,
度,知的財産高等裁判所の設置等のほか,ディジタル著作
コンテンツの適正なる管理と処理が行える人材が必要で
物の知的財産化戦略が練られた。また,総務省と文化庁が
あり,その教育機関や,認定組織が必要である。
合同で,「文化遺産オンライン構想」を立て,「デジタル
さらには,コンテンツを登録し,管理し,運用していく
資産活用戦略会議」,「文化遺産情報化推進戦略協議会」
機関の設置が必要であり,「NPOコピーマート」の動き
で検討の末,「文化遺産オンライン」のポータルサイトを
に注目が集まっている。
試験公開している。
http://bunka.nii.ac.jp/
「デジタル・ミュージアム推進協議会」は,もともと「ハ
イビジョンミュージアム推進協議会」を改組したものであ
10
おわりに
ディジタル・アーカイブは成熟社会の新産業だ。それは,
ったが,総務省のディジタル化路線に合わせて名称を「地
人類の知恵の結晶たる文化遺伝子の保存(ためる)におい
域文化デジタル化推進協議会」に改め,ここでの検討の結
て仕込まれ,発信(つなぐ)の各段階を経て熟成され,活
果,地域の伝統文化を集めて,「地域文化資産ポータル」
用(いかす)へと結びついて発酵する。さらに,新たな人
としてインターネット配信している。
類の遺伝子として記録され,保存されるというサイクルを
http://bunkashisan.ne.jp/
繰り返して洗練される。京都ディジタル・アーカイブはこ
国立国会図書館も「電子情報保存に係る調査研究報告
れまでの数多くの実践を通して,その文化的,技術的,芸
書」を取りまとめ図書資料のディジタル化方針を決めた。
術的意義をアピールするとともに,経済的利用価値を実証
こうした国家戦略としてのコンテンツ利用促進の方針
してきた,いわば,「人文科学系産学官連携の先駆的成功
策定に「京都デジタル・アーカイブ研究センター」が与え
例」であるといえる。
た影響は大きい。
9
京都ディジタル・アーカイブの成果と課題
「京都デジタルアーカイブ研究センター」は2004年3月
に解散した。時代をリードする最重要プロジェクトは,長
くとも3年,1000日以内に結果を出し,成果を次世代に引
き継がねばならないという稲盛哲学の表れである。
第一ステージであった「京都デジタル・アーカイブ推進
機構」の事業を発展させ,歴史文化のディジタル化を通じ
- 44 学習情報研究 2006.7
【参考文献】
1.京都ディジタル・アーカイブ研究機構,『デジタル
アーカイブ』(ニューメディア;1999/12/10)
2.安田浩ほか,『ポイント図解式・コンテンツ流通教
科書』(アスキー;2003/7/2)
3.総務省委託調査,『諸外国における文化遺産のデジ
タルアーカイブについての調査研究』(株式会社文
化環境研究所;2004/3・31)