プロフェッショナルスポーツにおけるインターネット活用に関する研究~プロ

プロフェッショナルスポーツにおけるインターネット活用に関する研究
~プロ野球組織のウェブサイト国際比較から~
スポーツクラブマネジメントコース
5009A326-9 藤 原 哲 郎
1.研究の背景
研究指導教員:間 野
義 之 教授
れた知見で、コンテンツ内容や機能およびビジター数
インターネットに代表される情報通信技術は、テレ
等の調査研究を実施した。また、経営の視点から組織
ビ・ラジオ・新聞といったこれまでの伝統的なメディ
構造と IT マーケティングとの関連を、文献調査およ
アとは異なり、顧客と企業等が双方向の対話が可能で、
びインタビューによって明らかにした。
瞬時に情報伝達ができることを武器に、スポーツに関
4.MLB.com
心のあるファンを大きく獲得し、顧客に価値を提供す
る重要な手段となっている。
インターネットマーケティング先進国アメリカで
は、プロフェッショナルスポーツ組織も積極的にウェ
ブサイトを利用した情報提供、広告、チケット販売、
MLBAM には、
明確な経営戦略と企業の目的があり、
MLB30 球団から出資を得た MLBAM の設立には、コ
ミッショナーの、そして MLBAM の運営には CEO の
それぞれの強力なリーダーシップが背景にあった。
顧客に対して“Be there where the fans are.”「ファン
商品販売等を行い、多くの顧客と利益を獲得する事例
が何を求めているか、その視点に絶えず立つ」を念頭
が出てきている。メジャーリーグベースボール(MLB)
に絶えず MLB.com を通じてファンサービスを実行し
のデジタルコンテンツマネジメント企業 MLB
ていた。組織としての高い顧客情報認識力と効果的な
Advanced Media(MLBAM)はその代表例である。
意志決定アーキテクチャーが存在していることが組織
学術分野では、メディアとスポーツに関する多数の
研究成果が蓄積されているが、インターネットを利用
の強さの源泉であった。
シーズン中の 4 月から9月まで、ほぼ毎日 15 試合程
したスポーツメディアに関する研究は少ない。今後大
度、ポストシーズンを入れると年間合計約 2,500 試合
きな発展が期待されるスポーツ分野でのインターネ
をカバーする業務体制が確立されており、それを支え
ット活用に関する研究は非常に有用であると考えた。
る強大な情報システム基盤に投資を実施していた。
2.研究の目的
MLB.com には、試合が手にとるように理解出来る仕
野球が盛んな国でプロ化されリーグ戦を実施して
掛けや、試合経過を瞬時に受信出来る仕組みも含めた
いる主要リーグを題材に、球団およびリーグでウェブ
多くの無料コンテンツ群と、オーディオや動画配信等
サイトがどのように活用され、どのようなパフォーマ
の有料のコンテンツ群があり、コンテンツ内容のバラ
ンスが示されているか、定量的・定性的に調査研究す
ンスをとっていた。豊富なコンテンツを作成するエデ
ることで、ウェブサイトを効果的に運営するスポーツ
ィターやライターも、あえて自社のスタッフとして雇
組織の戦略と組織能力を導き出すことを目的とした。
用するユニークな取り組みも実施していた。
3.研究の方法
プロフェッショナルスポーツにおけるウェブサイ
ト活用方法をプロ野球組織の国際比較から明らかに
した。具体的には、プロ野球のリーグ組織および加盟
球団のウェブサイトを事例として研究対象とした。
北米メジャーリーグ(MLB)、日本野球機構(NPB)、
視聴ページや、ビデオ配信及びモバイルサイト等の
サービス利用者は一貫して増加傾向にあった。ベンチ
マークとなる他の北米プロスポーツリーグのウェブサ
イトと比較して最も上位にランキングされていた。
5.国際比較
MLB.com のユニークビジター数は、NPB、KBO、
韓国野球委員会(KBO)、台湾中華職業棒球大連盟
CPBL と比較しても非常に多く、スポーツメディアの
(CPBL)および各リーグ加盟球団のウェブサイトを比
中でも上位にランキングされる。しかし、各球団のウ
較対象とし、各種データを調査し、先行研究から得ら
ェブサイトユニークビジター数には大きな違いが見ら
ジメントに留まっていた。
れた。MLB.com は多言語対応で、メニュー項目も一番
7.結 論
多く、チケット販売手数料、商品化や有料コンテンツ
結果および考察から導き出される理論的なモデルを
によって膨大な売上高を達成していた。メールマガジ
提案する。従来からプロフェッショナルスポーツリー
ンやチケット購入も登録アカウント一つのみで申し込
グにおいてウェブサイトが活用されてきた「個別分散
みができるため利便性も高かった。NPB、KBO、CPBL
型ウェブサイトモデル」と、MLB.com に見られる「ポ
はリーグが開設しているウェブサイトへのユニークビ
ータル型リーグウェブサイトモデル」の2つである。
ジター数が最も多かったが、リーグと球団の密接な連
MLB.com は全球団が保持するインターネット権利
携は見られなかった。
をリーグとして集約した。そして、全球団が出資した
6.結 果
MLBAM を通じて、MLB.com をポータルサイトとし
MLBAM は、インターネットの権利を一元化し、チ
てリーグおよび全球団の情報を管理し、多彩なコンテ
ームのウェブサイトを同じ構造で一括管理している。
ンツやサービスをユーザーに提供しており、ウェブサ
既に初期投資は回収し利益分配のフェーズであった。
イトがポータルサイトとして有機的に機能していた。
日本・韓国・台湾でのプロ野球組織のウェブサイト
ポータル型リーグウェブサイトモデル
は、各球団とリーグが個別に開設していた。統一性が
顧 客
あるのは日本のパシフィックリーグ6球団であった。
プロ野球組織でウェブサイトを活用する能力は、組
Sports League Portal
織能力、顧客対応能力、情報発信能力、ビジネス提携
能力、新技術対応能力であった。
プロ野球組織でのインターネットの先進的な活用の
チケット
相互リンク
Team A
試合情報
Team B
ためには、コンテンツマネジメント事業をカーブアウ
トし、技術や人材を社外の別組織として独立させ、企
チーム情報
Team C
ショッピ
ング
ニュース
球団情報
個人記録
チーム別
下部組
織情報
モバイル
・
・
・
・
機能別
業として独立性を高めることが重要であるとの結論が
導きだされた。そのためには、リーグ側のイニシャテ
ィブによる利害関係者のコンセンサスが望まれる。
7.考 察
MLB は単一の事業体としてビジネス活動ができる
研究の実践的成果として、MLB.com はプロ野球を題
材にしたウェブサイトでありながら、他のビジネス系
ウェブサイトと比較してもかなり上位にランキングさ
れるウェブサイトであった。特に動画配信サービスは
環境が存在するため、MLBAM もその傘下でビジネス
特筆すべき事項であった。MLB.com を運用する
活動を行い多大な利益を上げ、設立後数年で出資して
MLBAM の組織的強さの源泉がどこにあるのか、その
いる全球団に収益配分を実施できるまでに成長した。
一端を垣間見ることができた。MLBAM の組織に注目
一方、NPB は社団法人という制約があり、MLB と
すると、一企業体として組織化され、ファンが望む情
同様の活動が実質的に困難である。よって、ウェブサ
報への対応が迅速であり、かつ効率的に情報システム
イトは現状内部組織で運用されるに留まっていた。日
が運用されていることがわかった。
本のプロ野球組織では、パシフィックリーグの6球団
8.将来研究への課題
が共同出資でコンテンツマネジメント会社を設立し、
将来への研究課題として、ビジネス面でも社会面で
各球団のウェブサイト構造の統一化や動画コンテンツ
も、世界中のウェブサイトは日々更新され膨大な情報
の共同配信に取り組み始めたばかりであり、成果が出
が蓄積されている。今後はプロ野球のみならず、スポ
てくるのはこれからである。
ーツやビジネスに関するウェブサイトの統一的な評価
韓国、台湾のプロ野球組織は、ウェブサイトでリー
グおよび球団の情報を顧客に提供するコンテンツマネ
手法の確立と、強力なウェブサイトを生み出す組織の
源泉を多角的に研究されることを期待する。